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Sek8483さんのPriministAr -プライミニスターの長文感想

ユーザー
Sek8483
ゲーム
PriministAr -プライミニスター
ブランド
HOOKSOFT(HOOK)
得点
73
参照数
826

一言コメント

音声修正パッチの音質について(ネタバレなし)、主人公の厚遇への感想、PITでの体験談を書きました。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想


 主人公を派手に盛り立てながら、癖のない正統派ヒロインたちを配した作品。しかし、あれだけ彼女たちが良くしてくれてもなお、いつまでもそこで囲まれていたい居心地にまでは至らなかったです。
 PITでもって物語の周囲にも地ならしを試みたり、後日談やサブイベントを先々に用意したりするのだけど、とりあえず作品に入れてみたそれらのギミックには使い処を見つけられず終いだったような。個別シナリオの方向性も含めて基礎のところがよく噛み合わないまま、無理やりに主人公を持ち上げてみて崩落している印象です。

 それでもPITや流々子がバカをやらかして物語を押し進めていくなか、ヒロインたちは「姫ちゃん」「えなモン」ちょっとしたアイドルみたいな扱いをされてて、窓辺の花であったぶん雑味もなく可愛いらしい。また、ヒロインビュー近辺におけるインターフェイスの変化は地味ながら良いもので、その子に近づいている実感があります。

 次のようなことを書きました。

1, 音声修正パッチでは千里ボイスの音質が低い。(ネタバレなし)

2, 汐路に冷たくされたので好きになっちゃいました。

3, PITにマジギレしました。

──────────────────

 1, 音声修正パッチの音質

 音声修正パッチ(2013/12/12付)について、枝那森千里キャラボイスの音質が落ちている箇所が多くあるようです。音声再生環境や感性による個人差の大きいところとなりますが、もし千里ボイスの語尾などに現れるノイズが気になる場合には、音声修正パッチを"適用しない"ことで体感が改善する可能性があります。

 参考までに、わたしが比較に用いた録音を置いておきます。
{
https://www.youtube.com/watch?v=TdsYYzXFFss

それぞれのセリフを"未修正→修正後→未修正→修正後"と交互に2回ずつ繰り返す
同程度の音量になるよう調節(修正後CVのみオプション設定でボリューム40%)
※違いがわかりやすいセリフを意図的に選んでいます
}

 以下、経緯など。ちなみに音声関連とかド素人です。

 パッケージ版を購入。インストール→音声修正パッチ適用→Ver.2.00アップデートという通常手順をふんでゲームを開始しました。すると千里ボイスについて「音がくぐもって大きく、やけに呼吸音が耳につき、ひとりだけマイクに寄って収録しているかのようだ」と違和感を覚えました。
 そこで千里個別ルートに入ったところで中断、再インストール→Ver.2.00アップデートのみを行いプレイを再開したところ、千里ボイスについて、音量は小さくなったものの音質はクリアになり、音声間のざらつきや呼吸音にかかっていたノイズも弱まったと感じました。
 以降そのままに全シナリオ終えましたが、他キャラも含めた全体音量差なども特には気にならなかったです。未修正時かのこ・由芽はやや大きすぎるものの、汐路については未修正時のほうが適切な音量と感じましたので、千里ボイス以外についても一長一短という印象。

 もともと、三澄ボイスの音量が部分ごと急激に小さくなったりと音量がおかしな状態で出された製品でした。公式によれば、音声修正パッチによって「全キャラクターの音声音量を再調整」したとのことで、千里ボイスについては音声データに大きく増幅がかけられたようです。その際、元データからして品質が高くはなく、また息芝居の多いキャラボイスなためにか、もともと音声の合間や語尾にあったノイズが増幅されてしまっているのではと疑います。ちなみに共通部分のボイスよりも個別部分のボイスのほうがノイズが多いという傾向も見えました。
 あくまでも感じ方による些細なものであることを重ねて注意した上で、音声修正パッチを"適用しない"ほうがわたしは快適であったことを書き残しておきます。

 なお、パッチ等の適用状況による、ゲームがインストールされたフォルダ内の"data04.ykc"ファイルのサイズは以下の通りです。
{
インストール直後(Ver.1.00)
1,108,635KB

音声修正パッチのみ
1,181,599KB

Ver.2.00アップデートのみ
1,279,744KB

音声修正パッチ + Ver.2.00アップデート
1,350,743KB
}

 余談となりますが、千里役・白月かなめは好演でした。「編み棒」「……編み棒」。またエロシーンで昂ったときの一部のセリフの崩し方、舌のもたつくお芝居にそそられました。



