オーガストの誰もが優しさに溢れる物語。そこはぶれずにダークな世界を描いた創造力に感心。
●<アウトライン>
- 貴族の住まう上層。一般市民の住まう下層。
さらにかつての大崩落<グラン・フォルテ)によって
崩れ落ちた下層に形成された、貧民の住まう最下層。
この崩落で多くの人命が突如失われた。
九死に一生を得た市民の多くも崩れ落ちた最下層に取り残された。
上層から流れ落ちて澱み貯まっていく水たまり。
見上げると手の届かない高い岸壁とかつての市街。
ここ最下層には届かない物資。見捨てられた民。
あの日から最下層は虚ろな澱んだ空気が流れ続けた。
ただ、男は生き残るためだけに殺し
女は生き残るためだけに娼婦に落ちる日々。
その中で、「不触金鎖」が最下層をまとめ上げ
下層に繋がる道を確保して細々と物資を仕入れられるようになり
何とか最低限の生活を営む事が出来るようになっていった。
崩落を防ぎ都市を浮かせるのは聖女様。
彼女に都市の運命がかかるため絶大な信用を得ている。
反対に、再び大崩落<グラン・フォルテ>を起こせば
聖女は交代し、見せしめの処刑を受けるだろう。
とある日から
殺人・強盗など日常茶飯事になった最下層でも
一際異なった異様な殺人が続くようになる。
この事件を調べるうち
ここ最下層で、貴族とこの事件の関係が
明らかになってくる。
上層、下層と最下層。
それぞれは、混乱を避けるため
普通は全く交流が持たれない。
それぞれの隔たった階層の視点から
この浮遊都市ノーヴァス・アイテルを巡る
運命と思惑が明らかになっていく。
*以下、体験版・公式HPの範囲を超えたネタバレ極力回避にて。
●<評>
設定・シナリオ・テキスト
- シナリオ構成とキャラクター配置の関係に隙がない見事な設定。
不条理な人生を
牢獄視点で見続けるエリス・シナリオ。
下層視点で見続けるフィオネ・シナリオ。
上層視点で見続けるリシア・シナリオ。
教会視点かつ王侯貴族と市民を俯瞰するイレーヌ・シナリオ。
全視点を収束させるティア・シナリオ。
皆が皆、自ら正しいと思う道を追い求めていて
幸せを願うのは一緒なのに
その手段や過程で衝突してしまう不条理を
殊更鮮明に読み手に伝えると共に
物語の中で違和感なく
各階層の説明を盛り込むことが出来ていました。
その他にも、ルートに入らなかったヒロインが
他ヒロインルートに存在する必然性にも
キチッと気が配られていたり
とにかく隙のなさが際立っていたと思います。
結構壮大な物語設定ですが
キッチリ纏めて来ているのは
やはりオーガストさんの安定感です。
テキストも
イレーヌの宗教観と牢獄の人生観と王侯貴族の矜恃やら
根っこは全部同じ、人の生き様なんだよ
なんて持って行き方、巧くてゾッとしますね。
ただし、その一方で
そうしたきっちりとした作りのせいで
物語が事実上1本道になるので
グランド・エンドまで読み切った時
色々と救われなさが残るのは残念。
特にティアのアレは残念ですが
他に決着の付け方があるかと問われれば
これでも最善であったのかも知れません。
オーガストが娼婦を扱い
これまで"誰しも優しさに溢れた"世界を描いてきたはずが
優しさだけでは生きられない世界を描いてきた
ある意味、ブランドを破壊しかねない選択をした勇気と行動力は
とても胸の透く思いがしました。
先ほど述べた"救われなさ"ですが
むしろ、この程度の救われなさで収まっているのが
"誰しも優しさに溢れた"世界なのかも知れません。
特に、カイムとジーク、それにメルトの3人は
最後までオーガストらしいキャラだったと思います。
原画・背景・彩色
- 今作は背景美術や彩色も
このダークな世界観を演出するのにいつにも増して重要度が高いはず。
最下層<牢獄>の鬱屈さを感じさせる朝靄と夕暮、陽の届かない路地奥、
夜と早朝の娼館街、それに下層、最下層の日の当たり方の違い
そんなとても難しい光の加減が調整されていて
今、プレーヤーがどこに立っているのか映像だけで伝わって
作品世界にTRIPしている感じが強まります。
前々作「Fortune Artereal」からは
Hシーンに縮小テキストウインドウが採用されていて
