ぶっ飛んだ設定とそこでの日常の掛け合いはSMEEっぽいギャグ満載で面白い。しかし、あまりに明らかな設定内での矛盾や非合理な言動があるのが気になってしまい、面白さを損なっている。以下長文感想は体験版部分の途中までのネタバレを含みます。
体験版にも含まれている序盤部分で、主人公はいきなり異世界転生して国王になり、その後、転生直後にたまたま自分に優しくしてくれた奴隷(女)に再会する。
ここらへんは設定なのですっと受け入れた。問題はその後である。
再会の直後に主人公が奴隷商にその奴隷を買いたいと言うと、宰相が主人公に対し、主人公は国王だから奴隷商から法外な金額を要求されるだろう主人公に助言する。
そして、主人公の思考を描写する地の文として「新王就任直後、ここでこの子を見捨てたらきっと俺の信用は地に落ちる。それをわかった上で、価格をふっかけてくるぞというのが宰相の考え」と表示される。
その後に、主人公は、その奴隷商人に、その奴隷を市場価格の100倍の金額で買うから、この王国内での奴隷販売を金輪際やめてくれと言う。さらに、国内で大きな人気がある隣国のお姫様に関するグッズの独占販売権をその商人にプレゼントするとその奴隷商に言う。
この件には下記の観点から疑問がある。
まず、この王国は、前王の悪政が理由で国民の信用が地に落ちているという設定であり、この少し前の部分で、国王の戴冠式を一般公開しても6人しか聴衆が集まらないと書かれている。もはやすでに国王の信用は地に落ちているのだから、目の前の奴隷一人を助けなくても傷つく信用がもはやほとんどなく、信用毀損を恐れる理由が不明瞭である。
次に、もし奴隷販売が違法であれば警察や警備隊(に相当する組織)に逮捕させればいいのに、作中では現地人が誰もこのような発言をせずに奴隷制度を当然のごとく受け入れている。宰相も、窃盗よりも奴隷が主人から逃げることの方が大きな問題であると発言している。したがって、この国では奴隷販売が一般に認められているということになる。それなら、適法な商行為を行っている商人を見過ごしただけで、商売の交渉材料になるほど国民からの信用の大幅な毀損につながるとは思えない。
仮に、奴隷販売自体は現時点で適法であるが、国民からの反対が根強く、国王が奴隷商を黙認するだけで信用が毀損する状況にある場合を考える。(一般人が奴隷に憐憫の情を持っている描写は少しある)
この点について、この王国では国王の信用が地に落ちているのに、なぜか刑事罰を定める法令の制定権限は国王にあるようで、主人公が窃盗罪の法定刑を変えてと宰相にお願いするシーンがある。したがって、奴隷商人に奴隷販売をやめさせたいのであれば、奴隷販売を禁止する法律をあとから作ればいいだけである。
ただ、この場合で、(この国に憲法はなさそうであるが、)もし罪刑法定主義のような規則があるとすると、奴隷禁止の法律を作ったとしても改正法施行前の奴隷行為については処罰できない。したがって、目の前の少女を助けたければ商取引で手に入れるほかはない。しかし、そうだとしても目の前の少女のみを買える金額を支払い、その100倍などという利益を奴隷商に享受させる必要はない。
仮に一斉に奴隷を禁止するような法令が作れない、あるいは作ったとしても実効性を確保できない事情があったとしても、町中でちょっと歩いただけで奴隷に出くわすような国で、奴隷商人がその人1人とは思えず、その人に奴隷販売をやめさせたとして他の奴隷商人が続けたら意味がないように思える。
そもそも、王城に住み、莫大な資産を持ち、法律もほとんど意のままにできるほど絶大な権限を持つ国王に対して、奴隷商がいきなり法外な価格をふっかけることに合理性はないと思える。この奴隷商人は「西大陸からやってきた奴隷商人」と宰相が言っており、どうやら外国人のようであるから、国王なら国外追放とか商売禁止にするのも可能であろう。商人としては、普通よりは高い価格で買ってもらうとしても、法外な金額をふっかけて関係を悪化させるよりは、商売を見逃してもらうとか御用商人としてもらうとかの便宜を図ってもらうように働きかけるの方が利益が出るように思える。
深く考えずに脳死で楽しめということなのかもしれないが、ライターの論理的思考力のなさに起因する、脳死を心がけてもスルーできないほどお粗末な言動には閉口してしまった。