 2, 微笑みかけられないことの幸せ

 『Like Life』以来のHOOK作品プレイとなりますが、その、どうしましょう……特に眠くならなかったんです。話と違うじゃないか。あえて言えば、甘すぎて胃がもたれる感ではありました。
 例えば、ケーキ屋さんちのかのこさん。カモが葱と土鍋とガスコンロしょって捺印した婚姻届くわえてやって来るようなチョロさでして、エプロン姿かなり可愛いです。ただ、二人きりのルートシナリオでならともかく、そのままに手芸部まで出て来られてしまうと、似たようなカモが四羽ほど揃ってしまうのがやや困りもの。カモ鍋に四方を囲まれてガスコンロ焚かれるのはさすがに暑っ苦しい。そこにきてカモ鍋だらけは苦しいことを察してくれたのか、馬は馬方、かのこさん、優しく微笑んでケーキを勧めてくれる。ちがうの、そうじゃないの。なんとか笑顔で応えて食べ終えたらば、おっつけカモ鍋。そしてケーキ。カモ鍋。ケーキ……。かのこさんちのおいしいケーキも食べ続けていれば舌がおかしくなり、手芸部のダダ甘な接待感はちょっとばかり胃腸にもたれる分量です。誉められるべき時でもないのに誉められ続け、謝られるべき時でもないのに謝られ続けるというのが、わたしには重たいです。人への親切をいちいち指さし確認していくのもやめて欲しい。

 それならばと、手芸部の周りまでをもあらかじめ飾り立てておき、プレイヤーの頭をどっぷり涅槃入りさせてしまおうというのがPITのコンセプトだったよう思いますが、こちらもさすがにちょっと無理がある。昇天ペガサスMIX盛りには無理がある。
{
No. 012   名前:学園名無し
ペガサス4回くらい爆発しろ

No. 013   名前:学園名無し
ほんとなんでペガサスがモテるかわかんね 理由ない

No. 014   名前:学園名無し
もうだめだ、ずっと見てるとやっぱり眠……

No. 015   名前:学園名無し
【速報】COGがペガサスを折檻中

No. 016   名前:学園名無し
>>15 !!!??

No. 017   名前:学園名無し
>>15 m9(^Д^)プギャー

No. 018   名前:学園名無し
>>15 GJ! COGマジGJ!

No.8483   名前:学園名無し
>>15 汐路になら踏まれるべき。むしろわたし踏んで。
}
新たな性癖、もとい活路が見えました。
 汐路に冷たく扱われるのが心地よくなってきてしまったのです。不良が子猫を拾うギャップにときめく恋の錯覚というか、PIT&手芸部の熱のこもったケーキ・カモ鍋空間のなかにあっては、汐路のそっけなさが一服の清涼剤でした。「うるさい黙れお得意の手芸で口を縫え」ひんやり低音りんごがシャクシャクと歯切れよい。プライオリティとして第一に仕事、第二が恋愛と宣言しちゃう女の子って、わたしの疲れた胃腸にはやけに優しいのですよ。
 そしてキャラづけの横暴はふるいつつも、謝るべきタイミングでのみ迷わず頭を下げてくれたことが快かったです。さらに、ルートでは主人公も汐路大好きでまっしぐらな馬鹿だから好感。シナリオは意味不明になってくけどようじょが笑ったから気にしない。その裏でひたすらしりとりやってる手芸部すらもが今では愛おしい。かのこさんイジメないであげて。

 こうしてナゼか、全然興味なかった汐路がくせになってしまったところへと「ナゼに私を選んだ!?」わたわた逆ギレしてくる汐路。その気持ち、よーく分かります。わたしもよく理由が分からないですから。なにせ彼女には理不尽暴力の気味すらありましたから、告白されてもそうそう納得つかないですよね。
 でも、どこまで行っても全周囲から微笑みかけられるなか、こっち向いて笑ってない彼女の前でだけは息をつけたのです。PITが汐路との仲はあまり羨ましがってこなかったのも気が楽でした。プライバシーというものが偲ばれます。周囲に染まりきらずただそこに居てくれた汐路だから、わたしは自ずから恋してしまったんです。関節、半分くらいなら持ってかれる覚悟で甘い言葉をささやきますとも。サッカリン。そんな馴れ初めでもって嫁の戦闘力がやたら高いのですが、なおも枝那森には浮気しかねない自分がおります。



