あこがれの
●<アウトライン>
- 車窓には一面の緑が流れ去ってゆく。
静かに揺れるボンネットバスには唯一人、、主人公・小虎。
いや、前の運転席には小柄な女性の姿が見える。
気がついてから、そうしてどのくらい揺られていただろう。
バスは静かに停止して小虎を下ろす。
そうだ、自分は転校して、これから新しい学園に向かうんだった
小虎はそこに至ってはじめて気がついたかのように
言われた道を真っ直ぐと進む。
道は今しがたバスがやって来たトンネルに続くこの未舗装路だけ。
後はこの先、細まった道がただ一本、先へ先へと続く。
道の先には群雲学園。
そこがこれから通う学園であった。
学園は全寮制であったが
小虎は下宿を宛がわれていた。
そこに暮らすのは、同じ群雲学園に通う
喜多野美依、紫香楽間美留、秋山小鈴の生徒三人
それに教師の海藤べるが先生に
先ほどまでバスを運転していた小柄な女性
寮長のさくらさんだけであった。
残りの大半の学生は学生寮に暮らすという。
ともかくも小虎はそこから学園に通い
クラスの委員長・御神楽牡丹、
バスを降りた時に少し言葉を交わしていた
髪の長い銀髪の口の悪い女性・灰花依菜里と
同じクラスとなった。
この学園に学年はない。
のどかなものだった。
教師はべるが先生。
この学園は勉学にはひどくルーズだ。
べるが先生の授業は毎度思いつきで
今日は素人モノAV論とか。
一方、規律には異様に厳格だ。
先日の学校行事で少しその場を離れた生徒が
登校していない。
噂では退学になったのだとか。
ただ、この学園生活はそう、悪くない。
良い意味では長閑でこぢんまりとした
田舎の学園生活であった。
小虎はここに至っても夢うつつにあるようであった。
自分はいつからこの学園に通うことになったのか
どうしてここへ転学したのか
ここで何をするのか、はっきりと思い出さない。
それもよい、と思っていた。
ある日、牡丹から学園の七不思議について
聞かされる。
この学園の七不思議を解いて
学園の存在理由を探りたいと。
小虎も学園を不思議には思っていた。
ルーズな勉学。
厳格な規律。
昨日と変わらない授業。
分かれる寮と下宿。
そして、扉の開かない園長室。
でも、そう、今でも悪くない。
小虎は牡丹に協力するか、決められずにいた。
夢うつつの幻想的な学園生活の先に待つ
切なく、儚い結末とは――。
●<評>
設定・シナリオ・テキスト
- 主人公・ヒロインを含めて登場人物一人一人の背負う
物語の役割があります。
誰一人物語に欠くことの出来ないファクターとして。
物語を進めるごとに一つ一つ完成していく物語構成は
それ自体は好みのあるところではありますが
二周三周と物語を周回するモチベーションを高めてくれます。
攻略順はある程度固定されていて
{美依・小鈴}→{眞美留}→{牡丹・依菜里}となります。
また、それぞれにBad、NormalENDがあります。
初周冒頭は、物語の道筋が分からないまま
MAP選択を強いられ、エピソードを小間切れに読むだけですので
どちらに向かってプレイしてよいのか分からず
多少、作業的で退屈するかも知れません。
しかし、二周三周目以降は前述の物語構成によって
五人のルートが絡み合って物語が完成していく構成は見事。
この物語のテーマは"赦し"。
伝奇と言えば伝奇ではありますが
物語の下地は聖書世界になっています。
この世界観は、割と早い段階でスッと分かってしまうので
少々勿体ない気がします。
もう少し後半で、あるいはもっと演出的に
見せる術があったのではないでしょうか。
そのテーマに沿って、後半
物語の核となる"この世で人間の存在意義とは何か"を
美依、小鈴、牡丹、眞美留、依菜里
それに、スミレやべるが先生、園長などなど
サブキャラクターたち一人一人に渡って展開します。
誰のシナリオが薄い、と言うことなく
全員に等分の役割がある配置は見事。
残念なのは
物語上の役割に縛られて
ヒロインと主人公のボーイミーツガール的な展開が
特に後半ほど疎かになること。
それに世界観が知れてからは
物語が些か超展開と言われても致し方ない
学園を遥に超えた広がりを見せてしまうこと。
学園物語を想像しているとトンでもないことになります。
原画・背景・彩色
- なんといっても特筆すべきは
差分無しで300枚を遙かに超えるそのイベント絵の多さ。
立ち絵がなく、全てがイベント絵で進行するためです。
