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SakuRambo_sonさんのG線上の魔王の長文感想

ユーザー
SakuRambo_son
ゲーム
G線上の魔王
ブランド
あかべぇそふとつぅ
得点
97
参照数
391

一言コメント

ミステリーエロゲの最高峰

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

※重大なネタバレがあるため未プレイ時には絶対に読まないでください。



五章からの怒涛の展開に引き込まれ読み進める手が止まらなかった。

自らが悪になることで周りを救おうとする京介が誰よりも優しくかっこいい。
個人的に愛情よりも友情に弱いのでハル関連では一切泣かなかったが、椿姫・花音はともかく栄一はマジで反則。五章の時点で裏切ったりすることなく京介の仲間であり続けたことから覚醒の片鱗は見せていたが、最後に泣きながらも気丈な手紙を寄越すとは……。取り調べのときは必死で悪を演じる京介を全力で応援した。よく最後まで折れないでいてくれた、ほんと漢だよ。そりゃ堀部も見直すわ。

いきなり五章の話から始めてしまったが、順を追って。
個別ルートの出来はよくない。

まず二章。偽善者である椿姫、及びその家族にはさんざん苛立たせられた。
結末もありがちな愛情による改心。感動は無い。
わがままで頭の悪い椿姫弟には一切の罰無し。罰が与えられるどころか椿姫が正気にもどる引き金になる。悪人ではないものの、その愚かさは悪であるし、家族も含めバッドルートで家を壊されて皆殺しぐらいの罰は受けてほしかった。

それから三章。自己中心的で愚かな花音の母にはやはり罰無し。しまいには氷上で力尽きた花音に駆け寄るという感動まで演出する。が、悪人なので感動できるはずもない。花音自体わがままでとても好きになれないからなおさら。
魔王の犯行予告どおり殺されるバッドルートがあってもよかった。
権三殺しにも失敗するのでさらにプレイヤーの鬱憤は溜まる。
ここまで魅力的なヒロイン無し。

そして四章。ここでついに最かわヒロイン候補の水羽登場(いや、登場は前からしてるけど)。それに加え準かわヒロイン候補のユキにまでスポットが当たる期待の章。……が、蓋を開けてみれば手抜きルート。
水羽がキャラ崩壊してポンコツに豹変し(これはかわいいので全く問題ないが)、すぐに事件発生、個別に入ると事件も一瞬で解決、水羽がポンコツヒロインっぷりを発揮しているうちに、ユキが殺人して失踪して帰還して自首する。
京介がすることは何も無し、水羽がただユキを待ちながら成長するだけ。しかも成長過程は描かれず、成長前から突如成長後に(時間的に)飛ぶだけ。
雪だるま作ろうが感動ポイントかもしれないが、流れが雑すぎるし感情移入もないので当然感動はしない。
個別に入らなければ事件の解決が楽しめ、ユキ様が主犯という衝撃の事実も明かされる。
ユキという今まで主人公側だった人間が犯人であること、その犯行動機が正当なものであること、理事長が今度こそ間違いなく悪で死も当然であることなど、犯行の成功が最も願われた章だったが、やはりプレイヤーの期待を裏切り犯行は失敗、理事長は生き残ってしまう。権三に金を搾り取られるという恐ろしい罰はあったものの、バッドルートでユキの犯行成功ぐらいあってもよかった。

満を辞して迎えた五章。
ハルの父親という赦されざる悪の存在が明かされた後、魔王と勇者の決戦、しかしその力(というか頭脳)の前に勇者は敗れ去る……と思わせて、京介と魔王が別人物だったという衝撃の事実を暴露。丁寧に張り巡らされた伏線に感服する。
前半はハルとの過去メイン、後半で最後の事件が発生し、栄一の覚醒(というほど活躍してないけど)などもありかなり熱くなる章。
京介が権三の魂を継ぎ、堀部に認められるところなどで気持ちが昂まり、ビルの非常階段を登るところがクライマックス。
ユキの父親と魔王との会話など聞いていると、その頭脳に何度も絶望させられた。でもユキとその父親との絡みは描いてほしかった。
やっとの思いで魔王を追い詰め、自爆にまで追い込んだかと思えば、それすらも魔王の策略。それでも喰らいつき今度こそ魔王が滅んだ!!……かと思われたが……。

最終章。既に魔王の正体、自爆に見せかけた罠、と二度(五章以外も含めればもっと多く)のどんでん返しを経験して迎える最終章は、魔王も死んで全てが解決してのエピローグだと誰もが思っただろう。
しかし、魔王は生きていた。ここまで生き延びてきた執念も終わりかと思えば、最期にとんでもない謀を成して散っていった。
そしてついに感動のフィナーレへ……。

作品が古いため絵も古く、もともとエロに力を入れてるわけでは無いので見た目のキャラの魅力はほぼ無かった。
ユキのHシーンがなかったのは悔やまれるが、期待していた水羽もそこまでだったため、あっても大して抜けなかったかもしれない。

この作品で語らねばならない重要なキャラクターといえば、「魔王」と「浅井権三」という二人の偉大な男と岩井さんとかいうイケメン主人公である。いや、岩井さんはマジかっこいい正義漢なんだけどね?テロリスト相手に囮になったり他人を庇ったりできるやつ他にいねぇよ。
さて、岩井さんのかっこよさは置いといて。
「魔王」は、最初から最後まで主人公たちの前に立ちはだかる悪であるわけだが、注目したいのはその最期である。
悪魔的な頭脳で人々を翻弄し続けた魔王。ハルといえど、常に後手後手に回っており、それを出し抜けたことなど一度もなかった。それは最期まで変わらず、死してなお、京介に呪いをかけた。
「魔王」は第二の主人公とも言え、それが敗北することなど決してなかったのである。
これが重要で、最期までこちらの一枚上手をいくところが、魔王の偉大さをプレイヤーの心に遺し続ける。
「浅井権三」は、血も涙もない真の悪人であることが、初めから何度も印象付けられてきた。
しかし、浅井権三は京介の「父」であった。
死んだ後に父の教えは京介の力となり、その魂が受け継がれるのである。
どのルートでも「家族」がテーマになっており、様々な家族愛が描かれるこの作品の中で、金でしか繋がっていなかったこの義父子が、初めて真実の父と子になったのだ。
ただの恐怖の化身であった浅井権三が、偉大な「父」として息子を奮い立たせ続けることで、「家族」を描いたのである。

温かい大家族、歪な母子、離れ離れの姉妹、呪われた家族たち。様々な「家族」の形を描いた作品であり、また、善を騙って悪事を働いていた主人公が悪によって正義を貫くという、善悪についても考えさせられる名作。



なんか全然まとまってないのでいずれ再プレイしたらちゃんと文章整理しますね……。