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Suxamethonium28さんのあの晴れわたる空より高くの長文感想

ユーザー
Suxamethonium28
ゲーム
あの晴れわたる空より高く
ブランド
Chuablesoft
得点
92
参照数
744

一言コメント

高度な次元で纏められた良質なゲーム

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

あの晴れわたる空より高く 総評
執筆者:やーみ(@suxamethonium28)

チュアブルソフトより発売された作品であり、下馬評はそうでもなかったが一部の人をして「今年のダークホース」と言わしめた作品である。
シナリオ展開としては、1:ロケットとの出会い 2:ビャッコ存続にむけて 3:マックスファイブ 4:フォーセクションズ(個別) 5:ながれぼし(グランド)という形である。

私の感想を一言でまとめると没入感が非常に高く「噂に違わぬ良質なコンテンツ」であった、というものである。それは何故か。大きなポイントは「主人公がロケットにのめり込んでいく過程」がちゃんと描けていたこと、そして「製作者の思い入れが大変によく伝わってきた」ことの2点が挙げられる。順に書いていく。

「主人公がロケットにのめり込んでいく過程」を描くこと、であるが私はここに一つ設定の妙を見出だしたい。作品においてプレイヤーは全くの素人である。殊更にロケットに強い思い入れがある人間も少なかろう。そしてそれは作中の主人公も同じである。作中の主人公が一つロケットのよさ(や雑多な知識)を認識する度に、画面の前のプレイヤーも主人公と同じようにロケットへの思い入れを高めていける。作品の盛り上がりポイントに素直にノっていける心憎い演出である。ペンシルロケットの打ち上げからA検、マックスファイブでの剥離への対応と徐々にやっていることが大きなものになっていく。シナリオが進んでいく度に主人公が決意を新たに更にロケットにのめり込んでいく。それはプレイヤーのカタルシスとなって蓄積していくのだ。

「製作者の 思い入れ」は往々にして「演出の丁寧さ」や「描写の丁寧さ」に現れる。この作品の真骨頂はここだろう。この作品には非常に難解なロケット用語が多く出てくる。「イオンビームスパッタ法による多層帯誘電膜を利用した高反射率ミラーの作成、及びそれを利用したリングレーザージャイロの作成」と聞いてどれだけのユーザーが一瞬でその光景を想像できるだろうか。この作品では様々なところでこれらのロケット用語を説明する図表が示される。他にもロケットのシステムを説明するために様々な比喩表現が登場する。その描写は素人である主人公への説明という体裁をとっているが、内実プレイヤーへの説明だろう。端折ってしまえばそれで良いものをわざわざわかるように説明する、ここに製作者のこだわりが見てとれる。
ロケットの発射の際にいちいちカーソルを効かなくして「設備電源から機体搭載電池への電源切り替え完了」などとカウントダウンを行ってくれる。こういった丁寧な描写が盛り上がりポイントでのカタルシスを産み出すことに繋がるのだ。

無論、作者にやる気があっても物語としての出来が良いかは別である。物語がダメならそれはただの論文か教科書である。この作品は物語としても良くできていた。少年マンガ雑誌として名高いジャンプの法則に「友情、努力、勝利」というものがある。個人的には間に「挫折」を入れた方が友情を演出できてよいと思うし、実際多くのマンガはそうなっている。この作品はそれを全てしっかりと押さえていた。「友情」も逆上がりなどを踏まえ、土台を説明できていたし、ド素人の主人公をうまく使って「努力」の要素も出ていた。ARCに「挫折」を味わわせられていたし、最後には「勝利」していた。だからこそ、「作品」として楽しめるものになったのだろうと思う。

チュアブルソフト10周年ということで、同業他社(PULLTOPのころげてだろうと言われている)を多いに研究したとのことである。研究成果は十分に出ており、非常に良質なコンテンツだった。個人的には大満足であった。
ただ一点最後に書いておきたい。
「バイオスーツが学園指定とは思えないくらいにエロいんですが、大丈夫ですかこれ?」