前前作の穢翼のユースティアは本格ダークファンタジーで大変素晴らしい、前作の大図書館の羊飼いは明るい学園ものとして大変素晴らしい。今作は、明るいファンタジー+学園ものであり、両方のいいとこ取りを試みたのかもしれないが、結果としてカオスな凡作が出来上がった。学園要素を完全に抜けばもっと良くなっていたかもしれない。
今作は面白くないわけではないと思う。作画は素晴らしいものがあるし、キャラもかわいい。
しかし、解せないのはシナリオである。
穢翼のユースティアでは、主人公は幼い頃から殺し合いの世界で生きていて、まともな教育など受けてこないまま大人になり、ずっと荒くれ者たちと対峙してきたため戦いが強い。重要な政策決定は主人公が属する組織の執務室や、王宮の会議室、貴族の邸宅の会議室などで行われており、一定のリアルさがある。
一方、大図書館の羊飼いでは、主人公は幼い頃から読書を趣味としており、ひたすら知識を蓄積してきたため勉学に秀でている高校生である。羊飼いについてはファンタジーではあるが、高校生が関わることに設定上の合理性がある。
これらに対して、本作では、敵対する者たちとの戦いが主に剣や銃などの物理攻撃と神官による魔法支援による武力行使で行われ、主人公と一部のヒロインが組織を率いていく立場であるのに、なぜか昼間は学校に通っている。普通は、学生の年齢であれば大人よりは弱いし、天賦の才能があって大人と戦える実力があっても、その年齢ならまだまだ伸びる余地があり、昼間は鍛錬に励んでいて然るべきである。本作のように、命をかけて剣を振るう世界であれば、他人より強くても、自身の被害を最小化するために少しでも強くなろうとするだろう。それなのに、鍛錬は放課後でいいやみたいな事になっており、平和な世界の剣道部員みたいである。また、命をかけた戦いを行う組織の幹部級であれば、緊急時にはすぐに指示が出せるように基本的には本部付近にいて然るべきである。それなのに、組織の幹部が組織の仕事をせずに学校でくだらない日常を行っているのは理解しかねる。
無理やり学園パートを打ち込むことを仮に目をつむったとしても、学園の生徒会室において国家の行く先を決めるような重大な決定がなされることには全く理解が追いつかない。皇国とエルザの国は日本とアメリカのような感じをイメージしている感じはあるが、天皇制であれば皇室での会議体、共和国制であったとしても議会や大統領側近との会議などでの議論によって国家の行く先が決まっていくはずである。それなのに、それらがまともに描写されないまま、ヒロインが国家の統制に関して圧倒的な権力を持ち、生徒会室などでの主人公とのちょっとした会話からどんどん国が動いていくのである。これには全くの興ざめだった。穢翼のユースティアでは、主人公が王女のリシアと仲良くなり、リシアにいろいろと入れ知恵をしても、リシアは既得権益を守ろうとする政界の重役たちとの会議の中で、自分の意見を通すことに苦労して、そこから様々な策を講じることに関して話が進んでいくことで、話が重厚なものになっている。
本作は、剣技と魔法によって戦争を行っている世界観に、現代日本の学園を無理やり突っ込んだために、シナリオが様々な面でちぐはぐになってしまったと感じる。