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Tassaさんのplanetarian ~ちいさなほしのゆめ~の長文感想

ユーザー
Tassa
ゲーム
planetarian ~ちいさなほしのゆめ~
ブランド
Key
得点
75
参照数
298

一言コメント

「ロボット」たる「ロボット」 ネタバレ中

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

「人間そっくりなロボット」には決して表現し得ない愛おしさ、あくまで電子頭脳という機械の制約内で生まれる「人格」にこそ「ロボット」の魅力はある。
人間相手にはムカムカしてくるだけのかみ合わない会話も、ロボットという融通のきかない機械相手ではなんでか心を和ませる。

力の入った演出と、無駄のない長さの話で、余分な感情を抱くことなく読み通せる。
ロボット三原則を「自らの創造物を信じられなかった人間の弱さ」と切り捨てられるだけでも、SF読みとしても満足できる内容だったと思う。

鍵作品は初だけど、他のもこんな作風だったらやってみてもいいかも。でもみんな無駄に超大作で無意味に電波な会話ってイメージだからなぁ。
安易な奇跡がないのはいいし、ラストにしても単純なお涙頂戴ではなく、大切なものが奪われることによってその奪ったものをなくそうという思いを抱かせようという意図だろう。


以下直接関係ない余談。
昔は「ロボット」という属性に特に重きを置いてなかった。それがR.U.R.U.R以来、「ロボット」がとても気になるようになった。
それはおそらく、(我々から見たら)素っ頓狂な行動だけど、彼らにとってはそれがなにより大切な真実だし、そうした懸命さこそ(そう、そのけなげな姿が大事なのだ)が「生命」(と「生命」そのものに対して抱く喜び)を感じさせる、と思うようになったからだろう。

初めロボットは「フランケンシュタイン」であり、次いでロボット三原則が安全な下僕としてのロボットにし、次第にロボットは(まだ不器用な電子頭脳を残しつつも)人間の友となっていき、そしていつしか「人間と変わらぬロボット」にたどり着く(あるいはその先、人間でもロボットでもない存在までもか)。
これらを経てたどり着いた「人間そっくりなロボット」はとても愛おしく思えるけど、
普通のヒロインに混じって「人間そっくりなロボット」がなんでかいるようなのは嫌いだなと思う。

ただしここでふと自分が嫌になる発想も浮かぶ。
「わが身を捨ててまで人間に仕えてくれるロボット」と「わざわざ部屋まできて、たまに巻き込まれて遅刻してまで毎朝起こしてくれる幼馴染」にはどれだけ違いがあるのかと。
「ヴァーチャル・ガール」というSF小説があるが、この作品で作り主がロボットに「捨てられた」ことに戸惑いを覚えたのは、私がロボットに単に都合のいい存在であることを求めていただけなのかと。
ロボットに人の心を求めながら、人のように利己的な行動を取ったことに憤るのは、結局ギャルゲヒロインのように終生変わらぬ愛を注いでくれる(ように造形された)人格を求めていただけなのかと。
「造形されたヒロイン」と「設計されたロボット」は何も違わない。
(注 「ヴァーチャル・ガール」はもっと次元の高い作品です。)


以下さらに関係のない余談。
SFを読んでいると多くの作家は、宗教とか国境とか、せいぜい地球程度の規模でしかないちっぽけな事柄に価値を置いてないことがわかる。

「星」という、人が(個人としても種族としても)物心ついてから初めて遭遇する巨大な壁か広大な沃野か、それを目にした時の不安と興奮に常に触れていると、人間というものの狭窄な視野が愚かに思えてしかたないのだろう。
私もまた、SFを読み始めてから日常はちっぽけなことばかりと思うようになっている。

まだまだ先は長いとはいえ、人間は将来宇宙に出られるようになり、その先には無限の星が待っているのに、実際は下らないちっぽけなことに囚われている。
SF読みの多くが抱いているであろうこの感情が、この作品には満ちているように感じられる。


6月3日 点数修正

11月8日 点数修正