常に先を読み進めたくなるシナリオ、非常に多くが登場しながらも一人として要らないものがいないキャラクター、CGや背景・音楽も綺麗で、おまけ要素で遊ぶことも忘れない。
とにかくクオリティが高い。シナリオ面はかなり好き嫌いが分かれる部分なのでそこは合わない人もいるかもしれないが、少なくとも「質の高さ」で文句を言う人はいないだろう。
ルート構成はいわゆる途中下車方式。
プロローグ以降は各章で特定のヒロインとのみ深く関わるため、ティア以外のヒロインが複数同時に登場する場面は稀。エリスがカイムとの付き合いが長いこともあって多少出番が多めなぐらい。ヒロイン同士の絡みが少ないのは寂しくはある。
とはいえ、サブキャラクターが豊富で、実質各章限定でしか登場しないようなキャラクターも多く存在するため、キャラクターの密度は十二分に濃い。ヒロイン同士の絡みが少ないだけで。
他ヒロインが出てこないということは必然的にカイムとの絡みも少なくなり、ヒロインとはそのヒロインが主役となる章でしか親睦を深められない点は恋愛ゲームとしては弱め。救ってあげているとはいえ、短い期間でみんなほいほい惚れてくれるあたり恋愛に関しては並以下かもしれない。恋愛目的でこれやる人もいなさそうだけど。
おもしろかった章はフィオネ、リシア、ティアの章。
初っ端のフィオネルートからまあ盛り上げてくるもんで、やめ時がわからなくなった。戦闘描写が特に多いので、一番ハラハラしながら読める章だと思う。
リシアルートは単純にリシアとのやりとりが楽しかった。ルキウスという頼もしい味方と共闘するのも胸熱。
ティアルートは〆なのでおもしろくて当然なのだが、ちゃんとこれまでの章を踏まえた上で、他ヒロインに出番を作りつつ主人公の内面にスポットを当てていて、物語の終わりにふさわしいクライマックスだった。一部の不満点は後述。
エリス、コレットルートも悪くはないんだけど、他と比べると一歩劣る。
自由に生きろと言い続けるカイムと反対し続けるエリスだったり、ティアを追い出そうとし続ける神官長と反対し続けるコレットだったり、ここ二つはとにかく平行した話が多い。事態は悪化し続けてちゃんと話は進むが、他ルートよりはややダレた印象が強い。
あとはヒロインの魅力、エリスはカイム好き好きなのにカイムが突き放してばかりだし、コレットは頑固だしで、なかなかヒロインが輝けていなかったとも感じる。あれだけ積極的だったエリスがHシーンだとなんか普通なんだもんなぁ……。でも精神的に不安定な娘は大好物なので、活かしきれていなかったと思うだけでエリスは大好きです。
エリスが特に不満だったが、全体的にHシーンは弱め。
というのも、せっかくこんなに堕落した舞台での物語なのに、Hシーンの内容めっっっちゃ普通なんだもん。抜きゲーじゃないからしょうがないけどね、もっと攻めたHシーン欲しかったです。非処女ヒロインにしてでももっとエロいプレイをだな。頼みの綱の娼館組も多少特殊なプレイだが結局ただのイチャラブHだったもんなぁ……。
そして何よりメルトのHシーンがない。何故だ。夢落ちまでありなんだからヤらせてくれたってよかったでしょう!!(血涙)
これもみんなカイムくんが全然手出さないからいけないんだよな。
ヒロイン全員あんなにカイム好き好きオーラ出しまくってんのに、手を出すのあんなに遅いなんて純情か。これで非童貞とか嘘だろ。
仕事してるときのカイムは普通にかっこいいんだけど、女の扱いに関しては最底辺なのが残念である。カイムくんにヒロインにあんなことやこんなことさせる甲斐性があればもっとHシーンが充実したのに。
でもカイムがなかなか女を囲おうとしない理由については、軽く言及されてはいるので許そう。それわかるまでは正直早く犯せやって思い続けてたけど。
こんな踏み出しきれない、自分で自分の行動を選ぶことのできないカイムがこの物語の軸になっており、しっかり主人公を中心に物語を構成している点は評価に値する。
カイムの行動原理は、「こんな状況じゃそうするしかない、仕方ない」というものである。環境に合わせて最適解を見つけている彼の言動は正論的でありながら、常に自分の意思や欲望といったものが欠けており、そこをジークやルキウスに指摘されてしまうのである。
実をいうと私自身が目的を持たず流され続ける人生を送っているので、いやなんともこれは刺さった。耳が痛いぜ。
何かに囚われながらも自分に意味を見つけて進もうとするヒロインたち。本質的な部分では芯がなくフラフラとしていたカイムは、ヒロインたちの影響も受けながら、最終的には「ティアが欲しい」という自分の本心を見つける。主人公に不満を持った人も多かったようだけど、しっかり「欠点がありそれを克服する主人公」としてよく描かれてるじゃんね。
さて、対するのはセンターヒロインのティア。これが如何せん弱い。
センターヒロインだけあってどの章でも出番が減らないし、当然クライマックスも担うのだけれど。この重要なキャラクターが、あくまで「良い子」の域を出ないのである。うーん、弱い。
一応カイムの生命を救ったりもするけれど、ティアが救おうとしたというよりは勝手にそうなっただけだし。浄化能力が明らかになって以降はみんなのためにがんばりはするんだけど、そこに理由が見えてこないため、「めっちゃ良い子」にしか見えない。
あまり大事にされずに育ってきたから自己犠牲精神だけ強い子。最後もあまり愛やらなんやらを感じられず強い自己犠牲でしかないから、カイム視点で見ればまあ大切な人との別離という重大な出来事ではあるのだけど、全体を俯瞰する上ではやっぱり「心の底からとにかく良い子」止まりになってしまった。
カイムとの愛情も、ただ一緒にいたら好きになった程度のものしか感じられなかったし、カイムや他ヒロインの成長を描いての総まとめがよくできているクライマックスだっただけに、最後の最後でこのティアというキャラクターがどうしても弱い。
そのティアの弱さを除けば、ダラダラと続けないあのあっさりとした終わり方は、非常に美しいものと言えるだろう。
もう少しヒロインはじめ生き残ったキャラクターたちのその後を見てみたい気持ちももちろんあったが、しかしあのエンディングにそれは蛇足というもの。
でもエンディングの少し前の対システィナ戦はもっと描くべきだったと思うなー。なんか戦い始めたらいつの間にか負けてたし。
エンディング後に追加されるおまけもそれを穢すような内容ではないのは良かった。夢落ちはどうかと思うけど。でも不条理空間は嫌いではない。
特におまけのおまけとか、本編ではとてもやれないギャグを忘れず入れてくれるオーガストの遊び心好き。
最初から最後までほとんど退屈せず、ずっと先を読み続けたくなるほど引き込まれる作品だった。Hシーンやティアの弱さといった不満点もあるものの、作品の完成度は最高級。
最悪最低な場所として描かれた牢獄であったが、それでもそこに生きていた人は自分の意思に従って生きていた。牢獄ほど酷くはないがこんな社会で生きている現代人の僕らも、自分の芯だけはまっすぐに生きていきたいものである。そうやって必死に生きていく中で、自分が生まれてきた意味を見出せたらいいわね。