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Predawnvagabondさんの紅月ゆれる恋あかりの長文感想

ユーザー
Predawnvagabond
ゲーム
紅月ゆれる恋あかり
ブランド
CRYSTALiA
得点
80
参照数
631

一言コメント

ヒロイン同士の友情が素晴らしかった。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

・シナリオ

「刃道」という未来の剣道をテーマにしたスポ根もので、主人公は教師として問題児たちが集められたクラスの副担任としてヒロインたちを指導していく。
ストーリー構成が独特で、一般的な共通ルートと個別ルートの構成ではなく、刃道とその大会である演武祭を主軸とした「本編」と演武祭後に特定のヒロインとの仲を深める「キャラクターエピソード」という構成になっている。
一対一である刃道ではクラスメイトもライバルなため、教師である主人公が誰か一人に肩入れするという展開はまずいし、かといって恋人生活を送りつつも指導は平等という展開も味気ないので本作の構成は正解だと感じた。
また、刃道は部活動ではなく授業ということを考えると、クラスや学年が違うとヒロインとの接点が大きく減ってしまうため、ヒロインたちを纏めて一つのクラスに集める展開も正解だったと思う。
ただ、公式HPにも「物語は『風嶺VS朱雀院』を軸に進みますが」と書かれている通り、演武祭での決勝カードが最初から予想できてしまうので、どちらが勝つかというドキドキ感は殆どなかったのは本作の構成の問題点だと感じた。
他の特徴としては本編ではエッチシーンが皆無に近いことで、プロローグの雪月花のオナニーシーン以外はマッサージとか一緒にサウナみたいなちょっとエッチなイベントのみで、オナニーシーンを省いてしまえばそのままコンシューマー版として発売できそうな内容になっていることが挙げられる。

本編の内容は主人公のキャラクター性のお陰で魅力的なスポ根ものとなっており、友人兼ライバルというヒロイン同士の関係性や教師と生徒という関係性が魅力的に描かれていた。
熱血で真摯な教師と言える主人公のキャラクターが素晴らしく、ヒロインたちは剣士とはいえ同時に学生でもあるため、学園で掛け替えのない宝(親友や仲間)を見つけてほしいという教育方針で生徒たちを指導する。
そのため、最初は誰とも交わろうとしなかった紅葉、風嶺家としての責任感で紅葉打倒しか頭にない雪月花、ワガママギャルの梨々夢、主人公以外には興味がない旭と問題児ばかりだったのに、それぞれが友達として、そしてライバルとして仲を深めていくことになる。
特に印象的だったのはやはり雪月花と紅葉の二人で、お家の都合のために手加減なしで全力でぶつかる必要のある相手ではあるのだが、それはそれとして互いに友情を深めていく。
そんな二人が最後にぶつかり合う展開は非常に熱いもので、それでいて二人が物語を通して育んできた友情を感じられる素晴らしいものだった。
人間関係については素晴らしかった半面、雪月花を除けば特訓シーンは地味なものが多く、特に、技術面では完成している紅葉は座禅という面白みのないものだった。
しかし、みんな演武祭までにはかなりの実力をつけていたことを考えると、主人公の教師や刃道の教官としての能力は疑いようがないため、単に見せ方の問題なのだろう。

戦闘シーンについては初代の「絆きらめく恋いろは」と比較すると落ちる印象で、技名を叫んで誤魔化すような戦闘が多かった。
恋いろはでは天呪の力で身体能力が向上していたものの、特殊能力などは存在せずあくまでも剣戟だったはずだが、今作では幻影を見せたりと特殊能力も存在しているため中途半端に異能バトル感もあった。
試合も恋いろは程は熱くないもので、試合の尺が短くなったこともあり淡白な印象を抱いた。
シナリオを一本としたことによって試合数そのものが減ったのも問題で、恋いろはではヒロインたちが予選メンバーに選ばれるまでを共通ルート、予選から決勝までを個別ルートとしていたため演武祭が実質四回あったのに対し、本作は当然ながら演武祭が一回しかない。
そのためか、予選を変則トーナメントという形式にして試合数を多くしようとしたりと工夫の痕跡はあるのだが、別に予選の試合数が多いというわけでもなく、あっさりと決勝に進んでしまったので、刃道の試合は全体的に物足りないと感じた。

