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RP0531tさんのマルコと銀河竜 ~MARCO&GALAXY DRAGON~の長文感想

ユーザー
RP0531t
ゲーム
マルコと銀河竜 ~MARCO&GALAXY DRAGON~
ブランド
TOKYOTOON
得点
85
参照数
1077

一言コメント

ノベルゲームの在り方を変えかねない問題作

長文感想

こんなの出されたら、他のブランドかわいそうだなぁと言うのが率直な感想


恋愛要素も分岐もなし、選択肢はストーリーに直接関係しない1回のみ。
非常に人を選ぶ作りになっている上に、7時間くらいで終わるボリュームです。

しかし、恐ろしいほどにノベルゲームとして完成されているのです。

地の文がほぼ0で、テンポが往年のノベルゲームのそれとは比べ物にならない程に早いのに、
有無を言わさぬ1000枚超の圧倒的物量のCGが、ノベルゲームとしてちゃんと成立させています。

時に絵で魅せ、声で魅せ、文章で魅せる。
アニメを見ているのに近いプレイ体験にも関わらず、根底にあるのはちゃんとノベルゲームです。

初めてのノベルゲーをプレイするという人には、非常にオススメできますが、
この手のゲームを一通り遊んだことのある人は、意見が分かれるでしょう。
良い意味で紙芝居ではなくなってしまっているので、1時間くらいでお腹一杯と感じる人もいるかもしれません。体験版プレイ必須です。
逆に、アニメが好きな人や、過去作の「ノラと皇女と野良猫ハート」が肌に合った人はどっぷりハマれるかと思います。

ボリューム的にもフルプライスのゲームだと思うと抵抗がある方が多いでしょうし、
「アニメ映画のBDを買う!」くらいの気持ちで購入されると、プレイ体験的にも痛い目を見ないかと。



とはいえ、今後これがノベルゲームのスタンダードになると思うと、楽しみでもあり、恐ろしくもあります。

マルコと銀河竜は、発売前から非常に注目されていた作品でした。
このゲームが売れると言う事は、そういった物が望まれていたから。と、言ってしまえばそれまでではありますが、
このゲームの方向性、あるいは突き詰める先、そのベクトルは往年の名作達とは全く別の方向を向いているように感じます。

アニメライクな作品をプレイして、そういった物が好きなファンが増える。
別に悪い事ではないです。この業界が盛り上がるに越したことはないので。

でも、「ユーザーが望んでいるし、これからはアニメライクな作品を作っていこう」とか
「テンポと物量だ!文章なんて二の次で良い!」とか、今後業界全体がなってしまうのでは?
と、ちょっと不安になってしまうわけです。


あの時、あの時代だったからこそ生まれた名作というものは沢山あって、
あの時代は紙芝居と比喩される故に、文章に求められていた水準が非常に高いものでした。
それに影響されて、今もその在り方をこの世に残してくれている作品も多くあります。
その時代の第一線を知るファンからしたら、この作品は少しばかり酷でしょう。

それらとは圧倒的に違うのに、言い返せない程に正解な訳ですから。



シナリオを担当されているはと氏は、インタビューで(意訳すると)スマホからゲームユーザーを取り戻したい。と語っておりました。
しかし、マルコと銀河竜を遊んで「こういうゲームも遊んでみようかな」と思う人には、魅せ方の違った、今はもう過去の物となった「あの名作達」は肌に合うのでしょうか…?多分合わないです。ボイスのない文章が3分も続いたら退屈と感じてしまうタイプじゃないですかね。


ブランド側のゲームの作り方が、今後すり替わってしまうのではないか……

そんな不安を覚えてしまうほどに、この作品の在り方も、ノベルゲームとしての立ち位置も異質で
それなのに、間違いなく完成されているのです。



至上のゲームとは至上の性癖だと思っています。


「世間ではこんなの流行ってるんだって?そんなこと良いから、俺の考えた最強の性癖見てくれよ!」

みたいな、こっちの気持ちにお構いなしで、来たい奴だけ付いて来い!と一方的だったあの頃と、


「紙芝居?抵抗ある?いやいや君の好きな物だってたくさんあるんだよ!」

と、新たな可能性を提示し、認知を広げユーザーを増やして、その顔色を伺っているこの頃、


どちらが正解かなんて自分には答えられません。どちらにも大好きで、心に残った作品があるから。



だからこそ、そのどちらもが今後もこの世界に残り続ける事を願っています。