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Predawnvagabondさんの絆きらめく恋いろはの長文感想

ユーザー
Predawnvagabond
ゲーム
絆きらめく恋いろは
ブランド
CRYSTALiA
得点
89
参照数
436

一言コメント

刃道という架空スポーツを魅力的に描いていた。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

・丁寧に作られた架空スポーツ

刃道という真剣を使った架空のスポーツをテーマにしたスポ根作品。
近未来の日本が舞台だが、「魂鋼」や「オリガミ(刃道で使用する刀のこと)」などの現実には存在しない素材、技術によって大きく異なる歴史を歩んできた世界のため、未来の割には古風な部分も多く、そこに未来的な学園や街並みと組み合わさり、独特で魅力的な世界観が形成されていた。
また、本作の日本が辿ってきた歴史は物語の最初に学園の授業という形式で大まかに解説されるため、プレイヤーが置いて行かれることもなく世界観に入り込むことができた。
肝心の戦闘シーンも面白く、時代小説のような剣術描写を筆頭に、細かい動作まで描かれており、読み応えはあった反面、エフェクト等の戦闘演出はごく普通のものだった。
更に時代小説の真剣勝負とは異なり、あくまでもスポーツである刃道に合わせて戦術等もしっかりと考えられており、細かい部分まで世界観や設定が練られていると感じた。
刃道で使用する刀もSFやファンタジー要素が盛り込まれたもので、職人技が光る作刀描写と使用者に合わせたチューニングやカスタマイズを行う独自要素がうまく噛み合っていた。
各戦闘シーンの尺も丁度良いもので、時代小説の真剣勝負のように一瞬で決着がつくわけでもなく、逆にダレるほど長くもない程度だったので、無駄に疲れることなくテンポよく読み進めることができた。
また、刃道はあくまでもスポーツであることが強調される一方で、本来の刀は人を殺めるための道具であるという部分にも焦点を当てたり、神道的な価値観に言及したりと色んな意味で日本人好み、あるいは日本文化好みの人向けの世界観になっていた。
主人公のポジションも素晴らしく、刀鍛冶や介添人(試合のサポーター)という非戦闘要員だが刃道では必須の裏方のため、ヒロインの存在感を損なわない一方で空気にもならないという本作の世界観と親和性の高い役割だった。
個別ルートの構成も本作の世界観を堪能できるもので、個別シナリオに入ってすぐに恋人関係になるわけではなく、刃道を通して仲を深めてから恋人になるという構成で、恋人になるのは個別ルート中盤以降で、場合によってはシナリオで山場となる試合を終えてから恋人になるため、刃道と恋人生活をある程度分離して楽しむことができた。

本作の個別ルートは大きく分けて二種類あり、あくまでも刃道にフォーカスしたフリージアと椿ルートのスポ根路線と、桜夜としおんの刃道はそこそこに主人公の謎や上和泉、三城、藍原、朱雀院家の因縁に踏み込んだ伝奇寄りの路線がある。
シナリオが好みだったのは刃道にフォーカスしたフリージアと椿のルートで、特にフリージアのシナリオが自分の中で一番印象に残るものだった。
フリージアも直接戦闘しない刀鍛冶、介添人と主人公と同じ立ち位置であり、本作で唯一の主人公の直接的な弟子でライバルと言える存在なため、彼女のルートではしおんと萌生菜の試合を通して二人の対決が描かれるのだが、その師弟対決は非常に熱い展開だった。
椿のシナリオも挫折と復活、試合を通じて育まれる友情などスポ根としての定番を押さえた内容だった。
伝奇的なシナリオよりも刃道の試合の方が面白かった理由としては刃道の方が戦闘シーンの描写が優れていたこともあるのだが、サブキャラたちに魅力があったのも理由の一つだった。
ヒロインたちのライバルとして立ち塞がる萌生菜や葵は脳筋人間だが竹を割ったような清々しい性格のため、勝敗関係なく両者の健闘を称えることができる試合となっていた。
特に萌生菜は主人公と組んで試合することもあるのだが、その時の二人の気安い雰囲気は悪友のようで、他ヒロインとのタッグとは全く異なる雰囲気だったこともあり印象に残るサブキャラだった。
勿論、メインヒロイン同士の試合の場合でも同様で、本作の刃道が読んでいて面白かったのは、丁寧な戦闘描写と嫌味がなく魅力的な登場人物のお陰だった。

