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PredawnvagabondさんのBALDR BRINGERの長文感想

ユーザー
Predawnvagabond
ゲーム
BALDR BRINGER
ブランド
戯画
得点
75
参照数
1097

一言コメント

それなりに楽しめたが、バルドシリーズとして考えると首を傾げたくなる内容だった。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

・バルドであってバルドではない

公式HPに「これはバルドであってバルドではない」と書かれている通り、本作のぱっと見のゲーム画面はバルドシリーズなのだが、実際にプレイしてみるとプレイフィールは大きく違うものとなっている。
自分がプレイしたのは「BALDR SKYシリーズ」(ZERO含む)だけのため、比較対象は多くないのだが、過去作が見下ろし型アクションに属するゲームだったのに、本作は見下ろし型シューティングRPGと呼ぶのが相応しい内容に変わっていた。
主人公とエリス以外のヒロインにレベルの要素が追加され、レベルが上がることで装備品の攻撃力や自機の耐久力の数値に補正がかかるだけでなく(数値自体は装備品依存)、弾数や連射速度、爆発の大きさなど、装備毎に存在する4つのパラメータの数値を上げるポイントを得ることができるようになっている。
単にレベル要素が追加されただけでなく、ハック&スラッシュ要素も追加されており、武器の種類は11種類と大幅に少なくなったものの、武器にもレベルやレアリティの要素が追加され、レアリティの高いアイテムはランダムで特殊効果が付加されているので、特殊効果との組み合わせも考えると武器の種類は丁度良かったと感じた。
別のゲームと言える程に変わってしまった本作だが、ゲームパートをガラッと変更した割には大凡のバランスは良好で、ラスボスを除けば大きく詰まることなく、かといって簡単すぎることもなく丁度よい難易度だと感じた。
しかし、仮にも20年続いたシリーズの最終作でシステムをここまでガラっと変えてしまう方針は疑問で、BALDRの次のシリーズで新しいシステムに変更すれば良かったのではないかと感じた。

本作のジャンルによる最大の変化は、敵の数が尋常ではないレベルで増加したことで、無双ゲーに近いフィールとなっていることだった。
150より多く数えるカウンターが存在しないので明確な数は不明だが、1ステージで500以上の敵を倒すのは珍しくないことで、近接攻撃のみの敵ばかり出現するステージも存在するので、射撃武器がメインとなったことと相まって、ゾンビ映画のような雰囲気の場面もあった。
ボスですらもボス+雑魚敵の状況で戦う上に、ボスは雑魚敵を定期的に召喚するので、一対一で戦う状況は自分が記憶している限り一度もなかった。
武器にはメイン、サブ、近接の三種類が用意されており、メイン武器は敵単体、大群の両方を相手にするのに使いやすい武器なのに対し、サブと近接は比較的使いやすいものから、ある程度慣れが必要なものまであったが、ゲームデザインとの相性は良かったので、ストレス無く全ての武器を使うことができた。
ただ、サブ武器はエフェクトが派手なものが多いのだが、それに敵の攻撃や爆発のエフェクトが加わると、敵の攻撃範囲のインジケーターや、敵そのものが極端に見づらくなるのは問題で、理不尽に感じるダメージも多く、特に被ダメが大きい高難度ではストレスに感じた。
自機も敵機も照準ポインタが赤いレーザーで見分けづらかったり、範囲攻撃の表示も半透明の赤色の円で爆発エフェクトと似たような色だったりと、その辺りは調整不足だと感じた。

