エロとストーリーがしっかりと両立していた。
・エロゲーだからこそ描ける作品
Purple softwareの作品の主人公といえば、大抵は何らかの特殊能力を持っているのだが、本作の主人公は触れた相手を”幸福”にする奇跡の力を有している。
奇跡の力は触れるだけでも効果があるのだが、性交渉を行った時に一番効果を発揮するという頭の悪い(褒め言葉)設定で、そのため、シナリオゲーなのにプロローグの時点から濃厚なエロシーンがあり、まさに”エロゲー”と言える設定、展開となっている。
触れるだけで相手を強制的に幸せにできてしまう、ある意味恐ろしい奇跡の力が実は神聖なものではなく、その真逆の悪魔の救世主としての能力だと物語冒頭で判明する。
そして、主人公は悪魔の救世主として遅くとも数年以内、早いと一ヶ月程で悪魔の救世主として目覚め、今の人格が消滅すると電話の悪魔に告げられてしまう。
物語開始時点では一人ぼっちだった主人公だが、そこからヒロインたちと出会い、仲を深めていくことでどんどん大事なものが増えていき、良い方向へ変化していくと同時に、特定のヒロインと恋仲になることで救世主としての力が強まり、目覚めが近づくという皮肉な展開となっている。
ミステリーやサスペンスと違って明確な答えのある謎ではないが、ヒロインたちとのやり取りを通して救世主の力を抑える方法や、本作のテーマである「この世界に生まれ落ちた価値は?」などの疑問に答えを出していく展開となっている。
普遍的な疑問に対する答えに絶対の正解は存在しないだろうが、制作側なりの答えに導くための伏線の張り方や、話の持って行き方は素晴らしく、最後はとても綺麗で清々しい終わり方をするので、クリスマスのようなセンチメンタルな気分の時にプレイするゲームとしても悪くない一作だと思う。
本作の構成は公式HPでも書かれている通り、共通ルートが終わるとメアリー、小夜、理沙(&実果子)の3ルートに分岐し、3ルートクリア後にトゥルーのあかりルートが開放される構成になっている。
ロックされていない3ルートは結末は全く違うが似たような展開で、それぞれをしっかりと独立したルートとして描きながらも、主人公の狂気的なまでの「他人を幸せにする」ことに固執する価値観や、トゥルールートへの伏線を散りばめる内容となっている。
共通ルートは比較的短めで、最初は主人公しか住んでいなかった屋敷にメアリーや小夜が住むようになり、あかりとも親しくなり、最後に理沙が新任の教師として登場すると直ぐに共通ルートは終了し、個別ルートに分岐してしまう。
メアリーや小夜はともかく、主人公が理沙相手に恋心を抱く過程は、理沙が初体験の相手という要素があるとはいえ、やや唐突に感じられた。
また、本人のルートを除くと理沙はサブキャラも同然の扱いで、ルート以外では最後まで理沙(と実果子)は主人公やメアリーたちの正体を知らないままの蚊帳の外状態で、その割には日常の象徴みたいな役割も与えられておらず、色々と残念な扱いだった。
本作の舞台であるミッション系女子校は、外国人居留地だったものを学園の敷地として流用しているため、町並みや建屋はヨーロッパ風で、主人公たちも礼拝堂付きの洋風の屋敷に住んでいるので、悪魔や吸血鬼が登場する本作に非常にマッチした舞台だった。
ミッション系女子校ということで、ヒロインの中には家の束縛のきつそうなお嬢様もいるが、政略結婚のような陳腐なお家騒動は存在せず、本作のテーマに集中することのできる内容だった。
屋敷に礼拝堂があるだけでなく、主人公は神父兼学生のためキリスト教色が強い作品かと最初は思ったが、一般的(?)なレベルの知識があれば問題ない内容だった。
ただ、聖書だけでなく、「ライ麦畑でつかまえて」やミルトンの「失楽園」、シェイクスピアなどからの引用がかなり多かったので、元ネタを知っているともっと楽しめるかもしれないとは感じた。
タイトルの「アオイトリ」も童話の「青い鳥」からつけられたもので、流石に重要な意味合いを持つのだが、きちんと作中で解説されているので、本作をプレイする上で予備知識として知っておく必要はなかった。
・魅力的な登場人物たち
どのような作品でも当たり前の話ではあるのだが、登場人物が魅力的かどうかは作品の面白さに直結する要素で、本作の場合は単純にヒロインとして可愛いというだけでなく、物語を面白くするための背景設定や役割もしっかりと作られていた。
