エロ方面の劣化は残念だったが、世界観やストーリーは素晴らしかった。
●シナリオ
舞台は日本ではあるものの、文明や技術のほぼ全てが失われた千年以上先の未来にいきなり放り出された現代の価値観を持つ主人公からすると、実質的には異世界転移と言える。更に、能力者の能力の中でも非常に強力な「言霊」と呼ばれる能力が主人公に付与される点も異世界転移モノらしさを感じさせた。しかし、過剰に持ち上げられることもなければ、自分の能力に驕ることもなく、むしろ常にカントやヒロインたちのために努力する姿勢は非常に好感の持てるものだった。また、海外のゲームや映画でたまに見かけるトンデモ日本みたいなカントの街並みも素晴らしく、本作の魅力の一つだった。
ストーリーの要所要所で戦闘もあるが、メイン部分は主人公による脳筋なカント変革物語と言えるもので、ヒロインたちとの交流を通して主人公がカントに変化をもたらしていく。強いものが偉いとされるカントの価値観は体育会系というよりも動物の群れのようだった。加えて、八剣と呼ばれる支配階級以外の住人は「代替可能な誰でもない者」として狐の仮面を被って個性を殺している様は昆虫のようでもあった。ファンタジー寄りの作品ではあるのだが、合理性を追及した独特の社会形態はSF的な面白さもあった。カントの一般人を代表するヒロインである優里のパートを最初に配置しているのもよかった点で、優里とのやり取りを通してカントの価値観や状況をすんなりと受け入れることができた。
主人公がカントの価値観を変えるために教育や経済についてレクチャーするのだが、主人公も一般常識程度にしか知らないこともあり、過剰に経済や教育について踏み込むことはない。今の日本にとっては当たり前レベルの知識ではあるのだが、当たり前すぎる経済や教育の基本を知識ゼロの人々にどう教えるのかという点で読み物としての楽しさもあった。
あくまでも物語の核となる部分は主人公やヒロイン、そしてカントの成長についてだがシナリオの緩急のつけ方もうまく、学園や喫茶店経営、戦闘訓練などの日常生活と緊張感のある鉄鬼との命がけの戦闘が丁度良くバランスされていたため、ダレることなく読み進めることができたのもよかった。
世界観やシナリオ構成、登場人物たちは素晴らしかった反面、多少の不満点もあった。最初の不満点は鉄鬼の正体が曖昧なまま終わってしまう点で、春姫ルート(トゥルールート)では鉄鬼との決着こそつくものの、まともなコミュニケーションは最後まで成立しないままだし、由来なども不明のまま終わってしまうのは中途半端に感じた。ヒロインたちにしても成長はしっかりと描かれるのだが、女の子としての掘り下げが不足しているのは残念に感じた。本編で日常シーンやイチャイチャしているのはテンポが悪くなるから難しいとしても、クリア後にアフターストーリーが用意されているのだから、単なるエッチシーンとしてではなく日常シーンも一緒に描くことができたのではないかと思う。
●グラフィック
本作のCGのボリュームは98枚+SD14枚とフルプライスとしても満足できるものとなっている。
Purplesoftwareの看板とも言える克氏の原画は素晴らしいものだった。今作で初起用となるアサヒナヒカゲ氏の原画も顔や上半身の造形は非常に好みだったのだが、裸の下半身に違和感のあるCGが何枚かあった。ただ、和装が基本の本作では裸の下半身が描かれる機会はエッチシーンに限られていることもあり大きな問題ではなかった。
塗りに関しては良くも悪くも過去作から変化は感じられず、他のエロゲーのレベルも上がっている現状では以前ほどの魅力を感じなかったが、不満を感じることもなかった。
本作で特に印象に残ったのは背景のグラフィックで、単純に美しいだけでなく、旗が風で靡いたり、水が流れたりと動きがあるのがよかった。常春のカントの街並みや、人の手から離れた自然は非常に魅力的で、だからこそ動きがあることの価値が高いと感じた。
和風の世界観にマッチした衣装類も素晴らしかった点で、完全なる和服ではなくオリジナリティを出しつつも、和の心を感じさせる服装だった。また、学園での制服もセーラー服や学ランをモチーフにしつつも和風のアレンジが加えられているのもよかった。
●エッチシーン
本作のエッチシーンは全部で13回となっており、内訳は春姫と優里が3回ずつ、茜&葵が4回、夏姫、燕、識が1回ずつとなっている。
モザイクの小ささ、特に女性器、は特筆すべきもので、アナルもモザイクなし、卑語修正もなしと修正に関しては最小限なのはよかった。
陰毛が描写されているのが珍しい点で、識博士と双子以外には陰毛があり、コンフィグから陰毛について設定することもできないため、非抜きゲーとしては珍しいコダワリっぷりだと感じた。
エッチシーンのボリュームの少なさは残念だった点で、回数だけでなくCGも少なく、エッチシーンのCGは計20枚と非常に少ない。シナリオ重視なら本作よりもエッチシーンのボリュームが少ない作品も珍しくはないのだが、Purplesoftwareは以前はしっかりとエロにも力を入れていたブランドで、まさにエロゲーと言える作品を作っていたために、本作のエッチのボリュームの少なさは残念に感じた。
エッチの内容自体は言霊を使って周囲に認識されない状況でエッチしたり、双子は3P特化だったりと妙にマニアックな部分もあってよかったのだが、それが逆に以前のPurplesoftwareの残滓を感じさせて余計に悲しかった。
●コンフィグ・システム
本作のコンフィグはPurplesoftwareの過去作同様に非常に充実したもので快適にプレイすることができた。基本的な項目に加えて、充実したフォントの設定項目や音声再生速度、マウスジェスチャーの設定も可能となっている。また、ウィンドウサイズも複数の種類から選択可能で便利だった。
攻略に関しては単純明快で、ヒロインに告白された時に受け入れると個別ルートへ、受け入れないと本編継続の構成になっている。どのルートも中途半端な終わり方はしないため、好みに応じて優里や双子のルートを後回しにしてトゥルールートと言える春姫を先に攻略しても問題はないと思う。
●まとめ
Purplesoftware流の異世界転移作品。知識や能力に溺れずにカントの改革を行う主人公は非常に好感が持てるものだったし、世界観も非常に魅力的だった。
ただしエロ方面は非常に残念なことになっており、過去作と比較するとエロゲーらしさは薄くなっていた。