透明で薄い処女膜を持つ女の子は、性格上ギャグとおふざけが大好きであったようだ。
キミトユメミシ 総評感想
執筆者 やーみ@suxamethonium28
Laplacianから発売された処女作である。パッケージを覆うあの薄いフィルムはどうやら処女膜であるらしい。教授の理論が正しいとするならば透明で薄い処女膜を持つ女の子は、性格上ギャグとおふざけが大好きであったようだ。
さてこのゲームはギャグゲーである。そのギャグは下ネタとおふざけにまみれているが、確かにプレイヤーの腹筋を狙っている。この意味では大変に良く出来ていた。そしてギャグゲーにおいて非常によく見られる「個別において失速する」という受け継がなくてもよい欠点も見事に引き継いでいた。また処女作(性的な意味ではない)であるからか、シナリオ面でもシステム面でもいくつかの不満点が残っている。このゲームの魅力である「ギャグ」と、欠点である「シナリオとシステム」に関して、順に下で述べていくことにする。
この作品で評価されるべきギャグはなべて下ネタとおふざけである。共通真里奈ルート4における夢では真里奈「が」陰茎に変身するし、何と犬のまぐわいを4回も見せつけられる。SexualityはSpectrumであるらしいし、時雨はPVを作り上げる。処女膜教授(立ち絵登場時の衝撃。この時点で既に狂っているが)の肩の上には「栗と栗鼠」が乗っている。他にも挙げればキリはないが、既プレイ者で下ネタに大らかなプレイヤーであれば「笑わせてもらった」という感想に同意してもらえると思う。
勿論日常会話もギャグに満ちていて由衣はエロノリツッコミという新ジャンルでプレイヤーの腹筋を抉ってくるし、時雨は下ネタカタパルト。モモケンもウィットに富んだ、それでいて不愉快にならない言い回しで童貞を卒業した主人公を煽ってくる。モモケンの台詞スクショは煽り合いにも使える取り回しのいいスクショである。ギャグは説明するものではないので、実際にプレイして笑って欲しい。
欠点に関して述べていく。大別すると前述の通り「シナリオ」と「システム」の二点を挙げられる。第一にシナリオである。このゲームのシナリオにはおしなべて「説得力」がない。「説得力」とは「作品の世界において前提知識や予備知識を持たない『プレイヤー』という存在に対して、その物語が展開していく流れを受け入れさせる力」である。順に説明していく。まず人間の行動は「1:何かの事象が発生する」、「2:その事象を登場人物たちが己の性格や行動原理を元に解釈する」、「3:解釈を基に、登場人物に事象に対する感情が発生する」、「4:感情を元に登場人物たちが行動する」という風に行われる。具体例を挙げる。「エスカレーターで騒ぐ自分の子供を親が見る」という事象がある。親には「過去にエスカレーターで転倒し大怪我を負った事がある」ことと「自分の子供が大切である」ことの二つが行動原理として存在するとする。この場合親に発生する感情は「危ないから辞めさせたい」であって、結果「親は子供を叱りつける」という行動に移ることになる。ここで親の行動原理である「過去の怪我と子供への愛情」を第三者に示せていなかった場合、第三者の中では「突然子供にキレる、(言葉は良くないが)ヒステリー持ちの大人」という解釈になって、Sympathyは発生しにくくなる可能性がある。登場人物への共感を発生させるためには「その人の行動原理と性格と」を知る必要があるのだ。
さて前述の事実をエロゲに当てはめてみると、「第三者」は文字通りの第三者であるエロゲープレイヤーである我々になる。そして第三者である我々は「行動原理も性格も知らない、赤の他人である」登場人物たちの振る舞いを見ていくことになる。これがシナリオの「流れ」となる。すなわち「シナリオへの納得」である「登場人物への共感」を発生させるためには「その登場人物の行動原理や性格」を事前に示しておかなければいけないわけで、それを行える場所がエロゲでは「共通ルート」なのである。この意味において共通ルートは退屈なものでも冗長なものでもないということをゆめゆめ忘れてはならない。物語の説得力とはこの「登場人物の行動原理や性格」をしっかりと示せているかという所に集約されていくのだ。
このキミトユメミシという作品においては、いくつか説明が不十分と思われる状況があった。大きなものとしては「由衣、七ノ羽、真里奈、みことが幼馴染でとても仲が良いこと」であろう。事実その設定は紹介されていたが、「第三者」であるプレイヤーに対して追体験を元にその設定を「納得」させていたか、は大いに怪しい。この部分がぐらついているが故に、由衣ルートTRUEにおけるプレハブ卒業式での七ノ羽や真里奈の言葉はかなり薄ら寒く聞こえてしまった。他にも七ノ羽の父や真里奈の父の行動原理の紹介も甘く、やはり「薄っぺらい」物語に見えてしまった。このゲームのシナリオは全体的に短いが、こういった「登場人物の行動原理や性格」を「第三者」であるプレイヤーに追体験させるフェイズを入れていないことにも原因を求めることが出来るのではないだろうか。幼馴染ならば濃厚な過去描写を入れてしまうことで容易に解決できることであっただろう。某幼馴染好きの緑と白のアイコンの方は「過去描写が有る幼馴染モノのほうが好き」というコメントをツイッター上で残しているが、ココに原因を求めることが出来るだろう。
また個別ルートにおけるギャグの失速も見られた。この作品をギャグゲーたらしめているギャグ要員は由衣、時雨、モモケンの3人であり、彼彼女らが狂言廻しの役割を担っている。逆の言い方をすれば七ノ羽と真里奈は基本的にギャグに参加していない。キミトユメミシは個別ルートにおいて他のキャラが殆ど出てこなくなるタイプのゲームである。すると七ノ羽ルートと真里奈ルートはギャグ成分が非常に薄いルートになってしまうのだ。特に七ノ羽ルートにおいては主人公の行動も行き当たりばったりで主体性がなく、この意味でも退屈なルートであったと感じた。対照的に時雨ルートでは「夢」で「時雨Dictionary」のPVが流れたりと流石狂言廻しのルート、非常に愉快であったことも付言しておく。
システム面の批判に移る。このゲームは全体として非常に動作が重い。当方のPCスペックが決して高くはないことも遠因として有ろうが、起動に1分かかりかつ途中で一回プログラムが「応答なし」になることは流石に擁護の余地はない。プレイ中セーブをしようにもセーブ画面を呼び出す際に数秒待たされる。第1ページのセーブデータをロードして始めたゲームの場合、第8ページにセーブをした後のセーブ画面は何故か第1ページである。他にもこのゲームではbrタグにおいて改行を行っているようだが、<br〉(すなわち片方の括弧は全角でもう片方は半角)となって改行できていない箇所が少なくとも3ヶ所あった。音も割れている箇所があったと思う。辛辣な言い回しではあるが、このレベルのシステム面のメーカーに「バックログからのシーンジャンプ機能」や「次の台詞まで再生中の音声を継続する機能」なんてものは望むべくもない。これらのシステム周りはゲームのプレイアビリティを大きく損なっており、改善されるべきである。
全体としてギャグとおふざけに特化した作品であり、実際に下ネタではあるが腹筋をしっかりと抉ってくるクオリティはある。前述の「シナリオの説得力」や、「システム周り」が改善されれば更に良い作品になっただろう。無事二作目も発売予定が出たとのことで、貴重なギャグ枠、今後の成長に期待していきたいと感じた作品であった。