単純な恋愛学園モノとは違い、死生観や人生観を扱っている本作では、それぞれの登場人物の背景の違いによる価値観や役割の違いは非常に重要で、その辺りがしっかりしているため、物語が非常に魅力のある内容になっていた。
それぞれの生い立ちが全く違い、メアリーは100年を生きた故の達観と純粋さを併せ持っており、小夜の場合は長い間存在も知らなかった生き別れの双子で、あかりは特殊とは言わないが、籠の中の鳥(お嬢様)として育てられており、登場人物たちが持っている価値観も大きく違っている。
特に本作は公式HPの登場人物紹介出て来る6人と1匹(?)の他には、あかりの友人であるゆきが登場するだけで、主要登場人物どうしのやり取りだけで物語が完結してしまうので、登場人物たちのキャラクター性が余計に重要になっていると感じた。
電話の悪魔の存在感も素晴らしいもので、日常シーンではコメディに場をかき回したかと思えば、シリアスなシーンでは本領を発揮して人間を陥れようとしてくる文字通り悪魔のような存在として活躍する物語上で必須の存在だった。
また、主人公たちを陥れる存在である反面、人間ではないために除湿さはあまり感じられず、天真爛漫(?)に人を陥れようとするため、どこか憎めないキャラクターだったのもよかった。
個人的に感じた点としては、本作では「演じる」というのが一つのキーワードになっており、主要人物以外が登場しないのも演劇を意識した作りになっていたからではないかと感じた。
また、ストーリー上の重要なターニングポイントも、登場人物たちが行う演劇をきっかけとして訪れる構成になっていた。
残念な点としては、上でも触れたように理沙の扱いが軽いことで、彼女ももう少し本筋でも活躍させることができたのではないかと感じた。
ストーリー上の役割だけでなく、単純な女の子としての魅力という点でも本作のヒロインたちは素晴らしかった。
残念ながら、ヒロイン同士のやり取りという点では、一緒に住んでいるメアリーと小夜コンビ以外は少なめだったが、物語を通してヒロインの魅力を感じることができた。
自分はメアリーのようなお人好しキャラは基本的に余り好きではないのだが、彼女の場合はお人好しさや感情表現の豊かさが、100歳故の含蓄と他人と同じ時間を歩めないことに対する諦観が合わさって、それが大きな魅力となっており、本作で一番好きなキャラクターだった。
小夜は兄至上主義者ではあるのだが、主人公に対する想いは異性としてとも受け取れるし、やっと見つけた唯一の家族に対する家族愛とも受け取れるのが面白い部分で、小夜ルート以外ではヒロインアピールは控え目で、妹として主人公を見守ってくれるのがよかった。
あかりは第一印象を良い意味で裏切ってくれるキャラで、気弱なキャラかと思いきや、コメディパートでは小夜と一緒にメアリーを弄ったりと、考えていたよりもノリの良いキャラクターだった。
第一印象と違うという意味では理沙も自分のイメージとは違っており、公式HPのキャラ紹介では無理矢理に近い形で主人公の初めてを奪ったとか、「サボり魔だった学生時代」と書かれているので、もう少し妖艶な主人公を翻弄するようなキャラクターだと思っていたのだが、実際には純情なヒロインで、主人公に対する彼女の想いはグッと来るものがあった。
また、電話の悪魔が作中でも理沙ルートのことを「閑話休題」と言及している通り、彼女のルートはコメディ色が強めだった(終盤はシリアスな展開になる)。
・背景含めて素晴らしいグラフィック
本作のCG枚数は全部で106枚+SD8枚の大ボリュームとなっており、満足度の非常に高いもので、プレイ時間自体はそこまで長くないことも相まって、実際にプレイしていても気前よくCGを使っているなと体感できた。
克氏が担当しているグラフィックのクオリティは素晴らしく、ヒロインが単に可愛いだけでなく、肉感のある絵はしっかりとエロかったし、ヒロインの表情も魅力的で、特に感情表現豊かなメアリーの魅力を120%引き出せていた。
また、立ち絵は喋りながら動くタイプなので、躍動感もあった。
背景もハイクオリティで、冬なのに桜の花が咲いている不思議な場面や、主人公たちの住む洋館などは雰囲気バッチリで、水路の水や暖炉の炎にいたっては3Dアニメーションで動くという謎の気合の入りっぷりだった。
しかしながら、全く欠点が存在しないのかというと、そうでもなく、赤錆姉妹の原画の方は悪いとまでは言わずとも十人並みのもので、立ち絵とイベント絵だと顔が違って見えたり、塗りもイマイチに感じたりと、克氏が担当しているメアリー、小夜、あかりの3人と比べるとクオリティが低かった。
