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RIGHT EYEさんのScarlett ~スカーレット~の長文感想

ユーザー
RIGHT EYE
ゲーム
Scarlett ~スカーレット~
ブランド
ねこねこソフト
得点
90
参照数
933

一言コメント

scarlettでは自分が前に進む事を強く強く,それこそ本物に強く訴えかけられ続けた。然してその話の結末に至った時に,最初はその結末に感じていた物足りなさが,1年経った今、徐々に埋まりつつある。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

scarlett→ラムネ→サナララ→scarlettと回帰。
1年経った今だからこそ。

ラムネ(七海)・サナララと
何かを後押しするようなメッセージが強くつきまとっていたけれど
“スイカ66's“や“昼下がり”が鳴り出すと
5分の休憩のつもりがいつの間にか5時間過ごしてしまったような
ダメ人間ぶりが許される雰囲気があった。

いや、ちょっと期待するでしょ?
しずか「頭の上に○○が~っ」

ところがscarlettでは最早、メッセージは脅迫的で
ラムネ・サナララから続くそれはより鮮明になっている。
ねこねこブランドの終盤3作は
この意味で三部作?と自分なりに思っている。

結末は、非日常から日常へと帰った明人だけれど
それは決して以前の日常とは違う。
非日常へ一歩乗り越えたことで新しい日常を作った。
その明人がみた「非日常」というのも
日常に戻れば本当は日常の一部であって
本物の非日常ではなかった。
九郎の言う「非日常が日常」の人間以外には
明人の言う「非日常」の世界はあり得ないのだと思う。
だから決して本物の非日常に至る事はないけれども
一歩フェンスを乗り越える日常で手に入れたもの。
それは何とは明確に意識出来ない筈だけれど
確かに何かを手に入れたが故に今の彼を作っている。

本作で強く訴えかけられた「前に進む事」。
若い。若いなぁ…。
オイチャンはもう自分が自分らしくとか自分探しの旅へ、とか
自分の存在を不安がるような年齢じゃぁ無くなっちまったよ。
自分も終電の無くなった夜中、雨の中歩いたりとか
演劇養成所に飛び込んだりとか
色々遠回りしてから進学したりとかetc…
「前に進んだ事」はあった。
けれど前に進む事=「非日常」ってのは
喉元過ぎれば全て日常の凡々たる事で
「前に進む事」なんて当たり前じゃない?
そこで得たものは、今まさにscarlettでみているような
非日常の輝々たる存在、ではないよ。
いや…そのなんだ…
今、そう感じているだけで
当時は自分にとっては輝々たる事だったかも知れなくて…
それを当たり前として忘れて今の自分が居ることに気付いて
羨ましい、というか、とてつもなく寂しくなった。

きっと、明人もしずかも過去の「非日常」の経験は事実としては覚えていても
それが今の鮮度を保ったまま輝々たるものとして
いつまでも持ち続けられるか、というと、難しいと思うんだ。
彼らはこれからも「前に進む事」が唯一の接点なんだから。
忘れていくんだよ…
ただの思い出としてscarlettの世界が閉じられていくのがなんだか切なくなった。
新たなステップに進むと前のステップは当たり前として忘れていくんだな…。
だから、エピローグの九郎と美月が突き放した素知らぬ一言一言が心に刺さるんだ…。
あれは、「忘れなさい」と同時に「前に進め」というメッセージ。
一方、九郎と美月は前に進めない。
残されていく者は思い出ではなくいつまでも今として、持ち続ける。

最後に蛇足だけれど2点ほど。

-別当・和泉しずか・スカーレット
どれが姓でどれが名前??
彼女の将来はどうなるだろう。
しずかの日常の感覚は明人の感覚に近い感がある。
彼女は明人という存在があって初めて
非日常から日常へのフェンスを越えた。
彼女の恋はその住む世界の狭さから盲目的ではなかったか?
この作品のメッセージは前に進む事。
彼女も手に入れた日常からさらに前に進む事を余儀なくされる。
しずかと明人の接点は「前に進む事」だけ。
それを躊躇っては接点を失い
前に進めば新たな日常を手に入れる代わり
そこに明人の居る保証はない。
そして何よりも彼女はイリカと同じ負の遺伝子を背負っているはずで…アレ!?

蛇足の蛇足だけれど
前に進む事は(倫理や法を抜きにして…or抜きにするから)美しい。
そんな直球を見事に表した絵がイリカとしずかの禁断の2ショット。

-葉山美月。
30代のヒロイン万歳!!
いや、むしろ30代以降プレーヤー対象エロゲ熱烈歓迎!
なぜ、まきいづみ1?
と思ったが元ねこスタッフは分かってらっしゃる。
全然「アウト」じゃないですっっ

さて、これでねこねこソフト作品は最後になった。
そろそろ、前に進んで、ねこねこも思い出にしていいかな…。と。