ADVだけでファンタジーRPGの世界観を表現するべく色々と工夫されていた。
●シナリオ
冒険者が集まりクランを結成し、クエストを受注して・・・というファンタジーRPGのド定番と言える世界観の作品だが、珍しいことにゲームパートは存在せずADVパートのみで構成されている。
その代わり演出が凝っており、主人公の言動を選ぶだけでなく、受注するクエストもプレイヤーが選択することができるし、クエスト中に探索する鉱山や森などの背景は3Dで描かれており、キャラクターの移動に合わせて変化する。
加えて、戦闘でもプレイヤーが「攻撃」や「防御」などキャラクターたちの行動を選択する仕様となっており、SDのキャラクターたちが動き回るので目でも楽しめるのが素晴らしかった。
緩めの世界観も魅力の一つで、冒険者稼業はそれなりの危険もあるのだが、SDキャラと可愛らしいモンスターの戦闘シーンはコミカルだったし、終盤を除いて緊迫した雰囲気になることもなかった。
登場人物たちの常に前向きで、互いを支えあう姿勢も素晴らしく、シリアスな場面でも必要以上に悲壮になることはないため、重い気分にならずに読み進めることができた。
終盤の騒動も古代の文明の遺産の暴走などが原因なため、人間同士は争わずに常に協力体制を敷いている状態なので、RPGらしい物語の起伏を持たせつつも嫌な印象を持つキャラクターは登場しないことも本作の雰囲気作りには重要な点だった。
本作のストーリー構成はクランOasisとしての日常の冒険を描く第一章、冒険を一時休止し収穫祭を楽しむ第二章、そして終章の3つの章から構成されている。
共通ルートにあたるのが第一章で、それぞれが完結したクエストを受注する展開で、最もRPGっぽい雰囲気が強かった。
また、第一章では恋愛っぽい描写は殆どなく、パーティー全体で行動するため共通ルートらしい賑やかさがあり、プレイしていて一番楽しいパートだった。
第二章の収穫祭は特定のヒロインとの仲を深めるパートで、街全体の賑やかな雰囲気は規模こそ違えど学園モノの文化祭のような雰囲気だったし、ヒロインとの仲が縮まる過程やお互いに意識しているものの、告白するには至らないムズムズした空気感もしっかり描写されていた。
終章では国や世界の命運をかけた事件を解決するというRPGの終盤に相応しい展開となっており、ルートのヒロインと主人公が特に活躍するものの、それ以外の主要キャラクターたちがしっかりと登場するのもよかった。
基本的な物語の構成はどのヒロインも同じこともあり、どうしても周回プレイ時にはマンネリを感じてしまったが、それぞれのヒロインによって恋愛関係に発展するまでの過程や恋愛描写を差別化してマンネリを避けようとする努力は伝わってきた。
父娘に近い関係性で、精神的にも未成熟なミネットの場合は「好き」とはどういう意味かと考えることから恋愛が始まるし、幼馴染のカリーナのシナリオでは長年の恋心が実る瞬間が丁寧に描かれる。
チェルシーのシナリオは騎士という彼女の職業を念頭に置いた恋愛を、そしてアニエスのシナリオではマイルドな三角関係を描いたものとなっている。
終盤の展開はミネットルートを除くと世界のピンチを救うという展開自体には変わりないが、ルートごとにラスボスや展開が異なるため、二週目以降もダレずにプレイすることができたため、第二章クリア後はサクサクと読み進めることができた。
ミネットルートだけは世界のピンチ等のスケールの大きな展開はなく地味な内容ではあるのだが、その分ミネット、アバディーン、アヴリル、ミリアムの4人に焦点が当たったシナリオとなっており、加えてミネットと主人公の関係性の掘り下げも他ヒロインよりも深かった。
サブヒロインのトルティア姉妹とニナのシナリオが用意されているのも嬉しかったが、ニナのシナリオのビターな終わり方は、ハッピーエンドの他シナリオと比べると違和感があった。
トルティア姉妹のシナリオは満足できる内容で、サルサとリトスそれぞれと個別に親交を深めるエピソードを交えつつも、きっちりと「姉妹」としての魅力もあって素晴らしかった。
プラスストーリーは新規に収録されたもののため、残念ながら新規音声の収録が難しいニックやニナ、アヴリルなどは適当な理由をつけて登場しない。