エロゲーの製作工程に関しては詳しくないのだが、メイン3人のグラフィックはPurpleSoftのチームが担当して、赤錆姉妹のグラフィックは外注したのかもしれない。
・Hシーンはそこらの抜きゲーよりもエロい
本作のHシーンは全部で25回となっており、内訳はメアリーと小夜と理沙が4回、あかりが7回、実果子が2回、理沙と実果子の3Pが2回、サブキャラのゆきが1回、メアリー、小夜、あかりとのハーレムが1回となっている。
猥語修正は無しで、Hシーン中には局部のカットインが表示されるCGもあった。
モザイクの面積や薄さもギリギリで、濡れた下着も描写されていたりと、細かい部分まで手を抜かずに作られていた。
全てのシーンが本編中にあるのではなく、約3分の1がクリア後にアフターストーリーや夢オチとして開放されるもので、本作のようにストーリー重視の作品の場合、Hシーンを後回しにした方がストーリーに集中できるので、個人的には非常にありがたかった。
反面、上述したように、セックスをすることにもストーリー上の意味を持たせてあるので、シリアスな展開中にHシーンが挿まれても白けることがないのもよかった。
Hシーンは基本的に主人公目線で進むのだが、主人公は「学園の少女たちに”天使”として抱かれていた」と書かれているように、性的な経験は非常に豊富である反面、自分の快楽のためではなく、あくまでも人助けとして抱かれているため、歪んだ性的経験ばかりが豊富で、逆に愛のあるセックスはしらないので、年齢の割に性的なことに対しては妙に老成している。
それでいてヒロインたちとエロいことをするのは好きだし、愛のある経験や奉仕されることには慣れておらず、興奮して我を忘れたりするので、地の文は冷静な観察による丁寧な描写と、感情の高まりの両面がしっかりと描写されていた。
シーン内容自体のバリエーションも豊富だと感じたが、ヴィジュアル的にも変わった試みがなされており、さやに顔面騎乗位された状態での一人称視点や、あかりの陥没乳首(乳輪)のみを接写したCGなど印象に残るCGが多かった。
キスが多いのも個人的に嬉しい点で、専用のCGも何枚かあった。
・充実のコンフィグ
本作のコンフィグは非常に充実しており、音声再生速度や非アクティブ時のゲームの動作、曲名表示の時間やマウスポインターの自動移動設定を「はい」「いいえ」「設定しない」から選べるなど非常に充実していた。
他にもウィンドウサイズが可変、前後への選択肢ジャンプ、バックログからのシーンジャンプなどの機能もあった。
ただ、音量調節をやりにくいのは面倒な点で、16段階で設定できるのだが1と2の中間ぐらいが丁度よいボリュームだったため、BGMを丁度よいボリュームにするためにはマスターボリュームや音声再生中のBGMボリュームダウンなどの機能をうまく併用する必要があった。
テキストウィンドウ上にメニュー項目が存在しない代わりに、本作では画面上部(画面左右に移動可能)にメニュー項目を全部で12個(F1~F12キーにも対応)設定できる。
メニュー項目はカスタマイズ可能で様々な項目が用意されている上に、3種類のプロファイルを登録できるという謎の充実っぷりだったが、果たしてこの機能を全て使う人が存在するのだろうかと少々疑問に思った。
マウスジェスチャも用意されており、右or左クリック+マウスカーソル上下左右それぞれとホイールの上下に機能を割り振ることができる。
テキストウィンドウも二種類用意されており、一般的な画面下部に表示されるものと、立ち絵やイベント絵にフキダシ的なポジションに表示される二種類があるのだが、残念ながらフキダシバージョンは中途半端な出来で、立ち絵の胸元あたりに表示される上に楕円形状ではなく小さめの四角形で表示されるので、立ち絵が表示されるシーンでは邪魔なだけで、顔などが画面下部に描かれている一部のイベント絵で役に立つ程度だった。
・まとめ
ストーリー重視の作品だが、性的行為に意味を持たせた設定と濃厚なエロ描写のおかげで、「これぞエロゲー!」と言える内容だった。
作品を通してのメッセージ性もしっかりとしており、シリアスな展開が多めながら、童話のように優しく後味の良い終わり方も非常に好みだった。
背景を含めたグラフィックも素晴らしく、エロシーンではエロく、それ以外のシーンでは物語をしっかりと盛り上げており、作品の魅力を十二分に引き出していた。