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Recon Marinesさんの木洩れ陽のノスタルジーカ -Raggio di sole nostalgico-の長文感想

ユーザー
Recon Marines
ゲーム
木洩れ陽のノスタルジーカ -Raggio di sole nostalgico-
ブランド
STREGA
得点
80
参照数
594

一言コメント

ひたすら優しい未来

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

今から数百年後を舞台に据えながら、諸事情で過去の記録の大部分が失われたという設定で、ある意味都合良く、想像を絶するような超技術の描写を上手く避けている。
また、失われた歴史や技術情報がどうなったのかという点もストーリーの肝なので、キャラの好き嫌いに関わらず、全クリア後に解放されるラストエピソードまで見て欲しい。

物語の鍵を握るアンドロイドが「しねま」という名前を持つことから分かるように、要所要所で現代(作品世界からすれば遠い過去)の映画が重要な役割を果たすが、映画好きならば当然見ているはずの名画や佳作ばかりなので安心して欲しい。
誰も知らないミニシアター系作品の知識をこれ見よがしにライターが自慢するような嫌味な側面は無いし、面白くもなんともない邦画の駄作を無理矢理持ち上げるような、自称好事家の偏屈セレクトでもない。
もっとも、実在する映画のタイトルやあらすじを文脈に組み込むことはできても、音楽やビジュアル情報をゲーム内で流用することはできないので、例えば「炎のランナー」と言われてヴァンゲリス作のメインテーマが頭に浮かばないようでは、いくら名曲だったとキャラのセリフで説明されても「あっそ」で終わってしまう。
「マイ・フェア・レディ」のキャラクターについても説明はされるが、やはり作品自体を知っていると理解も早いし受け入れ易い。
見ておいて損しない作品ばかりなので、未見の映画がゲーム中に登場した場合には、プレイし終わってからでも遅くないのでレンタルなどで視聴しておくことを勧める。

会話が難しいという意見があるようだが、コンピューターによる解析や機械関連の描写が登場する以上、内容がある程度専門的になるのは仕方ないことだし、それがストーリーを理解する上で不可欠であれば省く方が不親切というものだろう。
SF作品では時代背景を説明しなければ話が進まないし、由来不明のアンドロイドについて調査していく内に様々な事実が明らかになっていくという大筋の流れにおいて、多少技術的な描写があったからといって嫌悪していては始まらない。
個人的な好みの問題になるが、無知なキャラ達が感情に任せてひらがなで騒ぐだけなおバカストーリーよりは余程好感が持てた。
そもそもそこまで難しい話は誰もしていないし、ほとんどの場合、キャラ達の会話の中で「つまりこういうことか?」とフォローまで入っている。
さらに、やや専門的と思われる用語には、セリフと同時に用語解説が吹き出しで展開される親切設計である。情報工学や機械工学を専門に勉強したことがないこちらが「そんなことまであえて説明しなくても」と思えるほどしつこく面倒をみてくれた。
また、用語解説はSF作品で作品世界に重みを持たせたい時にはよく利用される手法なので、そういう効果も狙っているのだろう。タイトルメニューのエクストラから用語解説を参照することもできるし。
確かに、全般に渡ってテクノロジー描写に限らず、会話が説明的で周りくどい、まどろっこしい感はある。
だが、ときおりユーザーに代わって「難しいことは分からん」と”勇者王”が無駄に高いテンションを披露するので、バランスは取れているのではなかろうか。実際、ちょっと眠くなってきたときには救われた。

出てくるキャラクターは、老若男女を問わず、だれもが話せば分かる善人ばかりである。
ヒロイン達は皆ある程度の知性があり、ウザい性格も持っておらず、いわゆるおバカや度を越した天然もいないので個人的には好みだったが、良く言えば地味。悪く言えば特徴が無い。
主人公のボイスについては、個別カットが出来ない上に喋る場面とそうでない場面が混在しているので、戸惑うことは否めない。せっかく逢坂良太を起用しているのに、こんなことで嫌われては気の毒である。
義母役の声優もアレな声で有名なので、人によっては拒否反応が出るかもしれない。
そこも含めてキャラごとのオン・オフ機能は必要だったかと思う。
そこそこ重要な役割を持つ師匠の声を”衝撃の人”が担当しており、個人的には嬉しい起用だった。
武術(流派などの明言無し)の稽古のシーンが何度か出てくるが、”東方で不敗の人”が”金色のサイボーグ”と乱取りをするというシチュが笑えた(セリフなどでもそんなことはおくびにも出さず、あくまで祖父対孫の稽古なのだが)。
主人公も同じ道場に通い、そこそこの腕前という設定ながら、無理にそれを引きずった中二病喧嘩ストーリーでなかった点も良かった。
それにしても、モテ要素としての料理はきっちり定着したようで、ここでも主人公のスキルとして健在である。最近の若いもんは皆料理できるのか?
主人公達はティーンの子供であるが、さほど度を越した悪さはせず、多少冒険をしたとしても周囲の”理解ある大人達”が許してくれる、守ってくれる、助けてくれる展開なので、そこは好みが分かれるだろう。

CGは青空と海の色が印象的で、清潔感溢れる明るい雰囲気に好感が持てた。
水没した廃墟なども登場するが、ブレードランナー的な汚らしい近未来表現とは完全に真逆で、キャラ描写も含めた柔らかい感じによく合っていたと思う。
キャラデザインは、あの特徴的な瞳の塗りが好きになれるかどうかで好みが分かれるかと思われる。
あの独特な瞳を見ているとボークスSRあたりに置いてあるドールを連想するが、どうしても合わない人以外は、多少ゲームを進めてから判断しても遅くない。
また、立ち絵はやや肩に力が入っているような姿勢なのが目につく。
肩幅が狭い女性キャラはそうでもないのだが、主人公はハンガーごとジャケットを着てしまったような肩をしている。肩のラインを真横に向けて伸ばして描いているのが原因だとは思うが、少し気になる。
BGMは作品世界を阻害することなく、あくまでBGMとして機能していたと思う。

熱血展開は無く、戦闘描写などもごく限られているが、ゆったりとした雰囲気の中、隠された真実に近づいていくSFということで、他には無い魅力がある。
エンディングも王道ながら希望の持てる、後味の良いものである。
随所に出てくる映画の引用も嫌味にならないレベルに抑えられているので、良い意味で映画好きがニヤリとできる範囲内だろう。
ただ、あくまで「ステキな気分になれるヒューマンドラマ」の無難なセレクションであり、そういう機能を果たすことが大事なのだが、個人的には、しねまオススメの脱力B級迷画を見せられてしまい、主人公達が愕然とするようなシーンも欲しかった。「SFレーザーブラスト」とか。

エロシーンは普通のエロゲとしては充分だろうと思う。
しねまのエロシーン(ルート)が無かったのがダメという意見もあるようだが・・・必要か?