これは、最近だと「ゴスデリ」なんかに見られた
手法でしょうか。
エッチシーンではその他にカットインが入ったりします。
すべてがイベント絵となる長所として
必ずその場で主人公が見た背景が一緒に描かれるので
場所のイメージが湧きやすい事がありました。
また、立ち絵は汎用的に描かれますので
どうしてもイベント絵との差異が出やすいのですが
ここではもちろん、そのような絵崩れはありません。
より臨場感が出ます。
ただ、これに慣れてしまうと
いざというシーンに、とっておきのイベント絵を使う
意外さがやや見劣りしてしまいました。
主観ではありますが
原画数300枚超でも、これだ!という
印象的な絵は数枚…だったでしょうか。
あとは改善点として
主な舞台になる校舎・寮・下宿・土管広場
これらの位置関係を俯瞰的に見られる
背景だけの絵、というものが欲しかったかな、と。
その他
- システムはやや古くさい、いつものTOPCATです。
ただ、基本的なシステムは備わっていますので
特に不自由はありません。
クリックボイススキップ/継続選択可。
原画は少し解像度が粗いかな…と
特にムービーやEDなどで感じます。
そろそろ、16:9ワイドに対応してもいいかも知れません。
役者陣は、実力派揃いです。
特に牡丹役の桜川さんは
配役に際してもこの役で他に候補なく単独指名であったらしく
演技はまさにこれ以外はない、という見事な演技です。
すっごい男勝りな、べるが先生の藤井さん
それに一人三役(?)な、まきいづみさんもお見事。
かなりはまり役でした。
EDはTOPCATおなじみのKIYφさんが
歌われています。
今回はOPを神村ひなさんが歌われていますが
どちらかというと今回はOPの方が終わって印象に残ります。
●<感想>
- ライター・原画家・ブランドから
当作購入は端から決めていた私ですが
他の方は買いにくかったんじゃないでしょうかね。
なんせ、OPムービーや体験版、物語概要を見た(読んだ)
だけでは、どこに向かう話なのかさっぱり掴めない作品ですから。
だけど、やってみて暫くすれば
ああ、これはスゴイ!と思える作品でした。
いつもの事ながら、鷹取さんシナリオには
物語の収束のさせ方にゾクゾクさせられました。
きちっと伏線を張ってきちっと片づけていってくれます。
ただ、今回は一度中盤で世界の謎が解けると
そこからは物語が再膨張することなく
綺麗に収束する一方でしたから
やや尺的には物足りませんでした。
ゲームシステム的には致し方なし?
お気に入りは何と言っても牡丹ちゃんです。
もう序盤から暴走攪乱、物語のムードメーカーです。
ドM超絶変態痴女っぷりを桜川未央さんが
見事なお馬鹿ハイテンションっぷりで
魅せてくれました。
桜川さんは本当にお馬鹿キャラで光ってくれますね。
今回の牡丹ちゃんは
これまでに最高にお馬鹿じゃないでしょうか。
初対面から罵り言葉を要求してきます。
おい雌豚言ってやったのに、不満そう…。
あまつさえ溺死体験にエクスタシーを求めて
本当に死にかけます。
死に顔も変態恍惚顔な牡丹ちゃん。
これはもう、桜川未央ファンの方には
是非遊んで貰いたい。
鷹取兵馬さん、「ふぇいばりっとSweet!」以降
SM心理描写について、本格的になってきてます。
SとM、コメディとシリアス、一見世界崩壊しそうな
両極端を行ったり来たり描いて笑わせてくれるテキストが
私にはたまらなくエクスタシーです。
お気に入りのエクスタシーは
トイレの花子さん(?)に「襲われて」しまう牡丹ちゃんが
エクスタシーを感じつつ
必死に女の子の大事な所だけは死守するシーンw
小虎が牡丹の局部を押さえて「守ってます!守ってますよ!」
何てシュールなw
シリアスにコメディを被せた両極端の最たる例ですよね。
で、そんな牡丹ちゃんと両思いになって
ラブラブチュッチュ出来るかというと
その辺が本作の弱い所でして…
キャラクター好感度。
プレイ前: 美依 → 依菜里 → 小鈴 → 牡丹 → 眞美留
プレイ後: 牡丹 → 依菜里 → 美依 → 小鈴 → 眞美留
依菜里ちゃんも禁断の果実で羞恥が芽生えるシーン可愛かったなぁ。
最後に。
2011年まで、WINDOWS2000を保証対象に含めて頂いたことに謝辞を。
「手毬花」(×「手鞠花」)とは、あじさいのこと、らしいです。
作中のあじさい、あんなイメージで捉えているとは。