世界観とかキャラクターは良かったのだが、ボリュームが短すぎて印象に残らない作品だった。
・活かしきれていない世界観と設定
SHUFFLEと世界観を共有する作品で、舞台となる学園こそ異なるが、メインヒロインの一人はSHUFFLEの舞台だった学園からの交換編入生だったりと、同一世界であることは感じたが、それ以上のファンサービスは殆ど無かったので、本作はSHUFFLEに関する予備知識に関係無くプレイできるものだった。
しかし、人間界・魔界・天界の三界が交わっているシリーズの世界観について、SHUFFLEよりも深く踏み込んでおり、三界が交わったことによる世界の変化を賛否両論で描いていた。
ただし、登場人物に魔族は一人もおらず、ヒロインも全員人間(出自に世界観が関わっているヒロインもいるが)なので、イマイチ世界観を活かしきれていないと感じた。
とはいえ、主人公は人間に偽装して学園に潜入している神族なので、好意的に見ると、本作では人間が神族・魔族に対してどう思っているかについてを描いた作品とも言える。
SHUFFLE15周年記念作品の第一弾とのことなので、本作では世界観の触りだけを説明し、SHUFFLE2(仮)で主人公を人間にし、魔族、神族のヒロインを登場させるつもりなのかもしれない。
事実、神界の姫君が近く人間界へ留学するための下調べが主人公の潜入理由なことと、姫君が人間界に留学というのもSHUFFLEを彷彿とさせる設定なので、個人的には本作は15周年記念のプロローグ的な位置づけなのではないかと感じた。
SHUFFLEのことは脇に置いて、本作についての感想を一言で述べると「薄味」というのが率直な感想で、ストーリーの内容やヒロインの魅力は悪いものではなかったのだが、余り印象に残らないものだった。
「神族・魔族・人間族が登場する」、「人間しか通えない学園に神族が潜入」などの本作ならではの設定に加え、一部ヒロインとは寮、あるいは部活が同じなど、定番だが上手く扱えば面白くなる要素は多かったのに、それぞれの要素で印象に残るようなシーンは非常に少なかった。
種族ごとの違いや、主人公が潜入していることによる騒動は、物語終盤での盛り上がりとしてはそれなりに有効に使われていたが、それ以前の共通ルートや個別ルート終盤までは余り目立たないものだった。
長期の潜入任務ならともかく、二ヶ月という短期の潜入任務なのに、上官からも現地で恋人を作ることを推奨されるし、任務終了後は文字通り世界を股にかける遠距離恋愛になるはずだが、実際には隣県に行く程度の感覚で行けてしまうので、任務と恋愛の間で悩むみたいな展開は殆どなかった。
部活にしても、魔法研究部という活動内容が曖昧なものを扱ったために、ただ困っている人を助けてばかりいる印象が強かった。
個人的に特に残念だったのは、同じ寮に住んでいながらも申し訳程度の短い定番イベントがいくつか用意されているだけな点で、非常に物足りなく感じた。
また、ヒロイン同士は同じクラスだったり、寮だったり、部活だったりで、それなり以上に関わりがあるはずなのに、ヒロイン同士の会話シーンが少ないのも残念な点だった。
総じて、フルプライス作品としてのキャラクター数や設定が用意されているのに、全体のボリュームがミドルプライス作品程度しかないのが問題で、それぞれのシーンが短くて印象に残らないものになっていた。
説明不足というか描写不足気味になっている点も散見され、例えば、主人公が高スペック人間として周りから一目置かれている(実際にスペックは高い)のだが、プレイヤーからすれば、活躍した場面が殆ど無いのに、いつの間にか周りの評価が高まっていたので違和感があった。
他にも、ヒロインとの共通ルートのイベントが少ないのに、共通ルートの終わりに告白されるというのも唐突に感じた。
ボリューム不足のせいで残念な部分の多かった本作だが、各個別ルート終盤の盛り上がりは本作の設定を活かしたものになっており、物語の結びはしっかりとしたものだった。
