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T.Kさんの漆黒のシャルノス ~What a beautiful tomorrow~の長文感想

ユーザー
T.K
ゲーム
漆黒のシャルノス ~What a beautiful tomorrow~
ブランド
Liar-soft(ビジネスパートナー)
得点
99
参照数
1182

一言コメント

大満足! ファンをやっていて良かった……

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 他社と一線を画する独特な雰囲気で知られ、毎回のように方向性を変えてくるチャレンジャー「Liar-soft」ですが、皆さんはその内何本のソフトをご存じでしょうか?

 俗に信者と呼ばれる固定ファンの間でも、「嘘屋最高傑作」を決めるのは容易ではありません。怪作「Forest」を挙げる声もあれば、王道スペースオペラ「CANNONBALL」やインモラルホラー「腐り姫」を挙げる人もいるでしょうし、元祖電波ソングとして名高いあの名OPを擁する「行殺新選組」のファンだという人もいれば、百合ゲーの草分け的名作「サフィズムの舷窓」の熱烈な信者もあり、ロリコンハードボイルド「ラブ・ネゴシエイター」や土下座調教西部劇「ANGEL BULLET」こそ真の傑作だと主張する方もいます。
 そして今作と世界観を共有する「蒼天のセレナリア」は男性ユーザーよりも女性ユーザーの支持が高いとされ、同じく「赫炎のインガノック」で嘘屋のファンになったという方も多いでしょう。
 
 このように魅力的な作品が多い「Liar-soft」ですが、一つ確実に言えることは、今作「漆黒のシャルノス」もまた「嘘屋最高傑作候補」の資格を得て、新たなファンを獲得したであろうということです。
 それほどにこの作品は素晴らしい! そして同時に、(またもや予想の通り)独特な作風でした。

 私はこの作品に「完璧一歩手前」として99点を付けましたが、勿論肌に合わないという方もいるでしょうし、できれば200点を付けたいという方もいるでしょう。
 ぜひ皆さんには、便宜的に付けられた点数だけではなく、他の方々の感想も参考にしていただきたいと思います。
 
 例えば「xianxian」さんは76点とそこそこの点数ですが、「期待通りの良作」と評された他に、物語の端々から読み取ったテーマについて、とても深い考察をなさっています。
 逆に「Berlioz」さんは85点とそれよりも高い点数を付けられていますが、一方で「茶番と言われればそれで終わりかもしれない」と危惧されています。

 確かに「漆黒のシャルノス」は微に入り細に亘り物語の解説をする作風ではなく、また世界観を同じくするシリーズの他作品との兼ね合いもあることから、人によって考察の前提となる材料の幅も異なり、受け取り方もそれだけ変わってくると思われます。

 これは太宰の「走れメロス」を陳腐な茶番と見做すか、精神性の高い寓話と受け取るかという良くある例題(命題?)に近いものがあり、どれが正解と言うものでもありません。何故ならライターである桜井先生も、多用な受け取り手の存在を認識した上で、敢えてこのような物語を紡いだのだと解るからです。

 ――絶賛する人もいれば、こき下ろす人もいるだろう。それでも何かを伝えたい。例え伝わらなくても、この手でそれを表現したい! ……そんな商売下手な、誤解を恐れずに言えば自己満足にも近い「造り手としての情熱」を感じられるからこそ、私はこのブランドの作品が今も大好きなのです。

 物語の終幕……あの有名すぎる、しかしこの物語の中心では動かなかった二人に託した言葉にこそ、今作品のテーマが集約されているように思えてなりません。
 最後にそのシーンを引用し、私もこれをきっかけとしてまた、何故彼がそう語ったのか、メアリとMの物語とはなんだったのか、このシリーズの主題や各作品の副題について、色々と考えてみたいと思います。


(紫煙の薄く煙る研究室で、男は、ひとりの老人と対峙する)

シャーロック・ホームズ
「すべては、きみの茶番であったと?」

モリアーティ教授
「その通り。だがしかし、大いなる、偉大なる、輝ける、幾つもの想いと願いと命を賭けた茶番劇だ。
 人間とは実に素晴らしい。
 こんなにも愚かしく、こんなにも愛おしく、時に狂い、時に諦めず――
 明日を否定し、しかし、明日を夢見る。私はこの結果を大いに満足しているよ」