SFというよりもセカイ系と言ったほうが近いかもしれない。
渡辺遼一氏(以下、ファッキン)が単独でライターを担当した作品というと、以前「すみっこ」というブランドで制作された「はるまで、くるる。」、「なつくもゆるる」「あきゆめくるる」というSF作品群(以下、ブランドは異なるが過去作として扱う)の印象が非常に強いのだが、ブランドこそ異なるものの、本作も似たジャンルの作品となっている。
ジャンルだけでなく、全開のファッキン節が楽しめるのも同様で、「すみっこ」が活動停止に近い現状では、ファッキンの新しいSF作品をプレイすることは難しいと思っていたので、シルキーズで精神的続編がプレイできるのは非常に嬉しかった。
まず、シナリオを別として、テキストや会話についてだが、相変わらずシモネタ満載で、独特の文章や軽妙なやり取りは読んでいて非常に楽しかった。
比喩表現や擬音語(擬態語)が豊富に使用されており、「ピチピチの全身タイツを着せられたら、反射的にやってしまいそうな動作」などの普段は絶対に使わないような表現が満載で、文章自体が読んでいて面白かった。
また、キャラクターの動きを独特の比喩表現で特徴づけることで、紙芝居タイプの作品なのに、キャラクターの動作をも特徴の一つにしている(特に八乙女)のは上手いと感じた。
センターヒロインの更紗サリの声優チョイスも絶妙で、コミュ障でおっかなびっくりな喋り方と藤咲ウサ氏の声や演技は完璧過ぎる程にマッチしていた。
ちなみに、物凄くどうでもいいことだが、過去作の「あきゆめくるる」でも、藤咲ウサ氏が「サリ」という名前のキャラの声優を担当していた。勿論、別ブランドの作品なこともあって、関連性は全くなかった。
シモネタも空気を読まずにぶっ込んでくるキャラや、エッチな知識が欠けているせいで無自覚に爆弾発言をするキャラ、知識はあるが常識人のために照れながら叱る役など、バランス良く役割分担ができていたので、会話のテンポが非常に良かった。
もう一つ印象に残った点としては、悪友ポジションのゲイの嶽山で、友人キャラがホモでそれをネタに笑いを取るというのは珍しくないが、本作の場合、単に笑いのネタにするだけでなく、本人のゲイであることの悩みを少し掘り下げたり、周りの人間は嶽山に配慮して積極的にはネタにしないのだが、本人がネタを振ってきた時にはしっかりと乗っかたりと、昨今の時代の流れを感じるものだった。
SF部分を除いた日常シーンや部活のシーンだが、残念ながらボリューム不足だとは感じてしまったが、内容自体は非常に面白かった。
主人公たちが立ち上げるプレッパーズ部は、エロゲ恒例の変な部活ではあるのだが、終末に備えるという活動目的はともかく、やっていることは、トレッキングの訓練や地図の読み方、現地調達重視のキャンプなど、ややサバイバルに寄った山岳部みたいな内容だった。
自分がアウトドアが割と好きなこともあって、プレッパーズ部の部活動は本当に楽しそうで、特にキャンプに行くシーンは自分も参加したいと強く感じるくらいだった。
また、咲はアウトドアショップの跡取り娘のために知識があり、指導役を果たしてくれるので、登山道から離れた場所にキャンプに行く場合でも、きちんと訓練を行い、初心者向けの場所を選定してという描写があるので、何も考えずに危ない場所に登山&キャンプするという無謀さが無いのも良かった。
SF部分は過去作と比べた場合、本作では明確にSF作品であることを謳っていないためか薄味だった。
とはいえ、量子論や時間の概念、脳科学の話などが出てくるので、本作もSFと言えるのではないかと思う。
また、ループもの(平行世界への移動の方が正しいかもしれない)である点も過去作と同様だった。
ただし、過去作では物語の序盤から作品を理解する上で必要な科学的な知識、作品独自のSF設定などが順当に語られていくのに対し、本作では終盤で一気に語られる構成のため、プレイ中に伏線から考察することはできなかった。
主人公も雅孝が単独というよりは、ツバキとのダブル主人公と言える構成で、SFや謎解きに関してはツバキが雅孝の知らない裏で動いているため、主人公はループしていることや、終末の謎についても基本的には関知しておらず、また、ダブル主人公と言いつつも、大半は雅孝視点で進行するため、プレイヤーも雅孝同様に置いてけぼり状態だった。
更に、ループするタイミングや条件が曖昧で、唐突なタイミングで時間が戻るので、考察のネタが少なく、頭の中にハテナが一杯ある状態で次のループに放り込まれるのはもどかしかった。
ちなみに、雅孝とツバキの視点も唐突に入れ替わるのだが、これは二人の関係性を表すための伏線で、むしろプレイしていて感心した。
また、単なるネタシーンだと思っていたら、実はそれが伏線だったりと、世界の謎に関して以外では、伏線が上手く使用されていた。
過去作同様に本作も突き詰めれば、特殊な能力を持った少年少女の物語と言えるのだが、過去作は人為的にせよ自然発生的にせよ、進化した人類という扱いだったのに、本作の場合はその辺りが曖昧でご都合主義的だった。
そのため、世界に終末が訪れるか否かは主人公やヒロインの心の持ちようだし、説明不足で疑問が残ったままだし、順序立てて問題を解決するわけではなく、勢いで押し切ってしまったので、ジャンル的にはSFというよりもセカイ系の方が近いと感じた。
ただ、読後感が悪いとか不完全燃焼とは感じなかったので、上手く勢いで押し切っていると言えなくもなかった。
