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RIGHT EYEさんのSugar+Spice!の長文感想

ユーザー
RIGHT EYE
ゲーム
Sugar+Spice!
ブランド
Chuablesoft
得点
85
参照数
1363

一言コメント

萌えゲは大局的に、その違いを絵やキャラクターボイスを各人の嗜好に沿って選び楽しむものだと思う。萌えゲは、古典的エピソード要素が大切だからこそ、あとは、ちょっとしたエピソードの違いやちょっとした演出に目新しいシステムの導入…そういう細かな違いでしか勝負出来ない。sugar+spiceはその細かな違いに非常に丁寧な仕事をしている。現在の属性だの萌え要素だの地雷だのユーザーからの制約が多くなったエロゲで残されたオリジナリティを発揮出来る箇所で真っ正面から勝負して功を奏した作品。- 定期的萌えゲ補給に今年はコレをどうぞ。      

長文感想

雪かき、花見、海水浴。
入学式、文化祭、試験勉強。

sugar+spiceで楽しいのは、古典的で土地柄を感じる豊かな季節感!
幻想的な雪ではなくて
生活の中にある、電車を遅らせたり景観を閉ざしたりする降雪。
海や砂浜のだけではなくて
夏のけだるさをもたらしてお布団のよく干せるその陽射し。

プレーヤーにとって本当は非日常なのだけれど
ゲームの中での日常が生き生きしてるのがたまらないじゃないの!
風土記、地図や旅行ガイド読んでいる時のワクワクに近いよね、これ。

この季節この場所でどんな記憶を刻んだのか…
話しコトバに偏って大切なメッセージを落とすことなく
書きコトバに偏って冗長になることもない落ち着いたテキストと
そこにある(いる)ものと情感を端的に描き
人物絵とよく馴染んでいる丁寧な背景グラフィックが、あってこそ。
京都旅行は道真土産品のエピソードも背景も土地柄が伝わって楽しかったな。

でも最もこの季節感と生活感をくれた賜物は
月ごとのマップ移動システムだと思う。
また人を追いかけて行動先を決めるのではなくて
場所を選ばせたのは大正解。
補助的に人で場所を選ぶことも出来るのだけど
3周目あたりから人で場所を選ぶようにしたら
かなり面白味に欠けた。
このゲームは攻略対象を絞らず攻略に頼らずに
行きたい場所へふらっと立ち寄って数周遊んでみるのが正解。



『女の子って何で出来てる?』
『女の子って何で出来てる?』
 -『砂糖とスパイス-そして素敵な何もかも。』

素敵な何もかも。-
名訳だな、と思う。

機知に富んだ嘘を披露する歌。
一瞬気づかないけれどすぐに明かせる
嘘の加減は堂に入っていて、年輪を感じさせる。
その年輪に歌の『素敵な何もかも。』の物語がある。
『生意気な舌』と『いけない唇』という表層が
砂糖とスパイス、なのかな?
萌えゲだと決め込んでみるとよい。
その割案外シナリオも良く出来ている。



文化祭、部活、同伴登校。
屋上、修学旅行、手製弁当。

「古典」的学園萌えゲ。
それがsugar+spiceの金看板。
それに頼らず非常に丁寧なつくりをしている。

選んだ行き先やその順番によって
新しい選択肢が生まれたり、選択肢が消滅したりするのが
面白味を持続させてくれた。
それは作り手からは細かい仕事だけれども
プレーヤーにとっては大きい。
やり手がどの順番で選択肢を選ぶか、どこで告白するかでシナリオ順が変わるのだから
スクリプトやシナリオ構成も格段に細かい仕事であったと思う。
にも関わらず大きなミスはない。
sugar+spiceは、それらの点といい、公開キャスティングといい、
また台詞書きにない台詞がバックグラウンドで続いたり
ここで挙げきれないかなり細かいところまで
精緻とまではいかないけれども
とても丁寧に仕事された作品だと思う。

この点に付け加えておくと
早乙女司役・金松由花さんもイイ仕事!
内気で幼い帰国子女としての英単語まじりの台詞まわしや息継ぎを
それらしいブレスで挑戦されていた。
役者ってこう、職人じゃなきゃっ。



「好きなときに告白システム」はドキドキした。
この齢になって振られまくる疑似経験は痛楽しい!!
出来ればそのまま関係がぎくしゃくしたままドロドロになっていく経験までしたかった。

…いや、ほんとは1周目藍衣に振られまくってbadEnd→凹みすぎて6周目まで逃避したのは内緒だ…

目新しさで楽しめたけど
ただこのシステムのおかげで告白後の通常イベントの会話に少し違和感が。
それに告白する前の盛り上がりにも当然乏しくなる。



定期的萌えゲ欲求によって購入したのだけど
[記憶喪失]大好きってだけでよく吟味しなかったのに
このくらいの当たりを引いてしまうと怖い。
本年購入の中では1,2を争うよい出来。