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Predawnvagabondさんのレイルロアの略奪者の長文感想

ユーザー
Predawnvagabond
ゲーム
レイルロアの略奪者
ブランド
3rdEye
得点
90
参照数
710

一言コメント

主人公の掘り下げが少ないのが残念だったが、ストーリーは面白く、最後までサクサクと読み終わってしまった。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

・ファンタジーにSFが融合した魅力的な世界観

現代とファンタジー要素が融合していた過去作と異なり、本作は中世風のファンタジーが舞台となっているのだが、ダブル主人公や中二病全開のネーミングセンスなどの3rdEyeらしさは健在で、過去作同様に異能力活劇を楽しむことができた。
また、完全な中世風ファンタジーというわけではなく、現代の遥か未来という時代設定のため、朽ち果てた現代(近未来?)の廃墟やハイテク兵器などのSF要素もあり、それも本作の魅力の一つだった。
プレイを開始してしばらくはファンタジー要素がメインで、過去の遺物は雰囲気づくり程度かと思っていたのだが、物語が進むにつれて過去の遺物や技術がストーリーに深く関わってくるようになり、それだけでなく、未知の技術に対する人々の行動というSF定番のテーマも扱っており、単純なファンタジー作品とは違う面白さがあった。
テーマという点では、未知の技術への直面以外にも、自分が正しいと思うことと、社会や常識として正しいとされていることの対比もテーマと言えるもので、主人公たちを筆頭に主要な登場人物は迫害される側に何らかの形で深く関わっているため、自身の信念・良心に従うのか、あるいは組織や社会の正しさに従うのかという状況に立たされ、その時にどのような決断を下すかも見どころの一つだった。
ただ、世界観は非常に魅力的だったものの、掘り下げ自体は良くも悪くも浅めで、あくまでも登場人物たちの人間的な成長や事件、陰謀の解決がストーリー上の主要部分だった。
3rdEyeは以前からシリアス要素が少な目で王道な作風だったが、本作も同様で、未知の現象や事件に対してもワクワクしつつも比較的安心して(登場人物が過剰に酷い目にあったり、死んだりする心配なく)プレイできたため、疲労感少なくプレイできるのもよかった。
ただ、ピンチの状況で敵が敢えて情けをかけて見逃してくれたり、妙に諦めがよかったりと、若干ご都合主義的に感じる場面もあったのは少々残念な点で、そこはもう少し主人公サイドに頑張って切り抜けるようにしてほしかった。


・特徴的なダブル主人公構成

3rdEye作品の最も特徴的な要素は主人公が二人という点で、本作も二人の主人公の視点から物語が描かれている。
主人公たちは中盤と終盤の山場では共同戦線を張るものの、それ以外は共通の目的を持つこともなく独立して動くため、所属や思想の異なる二人の視点から世界観や物語を楽しむことができるようになっている。
ただ、過去作では前向きで能力的にも人間的にも成長途上にある少年と、裏社会で生きる能力的にも人間的にも成熟した大人の男という組み合わせで、少年漫画的な成長物語と、青年誌的なハードボイルドな作品という組み合わせで世界観を掘り下げていたのに対し、本作ではレノとグレイの二人とも人間的にある程度成熟した状態から始まるため、良い悪いは別にして、過去作ほど二人のストーリーにジャンルの違いは感じなかった。
それぞれのストーリーにクオリティの違いは感じなかったが、個人的にはレノのストーリーの方が面白く、グレイのストーリーをプレイしている時は早くレノのストーリーの続きを読みたいと思いながらプレイしていた。
レノのストーリーの場合、陰謀や事件に積極的に関わることが多く、読んでいてワクワクできる話が多かったのに対し、グレイのストーリーは単にトラブルに巻き込まれるだけのことが多く、また、立ちはだかる相手も個人的な因縁による個人であることが多いため、物語のダイナミックさが薄かった。

