シナリオゲーと見せかけたキャラゲー。
・引き込まれる世界観
CUBE、あるいはMintCUBEと言えば「your diary」や「間宮くんちの五つ子事情」などの萌えゲーを作っているブランドだったのだが、本作はストーリー重視へと舵を切った作品になっており、ヒロインあるいは主人公が抱える問題と向き合って解決していくという内容は、萌えゲーに分類されるものではなく、シリアス寄りな内容だった。
体験版をプレイしないで公式HPの印象だけで購入するゲームを決める自分としては、過去の作風も相まって、和気藹々と夏休みを過ごしながら、冒険に近いノリで終わらない夏休みの謎解きに挑むと思っていたので、結構面食らってしまった。
そのため、ストーリーが面白く、ストーリー重視故に各ヒロインの掘り下げもしっかりしていたので、個人的には満足の作品だったのだが、CUBEブランドで出したことに対しては疑問を感じる内容だった。
CUFFSの中で現在もまともに活動しているブランドがCUBEのみなので仕方がないのかもしれないが、それならMintCUBEみたいに派生ブランドとして出したほうが無難だったのではないかと思った。
本作の舞台となる南の島の雰囲気は素晴らしく、島だけで経済を回すことができるくらいに規模が大きいのに、主人公たち5人(+2人)以外は誰もいないことによる寂寥感や、古いヨーロッパ風の町並みが魅力的だった。
夏休みが終わらないことや、自分たち以外の人がいないなどの違和感を違和感と思わない、主人公のモヤが掛かった思考状態も独特の世界観を強調していた。
また、プロローグから本編への入り方も秀逸で、船から落ちそうになった妹をかばって主人公が荒れた海に落ちる瞬間にオープニングムービーが挿入され、オープニングムービーが終わると主人公は既に島で普通に(?)生活しているという導入も、謎めいた島の状態と相まって、主人公が見ている世界は現実なのか幻なのか定かでなくなり、引き込まれるものだった。
また、ヒロインがたまに発する意味深な言葉や、何かを隠しているように見える態度も物語を集中して読ませる要素となっており、続きが気になって最後まで一気にプレイしたくなる内容だった。
・結局のところはキャラゲー
引き込まれる導入や独特の雰囲気が魅力的だった反面、島の秘密自体は大して重要ではなく、むしろ秘密(夏休みを終わらせる方法)を知ってからの方がストーリーのメインとなっている。
事実、プロローグから本編への繋ぎ方や、オープニングムービーの演出などから謎自体はある程度予測がついてしまうし、それ自体はそこまで意表をついた設定ではなかった。
背景設定としてはSFに属するものではあるのだが、SF的な知識を駆使して問題を解決するのではなく、登場人物それぞれが抱える問題を解決すること自体が夏休みを終わらせるために重要となっている。
そのため、伝記的な設定でもファンタジーな設定でも本作は成立するが、ある程度の説得力を持たせるためにSF設定を採用しているだけで、良くも悪くも舞台が凝ったキャラゲーというのが全ルートプレイ後の自分の印象だった。
また、島の謎自体も巴以外のルートでは個別ルートに入った途端にヒロインよって明かされるので、徐々に積み上がっていく伏線から謎を解き明かしていくという展開でもなかった。
勿論全部がネタバレされるわけではなく、クロとシロの正体は何なのか、一見無関係の主人公(と巴)が何故連れてこられたのかなどの謎は残されており、すみれやクロとシロの謎に関しては彼女のルートまで待つ必要があるようになっている。
すみれの正体は意外性があって面白かったが、クロとシロの正体に関しては、正体自体は判明するものの、それがストーリー上重要な意味を持つわけではなく、あくまでも物語を円滑に動かすための存在でしかなかった。
ただし、致命的ではないが他ルートのネタバレも若干存在するので、主人公視点で物語を楽しみたい、あるいはプレイ後は後味よく終わりたいというのなら、巴→月乃→このはorすみれという順番でプレイした方がよいと感じた。
本作がキャラゲーとは言っても、CUBEの過去作のようにヒロインとイチャラブして終了の萌えゲーというわけではなく、ヒロインや主人公が持つ問題と向き合い、それを乗り越えることがそれぞれのストーリーの主題となっている。
結局のところ、「恋愛すること」あるいは「心を通い合わせる」ことによって問題は解決する(月乃を除く)上に、登場人物が少ないため、主人公とヒロインの関係に集中することができるので、それぞれのヒロインの掘り下げがしっかりとされており、魅力を感じることできた。
単純な萌ゲーと比べるとシリアスな内容ではあるが、萌えゲーのつもりで購入したプレイヤーの心を折る程にシリアスなわけではなく、「シリアスなストーリーはちょっと・・・」と尻込みする自分のような豆腐メンタルの人間でも楽しむことができるし、プレイ後の後味も悪くない”程よくシリアス”な内容だった。
