背景美術の素晴らしさ。穏やかな春の田舎舞台にひたってひたって、その美春町でキャラクターたちが右に左にと転がるのを楽しみましょう。
●評
設定・シナリオ・テキスト
- 前作『AQUA』をプレイした人には馴染みのある3編構成。
そしてキャラ攻略順ほぼ固定。
あいかわらずシナリオ構成がしっかりしていて
読み応えがあります。
またあわせてテキストも
しっかりキャラクターが出来上がっていて
穏やか過ぎて単調ではあるものの
しっかり会話を楽しめます。
まずシナリオですが
その結末のあり方に
メインヒロインの3人(つばめ・都・美羽)が
三者三様の相反する生き方を見せるので
3周の周回プレイにまったく飽きが来ません。
つばめが中道派。
都が急革派。
美羽が保守派。
といった感じでしょうか。
しかし、今作は
前作AQUAと比して4周目、5周目に当たる
第2幕(編)、第3幕(編)が
とあるキャラクター周辺の述懐に終始するだけで物語が広がらず
あっさりしすぎていて
とても物足りなさが残る出来でした。
第3幕まで
物語が飽くまで『生活部』中心で進むことで
日常の楽しさ、春の穏やかさ
そうした世界観を終始維持することはできましたが
これだけしっかり
キャラが立ったヒロインがたくさんいるのだし
一人くらいは世界を動かす「アッチ」関係の裏の顔を持つ人物が
欲しかったのは私だけでしょうか?
続いてテキスト。
誤字と脱字が目立ちます。
それに、専門用語の発音や音の区切りに
「あれ?」と思う部分が多々。
そのたび少々、興を削がれます。
賑やかしキャラと毒舌キャラと元気キャラと…
十分にキャラクターが活きていただけに残念。
ヒロインはバランスよく多様です。
アクが強いキャラクターが多いだけに
好き嫌いは出ますが
色とりどりなので一人はお気に入りのキャラが
出てきたと思います。
穏やかさが作品のテーマだけに
やや睡眠ゲーになりがちなテキストですが
美羽やすみれにサブキャラは
多少、眠気覚ましになるのでは?
エロシチュも今回は頑張ってたのでは?
つばめの青姦、公開プレイとか
この作風で…味わい深くありました。
原画・背景・彩色
- SORAHANEと言えば美麗な背景。
絵そのものの細かな書き込みはもちろん
陽射しによって朝昼夕夜で変わる色彩。
常に桜が舞ったり
背景の一部にズームを寄せたり
背景全体を見渡すヒキの絵を見せたりする画面演出。
すべて最高です。
背景にしっかり奥行きがあるので
キャラがいるそこだけでなくて
その先の舞台まで世界が広がって見えるんですよね。
そこそこの田舎感もちゃんと伝わって来ますし
この点はプレイする方皆さんに
しっかり味わってみて欲しいです。
一方、人物絵ですが
今回はエロ絵頑張ってるんじゃないでしょうか?
烏丸姉妹の後背位が良かったです。
やや体幹が崩れるイベント絵はありますが
大きな絵崩れも無かったと思います。
立ち絵の際の背景絵が素晴らしすぎるので
イベント絵になると背景がみずぼらしくみえるのは
ご愛嬌、ということにします。
あとは毎度ながら
メインヒロインであるはずの
つばめの見た目が弱い。
というか、他のヒロインのキャラが立ちすぎている
のかも知れませんが。
その他
- 上田朱音さん、藤森ゆき奈さんらしさ
が出ていた配役だったなと思います。
鶴屋春人さんは
メインヒロイン級の清楚な可愛らしい声質をされているので
そろそろメインヒロインを張りまくる時代が
来るのでは…と期待しています。
声と音
いずれも強烈に印象に残るものは
ありませんが
物語の邪魔にはならず
さらりさらりと過ぎていく感じです。
システム。
シナリオプレイヤーは今作も搭載。
DVD/BDを観覧している時のように
シークバーを使って巻き戻し/早送り/JUMP出来て
さらにシークバー上にお気に入りマークを打てます。
さらにさらにシークバー上には
SAVEポイント・イベント絵登場ポイントが表示されるという
圧倒的な便利さ。
「しまった!SAVEしたかったセリフ
1クリック読み進めちゃったあああっ」という時
シークバーまたはバックログから
簡単に1セリフバック。
業界史上最強に便利過ぎます。
その他、SAVE/LOAD、SKIP、AUTO搭載。
バックログも数えてませんがかなりの行数戻れます。
ただ、Q-SAVE/Q-LOADはありません。
シナリオプレイヤーがあれば要りません。
もちろん、クリック改行時ボイスSKIP/継続は
選択できます。
ムービー。
特に印象に残ってません。
●<感想>
- 飽くまで暖かな春の世界を描き切るか
それとも、トコシエをめぐる悲壮な死生観を取るか
これがSORAHANEの色
SORAHANEなりの答えだったのだと思います。
うん、抜群に綺麗な背景を活かした
とっても綺麗な春の世界に満足です。
…と、言ってもトコシエで
あんな問掛けされたらそれは
深遠な死生観も描いて欲しい
そう思うのが人情ってもんですよ、あなた。
暖かな春の世界を描くのに
使う材料を間違えたのかなー…
とも思ったり。
SORAHANEの力の入った背景と舞台。
今回は名前も舞台も
明らかに東北(山形・宮城・福島?)が
舞台になっていて
これは聖地探訪したくなりました。
「泣きゲーの魔術師ポチくん」などと
前作では揶揄されてましたが
文字通り、泣きに通じる古典を
材料に持ってくるのが本当に巧いな、と思いました。
その調理のしかたは置いておいて
この美麗な背景と泣きの材料の揃え方
B2Fと相性が良い作風で
またひとつ好きなブランドが出来ました。
AQUAほどではないですが
さく咲きも割と好きな作品です。