ErogameScape -エロゲー批評空間-

Suxamethonium28さんのL@ve onceの長文感想

ユーザー
Suxamethonium28
ゲーム
L@ve once
ブランド
Maid meets Cat
得点
75
参照数
101

一言コメント

素材とプロットは良かったが、上手くそれを表現しきれなかった。幼馴染みのリィとの関係性が心地よい。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想


L@ve once 総評感想 ※ネタバレ注意
執筆者:やーみ @suxamethonium28

 本作はPSP, PS3版のみ発売されているコンシューマー恋愛シミュレーションゲームである。プレイのためには前述のプラットフォームが必要であり、少々敷居が高くなっている。あらすじとしては「人魚と人間のハーフとして出生した主人公だったが、人魚の魔法の効果が消滅していくなかで、新たに人間化する魔法をかけなおしてもらうために、誰かと人生で一度きりの恋愛をし」ていく物語である。前提として「イ:主人公は人間と人魚のハーフ」、「ロ:人魚が人間になる魔法を使ってもらうには、誰かとの恋愛が必要」、「ハ:人魚の恋は人生で一度きり。失恋すれば海の泡と消える」この3点が抑えられていれば細かい設定は気にしなくてよい。
 全体の総括としては、「シナリオに込められたギミックは突破力に溢れるものが多かったが、それを効果的に演出することが出来ていなかった」という感想になる。順に各ヒロインのルートを確認していくことで詳細を後述していく。

