文学といえば個人の内情を描く物だけど、これは社会科的な物の見方がされているシナリオが好き。また昨今の流行にアンチテーゼをうってくれたようで、つい応援したくなる作品。
結果、市場への影響はないみたいだけど。
さて本編とにかく長いよ、これ。
だけど先が気になってなかなか飽きない。
というのも卑怯なことに
先に張られた伏線ほど収集は後回しにされる仕様。
しかもそれ以降も解決など放っぽりぱなしで
さらに謎だけがどんどん上乗せされていくんだから。
なもので、話が進めば進むほど
元々事件の発端が1つの殺人だったことを忘れてしまっていた。
いやぁ…うっかり。
ってか最早どこの者とも知れない外人が一人二人殺されたくらいどうでもいいじゃんっ!
って勢い。
それより、綺子を連れ出して村から逃げ出したら襲われて気づいたら病院。
目覚めたベッドで仲間だと思っていた人間全員から
綺子を襲ったのは自分で終いには統合失調症患者ということにされる
…って展開、本気で怖いんですけど。
…いや、本気で怖いのはルルだな。
加えて本作の人物画。
全然、昨今の流行からは遠い。
だが、20年以上前のテレビ・漫画で育った自分にはヒット。
なんていうか、綺麗というより人間くさい。
こういう絵ほど愛着がわくってもんで。
ずーっと思っていたんだけど
田舎風景に今のPOPな流行絵は似つかわしくない。
本気で田舎ゲーを愛する方は本作を一興にどうぞ。
また、登場キャラが口にする「冗談」もすばらしい。
いや、冗談なのか本気なのか計り知れないんだけど
これは「冗談」なんですよ、とか
場を和ませるものですよ、とか
楽しくなってください、とか
そういうこちらに媚びてくる要素が一切ない。
こちらを全く無視して
「冗談」をいったもの「だけ」が楽しんで優越感に浸る。
こちらに向かって「お前は笑うな!」と言う、笑い。
そういう笑いにこっちは引くんだけど
確かに「冗談」を思いついた方は完全に楽しんでいる。
これもうがった見方をするようだけど
流行からの逸脱。
多くの人が良い!と思える物ではないのだけれど
これも、ありだな。と大いに思わせてくれる作品。
それが、『つくとり』なのだと思う。
最近はユーザーの意向を気にして
クリエイターの創造力が発揮できなくなっているように感じる。
最早、文字通りの「クリエイター」とは名乗れないような作品を発表される方も多い。
「エロゲー」という括り自体がいつから生まれたのか知れないが、
作品を作る人間には「エロゲ」「アニメ」「映画」あるいは
「属性」「ツンデレ」「非陵辱」「非処女」…そんな括りを越えて
作品を作ってもらいたい。
いや、本返れば「エロゲ」ならではの作品にも期待したい。
「つくとり」は、そんな私の思いをちょっとは受け止めてくれそうな存在で
だからこそ、応援したくなる。
さて、気に入ったところを挙げ立てたけれど
不満なところも。
まず絵が少ない。
かといって、SEやGEなど演出効果でみせるわけでもない。
エロゲの長所は
絵芝居なんだから最初からこれは非現実ですよ、という前提の上で
現実ではあり得ないこちらの期待と予想を上回る画像を
見せつけられるところだと思うんだけど。
次に話が長いので最初の頃の複線を忘れてしまう。
書籍なら指先一つですぐに前のページに戻れるんだけどな。
そしてありがちなゲームシステム。一連のコンフィグと回想などね。
ここだけは従来の既製品だった。
それから、デュアルエンディングとはいかず
完全な一本道だった点も…。
総じて。
こういうタイプのゲームがありふれていたら
埋没してしまう出来かも知れないけど
それでも自分には特別な1本になったゲームだった。