ErogameScape -エロゲー批評空間-

RIGHT EYEさんのヴァニタスの羊の長文感想

ユーザー
RIGHT EYE
ゲーム
ヴァニタスの羊
ブランド
RococoWorks
得点
70
参照数
355

一言コメント

笛&J-MENTさんの世界観を余すところなく盛り込もうとするも、やっぱり途中で色々力尽きた作品。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

●<アウトライン>
- "幻覚"を操る魔術師・父エリファスと"色覚"を操る魔術師・息子クロード。
  二人が都市・エンゲルブルクを訪れた際、コンラート母娘と出会う。
  父エリファスは母アルマ・コンラートと旧知の仲であったが
  初めてアルマに娘が出来ていたことを知る。
  一方息子クロードは街中を探索中、柄の悪い男に追われる少女と出会う。
  それは娘テレーゼ・コンラート。
  こうしてアルマもまた、初めてエリファスに子が出来ていたことを知る。

  エリファスは、アルマの娘テレーゼが
  なにゆえに狙われていたのか探り始める内
  都市全体に関わる意志が、母娘の事情に関係していることに
  薄々と気づき始める。
  母娘を追う何者かを突き止めるため
  エリファスは、都市全体に広く薄く魔術を駆使した。
  エリファスは"幻覚"を大規模に駆使する"代償"に次第に苛まれていく。
  クロードは、"色覚"を駆使してテレーゼを追手から引き離す。
  テレーゼはまた、自らの目覚め始めた魔術「羊の王国」で
  耳に入ってくる追手の心の声に怯える。

  やがて都市エンゲルブルクからの脱出を決意し
  クロードとテレーゼは先に手配した馬車に身を潜める。
  馬車は隙を見て城外へと出発する。
  馬車のすぐ傍に見えるエリファスとアルマの姿。
  しかし、二人は馬車には乗り込まない。
  見えた二人の姿は"幻覚"であった。

  あれから九年――
  城外に脱出した二人は
  再びエンゲルブルクの城門の前に立っていた。  

●<評>
設定・シナリオ・テキスト
- 非常に細部に渡る魔術設定。
  この世界では先天的・後天的に係わらず
  多くの者が魔術を習得していることになっていますが
  その魔術は原則一人一つだけ。
  ただし、その一つの魔術には派生段階があり
  実質2つの魔術を習得していることになります。
  この派生魔術が、キャラクター設定の深部を形作っているようです。
  これが物語の伏線にもなっていて
  上記アウトライン中で
  エリファスが都市全体に駆使した魔術の結果から謎が始まり
  最後は各ヒロインの裏事情まで
  ずっと興味が途切れることがありません。

  また、舞台設定も"中世ヨーロッパ"を彷彿とさせる
  ディテールが大変よく出来ています。
  市場に溢れかえる人、静まりかえる夜の街辻。
  旅人向けの簡素な朝食。城壁に囲まれた都市。
  そして、自由都市の自治の強さ。
  その都市内の独特の因習。
  物語世界にトリップする仕掛けに事欠きません。
  こうした世界観が歴史的文化的に好みの方には
  何とも嬉しい設定です。

  しかし。
  その「都市内の独特の因習」に係わる
  教皇ベネディクトの魔術"死神"。
  これが彼女の派生魔術にして
  彼女のアイデンティティになっていますが
  彼女が何故教皇にして"死神"と言われるのか
  そんな彼女が何故教皇に指名されたのか
  最後まで伏線は回収されていません。
  その他、多くの伏線に未回収が見られます。
  魔術設定・舞台設定とも
  このタイトルの最大の魅力だと思われますが
  せめて
    都市に残ったエリファスとアルマのその後
  特に二人の子について
  暗に仄めかす程度ではなく
  断言した台詞が欲しかったと思います。
  各ヒロインルートで
  少しずつ、少しずつ、謎が明らかになっていくプロットは
  大変よく組まれています。
  プロローグ部までのもの悲しさ…
  完全ハッピーではないけれど
  それまでの苦難が報われるエピローグ…
  物語自体は大変楽しめました。
  それだけに  
  消化不良がたまらなくストレスになります。

  ただし、Rococo Worksの過去作の中でいうと
  最も伏線回収率が高かったのではないでしょうか?  