シューティング要素の強化に関してだが、前作とは違いコンボやジャンプの概念は無くなり、更には近接武器にも使用回数の概念が追加された。
近接武器の使用回数自体はすぐに回復するため、使いたい時に使えないということはなかったが、テクニックさえあれば殴り続けられる以前とは大きく感覚が違った。
リロードの概念こそあったものの、装弾数は無限だった過去作とは逆に、本作ではリロードが無い代わりに装弾数の概念が追加された。
弾を補給するには、メインの武器の場合はサブか近接、サブの場合はメインか近接攻撃を敵に当てれば回復するため、3種類の武器を状況に応じてバランス良く使い分けるように促すためのギミックみたいなもので、装弾数システムがストレスになることはなかった。
レベルは各武器(ヒロイン)とシュミクラムはそれぞれ別扱いとなっており、1レベル上がる度に武器、シュミクラムの持つ4つのステータスの内1つを上げることができるのだが、攻撃力やレア武器の特殊効果は固定なので、強くなるためにはチマチマとレベルを上げるだけでは駄目で、強力な兵装を求めてステージの難易度を上げて挑戦する必要があった。
武器の初期ステータスはランダムとなっているが、レベルアップによって手に入るポイントは、その時々に入手した兵装に合わせて振り直せるようになっており、有用な特殊効果がついているのにピーキーなステータスの武器を拾ったとしても、それを補えるシステムになっているのは良かった。
また、各ヒロインのレベル=好感度となっており、個別イベントを進めるためには全ての武器をそれなりに使い込む必要があるのだが、お陰で全ての武器を使い込むことになるので、プレイヤースキルや武器のレベルが低い内は気づかない武器の特性に気づくこともあり、武器を使い込む仕様は結果として本作の持つ面白さを引き出すのに一役買っていたと思う。

従来のバルドシリーズからゲームシステムがガラッと変わってしまった是非は別として、本作はそれなりに楽しむことができたのだが、不満点が複数あったのも事実である。
一番大きな不満は移動がとにかくダルいという点で、フィールド探索要素が追加されたことにより、移動距離が大幅に増えたにも関わらず、移動速度は逆に遅くなっており、移動のために浪費する時間が多かった。
酷い場合にはわざと回り道をさせたり、行き止まりになっていて引き返す必要があったりと、面倒な構成になっているのも勘弁してほしかった。
探索型になったことによって余分な移動が生じるのは仕方がないことだとは思うが、非戦闘中はダッシュゲージを消費しないでダッシュできるなどの措置で大幅にストレスを緩和できたのではないかと思う。
他の不満点としては、トゥルールートを開放するのに必要な端末の隠し場所が異常にわかりづらい点で、一部には制作側の人間性を疑うようなギミックもあった。
ギミックによって隠し武器が手に入るとかなら納得できるのだが、本作の評価を大きく変えるであろうトゥルーシナリオの解放条件に、鬼畜難度のギミックを入れたのはどう考えても失敗だと思う。
一応は各マップでヒントを得ることもできるようになっているのだが、わかりづらい説明も多く、自分の場合は全てを自力で発見するのは無理だったので、最後は攻略サイトに頼ることになった。
わざわざリストを作成された方々には頭が下がる思いである。
最後の大きな不満はトゥルールートのラスボスが強すぎるということで、一度は諦めてクリアせずにしばらく放置していたくらいだった。
単純にラスボスが強いというのもあるのだが、ラスボスに挑むのに適正な性能の装備を揃えるのが大変で、レアリティの高い装備を手に入れるためには複数の条件を満たした状態(特定の武器で敵を○○体倒すなど)を維持する必要があるのだが、一度倒されてしまうと条件はリセットされてしまうので、倒されないようにプレイ(ステージクリア)する必要がある。
ラスボスに対応できるレベルの装備をゲットできるステージとなると、雑魚敵と強敵が同時に沸くことが多い上に長丁場のミッションばかりなので、単にクリアするだけならともかく、一度も倒されること無くクリアするというのは難易度が高かった。
上述したように、エフェクトが被りすぎて敵の攻撃が見えづらい上に、一発一発のダメージが大きいので非常に気疲れするものだったのに、繰り返しプレイするというのは中々大変だった。


