人と関わることについて描いた作品
AUGUSTらしくキャラクターの魅力が光る良い作品。キャラクターそれぞれの個性をよく引き出して魅力的に描けている。
メインに劣らず魅力的なサブヒロインたちも攻略できてありがたい。
不快なキャラクターも少なく強いて言えば暴走してやりすぎる多岐川ぐらい。
シナリオは明るめ。
壁にぶつかることもあるが、どうやってこのイベントを実現させよう?といった前向きな悩みが多いため楽しい雰囲気が続く。
カットインのような演出もおもしろい。
1周目対象ルートは桜庭以外は薄いが、その分軽いので楽しんで読める。嬉野さんルートが特に楽しかった。
2周目以降解放ルートでは物語の中心である羊飼いのことに深く触れていく。
今まであまり掘り下げられていなかった主人公・筧も羊飼いに関わることで悩み、過去の清算をしていくなどしっかり成長が描かれていてよかった。
小太刀以外の4ルートはほぼ使い回しであるが、その内容自体は前述した筧のこともあり十分なもので、キャラクターのその後を描いたエンディング演出も含め非常に満足度が高い。
小太刀ルートも悪くなかったが、主人公の成長という全体を通して重要になってくる部分を考えると他4ルートの方が良かった。
メインヒロインで好きだったのはつぐみと千莉。
動機は妹への嘘だったかもしれないが、根本にある「楽しい学園にしたい」という思いを貫き続けたつぐみが学園を変えていくところがよかった。
あがり症なところこそあるが、その真っ直ぐさはセンターヒロインの名に恥じない魅力だろう。
表に出すのが苦手なだけで実は感情豊かな千莉も第一印象に反してかわいかった。他者に興味なさそうに見えて一番部室に愛着を持っているところなんかに萌える。
かなすけは恋人というよりかわいい後輩だったかな。他ヒロインに筧を譲ろうとする姿勢もあまり好きではない。
桜庭は少し固すぎ。自己犠牲も好きじゃない。でもその分ちゃんと自分のことを優先するようになってからは良かった。
サブヒロインはみんな好き。
最初っから筧好き好き大好きな望月会長、筧の前ですぐ頬赤らめてメス顔するチョロインのくせにちゃんと大事なとこで決めるかっこいい人でもあって女の子としても人としても好き。
芹沢はHシーンがエロかった。やはりピンクは淫乱。
嬉野さーーーん!君のハートを、ヘッドショット!
高峰もいいやつすぎた。普段は飄々としているのにちゃんとかっこよく主人公を助けてやれるとこ、ほんといい親友キャラだ。
主人公の筧は本好きで根暗な印象だがかなりノリがよく、これも楽しんで読める大きな要因だろう。
ヒロインの気持ちにちゃんと気づく察しの良さは何気に恋愛ゲームでは珍しい。気持ちを理解した上でしっかりどう応えるべきか考えていて好印象。
しかしそのノリの良さや察しの良さも裏を返せば空気を読んで周りに合わせていただけでもある。そんな一歩引いて本と空気を読んでいただけだったのが、自ら人と関わることを選んでいくところがこの作品で描かれた主人公としての筧の姿だろう。
浅学な自分は「羊飼い」という言葉の意味がわかっていなかったが、どうやらキリスト教では信者たちを羊に見立ててイエス・キリストのことを羊飼いに喩えることがあるらしい。誰かを正しい道へと導く存在として「羊飼い」という言葉を選んだのだろう。
しかし、この作品で登場人物たちを導いたのは誰だったのか?
きっかけを作ったのは羊飼い見習いである小太刀だが、そこから先で登場人物たちを変えていったのは人を導くことを目的とした「羊飼い」たちではなく普通の人間たちだ。
最も人を動かしていったのはつぐみだが、他のキャラクターたちもお互いにお互いを変えていった。心に闇を抱えていた筧も人と関わっていくことで変わっていった。
そういった人との関わりの価値を描いた作品であり、誰かのおかげで変わっていけるんだということ、自分も誰かを変えていけるんだということを伝えたかったのではないだろうか。
ちなみに現実の羊飼いは人里離れたところで生活することが多かったらしく、本作の「羊飼い」が簡単に忘れ去られてしまい孤独なところもそういった由来なのかもしれない。