ストーリーが3つあるが本編クリア後のストーリーではなく、主人公が誰とも結ばれるないまま数年ほど経過した平行世界が舞台となっている。
ミネット&ミリアムのストーリーは本編のミネットルート準拠だが主人公とは恋人にならなかった世界のストーリーで、冒険者となったミネットとミリアムの成長物語となっている。
ぶっちゃけると次回作「悠久のカンパネラ」の宣伝を兼ねた内容で、ストーリー中の事件で身体的にも成長したミネットとミリアム(見た目は悠久のカンパネラに登場するのと同じ)の3Pも見ることができる。
カリーナ&アニエスのストーリーも主人公が誰とも恋人にならないまま数年が経過した世界が舞台で、アニエスが自分の恋心を押し殺しながら主人公とカリーナの恋を応援する内容となっている。
本編のアニエスシナリオの三角関係は主人公がカリーナをふってアニエスを選ぶという常識的な決着をつけざるを得なかったのに対し、割と何でもありなプラスストーリーでは最後は二人揃って恋人になるという本編ではできない結末に持っていくのがよかった。
トルティア姉妹のストーリーは主人公が既に姉妹と結ばれた後の話で、本編からの延長線の世界なのか別の世界なのかはプレイしていてわからなかった。
姉妹と恋人になってからしばらく経過しているため、本編では見ることのできなかった深い信頼関係を見ることができたのがよかった。
●グラフィック・エッチシーン
本作のグラフィックのボリュームは106枚+SD絵9枚と非常に満足度の高いものになっている。
解像度が上がったとはいえ、比率が4:3なこと以外は10年以上前の作品だと感じさせない原画と塗りのクオリティには感心した。
立ち絵も表情豊かなことに加え、コミカルなデフォルメの立ち絵もあるため、キャラクターたちが活き活きしていた。
本作のエッチシーンの回数は17回と非抜きゲーとしては標準的な回数となっている。
内訳はメインヒロイン4人が3回ずつ、ニナが1回、サルサ&リトスが2回、ミネット&ミリアム、カリーナ&アニエスの3P(プラスストーリーに収録)が1回ずつとなっている。
エッチのプレイ自体は非常にオーソドックスな恋人同士のものばかりだが、尺は長く1シーンで使用されるCGも多いため各シーンの満足度は高かった。
●システム・コンフィグ
オリジナル版は未プレイのため当時のものからアップデートされているのかはわからないが、本作のコンフィグやシステムは現代のエロゲーとしても問題ないものだった。
しかし、マウスカーソルの自動移動をオフにできなかったり、エッチシーンでは中か外かを事前に選べなかったりと細かい部分では不満もあった。
また、キャラクター別に音声も調整できるのだが、戦闘中やアイキャッチ画面の音声がマスターボリューム依存のためか、うるさく感じることがあった。
戦闘シーンでは「攻撃する」「回避する」などの選択肢を選びながら戦闘するのだが、もちろん選択肢を間違えてしまうと敗北してしまう。
とはいえ、殆どの戦闘ではキャラクターの会話によって正解の選択肢を示唆してくれるし、敗北してもすぐにリトライすることが可能なので、ゲーム性を出すためではなく、あくまでも世界観演出のためのフレーバー要素だと感じた。
他にもクランOasisがどのクエストを受けるのかもプレイヤーが選択するのだが、こちらは単なるフレーバーではなく、ヒロインの分岐に関係してくる。
どのクエストがどのヒロインの好感度に関係しているかは一見してもわからないため、一周目から狙ったヒロインを攻略するのは難しいかもしれない。
●まとめ
オーソドックスなファンタジーRPGをうまくADVのみのゲームに落とし込んでいる作品で、戦闘やクエストの受注などを選択肢形式にするなど演出も凝っていた。
気軽に読み進めることができる緩い雰囲気も魅力の一つで、クランOasisのメンバーの前向きな姿勢や、ゆるキャラと言えるモンスターの可愛らしい造形もよかった。
グラフィックを含めて古い作品をプレイしていると感じさせないクオリティだったし、むしろファンタジーRPG風の世界観をADVだけで完成させている作品は珍しいため、今でもプレイする価値はある作品だった。