本作の主人公は好き嫌いの分かれそうな性格をしており、どこか鬱々として内省的で、更には他者とのコミュニケーションが苦手で、同学年のヒロイン相手にすら敬語で会話し、恋愛にも忌避感があるというおよそエロゲーの主人公としては相応しくない性格をしている。
恋愛が苦手なことに関しては、一応は父親が離婚した後に直ぐに他の人と再婚したからという理由や、血の繋がっている妹に異性として好かれているというのを理由として挙げていたが、個人的には理由としては弱いように感じた。
しかし、単純な萌えゲーとは違うため、重要なのは性格そのものではなく、性格と作風がマッチしているか否かであり、そういった意味では本作の主人公は意外と悪くないと感じた。
シロとクロの存在も大きく、翻弄するような言動ではあるものの、主人公に的確なアドバイスを出してくれるので、主人公は迷った時もグダグダと悩むことなく早めにアクションを起こすので、もどかしく感じることは少なかった。
作中で本人も言及している逃げグセも顕著なのは共通と巴ルートだけで、それ以外ではしっかりとヒロインと向き合おうとするので、決める時は決める人間だとも感じた。
また、苦手なことや逃げたくなることに対しても、個別ルートに入ってヒロインと恋人関係になった後は、内向的な自分自身を鼓舞して向き合おうとする姿勢は好感の持てるものだった。
逆に、主人公が変わろうとせず、”逃げる”ような選択肢を選び続けた場合、終わらない夏休みEND(マイルドなバッドエンド)になるのも、主人公の性格や本作の設定がしっかり反映されていると感じた。
・美麗なグラフィック
本作のCG枚数は94枚となっており、しっかりと満足できるだけのボリュームがあった。
原画家は3人いるが、3人ともそれぞれの魅力があるのに、一同に会する場面でもしっかりと統一感があるのは非常に良かった。
塗りも素晴らしく、立ち絵も含めて場面場面の光の当たり具合なども丁寧に描写できていたと思う。
背景グラフィックもヨーロッパ風の町並みや建物が、本作の雰囲気を引き立てるのに一役も二役も買っていた。
本作で若干気になる点としては、HCG含めて主人公の顔出しCGが多いことで、試しに主人公の目が見えているCGを大雑把に数えてみると28枚、全体の約3分の1というかなりの枚数だった。
性格の割には精悍でハンサムな顔なので、雰囲気を壊したりはしていないし、構図のバリエーションが増えたりと良い面もあったが、場合によっては目立ちすぎだと感じるものもあった。
・濃厚なHシーン
本作のHシーンは全部で19回となっており、内訳は巴以外のメインヒロインが4回、巴が5回、クロ&シロとの3Pが1回、月乃とこのはのレズシーンが1回となっている。
猥語修正は一瞬音声が途切れるタイプで、絶頂までのカウントダウン機能が搭載されている。
主人公は性格に似合わず性欲旺盛で、「射精時に中か外を選ばせるくらいなら両方やればいいじゃん」とばかりに1シーンで中にも外にも射精するという絶倫ぶりのため、Hシーンの尺はかなり長いものだった。
内容も恋人同士の普通のラブラブエッチがメインとなっているが、顔におしっこをかけてもらうシーン(このは)や、授乳手コキ(月乃)、顔面騎乗位しながらの足コキ(すみれ)など、ややマニアックな内容のものもあったので、バリエーションは豊富だと感じた。
また、ヒロインのエッチな表情や濡れた状態の下着、体中にかかった精液、小さめのモザイクなどCGも素晴らしかったので、シーン問わずオカズとして使えるものが多かった。
・必要十分なコンフィグ
本作のコンフィグは現在のエロゲー基準で必要なものは一通り揃っており、ウィンドウサイズは可変で、バックログからのジャンプ機能、選択肢ジャンプ、それぞれのヒロインの個別のBGVと通常音声のボリューム調整可能だったので、快適にプレイすることができた。
テキストウィンドウ上にあるコンフィグ項目にマウスカーソルを置くと、音量調節の項目がポップアップして、コンフィグ画面を開かずに音量調節可能(個別の音声ボリュームを除く)なのも便利だった。
また、あくまでも個人の感覚での話だが、音質がかなり高いように感じられ、自然に感じる程度のブレス(呼吸音?)もしっかりと入っており、音声が他作品よりも生々しく感じられた。
・まとめ
CUBEの今までの作品と比べると大きく路線変更した作品で、共通ルート中ではどういった作品なのか見通せなかったこともあり、謎解きがメインなのかキャラゲーなのかわからずに、作品に対する印象は二転三転したが、総合的な満足度は高い内容だった。
シリアス過ぎないストーリーはヒロインとの関係性を深めることに注力されており(そしてそれが問題解決につながる)、そのため、ヒロインに対する掘り下げもしっかりしていて、それぞれの魅力をしっかりと感じることができた。