絵の見せ方にもこだわりが見えます。
これと同時に
Hシーンの体位や見せる角度なども考慮されていて
AVのカメラアングルを参考にしているのか
ずいぶんとエロくなっています。
ただし、強調表現なのかも知れませんが
イベント絵になって急に頭身や胸の大きさが変化するのは
勘弁して欲しいですね。
特にパイズリ。
ヒロインの恍惚の表情も、顔が崩れるので
もう一工夫欲しいところです。
その他
- ビックリしました。ジェスチャーシステム。
「右クリック+上下左右」動作でSKIP・バックログなど
各種機能を割り当て出来るシステム
これかなり便利過ぎました。
個人的にかならず欲しいシステムまわりは
AUTO・既読/未読SKIP・SAVE/LOAD・バックログといった
基本機能の他
クリックボイス継続/停止選択、AUTO速度調整
バックログ音声再生・ウインドウ濃度調整
非アクティブ時動作・右クリックウィンドウ消去・BGM名表示
Ctrl未読SKIP、Enter改行…
といったところですが全て揃っています。
あとは、バックログ音声再生中に通常画面に戻った時も
音声をカットしないで欲しいこと位でしょうか。
出来ればフローチャートもほしいですが。
システム画面呼び出しも
画面右にマウスポインタを移動するだけですので
アクション回数が少ないです。
音楽は、ゲームの雰囲気を壊さない程度に。
曲名が覚えにくいのが難点。
役者陣は今回は男性役の方々お見事。
端役までしっかり声があたってます。
●<感想>
- 最後にティアルートで
すっかり上層階層の人間っぽくなったカイムをみて
あぁ自分が思っていることを理解されないで
自分が思うがままにあることは難しいな…とあらためて
思い至りました。
エリスにも愛想を尽かされちゃうくらいに。
私はどちらかといえば最下層の畑で生まれた人間なので
こういう社会派なテーマも反骨心を思い返して
大好きなのですが
それにしては、主人公カイムを始め
不触金鎖まわりは下っ端を除けば恵まれていて
ちょっと、上手く行きすぎかな、と
妬ける所が多々ありました。
現実、そんな巧く事は運ばねぇよっ!
っていう。
もっともっと、それ以上に
どうしようもない人生の不条理に玩ばれている人間
そういう描写が足りないんだよっ!
そこの娼婦3人、結局総じて見れば幸せそうじゃないの。
羽を毟られ腕をもぎ取られた少女こそ
ヒロインにしてもいいんじゃない!?
エリスもあそこまで行ったなら
どうして輪姦シーンないの!?
という、後もう少し!後もう少し!と思いつつ
最終的に言えば、とても面白かった!
ということで。
人気ブランドのオーガストさんが
敢えてタブーに挑戦した意気込みにも
敬意を表します。
攻略順ですが
冒頭からプレイしていくと
フィオネ→エリス→イレーヌ→リシア→ティア
の順に個別ルートへ分岐していきます。
この順番の通りにやることをお薦めします。
私はフィオネとエリスが入れ替わった以外は
その通りにプレイして正解だったと思います。
フィオネ√で一番好きなのは
何と言っても堅物のフィオネが折れて
兄を見逃してくれ、と懇願するシーンですね。
何もかもこれまでの矜恃を捨てて。
エリス√で一番好きなのは
すっかり昔の人形に戻ってしまったエリスが
自分がカイムにとらわれているんじゃなくて
カイムが兄にとらわれているんだ、と告げるシーンですね。
イレーヌ√で好きなのは
ラヴィとの姉妹丼…もとい
自分が生け贄として存在していることを受け止め
それでも自分の信念を語り抜くシーンでしょうか。
リシア√で好きなのは
どうしても最後の王冠を戴くシーン
…というのはありふれているので
牢獄をお忍びで巡回するシーンでしょうかね。
ティア√で好きなのは
カイムと会うのはこれが最後にしよう、と
覚悟を決めるシーンですね。
と言うか、ティア√はグランド・エンドだけあって
シーンでは選べないかも。
というわけで最後に好きなキャラ順。
プレイ前: エリス→ガウ→イレーヌ→フィオネ→リシア→ティア
プレイ後: フィオネ→エリス→ティア→イレーヌ→リシア→ラヴィリア
こんな感じで。