アニメに忠実であろうとした結果、ゲーム化する意味を失ったシナリオに。
TVアニメ第3期の設定を基にしたオリジナル作品。PS2『~遠い記憶のミラージュ』との設定上のつながりは皆無。
24世紀。昔は病弱で、病床で見た雑誌に載っていたとあるウンディーネ(水先案内人:ゴンドラの漕ぎ手)に憧れ、病気が完治してからウンディーネになるためにマンスーモ(地球)からアリア(テラフォーミングされた火星:地表の9割が水で覆われている)のネオ・ヴェネツィア(作品の舞台:現実世界のヴェネツィアに近い)を訪れた主人公アニエス・デュマ(愛称アニー)。当初は憧れのウンディーネの所属した姫屋に入社する手筈だったが、姫屋側の手違いで入社手続きが済んでいない事が判明。紆余曲折あってARIAカンパニー、姫屋、オレンジぷらねっとの中から何れかを選んで入社出来る事になり、プリマを目指して頑張っていく…というお話。
女性が主人公のため恋愛要素は皆無(重要)。
基本的にはアニーの成長物語で、ARIAの世界に浸ると言うよりはアニーの人間性に触れるシナリオ。これでアニーが明るく朗らかな性格ならプレイしている側も楽しめたはずなのだが…昔は病弱だった事が尾を引いてか、とにかく浮き沈みが激しい。比率で言うと「浮2:8沈」。一度落ち込むと悲観的な思考が延々と続き、逃避行動も起こす。しかも立ち直って明るくなったかと思うと、ふとしたきっかけで次の瞬間にはまた落ち込んでいる。落ち込んでいる描写の方が圧倒的に多いため各社の日常描写の良さも帳消しにされた上にプレイしているこちらまで気が滅入り、読み進める手が止まって数日放置する事が何度もあった。そんなアニーに対する立ち直らせ方はARIAらしいといえばらしいが、優しいを通り越した甘い言葉は現実味がなく寧ろARIAの世界に入っていく事を阻害しているように感じられた。
前述通り入社する会社を選べるためルートは3通りあるが、基本となるシナリオから会社毎に多少話が分岐するだけで8割方同じ内容(但しオレンジぷらねっと編は一部展開が異なる所もある)。展開は同じでも会社が違えば登場人物が違うために既読部分を飛ばせない事が多い。強制スキップは可能だが、会社によって物事に対する反応や対応は異なるため無闇に飛ばすのはお勧め出来ない。選択肢の回数は非常に少なくバッドEDもないので迷う心配もない。
EDは9種類。アニエスルート3種の内どれか1つのEDを見るとEl Cieloルート(トゥルー相当)が、El Cieloルート3種の内どれか1つのEDを見るとCafe Time(サイドストーリー)が解禁される。要するに「3シナリオ×3社=9通り」である。
成長物語故にARIAの世界観は既に頭の中に入っているものとして大半の行事は軽く文章で触れる程度で殆ど描写されない。描写のある行事でもアニーの性格故に大抵は楽しめない展開になっている。アニーがウンディーネとして練習する描写はくどくない程度には書いているものの時間の飛び方が大きく順当に成長したとは感じにくい。また一部の文章で時間経過の記述に誤りがあり混乱を生む原因となっている。アクアは公転周期がマンスーモの2倍のため1年が24か月あるにも拘らず12か月と勘違いして台詞と噛み合っていないのは一度確認すればすぐ気付くはずなのに放置されたのは原作の時間経過に関する記述の曖昧さも一因かも知れない。最終盤も結局アニーが原因でつまらない人間ドラマに終始し盛り上がりに欠ける閉じ方をしている。
レジスタ開発で基本的にはシステムの使い勝手は良い。文章履歴からのシーンジャンプ、シーンセレクトも行える(選択肢ジャンプはない)。但しシーンセレクトはシナリオの構成上余り役に立たない。今となっては当たり前だがプログレッシブ出力に対応している。アニーとそれ以外の文章ウィンドウが独立している(前者は一般的、後者は随時吹き出しで表示)。文章スキップは立ち絵や顔ウィンドウの表示で頻繁に引っかかるため思った程速くない。フォントとウィンドウデザインの関係で文章は若干読み辛い。また文章の表示速度を変更出来ない(表示中にボタンを押せば一括で表示はされる。またスキップ表示を標準にする事も出来る)。セーブ枠は100個でシステムデータを独立してセーブ/ロード出来る。一度EDを迎えるとExtraにプレイデータ/CG/動画/音楽の各項目が加わり、メニュー画面でも一部の達成率を確認出来るようになる。
ここまでARIAの世界に忠実に作るならゲームにせずOVAにした方が良かったのではないかと思う程プレイヤーの介入出来る余地は少ない。達成率の表示も何のためにあるのか判らない程に。単純に読み物として買うなら問題ないが、ゲームとしては全く楽しめないので目的を考えて購入を判断した方がいいだろう。
以下、前作をプレイした人向けの余談。
主人公が後ろ向きな行動を取った時のウンディーネ達の反応が天と地程違う。やはり前作の青年は余り快く思われていなかったのではと勘ぐってしまう。世界観を壊して現実味とゲーム性を追求するか、現実味もゲーム性も無視して世界観を維持するか。両極端な方針で制作した結果、どちらも支持されなかったように思える。個人的にはゲーム性の強い前作の方が楽しめたが雰囲気の良さはアニーの性格を考慮しても本作の方が上と言える。それが楽しさにつながっていないのは致命的だが。
前作では殆ど出番のなかったアテナさんはシナリオ構成のお陰で大幅に出番が多くなっている。発言頻度はアリシアさんや晃さんと比べればやや低いが登場頻度は横並びになった。
アニメにはなかったらしいアルくんのデフォルメ絵がある。1回だけ。
本作には前作をプレイしているとにやりとさせる文章が1個所だけある。但し前述通り設定上のつながりは皆無のため曖昧な文章になっている。無理に入れる必要はなかったように思えるが、ライターの遊び心と流すのが賢明だろう。