伝奇的な要素が強い桜夜としおんのシナリオも面白くないわけではないのだが、化妖(妖怪)との戦いは命がかかっていることもあり、当然のことながら刃道よりもシリアス寄りになってしまうため、刃道とは雰囲気が大きく違った。
また、二人とも刃道の試合にも参加するため刃道と化妖の戦いを一つのルートに詰め込まれることになり、どちらも中途半端になってしまった印象で、刃道の試合は盛り上がりも少なくあっさりと終わってしまうし、その後の化妖との戦いにしてもパッとしないものだった。
一応は化妖の存在は共通ルートの時点から明かされ、主人公に何らかの因縁があることも示唆されるのだが、実際にはかなり唐突な登場に感じられたし、主人公やヒロインたちとの因縁も薄い(遠い先祖が恨まれているだけ)ので、化妖との戦いもイマイチ盛り上がらなかった。
とはいえ、刃道の根幹をなす「天呪」(いわゆる神通力)とは何ぞやという部分に言及したりと、より世界観に踏み込んだ内容でもあったので、割り切って桜夜ルートでは刃道を最小限にして伝奇方向に注力していたら、それはそれで面白い内容になったのではないかと思う。
ちなみに、伝奇要素の絡まない椿やフリージアのルートでは後々問題になりかねない主人公についての問題の芽はしっかりと、そしてさり気なく摘み取られているのは素晴らしいと感じた。


・魅力的な登場人物たち

本作の登場人物たちは主人公やメインヒロインたちだけでなく、サブキャラにもしっかりと出番があり印象に残るものだった。
序盤からモテモテ状態の主人公だが、実力のない主人公を無理矢理持ち上げているわけではなく、作刀こそできないものの、トレーナーや介添人としては非常に優秀だった。
それに加えてスランプを脱した後は刀鍛冶としての有能さも発揮するため、ヒロインたちから持ち上げられるのも納得の主人公だった。
ただ、桜夜ルートでは一時的にダメなエロゲ主人公の典型みたいになってしまい、桜夜からのアタックや見え見えの強がりを曖昧な形で放置して問題を大きくしてしまっていた。
また、突如として剣の才能に目覚める(どちらかというと取り戻すというのが近いかも)のも興醒めしそうになったが、主人公は最終盤で剣を握るだけで、刃道の試合にはあくまでも介添人として参加するため余り気にならなかった。
共通ルート中に刀を打てないスランプを脱するストーリー構成も素晴らしいもので、個別ルートの尺を主人公のスランプ脱出のために割くことなく、刃道やヒロインとの恋愛に注力していたため、本作の世界観やヒロインの魅力を堪能することができた。

ヒロインもそれぞれに魅力的だったが特に印象に残ったのはしおんで、普段は控えめながら主人公をコーチとして慕い、一方で異性として好意を伝える時や、戦闘時に主人公の教えをひた向きに守る芯の強さなどが非常に魅力的で、一つの後輩ヒロインの完成形だった。
恋人になる前のデートシーンも印象的で、お互いに異性として意識しているものの、中々踏み込めないもどかしさや初々しさがよかった。
無邪気で好奇心旺盛なフリージアもしおんとは異なる意味で後輩らしいヒロインで、最初は無理矢理の弟子入りだったが、主人公も逆にフリージアに感化され、刃道の試合ではライバルとして互いに競いあったりと、キャラクター、ストーリーの両面で素晴らしいヒロインだった。
しおんルート以外ではしおんはフリージアとタッグを組むのだが、性格が真逆とも言える二人のコンビは刃道の試合でもそれ以外のシーンでも素晴らしく、見ていて微笑ましかった。
椿は本作では魅力を発揮しきれていないと感じたヒロインで、学園最強の一方でメンタルは登場人物中では最弱と言えるキャラクターとなっている。
メンタルの弱さ自体は椿の魅力とも言えるのだが、椿の戦闘能力の高さや家の都合に雁字搦めにされていることもあって、主人公が椿の心の内側に触れることができるようになるまでが非常に長く、結果として、心の内に問題を抱えているのに強がって中々弱みを見せてくれず、悪い意味で面倒くさいヒロインとなってしまっていた。
ヒロインの魅力の問題というよりはシナリオの構成の問題なので、構成自体を練ればもっと魅力を増すことができたと思うのだが、くだらないお家騒動を物語中で発生させず、あくまでも椿が乗り越えるべき心の問題として扱った点はよかった。
桜夜は一番評価が難しいヒロインで、実は幼馴染でもあるが主人公は覚えていないため幼馴染感が薄く、あえて言うなら親友から彼女へという展開なのだが、やはり主人公が幼い頃を覚えていないため、親友というよりは一方的に距離感が近いように感じられた。
そのため、上述の主人公の煮え切らない態度も相まって、桜夜のことは最後までよくわからないままだった。