・トゥルーシナリオは必見

ゲームシステムはとは違って、本作の世界観の方はそれなりにバルドらしさを感じることができたが、過去作と違って仮想空間オンリーでストーリーが展開するので、物足りないのも事実だった。
ヒロインも主人公も疑似知性体ではあるのだが、エリスと主人公以外は元となった人格が存在し、しかも元人格たちはバルドシリーズ世界のその後(バッドエンド後?)の時代の人物たちとなっている。
ヒロインの出身世界での出来事自体はストーリー上で重要な意味を持つわけではなく、ファンサービスに近いもののため、本作のプレイに過去作のプレイは必須ではないと感じた。
事実、自分がプレイしたバルドスカイシリーズ出身のエルミやひさめ、バルトのエピソードを読んでも、「ああ、そういえば・・・」程度にしか感じなかった。
しかし、ストーリーが薄味の本作で、現実(リアル)や仮想(ネット)、特級プログラマ(ウィザード)のような、理解するのは難しくはないが独特の言い回しや世界観を違和感なく受け入れるためには、何作かシリーズをプレイしておいた方がストーリーを楽しめるのではないかと感じた。

ヒロインたちは仲良くなると、元いた世界での出来事(元人格の記憶)を語ってくれるのだが、バルドシリーズがディストピアな世界な上にバッドエンド後の話が多いため、ヒロインたちの境遇は悲惨なものばかりとなっている。
しかしながら、ヒロインが多いことにより個々のエピソードが短いため、まだ大して会話もしていないのに、過剰なまでに悲惨な身の上をいきなり聞かされることになり、それがかえって薄っぺらく感じてしまった。
それぞれのヒロインのエピソードの最後には、元人格の悲惨な最期を体験させられているヒロインを助けに行き、元人格から独立させるというプロセスがあるのだが、背景説明も殆ど無いままに、いきなり悲惨な最期の瞬間を見せられても置いてけぼりだし、そこからヒロインを助けることに対しての感慨も薄かった。
それに、元人格の方はそのまま助けられることなく最期を迎えたと考えると憂鬱な気分になってしまった。
また、ヒロイン10人分のエンディングを見るためには10回同じボスと戦闘する必要があるので、エンディングが短いことと相まって作業感が非常に強いのも残念な点だった。

色々と不満の多いストーリーパートだが、トゥルー(エリス)ルートはバルドらしい内容で、単純に敵と断言することができない登場人物や、エリスやVERTEXの正体などは意外性もあって面白かった。
ラスボスでは定番のテーマソングによる演出もあって、燃える展開でもあったのだが、トゥルールートも他ルートよりは尺が割かれているとはいえ駆け足で、本作の謎や伏線の回収は一気にラスボス手前でされるので、フルプライス1本(あるいは2本)を使って丁寧に描写されていた過去作と比べると、どうしても劣るものだった。
また、前述したように異常に面倒くさい端末探し(他にもライブラリも探す必要があるのだが、こちらはそこまで面倒ではなかった)がトゥルールートに入る必須条件の一つのため、苦労した割には短いというのも不満点の一つだった。
ちなみに、トゥルーのもう一つの条件である、エリス以外のヒロインとのエピソードを全て開放(個別のエンディングは見る必要なし?)するという条件に関しては、トゥルーを見た後に他ヒロインのエンディングを見ると、「主人公とそのヒロイン以外はバッドエンドじゃねーか!」となってしまうので、先に他ヒロインのエピソードを見る必要があるようにしたのは妥当な判断だと思った。
逆に、トゥルーエンドは全てのヒロインがしっかりと救済されるので、後味の良いものだった。やっぱりシリーズ最終作だし、例え他シリーズとの直接的な繋がりがないとはいえ、多少強引でもハッピーエンドは必須だと個人的には思う。
全兵装のレベル上げや端末探しなど、後から冷静になると、トゥルールートにそこまでの価値があったのかという思いが浮かばないわけではないが、プレイしている時は間違いなく面白かったので、攻略サイトでも何でも使えるものは使ってでも、トゥルールートはプレイする価値のある内容だった。


・君が戦う限り、まだ世界は終わらない(笑)

