いま、時を越えて、アナタに逢いに行きます―― 時空を超えた究極の純愛に涙がとまらない…。
私は紫の作品は初めてプレイしたのが本作であった。
その初心者から言わせてもらうと、今までのメーカーだけのイメージを軽く凌駕するものだった。
前作の初恋サクラメントが好評だったのも相まって、シナリオライターとの確執騒動や初回版が予約分だけで完売など、それなりに話題性があったりしたものの、個人的には非常に納得のいく作品であった。
タイムリープ・ラブストーリーものの作品としては、映画「きみがぼくを見つけた日」が個人的にはトップレベルの作品であった。
しかし、本作は映画などのジャンル関係なく評価したとしても、非常に素晴らしい出来であった。
現在、私の中でタイムリープ作品の一番は本作であることを明言しておく。
さて、私が本作をプレイして強く感じたのは、「これ以上の時空改変SFラブストーリーはない!」と言うことだ。
タイムトラベルと言うだけで、タイムパラドックスや相対性理論などの難題をクリアして物語を作り上げなければならない場合があるのに対し、本作はそうした難解な設定をあまり盛り込むことなくSF純愛ストーリーとしてキレイにまとまっている。
以下に攻略順にレビューを記す。
野乃ルートは、かなり超能力設定などが薄い話であった。
ただ、主人公たちの両親が事故死した過去に対する野乃の想いの描写は、人間ドラマの要素が強く、違う観点から楽しめた。
日奈乃ルートは、クーデレ妹と言う、自身の中でかなりツボにハマったキャラであっただけに、ストーリーは残念の一言だった。
こちらは野乃よりも一番超能力などのSF要素がほぼ皆無で、単にクーデレキャラのルートになっていたw
…いや、ホント残念であったww
これで榊るなもヒナも好きになったが、ルートの話は好きにはなれなかったww
詩ルートは、一見単なる幼なじみとの恋愛にSF要素を混ぜただけのように見えるが、その意味する所は深い。
突如告白してきた詩に圧され、互いになんとなく陽一と恋人同士となった二人であったが、幼なじみたちの「ありがたくない遠慮」に、詩の「もっとみんなといる時間が欲しい」と言う強い想いに感化され、陽一に無意識に強い能力が発動してしまい、「詩と結ばれたと言う事実だけが抜け落ち、幼なじみ皆と過ごす恋人以前のなにげない日々」が永久的に進行してしまう事態に見舞われる主人公たち。
しかし、最終的に能力が解かれ、詩と恋人同士である日常に戻ったとき、詩と陽一は本当の意味で結ばれ、愛する人が側にいる温かみ・愛しさを実感する。
これから、二人は互いに近くにいられる時間を大切にし、かけがえのないものにしていくことだろう。
そんな思いが自然と感じ取れるストーリーであった。
そして2大メインヒロインはもちろん、キャラもストーリーも素晴らしいものだ。
伊織ルートは、終盤の杏奈ルートへの伏線を残しつつも、SFを絡めた恋愛描写は非常に秀逸なものであった。
超能力ネタと言う、きわめて王道でありきたりになりがちな設定に、
「チカラの強さは心の強さ、つまり恋愛における相手への想いの強さと比例し増大する」
つまり、「好きになればなるほど、相手を愛せば愛すほど、チカラは抑えきれなくなり暴走してしまう」設定は、なんと悲しくも切ないものを思いついたものだろうと感嘆した。
そして杏奈ルートでの未来編は号泣必至であろう。
久々に嗚咽をこらえるのに苦労し、涙が止まらなかった。
最愛の恋人・伊織を失い、チカラが暴発した彼女を助けようとした自身も深いキズを負ってしまい、肉体的にも精神的にも残された時間が少なかった陽一は、人生最後の任務を全うしようと思い立つ。
そして陽一はまだ幼かった杏奈に出会った。
限られた時間の中で、チカラの使い方から人への接し方まで、自分の教えられる全てを杏奈に教えていく陽一。
その間にも彼の人生の限界は刻々と近づいてくる。
ときおり体の激痛に襲われ、もがき苦しみながらも必死で耐え、諦めることをしなかった陽一。
そして最期のとき、桜咲き乱れる並木の下で、陽一は杏奈に見送られながら心の中で幼なじみたちに一人ずつ言葉を贈って逝く。
そして伊織には一つの問いかけをする。
「伊織、俺やるべきことは全てやったよ、だから…もう、そっちに行っても…いいよな…?」
キレイに眠るように息を引き取り、伊織の元へと旅立っていった陽一。
彼の最期まで真摯に注いだ、杏奈に対する親代わりとしての深い愛に激しく心揺さぶられる。
そして陽一が杏奈の記憶から目覚めた現代(いま)には、まだいつもと変わらぬ日常があった。
ノノが慌ただしく部活の朝練の支度をし、ヒナがいつもと変わらないクールな態度で陽一に接し、通学途中で詩や伊織たちと一緒に学園へ向かう。
伊織がいつものツッケンドンな態度で応じ、かなたやトーヤがみんなにいじられ、みんなの笑い声が響く…。
その光景に安堵しつつも、この永遠にさえ続いていくと思っていた日常をどこか懐かしく思い、かけがえのないものだと痛感させられる陽一。
私は泣き止むことなく、どこか嬉し涙にも似た涙を流し、さらに涙腺を制御できなくなってしまった。
「あなたたちの元気な姿を見られて本当に良かった…」
私はこのとき、杏奈が陽一の幸せ以外に守りたかったモノを知った。
「陽一の未来は、絶対私が幸せに変えてみせる」
そして陽一の幸せな未来のために、命を捨てる覚悟で一度限りの時間跳躍で過去の彼の元に降り立った彼女の決意と、「未来はなんとしても自分が変えてみせる」という信念の強さには、テキストからでも力強い想いと覚悟が見てとれた。
一度限りの挑戦、失敗はできない。
どんな結末になったとしても、自分が意地でも変えてやる。
たとえ自分が陽一と出会う未来が来ることがなくなったとしても。
たとえ自分が元いた時空に帰れなくなるとしても。
チカラを使い果たすことになったとしても、愛する人の幸せのためなら…。
これほどの想いを抱く杏奈と言うキャラクターには、陽一への一途な愛が読み手にも十二分に伝わってくる。
正直、未来編での描写は目を瞠るものがあった。
「未来は切り拓けば変えられる」
単にタイムトラベルものとしての主題であったらこれでも充分だが、この感動的なSFラブストーリーを上の一言で済ますには、あまりに言葉が足りない。
では問いかけとして、こう言おう…。
「愛する人のために、あなたは自分の残りの人生と未来をかけてまで、どんなことでも挑む覚悟はありますか?」と…。