レノのストーリーは大きな事件や陰謀に関わるという点に加え、主要人物(ティルト、ミリアリス、ルルニア)の組み合わせが素晴らしく、真面目ゆえにミリアリスに振り回されるティルトとルルニア、普段は人を振り回す側なのに、冗談の通じないレノにだけは逆に振り回されるミリアリスなどの人間関係は見ていて面白く、幕間のシーンも読んでいて楽しかった。
グレイのストーリーは”家族”をキーワードとした物語を描きたかったというのは随所に感じることができたのだが、危機的状況のグレイにとって妙に都合の良いイースラというヒロインの存在や、グレイとフィの関係にしても、出会いのシーンだけは描かれるが、出会いから現在までの描写がないため、お互いに対する想いの強さや、問題が大きくなるのを理解しつつも意地を張り合っていることが共感しづらかったりと、登場人物たちの感情に関する描写が足りていないと感じた。
また、グレイは無所属のため、フィーとイースラ以外のキャラクターの登場頻度が少な目なのも寂しかった。
感情描写が欠けているという意味ではレノの心理描写も不自然なまでに欠けているのだが、アスペルガー的な異常なコミュニケーション能力の欠如、どんな時でも淡々と命令を実行する姿勢などを含めて、レノという人間性を描くための演出で、こちらは心理描写が欠けていることは気にならなかった。

本作で残念だった点として、主人公二人の掘り下げ不足が挙げられる。
過去作では主人公同士は面識がなく、ストーリー中でも行動を共にすることがないどころか、エピローグでようやく言葉を交わすシーンを見ることができるという徹底ぶりだったが、本作ではプロローグでレノとグレイと思わしき少年たちが仲良く遊んでいるシーンと、その後の人生に影響を与えたであろう大事件に二人揃って巻き込まれるシーンが描かれる。
その割には主人公たちが再開した時も、お互いを認識しつつもよそよそしさがあり、過去について語るのを避けているように感じられたのだが、その理由が描写されないため不自然に感じた。
せっかくのダブル主人公なので、二人の関係を掘り下げてストーリーに上手く絡めることができれば、もっと盛り上がる展開になったのではないかと思う。
また、プロローグから本編までの出来事が全く描かれないのも残念な点で、どういった経緯を経て現在の人間性に至ったのかが不明なため、プレイヤーとしては”略奪者”は人々から差別され、行動に制限を受けるという背景設定から二人の過去を想像するしかできなかった。
特に、レノに関してはその特異な内面にフォーカスしているのに、どういった経緯でそのような人間性を獲得したのかを理解するための過去を全く描写していないのは勿体なかった。


・過剰一歩手前の演出

本作は戦闘シーンが多く、しかも殆どの人が異能力を使えるために派手なものが多かった。
そのためか、エフェクトがエロゲーとしては非常に凝っており、自分がプレイしたエロゲーの中ではトップクラスのものだった。
Nitoro+の作品のように斬新な演出を取り入れているのではなく、従来のエロゲー的な戦闘演出を丁寧に作っているため、比較的広い層が受け入れやすい演出なのではないかと思う。
また、単純なエフェクトだけでなく、エフェクトと同時に台詞が入ることも多いので、文字だけでなく音声やエフェクトを取り入れた戦闘は、まさにビジュアルノベルと呼べる戦闘シーンとなっていた。
その反面、エフェクトや効果音をスキップできないため、場面によってはテンポよく読み進めることができず、煩わしく感じることもあった。
特にエフェクトの多い戦闘シーンは面白さよりもテンポの悪さによるストレスの方が強く、物語に集中することができなかった。
顕著なのは第二章でグレイがフィを連れて騎士団から逃走するシーンで、敵はモブキャラとはいえ集団なため登場する異能力(=エフェクト)が多いことに加え、何故か各戦闘シーンが無駄に長いため、途中からは読み流すような感じでプレイしていた。
戦闘の目的が敵を倒すことではなく逃走することにあるため、戦闘が地味なのもダレた理由の一つだったが、これはグレイのシナリオ全般にも言えることで、フィは非戦闘員なこと、グレイの能力は戦闘向きではないこともあって、グレイのシナリオは戦闘シーンが地味なものが多かった。
実際のところ、エフェクトに関しては、第二章以外は戦闘シーンの尺が適切なことと、第二章以降の大規模な戦闘シーンでは複数の視点に切り替わることもあって、煩わしく感じることは少なかったので、総合的には満足のできるものだった。