 3-1, ヒロイン以外との距離感

 せっかくなのでPITはフル表示で進めました。しかし次第にその流れを追わなくなっていき、飛ばし飛ばしチラ見するくらいで落ち着くことに。モブキャラから嫉妬されてもおだてられても反応に困りましたし、本編テキストと微妙に関連するような関連しないような雑談では目が引かれなかったのです。
 また、画面に余裕があるのに立ち絵を右端に置いてたり、一枚絵の構図ではどうしてもヒロインの顔が右上にきてたりして、そこをPITウインドウが潰してしまうのは設計がずさんです。PITを更新するタイミングにしても、本編セリフが流れるときに限定すればプレイヤーの耳目をうまく割り当てられるのですが(ボイスを最後まで聴きたいプレイヤーなら目が余っている)、そういった綿密な連携をとるつもりはもとより無かったみたいです。
 今作のPITは基本的なねらいとして、ある程度キャラの定まった匿名モブ(無邪気なバカ男子と委員長女子 ※いずれも善良)が甘くてクレイジーな背景世界を作り、それをもって本編テキストのやるハーレムを日常風景として落ち着けてしまおうというコンセプトに見えます。流々子がおバカな行動に走るから三澄がお姫様として引き立つような関係。
 しかし、「天馬くんは〇〇だから恰好いい」「悔しいけどペガサスの〇〇なとこはスゲェ」とPITがやたら言葉にして可視化したことにより、かえってプレイヤーから「え、そんな事で?」ツッコまれるスキを作ってしまってもいるような。そして結局のところ、モブ男の嫉妬をもって本編テキストが主人公の魅力を描ききらないことのエクスキュースとする体裁にはなるから、空しさを感じました。

 それでも、目新しさを抜きにした面白みもまた含まれていたとは思います。テキストがむやみにニ系統になっているのはやや鬱陶しかったので、PITが消えたときにはホッとする気分を味わえるのが良かったです。皮肉ではなしに。汐路に惚れたのとも似た理屈でもって、人混みから抜け出せたことの解放感、ストレスの落差を実感しやすい。
 具体的にそれが活きてたのがヒロインビュー近辺でして、しばしばインターフェイスがシンプルになります。テキストウィンドウが小さくなって名前表示が消え、左下に立ち絵と同じ顔が(二重にむやみに)表示されることもなくなり、そしてPITでテキストが(二重にむやみに)表示されることもなくなります。あれだけ賑やかだった右上や左下が消えて、目線はヒロインへと向けて置けば良いから、わずかな物事が動いてゆくなか彼女のそばにリラックスして居られました。
 そしてまた、婚活パーティーで相手の名札を確認しつつ談笑してるわけじゃないのだから、名前がいちいち表示されなくなるのは自然です。「なぁアレとってアレ」でもってヒロインにだけは通じるみたいな、名前の消えた親密さ。騒がしい外野が消え去った"私とあなた"の距離感を作り出して、ヒロインとだけ分けあう時間を見て取れるインターフェイスの変化だと思います(その効果を念頭にシナリオが作られていたわけではなかったけど)。
 日中の手芸部には常にみんなが詰めていて、PITまでもが意味なく騒がしいです。それでなおさら、夕暮れに好きなヒロインとだけ向きあえる時間、夜に小糸とだけ向きあえる時間にある安らぎはひとしお。そのような、人の出入りからS/N比が変わる際の物語進行のリズムを、いっそう作り込んでもらえたなら嬉しく思います。


 3-2, PITテキストの他人事らしさ

 上述したとおり、今作でのPITは一種のガヤであり、本編テキストの甘さへの段取りとして、甘い背景世界をなんとなく作っているおふざけテキストです。そこまでマジになって受け取るようなものではありません。ところが、そのPITにマジギレした恥ずかしいプレイヤーがいます。わたしだ。