また、本作では人間の脳についても言及されており、現実とは脳が認識している幻想に過ぎないと強調されているので、実は登場人物の認識で世界が大きく変わってしまうのも、実は本人たちだけが終末だと認識しているという考察は成り立つと思うので、そう考えるとSFとしての側面もしっかりあると言える。
本作の大きなテーマの一つは”終末”なのだが、正直に言うと自分が思っていたのとはちょっと違った。
序盤にプレッパーズ部としての部活動を描き、中盤以降に本当に終末が訪れて、部活での経験を活かしてサバイバルみたいな流れを想像していたのだが、実際には終末が訪れる(訪れそうになる)と、即、次のループに入るため、プレッパーズ部の知識を実際に活かす場面はなかった。
序盤は人々が直面しているが無自覚、あるいは目を逸らしている様々な終末の可能性を挙げ、更にはツバキの視点を通して世界の裏情勢を描くことで、終末に対する現実感を高める演出があったのに、実際の終末の描写がないのは肩透かしだった。
ただ、雅孝のルーツとも言える、圧倒的な何かにメチャクチャにされたい、あるいは世界の果てに行きたいという願望は、上手く本作の世界観とマッチさせることができていたし、最後まできちんとフォーカスを当て、最後の最後では雅孝なりの答えを見つけ出していたのは評価できる部分だった。
本作は完全な一本道となっているのが、個人的には少々残念なポイントだった。
各ループでは焦点が当てられるヒロインが決まっているのだが、ループが比較的短いため、許容範囲内ではあるものの、全体のボリュームが少なめだったし、各ヒロインと主人公の関係の掘り下げが物足りなかった。
ループする直前に選択肢が発生するのだが、次のループに行かず、その世界に留まる選択肢を選んだ場合は、ごく短いテキストが表示されてエンドロールになってしまうので、その辺りも納期の都合で端折られたみたいに感じてしまい、不満を感じた原因なのだと思う。
特に八乙女の場合、恋人未満のままで終わってしまう不完全燃焼っぷりで、下の名前を呼ぶ関係にすらならないので、華江という下の名前を知ったのは公式HPだった。
過去作では、最終的にトゥルーのルートに収束はするが、各ヒロインのルートが存在し、主人公とヒロインの関係がもっと描写されていたので、その辺りはもう少し頑張ってほしいと感じた。
本作のCGのボリュームは80枚となっており、フルプライス作品としては標準的なボリュームとなっている。
上述のように、全体のボリュームが少ないため、気前よくCGを使っているように感じたのだが、実際に終わってCGを数えてみると標準的な枚数だったと気づいた。
Hシーンが少ないために、通常のイベントCGが多いのも、そう感じた理由の一つだと思う。
個人的にはストーリー重視の作品には、HCGよりもイベントCGにボリュームを割いてほしいと考えているので、本作の配分はちょうどよいものだった。
クオリティは塗り・原画共に高かったものの、特筆するほどではなかった。
立ち絵は喋りながらも動くタイプだったので、会話シーンを目で楽しむこともできた。
Hシーンの方のボリュームは全部で10回となっており、内訳は更紗と亜美花が3回、八乙女と咲が2回となっている。
ただ、亜美花以外の3人のCG枚数は各ヒロイン同じなので、総合的なボリュームは大体同じだった。
亜美花はやや特殊で、全てがツバキとのHシーンとなっているので、他の3人とは趣が違った。
また、亜美花は雅孝の親戚ということになっているが、雅孝との絡みは少なく、亜美花に焦点が当てられたループでは、ツバキの方がメインキャラクターとなっているので、通常のヒロインの一人としてはカウントしない方がいいかもしれない。
猥語修正があり、音声が一瞬途切れるタイプだが、そもそもHシーン中は猥語を発することは少ないので、どちらかというと、日常シーンでの下ネタパートで修正を耳にすることが多かった。
Hシーンの回数自体は少ないものの、それぞれのシーンで複数のCGを使い、尺もしっかりとしているので、シナリオゲーの割にHシーンの満足度は高めだった。
シーンの導入が秀逸で、徐々に興奮が高まっていく過程がしっかりとしており、プレイしている側も、最初は日常シーンを読んでいるテンションだったのに、読んでいる内に、気づけばこちらのテンションも上がっていた。
テキストも童貞が初めて女体を生で見た興奮が物凄く伝わってくるテキストで、読んでいて面白かった。
シーン内容は、更紗は普通だったが、亜美花の場合はレズプレイに近いし、八乙女の場合はアナルセックスや主人公への乳首責め、咲の場合は実はドMでイラマチオされると興奮したりと、回数少なめなシナリオゲーの割には印象に残るものが多かった。
本作のシステム周りについては、必要なものが一通り設定できることもあり、快適にプレイすることができた。
ウィンドウサイズも可変だし、バックログからのジャンプ、選択肢ジャンプもあるため、一本道なのに選択肢でセーブすることを忘れ、やり直すことになっても苦痛がなかったのも良かった。
ちなみに、本作のOP曲は更紗のことを、そしてEND曲では主人公についての曲となっており、プレイ後に歌詞を読んでみると感慨深かった。
・まとめ
SF作品として本作を考えた場合、過去作よりも説明不足が目立ち、ご都合主義を勢いで押し切っている部分が多く感じた。
しかし、独特のファッキン節はしっかりと楽しめるし、プレッパーズ部としての活動は非常に楽しそうで、読んでいて楽しかった。