 メイ、メルルートに関して述べる。彼女らのシナリオの要約を掲載する。まず昔主人公が、人魚が住む島に連れて行かれた(そこで自分の母親が魔法によって人間になった人魚であることを告げられた)。その島である二人の双子の人魚(メイとメル)と出会い、数日を一緒に過ごした。やがて主人公家族は家に帰ったが、主人公はその島での人魚が忘れられず、時々スケッチブックにその様子を書き残していた。主人公の父が没し、母にかけられた魔法の歪みが主人公に来ることになった。そのため昔出会った双子人魚たちが主人公のもとに来た(主人公の母に魔法をかけたのはメイメルの母というよしみ)。そこでメイメルは主人公のスケッチブックに描かれた自分たちを見、主人公がずっと自分たちのことを思っていたことを知った。そして双子の人魚と主人公の三角関係が始まっていた。というものである。
 さて上述したイロハの前提と、双子の人魚と主人公の三角関係という事実を勘案すると何が起こるか。簡単に言えば「主人公と恋仲になれなかった方の人魚は失恋することになるため、泡と消えるしかない」という現象である。これが両者のルートの最大のギミックであった。このギミック自体は非常に納得がいきやすいものであり、ルート終盤の魅せ場を形作るに足るものである。ところが両者のルートにおいて、このギミックは余り有効に活用されたとはいえない。
 普通人間は自分が死ぬことに関してある程度の恐怖心を抱く。自殺念慮があっても自殺企図にまで辿り着く例は少ない。このことは先日示されたインターネット上の集計において「自殺念慮経験者が25%程度いた」という事実からも明らかである。さてこの原則は当然人魚に対しても適用されるべきであろう。とするとメイのルートではメルが、メルのルートではメイが、「魔法をかけることで相手と主人公の恋愛を決定づけ、自己の失恋すなわち消失を形作ることになる」ことに関する葛藤を自己の中に持っているべきなのである。ところがそれに関する描写はなかった。「登場人物は舞台から降りる時に最も輝く」というのは安直な格言ではあるが有効な格言ではある。「登場人物の人間味」や「盛り上がりポイントの説得力」はこういった「周辺人物」の描写からも形作られていくのだと言うことは指摘しておきたい。
 なおメルルートにおけるメルの心情描写と、メイのメルに対する愛情描写は丁寧に描かれていた。内心の想いを封じ込めて手紙に表したメイの「メルに対して抱いているべきとメイが考えている」メイの感情描写はそれなりにクるものがあったのは事実だ。この部分の演出が成功しているのは、共通ルートにおいて「メルとメイの関係性を丁寧に描いた」ことに原因を求めることが出来る。二人がお互いを思いあっている事を示したからこそ、個別ルートでの譲り合いに説得力が出るのだ。演出とは何も美しいエフェクトを画面に掛けることだけではない。シナリオでの「魅せ方」も立派な演出であることは強調しておく。
 リィルートではこの手のゲームにしては斬新な幼馴染像が提示された。一般の恋愛シミュレーションゲームにおいては、幼馴染は主人公に懸想を抱いた後、多かれ少なかれその懸想を胸に抱いたまま成長していく。ところがリィは物語開始時(は少々怪しいが)には主人公に懸想をしていない。本人曰く「幼いころの世界には、男の子は主人公一人だけであったが、成長していくに連れて世界は広がっていき主人公は別に『特別』ではなくなった」と。この設定は実際共通ルートにおいてかなり効果的に機能していた。メイとメルは前述のロの目的を達するためにリィと主人公をよく恋仲としてからかうのだが、それに対するバリエーション豊かでそれでいて冷静な返答は、よいギャグとして機能していたと思う。またリィと主人公との程よく皮肉がピリリと効いた掛け合いも、恋愛感情を抱いていないからこそ出来る会話であったと思う。
 さてこのリィルートであるが、主題は「@onceしか恋愛ができないことへの重み」であろう。これに関して共通でのギャグとしての「リップサービス」が小気味いい伏線になっていた。主人公はリィを信頼して人魚の秘密から自分の置かれた状況すべてまでをリィに告げ、自分との交際を願い出る。無論前置きとして真剣な願いだということが宣言されているものの、リィの立場から見れば「人魚などの話は話半分程度」で受け入れられるのは当然である。つまりリィの中で「主人公が一回しか恋愛ができない」という事実は重要視されていないわけだ。故に事ある毎に「クーリングオフ」だの何だのと交際解消を示唆する冗句がリィから吐かれていたのだろう。ルート序盤から中盤にかけてのこのリィの冗句がルート終盤における「リィが@onceの重さに押しつぶされかける」ことの明瞭なコントラストを形作っているのだ。プロットと演出の勝利であると言えよう。
 リィルートに関して惜しい点は2点ある。一つが「過去描写」の少なさである。折角「世界は広がっていき『特別』ではなくなった」という幼馴染像を提供するならば、過去回想を用いてそれを共通ルートの間にプレイヤーに見せつけてしまえばよかった。例えばアルバムを参照して過去に思いを巡らせるイベントを入れればいい。メイメルも巻き込めば十分共通で描き得ただろう。もう一つが「主人公が寝ていた3年間」の描写があまりにも薄いことにある。ここは「@onceの重さに気が動転して主人公を突き放してしまったこと」をリィが後悔していることを強調できるシーンである。ここの描写が薄い場合プレイヤーにしてみれば「ものの20秒画面が暗転していただけ」の別れであり、3年という時間の重さを感じ取ることが出来ない。全体としては良い出来であったが最後に肩透かしを食わされた印象を受けたことを付言しておく。
 和翠ルートに関しては個人の好みの問題であるが非常に不快なルートであった。まず「親友の彼女とお付き合いする」という時点で私にとってはサブイボがたつ様なシナリオ展開だ。NTRはするのもされるのもはっきり言って嫌いである。次に和翠の軽薄さについてだ。作中で半年に2人と破局していることがある程度の回数取り上げられ、和翠の「付き合っている間は一途で、それゆえに重すぎて上手くいかない」などの「言い訳」はあった。がそれはむしろ軽薄さを証明しているにすぎない。あくまで個人の経験であるが、相手が重いと感じるほど一途に好いた人間と別れた時点で最低でも月単位では引きずるはずだ。メンヘラと呼ばれる人種の場合それが原因で相手に危害を加えるほどであろう。「一途な恋の失恋」というのはそれだけ重たいものである。それにもかかわらず親友と別れた翌日に主人公に告白してくる時点で和翠は正気の沙汰ではない。軽薄な女性というのが個人的に非常に嫌いであるし、@onceというテーマを根本から否定する存在だったのではないだろうか。全くもって反りが合わないルートであった。
 響ルートに関しては、今までの「恋人を作れないと魔法失調の影響が主人公を襲う」という設定をしっかりとシナリオ中に組み込めたと評価できる。別のルートでも主人公は失恋しかけることによって「声」を失っていた。があくまで別ルートでの声の喪失は「身体障害」以上の意味を持っていなかった。がこのルートは「バンドを組もうとした響がボーカルを求めて主人公に声をかける」というところから始まっている。故に「声を失う」ということは「ボーカルとしてバンドにいられなくなる」ということと同値だ。このギミックはなるほどと思ったし、気がついた時点でニヤリとした。プロットの勝利である。響が音楽を愛しているのは十分描写できていたため、主人公が実際に声を失った時の説得力は問題なくあった。この辺はよく出来ていた。
 欠点を挙げる。このルートでは恋愛描写が少ない。主人公も響も何故お互いがお互いに好意を抱くようになったかの描写が無いのだ。両名気がついたら好きあっていて、響の過去の失敗から主人公を拒絶して(と主人公は思い込んで)、と言われても「いつそんな想い合う関係になったの」と私の頭にハテナマークが浮かびっぱなしであった。加えて響Badでは主人公は響への恋慕を諦めて、会長(響の妹)と付き合い始める。@onceはどこに行ったのか。根幹の設定を無視するのは流石にいただけない。蛇足と言わざるをえない。これらは要改善だろう。ちなみにこのルートにはこのゲームでは唯一性行為を匂わせる描写が存在していた。

 おのおののルートに仕込まれたギミックは良いものがあった。シナリオを爆発的に盛り上げるために充分効果的な役割を果すことが出来た器であったろう。ところがそれを発火させるための準備はまだまだ改善の余地が多分にあった。折角作り上げた火種も、それを大きくする努力をしなければ、それで巨大な花火を打ち上げることは出来ないのである。スキップはPSPの都合上遅かったが、セーブ画面でのシーン名であったり、1ルートクリア後のタイトル画面変更であったり、「プレイヤーに快適にプレイさせてあげよう」という配慮は多分にあった。この配慮がシナリオにも生きれば、より魅せることが出来たであろう。非常に惜しい作品であった。