原画・背景・彩色
- 世界観にとてもよく合った絵柄ですよね。
  案外、ここが足りないタイトルが多いのです。
  特に絵師を固定しているブランドさんなんかでは。

  笛さんのファンタジーな絵柄に
  "中世ヨーロッパ"を彷彿とさせる背景美術。
  「画集」と言うのもある意味褒め言葉になりますね。
  ただ良く読んで欲しい。
  テキストもそこに合わせてあるのです。

  イベント絵は
  おとな目線子ども目線を意識している点も好印象。
  ただし、Hシーンはどうしてもエロ気薄です。
  構図やら塗りやら、もう少しやり方はあるかと思いますが
  そもそも肉薄なヒロインですから…。

  それと、立ち絵とイベント絵で
  キャラクターの絵崩れが小さいのは安心出来ます。
  髪の色くらいしか共通点が見つからない
  なんてタイトルも無きにしも非ずであったりしますから。

  CGの枚数とイベント絵のタイミングは
  特に忙しなかったり足りなかったりすることはありません。
  各ルート・ラストのイベント絵が線画で終わったのは
  もはや何と言っていいのかわかりませんが。

その他
- 驚いたのは、これまでRitaさんが歌ってきた
  OPが榊原ゆいさんに変わったこと。
  どこか牧歌的な感があった曲でしたが
  切迫感のある曲になっています。
  思い切った路線変更ですが
  今回の作風では、これもまた良かったのではないでしょうか。
  
  そして、メインヒロインのテレーゼが
  失声症という設定になったこと。
  おそらくテレーゼの派生魔法に係わるのでしょうが
  その伏線は回収されていません。
  しかしこの設定のおかげで
  成長後のテレーゼ(cv:五行なずな)が
  台詞を喋らなくなって……
  可愛い五行テレーゼ成長後のお声を賜りたければ
  「テレーゼ~心の声~ ボイスパッチ」ディスクを
  必ず手に入れてパッチを充てましょう。
  と、言っても予約特典でしたので
  これからの人は中古グッズ屋などをあたらなければなりませんが。

  その他、RococoやTarteでお馴染みいつものあの方も
  サブキャラ"シェリー"でご出演されています。

  システムに関しては
  クリック後ボイス継続選択可です。
  また、これまで既読SKIPの精度がイマイチでしたが
  今作では、キッチリ共通テキストを飛ばして
  未読テキストでストップしてくれています。

●<感想>
- 舞台・CG・テキスト・音楽と相まって
  私好みの"中世ヨーロッパ"のファンタジー世界が
  とても心地よいです。
  胸が苦しくなるようなプロローグの幕の引き方。
  謎が継続して先が先が読みたくなるシナリオ展開。
  物語もおおよそ満足するタイトルでした。
  伏線さえキチっと回収してくれてさえ居れば…
  ラストが駆け足な終わり方で無ければ!
  ラストの絵がアレで終わらなければ!!
  (あ、CG全回収後にも伏線が回収されるトラップが)

  最後にキャラ順位。

  プレイ前: テレーゼ>アルマ>ブリジット>リアーヌ>フラウエン
  プレイ後: アルマ>テレーゼ>ブリジット>シェリー>フラウエン
        >リアーヌ>ジョバンニ

  テレーゼは当にメインヒロインです。
  クロードと二人、指人形するCGが大好きです。
  でもアルマさんのその後の語られなさが可哀想過ぎますので
  TOPは譲らせて下さい。
  あ、でも庭の手入れしてお話に聞き入る教皇ちゃんも可愛いです。