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Roofieさんのギャングスタ・アルカディア ~ヒッパルコスの天使~の長文感想

ユーザー
Roofie
ゲーム
ギャングスタ・アルカディア ~ヒッパルコスの天使~
ブランド
WHITESOFT
得点
85
参照数
1552

一言コメント

「我々は大きな勘違いをしていたようだ」「どういうことだ?」「GRの全てのルートは事実でなく、禊の掌の上の話だったんだよ!」「な、なんだってー!!」

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

ギャングスタ・アルカディア(以下GA)。
ギャングスタ・リパブリカ(以下GR)のFD…と言うよりこれは回答編と呼んだ方がいいでしょう。
GR長文感想に書いたとおり、感心できる方法ではないけど。

色々とGRでよくわからなかった点についての解釈が可能な形になっています。
一部については確かに後付け設定っぽい感じもしますが、
「あーGRでもちらっとそんな事匂わせてたなー」と思えるものも多く。

思ったこと全てを書いているととんでもない事になるので、気になった点についていくつか。
GR時点で思ったことが勘違いだった事も多かったような。


・GR及び本作の基本設定について
普通、時間軸を同じとするマルチエンディングのゲームだと、
「それぞれのルートはプレイヤーの選択によって分岐したもので、独立した事象」になるのが普通です。
ですが、GRの1部2部、GAにおいては、全てのルートは禊主導の共有ループの一部です。
GA本編のみが結果的にループ抜け(叶主導の共有ループに入る事)によって事実と確定されましたが、
それこそ何百回も(xxxth summerってあったし)繰り返されてきた中の、
幾つかの夏がGRやGAアナザーの舞台だったのでしょう。
それゆえ、GAにおいて各キャラクターはGR各ルートで経験したこと全てを、記憶として持っています。
つまりプレイヤーと似たような視点をキャラクターが持つ事が出来るわけで、
そういう意味では面白い舞台設定だなと感じました。


・アマネのキャラクターについて
なんとなくアマネのCGに既視感があるなぁ…と思ったら
髪飾りが千神奈々子(@Lass)と酷似してた。訴訟。

それはともかく。
プレイヤーにとっては、ループを設定としてに理解させる一つの道具として機能しています。
しかしキャラクターにとっては(特にギャング部の面々にとっては)アマネに対する
スタンスはそれなりに違って、後の論戦の引き金ともなっています。
ただ、この点に関しては結局の所、
「アマネがどうなのかを類推する」事ではなく、「各々がどうしたいのかを決定する」事が
結果的に論戦の決め手であったように思います。

結局の所、アマネは、そのバックボーンとなる天使そのものについて
ゲーム中で明かされていない以上、プレイヤーがアマネについて理解することは困難です。
ちょうど、キャラクターがアマネの事を、キャラクターがプレイヤーの事を理解する事が困難なように。
(プレイヤーの事をトカゲ人間とか言われちゃったしね……)

ただ、そういった断絶(元長風に言えば)を乗り越えて、アマネ自身の事を慮った
叶だからこそ、結果的にアマネの興味を引く事が出来たのかと思います。
受肉の程度を上げた(=人間により近い状態)アマネですら理解が困難だったのですから、
この世界の純粋な天使とはもはや本当に神と言っていい
(実際そのような言葉の置き換えが何ヶ所かでされています)存在なのでしょう。


・逃避行、しようぜ? (あるいは叶とシャールカのキャラクターについて)
叶のキャラクターについて、GRの長文感想において私は「イライラするタイプの主人公」と書きました。
GAにおいても、叶はとことんまで選択しない主人公です。
これには結局2つの意味があると思うのです。

1:ループしないが故に、責任(アマネ風に言えば)を取る事が出来ない特異性の表現
2:ヒロイン+αの論戦を手段とする故に、キャラクターの代弁者たる主人公を参戦させない配慮

