引っ込み思案の朔が頑張る姿がかわいかった。
幼馴染の醍醐味を存分に堪能できる丁寧に作られた作品。
ロープライスではあるがヒロインを一人に絞っているため、付き合うまでの過程がしっかりと描かれており、幼馴染から恋人へと変化していく関係もしっかりと楽しむことができた。
主人公とヒロインの朔は一つ屋根の下ではあるが、主人公の家に居候して既に一年以上経過している状態で物語が始まるため、初々しさよりも落ち着いた夫婦感が出ており、それが幼馴染らしさを強調していた。
これといった盛り上がりもなく、ほのぼのとした日常シーンが連続しているだけの物語なのだが、シナリオの流れが自然なためにダレずにサクサクと読み進められたし、更にはヒロインの成長物語としても素晴らしかった。
主人公の部屋のエアコンが壊れて二人の部屋がアイベヤ化したことによって関係が変化していくのだが、アイベヤ化だけでなく、主人公と一緒に本屋でバイトを始めたり、テスト勉強などを通してクラスメイトとも積極的に交流を持ったりと様々な出来事が二人の関係の変化のきっかけとして描かれている。
アイベヤ化もいきなり完全なアイベヤになるわけではなく、最初は半分くらいスライドドアが開いた状態で扉越しに会話していたのが、徐々にドアを全開にする時間が増え、最後には恋人になり境目がなくなるという展開は素晴らしかった。
モブキャラである二人のクラスメイトもいいキャラをしており、事あるごとに彼女がほしいと口にする友人の哲男のおかげで主人公も否応なく恋愛というものを意識するようになるし、朔の友人の玲奈も物語において重要な役割を果たしてくれる。
学園では友人二人を合わせた4人で行動することが多いのだが、実は玲奈も哲男に好意を抱いているため、女子二人がそれぞれ男二人と仲良くなるために共同戦線を張るという展開になる。
引っ込み思案な朔も玲奈と一緒ならばと4人で遊びに行ったりと積極的に行動する自然な理由付けにもなっていたし、モブキャラとはいえ登場人物が多いことによる学園生活感が出ていたのもよかった。
ただ、モブキャラ故に立ち絵どころか音声もついていないのは残念な点で、キャラクター性がよかった故に残念だったというのもあるのだが、4人中3人が音声なしだと誰が喋っているのかわかりづらいという問題もあった。
シナリオ構成だけでなく、ヒロインの朔が素晴らしいのが本作の何よりの魅力と言える部分で、ロープライスながらヒロインを単独としていることもあり、朔の魅力を堪能することができた。
公式HPのコンセプトやキャラ紹介にも書かれている通り「引っ込み思案」というのが朔を表現するキーワードで、引っ込み思案な朔なりに頑張る姿はとにかく可愛かった。
人見知りなことに加え純粋で人のいい朔は、プレイヤーからしたら恋愛感情よりも庇護欲が湧くタイプなのだが、物語を通して成長していく姿を見ていると恋愛感情も抱くようになってくる。
主人公も同様で物語序盤ではバイトを始めたばかりでアタフタしたり、クラスメイト男子との会話すら主人公の後ろからするという姿に対して庇護欲に近いものを抱いていると思われるのだが、一人前に接客したり、クラスメイトとも普通に会話できるように成長していくにつれ、朔を一人の異性として意識していくようになる。
朔の方は公式HPにも書かれている通り、物語開始時点から主人公のことを異性として好いているため、結果として朔が主人公に振り向いてもらうように頑張る展開となる。
好きな人のために苦手なことを頑張るという姿は、それだけヒロインの想いの強さを実感できるものだったし、その結果としてヒロインが人として成長していくのも感慨深いものがあった。
幼馴染としても朔は魅力的で、異性相手では主人公にだけは物怖じしないというのは関係の長さや信頼されていることを実感させてくれるし、物語序盤ののんびりとした関係性もよかった。
そこからアイベヤ化をきっかけに、少しずつドキドキする関係へと変わっていくという展開も幼馴染モノの王道だった。
本作のCGのボリュームは17枚+SD絵が3枚となっており、価格を考えるとやや物足りないボリュームとなっている。
反面、クオリティは素晴らしいもので、絵買いしても後悔しないものだった。
前髪で片目が完全に隠れており、もう片方の目も半分くらい隠れているというキャラクターデザインは珍しいと同時に、朔の引っ込み思案な性格ともマッチしていた。
物語中盤からはヘアピンをして片方の目はしっかりと見えるようになるのだが、あくまでも片目だけなので、キャラデザに惹かれた人にも不満のない範囲で朔が頑張ってオシャレしている雰囲気を出した変化だった。
ヘアピンをするようになった後も、寝間着の時などはヘアピンを外した状態で片目も半分隠れた状態に戻るなど、細かい部分まで丁寧に描写されていた。
服装の種類が多いのも嬉しい点で、制服や私服、寝間着だけでなく、水着や浴衣も立ち絵を含めて用意されており、更には服装に合わせて髪型も変化するという手の込みようだった。
エッチシーンの数は5回で各シーンの尺は長いとは言わないが、それぞれのシーンでCGを2枚使って前戯→本番への流れも描写していることもあり、萌えゲーとしては満足度の高いものだった。
エッチの内容自体には特筆すべき部分はないのだが、服装や体位にはしっかりとバリエーションが設けられており、飽きたりダレたりしないように配慮されていた。
ピロートークのCGも用意されているのもよかった点で、エッチ後の甘い余韻も楽しむことができた。
コンフィグやシステム面は普段フルプライス作品にも使っているエンジンなだけあって、細かい部分まで設定可能だし機能も充実している。
ロープライス作品にも関わらずヒロインのシステムボイスがついているのも嬉しい点だった。
ただし、ウィンドウモードのウィンドウサイズは自由に変更することができず、1280*720の次に大きいサイズが1980*1080なため、フルHDモニターの自分の環境では実質1280*720のサイズしか選択肢がない状態だった。
自分が遭遇した不具合としてゲームを起動するたびにシステム効果音の音量設定が最大になってしまうものがあったが、MUTEの設定は再起動しても解除されないことに加え、ヒロインのシステムボイスはシステム効果音とは別扱いでMUTEにしても再生されるため大きな問題ではなかった。