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Salyut_71さんの白衣性恋愛症候群 RE:Therapyの長文感想

ユーザー
Salyut_71
ゲーム
白衣性恋愛症候群 RE:Therapy
ブランド
工画堂スタジオ
得点
80
参照数
526

一言コメント

キラふわ(大嘘)な名作百合ゲー

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

名作ですよ。ええ、名作です。
「舞台が病院」という設定が、ただヒロインの萌え属性のためだけじゃなく、お話にしっかり噛んでいる。
知識の誤魔化しは無く、キャラも魅力的。システム周りもよし。
素晴らしい一作なんですが……


キラふわ要素はどこですか?


共通からGOODにいたるまで、とにかく胃が痛い。そんなゲームでした。



・シナリオ
舞台は病院。それも、ありがちな理想化された病院じゃなく、大変現実的な病院です。
つまりは、色々な描写がとにかく現実的です。看護の過程で例えば下の世話だとか、吐瀉物の処理だとか、そういった綺麗でない部分が結構書かれています。厭味ばかりの患者だとか、看護師間での不和・いじめ、新人ゆえのミスと叱責の繰り返し。とにかく見ていて「うわぁ……胃が……」となる話が多いこと多いこと。
これらの描写は裏を返せば「リアルな雰囲気の構築に一役買っている」ともいえます。看護経験者(現役でしたっけ?)が書いたというのも納得のリアルさです。


・なぎさ√
GOOD END: 王道を行くストーリー構成。一番綺麗にまとまっていた印象です。他のヒロインをやった後だと、一番ちょろい……いや素直な√だと思いました。
BAD END: 薬品で後輩の喉を焼いて声を奪い、監禁して衰弱死させる猟奇END。そうまでされても、かおりはなぎさ先輩のことをやっぱり愛していて、二人は幸せなキスを交わして物語は終了。
なんとも救いが無さそうなENDですが、目隠しをされたかおりが「大好きな人の香り」でなぎさ先輩が帰って来たことに気付くシーンだとか、とても文章が綺麗で読後感は思ったより悪くない感じです。


・さゆり√
GOOD END: 共通であれだけツンツンしていたさゆりは何処へ……?ってぐらいデレます。もうデレデレです。見ていて「やっとキラふわ要素がきたか!」とガッツポーズするぐらい可愛いです。そうだよ、こういう展開を期待していたんだよ!
相手が難しい病気の患者ということもあって、一番死生観だとか、生きる意味だとか、考えさせられる√でした。
BAD END: この作品で一番綺麗で、一番好きなEND。治療に失敗したさゆりと二人で心中するENDです。こう書くと後味が悪そうですが、全然そんなことはありません。百合特有の儚さ、綺麗さ、そういったものが昇華されたENDで、綺麗なグラフィックも相俟って、なんともいえない感慨が湧き上がってくるお話でした。
他のルートは極端な話男女の恋に置き換えてもある程度成立してしまいますが、このENDの雰囲気だけは百合でしか再現できないものだったと思います。そういった意味では、このENDこそが百合ゲーとしての白恋には一番相応しいんじゃないかな、なんて。


・やすこ√
GOOD END: 山之内さん個別入った途端豹変しすぎでしょ。他の√ではあんな良いキャラなのに…… 親しくなったからこそ奥底に隠された闇に触れてそうなったんでしょうが、他のルートに輪をかけて胃が痛い話でした。話自体は特に起伏があるわけじゃないんですが、とにかく重い。その上、終盤のキラふわ要素が多分一番少ない。
BAD END:GOODからの分岐で、主人公が山之内さんの操り人形になる猟奇?エンド。分岐してからは大変短いので、そこまで印象に残らない話でした。


・あみ√
GOOD END: このゲームで一番まともな人じゃないかな……?思春期の女の子ということで、悩みの内容も学校絡み、甘酸っぱい展開も結構。数少ないキラふわ要員(でも病む)
他のルートに比べて最初からデレているので、最後のカタルシスは弱めですが、その分胃に優しいお話でした。
BAD END: 楽器とともに生きてきたあみが、主人公を助けようとして右手を骨折。生きがいを失って主人公に依存するようになるEND。やっぱりキラふわは駄目みたいですね……
でも他のBADに比べたら優しいほうなので、まずはあみ√から見るといいかも。


・はつみ√
GOOD END: やっぱり主任もデレデレ。このENDは主人公の過去の話が明かされるトゥルー√っぽい面もあるんですが、その内容が少し残念。これまで徹底してリアル路線できたのに、突然のファンタジー展開。別にそういった要素が悪いというわけではなく、脈絡も無く突然出てきたせいで完全に置いてけぼりになってしまいました。これまでの謎は解決するし、主任さんも可愛いんだけれど、いまひとつ……といった感想でした。
BAD END: 劣化エンド。GOODを途中で打ち切ったような話。白恋はBADにも魅力が結構ありますが、主任BADに関しては魅力ゼロ。


・まゆき√
GOOD END: 合法ロリ。この√は完全にファンタジーの世界ですね。割り切って読めばそこそこ楽しめるお話ですが、駆け足で終わってしまった感は否めない。そこそこ胃に優しいお話で、まゆきも可愛いのでサクっと読んで「うん良かった」でお終い。そんな感じのお話でした。
BAD END: とってつけたような謎のEND……これを先に見ていると、まゆきの病気が一体どんなものなのか、ハッキリと分かると思いますが、お話自体の魅力は少なめ。というか短すぎ。


白恋はBADにも結構魅力がありますから、全END回収を推奨します。読み終わるとかなり達成感がありますよ。



・絵
全体に淡い彩色ですね。個人的には百合特有の儚い感じがよく出ていて好きでした。
血とかそういうグロ方面の話に一枚絵はついていないのでご安心を。


・BGM
ENDも含めてあまり印象に残る曲は無かったかな……?


・Hシーン
勿論全年齢向けなのでありません。キスシーンまでです。あみちゃんに至ってはキスシ-ンもほとんどありません。
でも、そのキスシーンは大変綺麗で良いものです。ああ、百合って素晴らしい。



・総評
「あの花」のようなふわふわ系百合ゲーを期待して買うととんでもないカウンターを食らいます。もちろんこれも百合ゲーには違いないんですが、主眼は恋ではなく、主人公が経験する「厳しい看護の実態」におかれています。紛うことなきシナリオゲーです。
百合ゲーというとほんわかしたお話が大半を占める中、この作品はかなり異質な部類でしょうね。とにかく話が重いし。
こういった欝要素も大丈夫だよ~という方には是非勧めたい一本。BADにも魅力があり、緻密な知識に裏打ちされたシナリオ、個性的なキャラ達、(少ないけど)キラふわ百合要素とハマる人はとことんハマリそうです。私はどっぷりハマリました。

(ちなみに、びっくりするほど男がでてきません。この世界では百合がデフォのようです。素晴らしい)