後者はGR長文感想で述べたので省略。
前者は、奥遷宮における論戦の叶の立ち位置を見れば理解できると思います。

で、逃避行について。
これは本当に逃避行なんです。それは後のギャング部合流後の話と比較してよく判ると思いますが、
シャールカと叶はアマネから逃げましたが、本当に「逃げているだけ」なんです。
それは、アマネに対して何らかの対処を考えるとか、この先どうするかとか、
そういった事を放り出す、つまり選択を放棄しただけの状態に過ぎません。
ですがその放棄という物こそがシャールカの核であって、その点において
叶のキャラクターと同一を見ます。
シャールカが叶に対して言っていることは、実は殆どの事がそのままシャールカに自身にも言える事です。
そういった同一性が、シャールカの寂しさを癒やすことができたのかな、と勝手に納得しています。


・CGについて
私はかなり目がバカになっているので、原画の差とかそういった物は
全く区別が付きません。そもそも絵は基本的にどうでもいい派ですし……

ですが、量についてはやはり疑問ですね。以下欲しかったなぁというCG。
 ・6月18日:プールの情景(特にアマネ)
 ・6月27日:中庭でのシャワーシーン
 ・7月2日~3日:論戦における複数人数のバトルCG
 ・7月9日:アマネ+シャルの屋上での情景
 ・8月15日2周目:墓地での情景
これ以外においてもアマネの一枚絵が一枚もないのはどうかなと思います。
ライター側は、アマネを単純な悪役に描こうとしたのではないのです。
ですが、そんなアマネ(特にアマネA)の魅力を絵という形で表現しなかったのは
いかがなものかと思わなくもないのです。


・総論
考察するところが相変わらず多い、と言うよりは、
その材料すら今ひとつ提示されなかったGRに比べて、噛み砕く余裕が出来たという感触です。

論戦については比較的面白く読めました。
キャラクターの主義主張そのものはGRからの物を考えても、ほぼ統一されており
こういった所は単独シナリオの利点ではないかなと思います。

理想郷について、お馴染みの圧倒的な幸福と関連付けて語ることも出来そうですが、
あえてGR・GA単体で評価するなら、時間という要素を断ち切って
「そこにとどまる」事を肯定的に評価していると言えます。
「ずっと今のままでいたい。ずっと子供でいたい」というシャールカの言葉はそれを象徴しており、
言いたいことは判るのですが、現実世界に生きているプレイヤーとしては
これを肯定する事は前向きな視点とは言いづらい所がありますね。
まぁそれはライターがライターですから、覚悟して飛び込んできて欲しい所。

ここまで書いてきて、どうしてもGRと関連づけた話が多くなっていますが、
やはり本来単体で勝負するべきフルプライスゲームとしてはどうかと思います。
と言うより、GRをプレイしていないと意味がわからないゲームというのも……何とも……
GRの時点から明示的に(日常的に)ループを設定として取り込んだ上で、
一体化させた方がより評価は高くなると思います。これ猫撫でも言ったな……


以下雑感。
・キリスト教対神道の対立軸が始まるのかと思ったけどそんなことはなかったぜ!
・シャールカのボイスはgdgdな感じが表現されていて、非常によかった。
 私はずっとボイスについてどうでもいいものと感じていましたが、認識を改めた。
・禊は前のボイスの方がよかったかな…「遠雷」の台詞とか比較すると。
・春日君がちょっと前面に出てきて嬉しい。論戦は普通だったけど。
・アマネは悪か? という論点で「最もドス黒い悪」じゃねーか! と思っちゃった。
・禊の「救世主を指向」という観点どこ行った。
・7月3日のゆとりのループの結果が悲しすぎてもうね……
・おまけのアナザーについては論ずるに及び申さぬ。でもこれこそFDですよねぇ
・でもゆとりの豪運を考えればGRゆとりルートの部屋割りくじはゆとり-叶になるべきじゃないか
・アネジュカさんが死んだのが3ヶ月前、という言説は本当に意味がわからない
・論戦(議論)で平行線になった場合どうなるんだろうと思わざるを得ない設定。
・人格について本来語るべきなんでしょうけど、これはプレイヤーに向けて提示された問題なので、削除。