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Roofieさんの猫撫ディストーション Exodusの長文感想

ユーザー
Roofie
ゲーム
猫撫ディストーション Exodus
ブランド
WHITESOFT
得点
85
参照数
536

一言コメント

FDらしい部分と続編らしい部分がちらほらですが、基本的に無印の回答編。キャラクター性の掘り下げはこちらの方が上。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

とりあえず一言。



FDってレベルじゃねーぞ!



以下プレイ順。

・Exodus
残念ながら私は聖書について語るべき視点を持たないのですが、
Exodusという言葉に恐らくあまり深い意味はなく、舞台設定として用意されただけでしょう。
実際紅海のお話以降、当てはめはどっかに行ってますし……

このルートにはそれなりの話の流れがあり、仲間や敵、それぞれの思惑、
それなりの大円団といった、ごく当たり前に存在していい筈のストーリーがあります。
(逆に言えば無印はそれすら欠けていたわけですが…)
そういった物を期待していた訳では無いのですが、これはこれで面白い展開でした。
ただ、本編の大部分は前作の種明かしや設定部分に尺が取られており、
大きな流れとしてのテーマ性は薄れてしまったように思います。

このルートにはシリアスでメタな表現が非常に多く含まれています。
無印にも結衣ルート等何ヶ所かあったような気がしますが、
ちょっと洒落にならないレベルで多い気がします。
この世界の樹は自分が観測者で主人公という事を最もはっきりと認識しているがために、
「プレイヤーによって操作された主人公というキャラクター」を演じてくれないのです。
選択肢に全く意味がないという構造から考えても、
今更ながらこのゲームは、プレイヤーがキャラクターを導くのではなく、
キャラクターの選択をプレイヤーが見るものだと思わされます。



・メイド in world
獣娘が出てくる物語は世の中に数多ありますが、
現実的な、獣娘とのその先にまで言及した物は少ないように思います。
樹という人物はどのルートでも積極的に現実的な行動を取る人物ではないのですが、
このルートに関してはギズモの存在を現実に還元するような、そんな行動が欲しかった。
退廃的と言ってもいい猫エンドの存在は美しいのですが、言葉というテーマをあえて無視しています。

それにしてもこのルートのギズモは可愛かった。
無印をプレイした感触であまり「メインヒロインがギズモ」とは思えませんでしたが、
この見せ方には反省しきり。
FDとしてのキャラクター性の補完と、ストーリーが合わさったいい物語だと思います。



・琴子色
物語全体におけるこのルートの位置づけをどうしたものかと考えましたが、
考えるだけ無駄だという事に気づきました。
特にストーリー性もメッセージ性もなく、ほんわかした空気の中で
琴子のキャラクターが暖かく感じられます。
一服の清涼剤とでも言うべき世界のお話でした。



・Time is Money
やっぱりこの舞台の中で一番揺らがないのは結衣だと再確認。
主にキャラクター面で。

無印結衣ルートでも産むどうのこうののお話は若干触れられていたのですが、
あちらで否定したReproductionという概念、それはEternalではなくEternityに近い物に感じられます。
しかし、最後のシメはあれで良かったのか、物語上もう少し語ることは出来なかったのか、
少し物足りなさを感じました。



・Awareness Human
幼馴染みで愛らしい柚さんの姿が見られるのはこのルートだけ!(宣伝)

無印及び他のルートでは正直言って部外者という役柄を押しつけられてしまった
柚というキャラクターを素直に描くとこうなるのかと思います。
ちょっと崩壊しているような感もありますが、これはこれで……

でも申し訳ありませんがラストシーンはちょっと意味がわかりません。



・Role playing Organism
無印でもそうでしたが、式子という存在は言葉で母さんという主張をしながらも、
容姿も行動も思考も、母性をまるで感じさせないのです。
そういう意味で背徳感は全く無かったのですが、このルートはひと味違いました。
と言うか、そういう概念をどこかに吹き飛ばしてしまいました。

「ここが、最大幸福です」と作中で表現されていますが、
「いまが、」ではない所に幸福というものに対する元長氏(ですよね?)の考えが感じられます。
衒いなく恋人と言い切り、柚やギズモも含め登場人物ほぼ全てを巻き込んで
幸福な世界を作り上げる式子には、母というか、女性というか、
もっと根源的なヒロインとしての力強さを感じました。

あと微分・積分のお話(sense offであったチョンボ)がまた出てきてちょっと吹いた。



・総論
そもそものお話について。
私の感覚では、
 FD=本編プレイ必須。比較的安価。
という感じだったため。フルプライスでFD? という所に違和感を覚えます。
しかし、少なくとも無印をプレイしないと全くキャラクターを理解できないので、
単体の(フルプライスの)作品としての評価はし辛くなっています。なので、ここは大きな減点ポイント。

ただ、単なるFDではなく、無印で欠けていたキャラクターの造形を大いに盛り込みつつ、
いくつかの他の視点からもストーリーを描き、世界観を補強するという構造は
非常に満足できるもので、無印の設定を理解した上でなら、続編として大いに評価できます。

つまり、冒頭の「FDってレベルじゃねーぞ!」という叫びは良くも悪くも、という意味です。

他でもさんざん言われていることですが、Exodusは無印のトゥルーエンドに組み込んだ方が
よりゲームとして評価できたと思いますし、もう少し踏み込むと
メイド in worldや琴子色も本編に組み込んで良かったかな、と思います。


以下雑感。
・やっぱりとことん無視される電卓さんカワウソス
・ボリュームとしてはこんな所でいいのでは? いや、中古だから言える事かも
・だんだん式子さんが椎子さんに見えてきて目を疑う
・このゲームで万人にお勧めできる点はBGMだけな気がしてきた
・琴子というキャラクターは狂言回しとして理解した方がいい


無印とあわせて。
認識が世界を変える、という考えは特に目新しい物ではありませんが、
ユーザーに対して何らかの知見を与えてくれるようなメッセージを提供する作品は貴重ですし、
たとえそれが的外れであったとしても、そういった物をユーザーに提供しようとする試みを、
私は表現として評価したいと持っています。

ただ、このゲームの方向性は既に十年も前に通り過ぎた方向で、次に向かうべき場所があると思います。
このお話の明確な問題点は、「現実感がないのにエンターテイメントではない」事のように思いますし、
それは以前から継続する問題点です(未来にキスを、では若干その印象は薄れていたけど)。
そういった所が改善された物語を、この先見ることができれば、幸せだと思います。

……何だかエロゲの論評っぽくなくなってきた所でここまで。