・迫力ある戦闘グラフィック

本作のCG枚数は84枚+SD絵7枚となっており、フルプライス作品としては標準的なボリュームとなっている。
立ち絵は喋りながら切り替わることに加え、台詞に合わせて細かく動くためキャラクターに躍動感があった。
クオリティは塗り原画ともによかったが、一部しおんのCGで表情に違和感のあるものがあった。
本作のグラフィックで一番印象に残った要素はヒロインたちの戦闘CGで、各ヒロインに4枚(非戦闘要員のフリージアは別として)と数が多いことに加え、それぞれのCGの表情にも迫力があり、戦闘シーンを盛り上げることに一役買っていた。


・意外にもクオリティの高いHシーン

本作のHシーン数は全12回となっており、各ヒロインが3回ずつとなっている。
シナリオ中に2回、クリア後に解放されるエクストラが1回となっており、エクストラは時系列的には本編の少し後となっている。
卑語修正はピー音タイプの標準的なものだが、特に卑語が多いわけではないため気にならなかったものの、モザイクは少し大きめだったため、フェラシーンなどでは邪魔に感じた。
回数こそ少ないものの、それぞれの尺は長くクオリティも高いもので、いい意味で予想を裏切る内容だった。
各HシーンでCG二枚を使っているため、前戯から挿入の流れも丁寧に描写されていたし、シーンによっては一度の射精で終わらず二回戦までというものもあった。
プレイ内容自体はオーソドックスなものだったが、フリージアのみは最初のエッチでお漏らし癖がついてしまい、その後のエッチでも必ずお漏らしをするという妙なマニアックさがあった。


・システム面は快適

本作のコンフィグ項目やシステム面については比較的充実しており、右クリックやF1~F12キーに任意の機能を割り振れるし、ウィンドウサイズも自由に変更できるため快適にプレイすることができた。
あえて不満点を挙げるとすれば、テキストウィンドウの透過度についてで、透過度を最大まで下げてもテキストウィンドウの上半分くらいは透明となってしまい、背景によっては文字が同化してしまい少し読みにくいことがあった。
用語集が用意されているのはありがたい点で、独自用語が日常会話で使用されるため、世界観に慣れるまでは頻繁にお世話になった。
本作の攻略は非常に簡単で実質的に選択肢が一つの状態となっているが、桜夜ルートだけは最初はロックされている。
強制的にロックを解除してしまうこともできる(FD同梱版だけかも)が、しおんルートは桜夜ルートの伏線や前振り的な要素もあるため、椿やフリージアのシナリオはともかく、しおんルートだけは桜夜ルートの前にプレイしておいた方がよいと感じた。


・まとめ

刃道という架空スポーツのために細かい部分まで世界観や背景設定を作り込み、時代小説のような剣術描写に刃道独自の要素をうまく混ぜ合わせることができていた。
登場人物たちも嫌味なキャラクターが存在せず、互いに敬意を払っていることもあり、非常に清々しい物語だった。
伝奇要素が絡んでくるのは予想外の部分で、1つのルート中に刃道も伝奇要素も詰め込んだ結果、どちらも駆け足の展開で描写不足になってしまっていたのは少し残念だったが、刃道のシーンの面白さや登場人物たちの魅力を考えると総合的には素晴らしい作品だった。