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RIGHT EYEさんのフェイクアズール・アーコロジーの長文感想

ユーザー
RIGHT EYE
ゲーム
フェイクアズール・アーコロジー
ブランド
あっぷりけ -妹-
得点
85
参照数
471

一言コメント

色々荒いところはありますが、きっちりサプライズを仕込んでいる点は見事。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

●<評>
設定・シナリオ・テキスト
シナリオ構成に引き込まれます。
物語の核となる謎設定には
1.師の織倉練児は、なぜすべてを捨てて“外”へ行こうとしたのか。
2.レティ(ライン)はなぜ、天原にやってきたのか。
3.中央政府は、なぜ“外”に興味をもたせないようにするのか。
4.天御家は、なぜ天原で信奉されるのか。
5.“外”の世界は今、どうなっているのか。
6.3年前の織倉練児と日高千尋の事故の真相は何なのか。
などがあります。
これらの答えは最少1周で、ほぼ明らかになっていきますが
この謎に対して
レティは天原の“外”の視点から
あきらは天原の“内”の視点から
莉音は“スター社”(練児と千尋の所属パイロットチーム)
の視点から見たそれぞれの真実が語られて行くので
周回プレイは全く飽きる事ありませんでした。
春子は、スパイスになる位置づけで
少し視点をずらして
二人の見ている“空”の違いを描いて
主人公を物語に引きずり込む事で
物語に深みを与えています。

「ここで諦める? それとも―― それとも変える為に動く?」

諦める-って選択肢はないようなキャラ配置なんですね。
キャラが“空”という1つのテーマにとって
なくてはならないようなポジションばかりになっています。
諦めたらそこで終わり。BADEND。
でもBADであそこまでネタバレされちゃうのは勘弁してね?

そして、この作品の特筆すべき所は
良くも悪くもテキスト。
「女3人集えば姦し」を地でいくシーン。
「生で乳揉まれた」、「千尋って童貞?」
「昨晩千尋とやった」、「何て言うか、でかかった」
など、直接的なシモネタ話満開のガールズトークは
これまでなかった体験。
まさしく女の園をVR出来ます。
その他、天御としてのあきらと幼なじみとしてのあきらのギャップ
千尋との悪くない間柄をイジられる莉音
あけすけなセリフばかりいうレティなど
キャラ設定がしっかりしていることと相まって
とても魅力的に描かれていました。
「てんつくっ」最後までプレイしろよ!千尋。

そして、異常に多い誤字。
それに、細かな所での話の不整合性。
PC業界だけは諸般の事情でバグが許されがちな昨今ですが
修正可能な事項です。最低でも至急、パッチ対応をお願いしたい。

原画・背景・彩色
キャラデザに関して唯一つ
キャラクターの髪型がやや古くさいのが気になります。
その他、リティや莉音は“W.L.O.”の浅海さんからは
想像つかない豊満ぶりで、眼福眼福。
作品の性質上、フライト機や空が安っぽいと大問題なんですが
その点も十二分にクリアしてるんではないでしょうか。

その他
なんといっても“閑話-side story-”形式。
えらい目に遭いました。(感想その1参照)
物語の核心とside storyを分離するなら面白い試み
で支援したいのですが
全然side storyになっていません。
そしてそのside storyでフラグ管理する鬼仕様。
恐らく企画当初からの案であったのでしょうが
煮詰めきれないものになっており猛省をお願いしたく思います。

システム回りは基本的なセーブ・Qセーブ・既読/未読スキップ
オート機能・テキスト速度調整の他、
Ctrl未読スキップがあります。
クリックボイスカットON/OFFも選択可。
役者さんは アグミオn 柊あかねさんが大に小に大活躍ですね。
柊あかねさんに限らず
全役者さんにキャラクターイメージがしっかり伝わった好例だと思います。

●<感想>
体験版から春子に始まりグランド・フィナーレまで
終始ワクワクしっぱなしでとても面白い作品でした。
ただし無駄足のBAD4周を除いて。
まさか莉音ルート終わった後に
ノエルの擬人化ルート、グランド・フィナーレシナリオがあるとは思いつく事もなく。
あの最後は誰のルート後なんでしょう?
個人的にはシナリオは、莉音シナリオが一番好きでした。
レティルートも良いのですが
ラストが、え?そこで終わっちゃうの?という最後なので紙一重。
キャラクター的には後にも先にも春子ですね。
鳥の巣時代の秘密の濃密時間がたまりません。

中央政府がひた隠しにする“空”の嘘。
500年当たり前のように行われるフライトレース。
そこに居た人には当たり前になっている事も
外部から見れば異常なのかも知れません。
人生若い頃、一度は気付いて考えた事ありませんか?
当たり前に過ごす平和な日本
だけどその世界は誰かによって動かされていて
僕達は無意識に誰かに操られている車輪なのではあるまいか?
ヘッセ「車輪の下」が書かれた時代から描かれ続けてきたテーマです。
(極端な人は宇宙人とか影の地球支配者とかいっちゃうのかもしれません)
「車輪の下」はリアリティありすぎる●●な筋ですが
この作品で是非、すっきりしたい。
練児さんを超えていった千尋に拍手を送りましょう。

先日、2009年エロゲ総評松賞を発表したばかりですが
あらたにこの作品を1本、加えてもよいかもしれません。