上述のように本作では個別ルートの代わりに「キャラクターエピソード」というものが用意されており、本編後に主人公がヒロインの内の誰かと付き合うという内容になっている。
公式HPでは「ラブラブイチャイチャ満載のお話が楽しめる《キャラクターエピソード》がプレイできる構成になっています」と書かれているが、かなり好意的に考えても満載には程遠いボリュームで、本編の方はそれなりのボリュームだったとはいえ個別ルートの代わりとは言えないものだった。
CRYSTALiAが以前発売したミニFDよりもボリュームが大幅に少ないもので、更には本編ではずっとお預けにされていたエッチシーンも尺が短いものが2回だけという残念なことになっている。
本編とキャラクターエピソードに分割する構成自体はありだと感じたが、本編では省かれたイチャラブを補うのには到底足りないボリュームのせいでヒロインの魅力が半減しているのは残念だった。

シリーズとしては四作目だが、今作は前の三作よりも過去の出来事となっており、過去作のプレイの有無に関係なく楽しむことができるようになっている。
初代の「絆きらめく恋いろは」ほど丁寧に世界観や刃道について説明してくれるわけではないが、世界の成り立ちなどは本作を楽しむ上で必須ではないため、刃道に興味が出た人は過去作もプレイしてというスタンスなのだろう。
ただ、刃道は選手だけでなく介添人という試合のサポーターや刀を作刀する刀匠も存在し、恋いろはでは主人公を刀匠兼介添人とすることで多角的に刃道を描けていたのに対し、本作では選手にしかスポットライトが当たっていなかったので、刃道についての面白さを十全には描写できていないと感じた。
時系列的には「絆きらめく恋いろは」の10~15年くらい前と考えられ、恋いろはのヒロインである椿やラスボスとなる都子の幼い姿を見ることができるのは嬉しいファンサービスだったが、ストーリーに関わってくるわけではないため、前作未プレイの人にとっても問題のないファンサービスだったと思う。
他にも微妙にシリーズとの繋がりを感じる要素はあるが、個人的に一番面白いと感じたのは梨々夢が恋いろはの時代の制服をデザインしていたという点で、同じ叢雲学園が舞台なのに今作と過去作で制服が違うことには気づいていたが、そういった地味な部分にもシリーズの繋がりを感じる要素を入れているのはファンとして嬉しかった。


・グラフィック

本作のCG枚数は85枚+SD絵6枚となっており、フルプライスとしては標準的なボリュームとなっている。
原画、塗り共にハイクオリティの満足度の高いもので、戦闘グラフィックも迫力のあるものだった。
立ち絵は喋りながらも差分が切り替わる仕様だが、頻度は低いためあまり印象に残らなかった。
やや残念に感じた点は服装の種類が少ないことで、特に刃道の授業で刀を振っている時に普通の制服なのは違和感があったので、体操着的なものがあってもよかったのではないかと感じた。


・エッチシーン

本作のエッチシーンは16回となっており内訳は雪月花が4回、紅葉、旭、梨々夢が3回、ヴィクトリア、雫、園美が1回ずつとなっている。
サブキャラにもエッチシーンがあるのは嬉しかったが、蛍雪だけはエッチシーンが存在しないのは残念だった。
キャラクタエピソード中には各ヒロイン2回ずつエッチシーンがあり、残りの1回は本編のストーリーの進行に合わせてシーン回想モードで見ることができるようになるもので、本編のちょっとエッチなイベントのR18版となっている。
サブキャラの3人はクリア後に回想モードから見ることができるタイプのためシナリオは存在しないが、既に恋人になってしばらく経ってからのシーンのため甘々な雰囲気だった。
クオリティに関しては残念なことになっており、萌えゲーということを考慮に入れても尺が短く、エロ方面に関しては本作では期待すべきではないと感じた。
エッチシーンに使用されるCGもメインヒロインですら一人当たりの合計が4~5枚、サブキャラは各1枚と非常に少なく、場合によっては前戯のシーンでは背景だけが表示される状態でテキストと音声のみが流れるというギャグみたいなシーンまであった。


・システムとシステム

本作のコンフィグ・システム面は充実しており、最低限必要な機能に加え、キーボードのFキーや右クリックの機能割り当てやウィンドウサイズの任意変更などもあるため快適にプレイすることができた。
鑑賞モードの全開放機能も存在するため、クリアするのが面倒ならアンロックしてしまうことも可能だが、本作の場合は別に先を急いでエッチシーンを解放する必要性はないと感じた。
機能面ではバックログジャンプやお気に入りの音声機能の登録など、最近では標準になりつつある機能は一通り用意されていた。


・まとめ

作品の肝である刃道が面白くないわけではないし、教師である主人公と生徒のヒロインという関係性も魅力的に描写されていたが、シリーズ第一作目と比較すると全体的に盛り上がりに欠けるものだった。
個別ルートの代わりとなるキャラクターエピソードも満足とは程遠いボリュームのためヒロインとのイチャラブが大きく不足しており、ヒロインの魅力を十分に堪能することができなかった。