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SAHARAさんの君が望む永遠 DVD specificationの長文感想

ユーザー
SAHARA
ゲーム
君が望む永遠 DVD specification
ブランド
âge(age)
得点
97
参照数
608

一言コメント

よくある、孝之をへたれへたれと言って拒否してしまうのは第一章でそのまま遥に惚れちゃった人じゃないかね。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

俺は学生時代の遥には全くピンと来ない口で「あー可愛いねぇ」「彼女いないから向こうが付き合うって言うんなら付き合うか」という感情以上にはどうやってもならない。
(遥に関しては事故後の覚醒して大人になって後、自分の欲望を前面に出してきた遥は女になった後の水月以上に色っぽい。それに対して水月はようやく肉体でバランスを取ってるぐらいか。
この二人に対して未だ恋愛の中にいる茜は肉体的魅力以上のものは見出しがたく女としては到底勝負にならない。)

ま、個人的嗜好はさておき、孝之と水月のパーソナリティをつぶさに見ていくことで孝之が本当にへたれかどうかを読み解いてみると

水月のパーソナリティはその外見とは裏腹にかなり複雑で
元々古くからある家の出でマンション暮らしの団塊Jr,連中とは育ちが違う=本質的な所で世の中とずれている。成績も問題ない。表向きは明るくルックスも良いが本心の部分ではかなり不器用。
水月の社交性・明るさは対社会の為に作成したペルソナ的で彼女にとって道具としての比重が圧倒的に大きい。
同級生に友達が多くいたのかも疑問でどういう経緯かは知らないが友達となった遥のために何の関係も無い孝之と関係を作って仲を世話しようとする振る舞いは水月の本心ベースの不器用さ(心に秘めた思い込みを黙ったまま自分が我慢する形で他人のためという理由づけで執行し続ける)を代表する行動に見える。
遥が友達として選択された理由は、水月の本心にとって遥の様な不器用な女の方が友達にし易いからだろう。
一見、水月が一緒につるみそうなタイプのルックスに気をかけチャラチャラ明るい感じの群れる連中、少なくとも明るい連中とは社交的付き合いはしても彼女の不器用な本心にとって友達にはなりえなかった。

さらに、水泳に人生のかなりの部分を支配されつつあるにも関わらず、その肝心の場において孤立している。
それに伴う社会的評価・名声も含め、水泳は彼女にとって精神的苦痛を伴った作業と化しつつあり、それはこのまま進めば進むほど苦行となっていくのを漠然と感じている。


へたれと呼ばれることの多い孝之のパーソナリティもよく見ていかないと誤解を招く代物でしかないだろう。
まず最初に一番根幹的な所、君が望む永遠において孝之の両親の描写が全く無いのは、孝之にとって彼の両親の存在が著しく稀薄であることを示しており、実際両親は物理的・金銭支援者としてはありながら、精神的支援・試練、世の中を生きていくための教育という観点では全く存在しない。
一方孝之に自主・独立の心が無い訳ではないがそのスタートは一人暮らしのみが先行するという不味い形で成り立っている。
根幹部分において人間として、生物としてず太く自己確立、自立していく上でのもっとも基礎的な梯子を外された状態の孝之は元々自分から男女関係を構築するパーソナリティでないため、
女と付き合ったことが無い、告白したこともない、振られたこともない、振ったこともないという基本的経験が皆無の所へもってきて遥という何を勘違いしたか分からない女が言い寄って来たため
「おいおい、おいしーな」という感性よりは、潜在的な自己確立への欲求と現実の未熟さのギャップからその不安と不信のつきまとうよくわからない女との関係性に本能的に挑戦してしまう。
幸いにも女の側には社交性のある、男の側にはまともなお仲間がいたため紆余曲折を経て孝之は「オレ本当にこの女が好きなんだ」と勘違い、は言い過ぎにしても元々存在の足腰が弱いのに惚れたように好きになってしまうが、そこで女はぶっ壊れ凍結される。
慎二以外の不器用な女と存在の足腰の弱い男は主に自分の責任だと思い込む。

問題はここで現状と将来に不満を感じていた水月が己の不器用な本心を充足させるための対象として、かつて弱そうに見えた遥を選んだのと同様に、弱った孝之を選んだことで、
元からそのスキルもない(というよりこれから始めなければならない)時に、社会生活を完全リタイアしてしまう程ダメ人間化した者を、女が社交的には身を捧げて他人を助けるという言い訳を帯びながらそのダメ化状態を完全擁護・維持する形で支配しようとした、ここにこそ君が望む永遠の中核がある。

遥シナリオはほとんどスキップで飛ばしてロクに内容も見ていない。どうもどこでスキップを止めても見る気の起きない展開だったからだが
プレイ順としては水月BAD総なめ~遥BAD~水月TRUE>遥スキップTRUE>茜BAD~GOOD~BAD>マナマナ>あゆ
でサブの内天川・まゆは遥と同じような感覚でやってすらいない。
マナマナシナリオは螺旋回廊をやっていたためそんなにショックは受けなかった。
このシナリオで脱出した孝之がブッ壊れた虫の様に地べたを這いずり回っている最中に疎遠になった水月と慎二と出会うシーンがあるが、これは巷間そうとは言われないものの君が望む永遠における屈指の名場面のひとつだろう。自己確立を破壊され地べたを這いずる虫化された孝之。まともな慎二と不器用な水月それぞれの本質が良く出ていてリアリティーがあっていい。


ラジオで遥役の人が言ってた「遥は孝之に仲介してくれって一言も頼んでない」ってのは象徴的で、君のぞの中核的状況を創り出してるのは全て水月で、この女の強さ、弱さ、依存、堕落、救済、破滅がこのゲームの決して外しえない核を為している。
それに匹敵するものとしてまだ世の中に相対し得てなかった遥の成長と言うには余りに急な覚醒(それに伴う痛みを考えれば出産とでもいうべきか。その産みの苦しみを覗くのは個人の尊厳に対する余りに重い犯罪だろう)、自己の核心部分の確立が絡んでいる。
この強烈な二人(それともこれこそが女というべきか!)の前では孝之がへたれと化すのも当然で、もしこの男がそれから脱するなら過去の因縁、しがらみをひきずらない、社会人、大人としての自分をつくり、表現していた職場関係の女とくっついて新しい人生を始めるというのが一番真っ当かつ唯一の道であり、あの状態から他の選択肢、切り離しがたい過去の因縁のどれかに付き合いつつ他を無視するなどというのはまぁないだろう。