世界の秩序を無視した荒唐無稽な物語。恐怖、興奮、錯乱などの感情を呼び起こすような緊迫感。“引き込ませる”力は凄まじいものがある。1話と2話の出来は特に秀逸。無料ですので是非プレイしてもらいたい。
少々設定に無理はあるが、少しずつ情報量を増やし、繰り返す中でキャラを掘り下げていく手法はなかなか上手い。環境や境遇に押しつぶされ袋小路でいる若者たちの苦悩、心にある闇がよく描かれている。無料ですのでオススメ。
【感想】
この作品のコンセプトについて私的な意見を書いているだけなので核心的なネタバレはありません。
まず個人的にはターン1からターン2の物語を見ているまでが最高に楽しかった。
それはあり得ない世界に送られ、戸惑い、惨劇に恐怖し、展開にハラハラする。“何もわからない”という“プレイヤー側である陽一”と共に物語を見ていくから。彼と一体となって悲痛な決意に感情移入するからこそドラマティックな流れにグッとくるものがある。
けれどそれはそこでお終い。引き続きドラマに期待を寄せながら見ていけば痛い目を見る。あくまでのこの作品がさせたいことは散りばめられた伏線やヒントを見せていき謎を考えさせること。解決させること。そしてそれは陽一の役目ではない。
『この物語において、あなたは名探偵にはなり得ません。
名探偵は他にいます。
謎を解くのはあなたの役目ではありません』
(公式サイト「ストーリー」)
最後まで見てようやく気づきました。この作品はプレイヤー(陽一)のものでも黒幕のものでもなく、あくまで名探偵の(というか完璧超人)“浦澤深夜のために作られた物語”であることに。
ターン4にて深夜はついに「答え」に辿り着く。ならばターン5は彼女がすいすいと物語「解決」する展開になるのは必定といえよう。あまりにも易々と真相を暴き、それぞれの心まで救い大団円へと導く。
その完璧すぎる展開ついていけなかった。他人の活躍をただ眺めている感覚にというべきか。感情移入する余地が無いともいえる。
この作品を“最後まで”楽しむためにはプレイヤーが徐々に深夜にならなければならないのだろうなと。(ターン5での陽一の扱いがそれを物語るように思うのだ)
少しずつ話の軸から離されていく陽一から真相に近づいていく深夜へと。今まで出てきた情報を考え、ターン4で深夜が出した(推理した)ことをもとにプレイヤーもこの時に謎の「答え」に辿り着いていなければならない。
ターン0は言わば「答え合わせ」をするかのように見ていくぐらいの余裕さがなければ彼女と対等にはなれないでしょう。
『もしもあなたに、その自信がおありならば。
彼女より先に、謎を解くことに挑戦してみますか……??』
万全を期してプレイヤーは“陽一”から“深夜”へと変わりターン5へ。
“何もわからない(TURN1のタイトル)”から“不可能はない(TURN5のタイトル)”と言い切れる者へ。そうなれば物語を解決する流れに爽快さを感じながら気持ちよく終われるのではないのかと。
まるで思い描いたシミュレーション通りに進んでいくのを見てほくそえむように。まあ絶対無理だと思うのだけど…。
『ちょっと意地悪な謎解きノベルゲームです』
確かにその通りである。