処女作にして珠玉の一作
スケラスパーロ処女作となる本作。いわゆる異世界転生系ですが、その一番の特徴は、異世界で使われている言語が日本語ではないこと!勿論、ご都合主義ですべて訳されていたりはしません。すなわち、我々もまた異世界に飛ばされた立場に立って聞いたことのない言語を解読していかなければいけないということ。この未知の言語と何とか付き合いながらヒロインとの関係を深めていくこのゲームは、まさに異色の怪作。
・シナリオ
異世界で出会ったルカと、言葉の壁にぶつかりながら心を通わせ合う物語。少しずつルカの言葉が分かるようになってきて、ちょっともどかしいやり取りや甘々な同棲生活を楽しみ、そして最後は異世界モノのお約束。もし帰るチャンスが訪れたら、自分はどうするのか。
帰りたい理由。あっちが元々いた世界だから。
帰りたくない理由。こっちにはルカがいるから。
こう見比べると、帰りたくない理由は非常に頼りないものです。
この先ずっとルカと一緒にいられるのか?いずれルカと不本意に離れる日が来てしまうのではないか?そのとき、自分がこの世界で生きる意味はあるのか?
きっと凛もそんなことが頭を過ったのではないでしょうか。凛にはルカ(とリンさんぐらい)しかいないけれど、ルカには……と。
そして、この選択でルートが分岐します。
門を見に行かず、部屋に閉じこもってのたうち回りながら異世界に残留することを選んだルートがFDに繋がる時空。GOODその1。私はこのルートが一番好きです。結局この決断が正しかったのか、その後の生涯をかけて証明してゆく必要があり、凛はルカから絶対に離れられない……というほの暗さが感じられて。
門を見に行くも、残留を決断したところで現れたルカに無理やり門へ押し込まれたルートがバッドエンド。異世界を経験した彼女にとっては、確かに元の世界であっても元の世界ではない。彼女自身が変わってしまったのだから、元の世界に帰ってきてもそれらが戻ることはない。「ルカは私がいなくなっても、忙しなく毎日を生きていく中でいずれ忘れるだろう」と言っていましたが、立場を入れ替えルカを失った彼女は、きっと生涯彼女のことを忘れられません。ルカもまた彼女のことを忘れないことでしょう。悲しいEDなので、これはなかったことに……
上記からの分岐でルカも元の世界に戻ってくるルートがあり、これがGOOD2のようですが、個人的には残留した世界線の方が好きですね。元の世界へ戻るチャンスを見送って繋いだ絆は、この世界線のものより強いだろうなという気がします。あと凛とルカを一挙に失ったリンさんのメンタルが死にそう。(ここでルカも凛と同じ世界から来た人であることが判明!ということはルカも空の変調に気づいていたのね……)
短さはやはり如何ともしがたいですが、システムも相まってボリューム感は充分。要所を抑えた完成度の高いシナリオだと思います。できればR18でもっとイチャコラするシーンが見たかった……
・キャラボイス
特にルカのボイスが珠玉!蕩けるような天使のボイスに加え、流暢な発音。こういった外国語(この場合は人工言語ですが)を扱う場合避けては通れない発音の問題ですが、ルカCVの方はとても流暢に発音しており、まったく違和感がありません。素晴らしい!この声で「ん~?」とか「どーん」とか言われた日にはそりゃ凛も脳みそ溶けるよね。すごくかわいい。
・絵
全体にほんわかしてた絵柄で、若干デッサンが気になる箇所があるけれどもかわいいのでヨシ!
表情差分が多めで、特にルカのジト目が最高にかわいい。
・UI/システム
ミドルプライスとはいえ設定できる項目は少なめ。個人的にカーソル自動移動が嫌いなので、この機能をOFFにできなかったのは少々残念。
その代わり言語まわりの管理はかなり行き届いています。一周してからは和訳つきでプレイできるのですが、2周目やってみると和訳なしでも結構な箇所が分かるようになっていて、「おお、これはエスペランティストになれるかも……」とか思っちゃったりしました。お勉強モードも随分真面目に取り組んでしまったり。個人的にはエスペラント語表記にできるのがありがたかったです。
・総評
文字ベースのノベルゲーに未知の言語を取り入れる、というコンセプトを聞いた時は「読解に労力を要する上に中身が完全に理解しきれないシナリオゲーってどうなんだ?」と思いましたが、言語が通じないという当たり前の要素を一つ挟むだけで異世界のリアリティがまったく違ってきます。凛と共に少しずつ異世界に慣れていく過程を体験できて、ギミックとしては99999点ぐらいの素晴らしいアイデアだったと思います。
しかしエスペラント語はインド・ヨーロッパ語族の影響が色濃く残っており、異世界で発達した言語としては親切すぎるのでは?と思う節がありましたが、それにすらちゃんと理由が考えられており、もう脱帽の一言。シナリオも短いながら勘所を抑えた秀逸な進行、素晴らしいキャラ造形とCVキャスティング、これは間違いなく金字塔です。