やはりボリューム不足なせいで唐突感はあるものの、ローズやみずきの意外な出自や、神族嫌いの珊瑚とクロムの恋愛など、終盤は引き込まれる展開になっていた。
また、ルートによっては世界観や、主人公の諜報部所属という設定が活きる内容だったのもよかった。
ただし、終盤の盛り上がりもやはり薄味で、「ここからどうなるんだ!?」と考えながらプレイしていたら、あっという間に解決してしまうので、物足りなく感じてしまった。
珊瑚ルートのみは終盤でもそれなりの尺があるだけでなく、本作の世界観や設定をきちんと活かした内容で、しっかりと楽しめたので、どのルートも同クオリティだったのなら、もっと評価できたのではないかと思う。
・CGボリュームも不足
ボリュームが不足しているのはシナリオ面だけでなく、グラフィック面でも同様で、CG枚数は61枚とフルプライスとしては明確に物足りないと感じるボリュームだった。
ただ、シナリオも短いため、プレイ中に特にCG枚数が少ないと感じなかった。勿論、全体のボリュームが少ないとは感じたが。
ちなみに、CG枚数はパッチを当てると+6枚されて、計61枚となるため、今からプレイするなら忘れずにパッチを当てたい。
CGのクオリティ自体は高く、塗りも丁寧だったので、シナリオ同様に「ボリュームさえあれば・・・」と感じてしまった。
・薄味のHシーン
本作のHシーン数は全部で12回で各ヒロイン4回ずつとなっている。
しかしながら、上述のCG追加パッチで珊瑚に2回、みずきに1回追加されるので、今からパッチを当ててプレイするなら問題ないのだが、自分の場合はクリア後にパッチが出たため、スキップ機能を使って事務的に回収したシーン2回を含む珊瑚の4回と、他ヒロインの4回を同じ4回とカウントするのは抵抗があるというのが正直なところだった。
間に合わなかったとはいえ、発売後にでも補完するという姿勢は好感が持てるが、やはり、発売時に完成形として出してほしかった。
Hシーンの内容の方だが、回数こそはフルプライス作品としての標準範囲に収まっているが、それぞれのシーンの尺は非常に短く、シナリオやCG同様に、やはり物足りないものだった。
特に珊瑚とローズの二人は短く、あっという間に終わってしまったが、残り二人も標準レベルよりも短かったので、一応各シーンでCGを2枚使用して、前戯→本番という構成にはなっていたのだが、殆ど印象に残らない内容だった。
あえて挙げるのなら、珊瑚とローズの授乳手コキシーンくらいだろうか。
・システムとコンフィグについて
本作のシステムやコンフィグ面は大きな不満のないもので、必要な設定はゲームのコンフィグで設定可能だし、更に細かい部分はエンジン設定から設定できるので、概ね快適にプレイすることができた。
更に、シーンスキップ機能や、プレイ中でもCGや立ち絵を拡大する機能、前回中断した場所から再開する機能、ウィンドウサイズ可変機能も搭載されていた。
ただ、共通ルート中でもCGのあるイベントが選択肢によって発生するため、回収するためには共通ルートを4週する必要があった(選択肢を吟味すれば、共通ルート後半を繰り返すだけでいいかもしれない)ことと、上述したようにパッチで追加されたシーンを回収するためには、追加で二週する必要があったので、選択肢スキップ機能もほしいと感じた。
逆に、前の選択肢に戻る機能はあるので、目当てのヒロインと異なるヒロインの好感度が上がる選択肢を選んでしまった場合、簡単にやり直すことができた。
システムやコンフィグとは関係ない部分ではあるが、日常シーンのBGMの内の1曲が微妙にシリアスというか神秘的(RPGだと神殿で使用されてそうな)なもので、余り雰囲気にあっていなかった。
・まとめ
世界観や設定、登場キャラクター数がしっかりとフルプライス作品のものとして作られていたのに、全体のボリュームがミドルプライス相当だったので、印象に残らない薄味の作品になっていた。
キャラクターや世界観、グラフィックは魅力的だったので、ボリュームさえしっかりしていれば、良作になったのではないかと思う。