 とあるルートシナリオ中盤に、ヒロインが辛い境遇にあって、明日におびえ、それでも幸せを噛みしめながら涙するシーンがあります。シナリオの切なさもさることながら、彼女のキャラや声は好みでしたし、何よりも一枚絵が綺麗だったので感情を持ってかれることに。シーン始めには、女の子を不幸にして感情を誘うことは強力だなとか、涙腺のほうにも刺激が届いてきたなとか、いろいろ考える余裕もあったのですが、あれだけぼろっぼろに綺麗な泣き顔を見せられてしまうと、ついにはその表情へと釘づけられてしまいました。
 そこです。ワンクリック。シーン切り替わります。
>>
No. 001   名前:学園名無し
女子の表情で一番グッとくる表情ってどんなの?
<<
……。
…………。
いやいやいやいやPITなに言ってるの。ふざけんなよ、こっち今それどころじゃねーんだよ。彼女ほんとに辛い目にあってるんだよ、ぎりっぎりなんだよ。可哀想なんですよ。今しがたそれで涙腺ゆるんでたばかりなんだよ、ゲーム内で日数またいだからってプレイヤーはそうそう器用に気分を切り替えられないし、余韻を消せないよ。
 いっそ手もとのPIT操作して「いいから黙ってろ」とか文句つけてやろうかとも思いましたが「m9(^Д^)プギャー どんな気持ち?ねぇいまどんな気持ち? 何エロゲにマジになってんの?」とか返ってくるだけで無力感いっそう募りそうなので止めときました。そもそもこのカキコミには悪意なんて無いでしょうから、わたしが勝手に目にして勝手に神経を逆なでされてるだけの話ですm9(^Д^)プギャーm9(^Д^)プギャーm9(^Д^)プギャー

 これまでのPITテキストと同じく、微妙にだけ本編テキストと関連するよう、「(一枚絵の感動ポイント→)女子の表情で一番グッとくる表情ってどんなの?」機械的にライターさんが書いただろうこの一文、イラッときました。彼女を本気で泣かせたり笑ってもらったりするために、このエロゲは作られたはずじゃなかったのかと。なんであのシーンのたった数クリックあとに、平然として女の子を品評するような目線の話題を、下世話なPITへと振っちゃうのかと。わたしたった今、彼女が涙をこぼして笑ってる姿に感じ入っていたところだったというのに、茶化されてしまいました。

 もっとも、見てのとおりこれはただの誤爆でして、しかもわたしが勝手に当たりに行ってる感のあるケースです。しかしここには、ダダ甘ハーレムだった共通シナリオへと、重いものを負ったルートシナリオを無造作に接いだことが根っこの原因としてあったようにも考えます。
 ゆるくて甘い本編を囲うための、ゆるくて甘い背景世界づくりがPITの基本コンセプトだったので、そこまでのゲーム進行においてPITテキストには"2ch風でありながら善意でおバカな世間話"という属性がついていました。そこにルートシナリオが悲壮なムードを帯びてきたところ、お気楽なPITが微妙に絡むようなことを言ってきたために、わたしが過剰な拒絶反応を示したのだと思われます。もっと言うなら、彼女と一対一でしていたプライベートでシリアスな対話が、急にパブリックに楽しいBBSへと転載されてしまったかのように見えて、それが気持ち悪かったのではないかと。
 そうして思い返してみると、ある意味では面白い体験でした。何と言いますか、世界の不幸を自分ひとり背負ってるような気分に沈んでいるときに、アパートの薄い壁の向こうで上がる笑い声が、あるいはTVのバラエティ番組が憎らしくなる、そんな危うい腹立たしさがちょっと呼び起こされたようで。PITテキストは意味なし情報をとても多く含んでいたから、それでかえって、ルートシナリオで彼女とただ二人で打ちひしがれているとき、周りでは無神経に無関心に明るく日々が進んでいってしまう恐ろしいリアル感を一瞬だけでも味わえたように思います。
 PITの適当なカキコミから呼び起こされたこんな偶然のスパイスは、今作のPITテキストが単なるガヤであったがゆえのものでした。「神は優れた劇を書いたためしがない」的な、間の悪いリアリティ。たまたま誤爆した心ない一言にしばし呆然とはしたものの、不思議と、ヒロインと二人きりの世界にシンクロできるきっかけとなりました。彼女の部屋にお呼ばれしたらもうドキドキ。ラベンダーのハーブティーの苦い後味は思いながらも、彼女の枕についた甘い匂いをくんかくんか、その幸せの手触りを堪能して、ひそやかな声にまどろんでしまいました。
>>
「ん、ありがとう。……枕、触ってない?」
「もちろん、そんなことするわけないだろ?」
「……変ね、それならどうして枕がなくなってるのかしら?」
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(ばななてらこたぱいの人にはお陰様です。)