・戦闘シーンのCGがとにかく多い

本作のCG枚数は94枚となっているが、立ち絵を流用しているだけに見えるものや、1枚としてカウントするには微妙なものもあるため、体感的にはもう少し少なかったが、いずれにしろ、フルプライスとして不満はないボリュームだった。
エッチシーンのCGが10枚だけのため、それ以外のCG、特に戦闘シーンで汎用的に使用されるCGが非常に多く、グレイやティルトは各4枚、レノに至っては能力使用中は見た目が変化することもあって7枚もの戦闘用CGがあった。
それ以外の戦闘を行うサブキャラにも最低でも2枚の汎用戦闘CGが用意されており、全体の4割以上が戦闘CGが占めていた。
上述の演出と相まって戦闘シーンを豪華にしていたのは間違いないのだが、その配分には疑問も残るもので、例えば、戦闘シーンが1回しか存在しないゼタやワストアのために2枚もCGを用意する代わりに、他のシーンにCGを使うことができたのではないかと感じた。
ティルトに至ってはメインヒロインの一人なのに、通常のイベントCGが1枚しか存在しないし、レノやグレイも最初の章でイベントCGを使い切ってしまうので、中盤以降はイベントCGが存在せずに寂しかった。
他にも、主人公やメインヒロイン含めて、どのキャラも服装が一種類しか存在しないのも残念な点で、せめてメイン級のキャラだけでも二種類くらいの服装を用意してほしかった。
クオリティに関しては特筆して高いわけではなかったが、原画は安定しており、塗りも基本的には問題なかったと思う。
ただ、光(光源?)の演出が得意ではないのか、夕日や月の光が降り注いでいることを強調するようなシーン(主にエッチシーン)では塗りが不自然で、中途半端に3Dグラフィックぽくなっていて、若干不気味に感じてしまった。


・エッチシーンはオマケ程度

本作のエッチシーン数は全部で9回となっており、内訳はミリアリスとイースラ、ティルトが2回ずつ、フィー、イ・シュティナ、ルルニアが1回ずつとなっている。
本編中に5回、クリア後に開放される各ヒロインのエピローグの4回という構成になっているため、ボリュームのある本作ではエッチシーンの間隔は非常に長いことに加え、本編中のエッチシーンは挿入なしのため、そもそも本作でエッチシーンを期待している人はいないかもしれないが、エッチシーンはオマケ程度に考えておいた方が無難だと感じた。
シーン内容に特筆すべき点はないが、全ヒロインの処女喪失がエピローグのため、クリア後にヒロインたちの処女喪失シーンを連続で見るのは少し妙な気分になった。


・まさかのディスクレス起動不可

本作のコンフィグ周りは現在の基準で考えると最低限と言えるもので、大きな問題はなかったが、プレイ時間が長いこともあって、もう少し色々と設定したいと感じた。
バックログとセーブ/ロードのインターフェイスが独特で、全画面に表示されるのではなく、右上や左上に小さめの別窓で開く仕様となっているため、セーブ画面やバックログを開きながらでもメイン画面が見える状態になる。
ただ、バックログを開いた状態でメイン画面が見えたところで何かができるわけではなく、その状態でゲームを進めることもできないので、単に小さい領域にバックログが表示されるため、ログが読みにくいというだけだった。
機能面では標準的な機能の他に用語集とエピソードジャンプ、スクリーンショット機能があり、特にエピソードジャンプは便利だった。
各章が16のエピソードに分割されているため、各エピソードのボリュームが丁度いい感じで、読み直したい場合なども比較的楽に目当ての箇所を読むことができた。
用語集は必須というほどではなかったのだが、重要な用語を覚える前の最初の内はお世話になることもあったし、本編中の描写だけではわからない箇所(特に個々人の異能力の内容)の補完をしている場合もあったので有用だったが、新規用語が登録されたタイミングがわからなかったり、並べ替えができず、登録された順に上から並んでいくだけなのはちょっと不便だった。
タイトル画面が物語の進行に合わせて変化するのは丁寧に作られていると感じる点で、最後はお約束の全員集合だった。
逆に、不便な点は何といってもディスクレス起動ができない点で、二回目以降に起動しようとした際に「ディスクを挿入してください」と表示された時は思わず目を疑ってしまった。
昨今ではディスクドライブを搭載していないPCが増えているせいか、パッケージ版にDL版を同梱しているメーカーが増えている中、時代に逆行しすぎる本作の仕様はどうなのかと思った。
本作のパッケージが素っ気なく、所有欲を満たすようなものではない点や、DL版を同時発売していることを考えると、ディスクレスで起動したければDL版を買えということなのかもしれないが、それにしてもディスクレスで起動できないというのは時代遅れも甚だしいと感じた。
他に不便な点としては、デュアルモニターでプレイしていると、サブモニターにフォーカスが移った際に勝手に最小化される点と、たまにエラー落ちがある(Ver1.02で確認)くらいだった。


・まとめ

主人公二人の掘り下げが不足していた点は残念だったが、それ以外は世界観、ストーリーの両面で中二要素満載の異能力ファンタジーを楽しめるものだった。
戦闘シーンも多少のテンポの悪さと引き換えに、CGが多く演出の凝ったものを楽しむことができた。