さらっと平然とエロスの壁を突破する。規制なんて怖くない。これほど作り手の本気を感じさせる作り方など他に無いのかもしれない。なるほど変態紳士である。
奈須きのこ。東出祐一郎。麻枝准。
PCゲームを普段からしている人からすれば、必ず目にするシナリオライター。
それぞれに共通するのは自身のブログ・開発日記でアマガミを絶賛したことだ。
これらを目にして興味を惹かれて購入に至った。この御三方を熱中させるゲームとはどんなものかと。
シナリオが途轍もなく面白いのだと、ひどく見当違いな期待した。
「行動マップ」上に表示された目当てのヒロインを選択することで始まる
古い形式の作業的恋愛シュミレーションゲーム。
ヒロインと会話を行い好感度ゲージを上げ、イベント発生させていく。
ヒロインとの距離を縮め、晴れて恋人同士になればゴール。
今どきこんなものは流行らないのが普通だ。
キャラデザに至っても黒や茶色の髪の毛。奇抜なヒロインで印象付けようともしていない。
シナリオ重視でもない。そもそもテキストを「読ませる」ところなどひとつもない。
そんな何もかもが目立たない中、燦然と輝きを放ち、我が道を貫かんとする主人公がいた。
彼の名は橘純一。今では『変態紳士』と崇められるこの作品の立役者だ。
女子 「ズ、ズボンのチャックが開いてますっ!」
橘 「う、うんっ!ありがとうっ!」
――この会話は何かがおかしい。
絢辻「……おしっこ引っ掛けられたのよ!」
橘「え……えぇっ!?だ、誰に?」
絢辻「誰? バカじゃないのっ! 犬よ、犬!」
――もっとおかしい。
森島「さーさー? どこにするの?」
橘(……え、ええいっ!)
「ひ、膝の裏でお願いします」
――その発想はなかった。
“お、おぉぉぉおお~あぁぁ”
――これがヒロインにビンタされた時の反応だと誰が想像できようか。
橘 「もちろんだよ。最近ではスクール水着喫茶ができるかもって言われているくらいなんだよ?」
紗江 「ス、スクール水着喫茶……ですか?」
――ねーよ。
橘「ノーパン健康法って知ってますか?」
――これを「日常会話」にしている橘さんに脱帽。
…といった15歳以上対象ソフトとは思えない発言ばかりで、
そんなことを平然とやってのけるところに、呆れを通り越して笑えてくる。
監督ともいえる原画家の高山氏はニコニコ動画で反応が返ってくるような行動をさせろとライター陣に指示を送っていたそうです。
なるほどそれが確実に成功している。
橘の発言に突っ込みを入れていくことが、この作品の最大の楽しみ方だ。
少し話は逸れますが、こういう現象は少年ジャンプで連載された『To LOVEる』と似ている気がした。
少年誌で女の子裸体を堂々と描き、単行本では乳首を描き加える。
少年誌というエロスの限界突破が話題になり人気作となった。
規制というのは創作において枷にしかならないはずだが、
そこに挑戦しているというスタンスが多くの駄目な大人をシビれさせたのではないか。
制限が厳しいゆえに、限界突破を目指そうとする製作陣の本気を感じさせる。
“おまえのようなHENTAIを待っていた―――”
という奈須きのこ氏の感想のように称えたい気持ちになる。
ところで「変態紳士」ってのはどうも意味が分からないというか、日本語的に矛盾している気がする。
変態であれば紳士ではないはずだ。
けれどこの橘を見ていたらなんとなく意味が分かった。
パンツを盗もうとするのではなく、
「絢辻さんって勝負パンツ持ってるの?」と真正面から問えることが紳士的変態なんだろうと。
……そんなことを真剣に考えさせる不思議な魔力を持つ作品だと、そう思いました。
それにしても、絢辻さんはかわいいなあ!