本作のヒロインは全部で10人+1人と非常に多く、それぞれの描写は物足りないものだった。
10人以上のヒロインが登場するゲームというのはそこまで珍しくはないが、本作の場合はヒロイン同士の繋がりが極めて薄い(描写されない)上に、担当原画家も11人と統一感に欠けるため、ソシャゲーっぽい雰囲気だった。
また、ストーリーとゲームパートが一体化していた過去作と比べると、本作はエピソード選択形式のため、基本的にそれぞれのエピソードはぶつ切り状態でプレイすることになる上に、稼ぎやすいエピソードは何度もプレイすることになるので同じ会話を何度も聞くハメになるのだが、この辺りもソシャゲーっぽいと感じた。
ランダム性が高く、繰り返しプレイ(スタミナ性)やガチャとの相性が良い本作の仕様や、プレイヤースキルよりもレベルや装備が重要な点、やたらと数の多い原画家、少ない会話で個性を印象づけるための過剰なまでのキャラ付けも同様で、全体的にソシャゲーと非常に親和性が高い内容だと感じた。
そう思いながらプレイしていると、本作の発売とほぼ同時期にBALDR ACEなる PCブラウザ / スマートフォン向けのゲームが発表された。
ジャンルは3D-RPGというよくわからないもので、流石にスマホに対応しているゲームで本作のシステムをそのまま移植するのは難しいだろうが、20年続いたシリーズの最終作としては首を傾げたくなる出来だったことも相まって、「本作はBALDR ACEの習作だったんじゃないの?」と勘繰りたくなってしまった。


・複数の原画家を楽しめるCG

本作のCG枚数は全部で80枚+シュミクラムのCG17枚で、フルプライスとしては標準的なボリュームだった。
上述したように原画家が11人もいるので、統一感がないことによる違和感が生じるのではと懸念していたのだが、ヒロイン同士の会話が皆無に近い(実際にはしているらしいが、本編中では描写されない)ので、違和感が生じることはなかった。
最終作だし、BALDRシリーズの顔ともえいる菊池政治氏単独がベストだったとは思うが、原画家もエロゲ-の原画家としては有名な人を数名起用しているし、他の原画家も若干同人っぽい絵もあったが、概ね悪くない出来で、色々な原画家を一度に楽しむことができたので、これはこれで有りだと感じた。
Hシーンも同様に、色々な原画家を楽しめるという意味ではよかったのだが、エリス以外のヒロインが2回、エリスが1回と、各ヒロインの回数が少ないため、特に印象に残るシーンは無かった。


・充実したコンフィグ

本作のコンフィグの充実っぷりは流石の一言で、ゲームが非アクティブ時の動作、曲名表示の有無、テキストのグラデーションや太文字化、縁取りなどの細かい部分まで設定できるので、快適にプレイすることができた。
デュアルモニター環境を想定しての設定項目も充実しており、マウスカーソルがサブモニターに移動しないように設定できるのも嬉しい点だった。
ウィンドウサイズも完全可変ではないが複数サイズから選択することが可能で、フルスクリーンでプレイする場合にはWindows側の解像度を変更しない仮想フルスクリーンと、解像度を変更するタイプのフルスクリーンから選ぶことができるようになっている。
本作のシステムで珍しい部分としては、セーブスロットが一つだけの自動セーブ形式となっている点が挙げられる。
セーブデータ破損に関しては対策が取られており、バックアップデータが生成されているので、少なくともセーブデータが破損して最初からという自体にはならないように配慮されていた。
基本的にはプレイするミッション選択や装備変更をするメインメニューに戻ってきた時点でセーブされるのだが、ADVパートではいつでも中断することができるようになっている。
ゲームパートでは中断することはできないものの、いつでもギブアップしてステージ中で拾った装備品や経験値を持ち帰ることができるようになっているので、基本的にはオートセーブ方式で不便することはなかった。
しかし、ステージクリアしてからメインメニューに戻るまでの会話(中断不可)の途中で3回ほどクラッシュしたことがあり、その場合はもう一度ステージをクリアしないとクリアフラグが立たないので、そこだけは何らかの対処をしてほしいと感じた。


・まとめ

バルドシリーズの最終作としては首を傾げたくなる内容で、ゲームシステムは別物になってしまっているし、ストーリーパートにはバルドらしさがあったものの、物足りない部分が多かった。
しかし、バルドシリーズではなく全く別の作品として考えた場合、細かな不満はあるものの、ゲームバランスも良く、それなりに楽しむことができる作品だった。