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Predawnvagabondさんのあなたに恋する恋愛ルセットの長文感想

ユーザー
Predawnvagabond
ゲーム
あなたに恋する恋愛ルセット
ブランド
UNiSONSHIFT
得点
90
参照数
605

一言コメント

萌えゲー、イチャラブゲーとしてお手本のような出来。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

・スイーツ一色の甘い物語

本作を一言で表してしまうと「典型的な萌えゲー」で、キャラ萌えとイチャラブに特化した作品となっている。
しばしば退屈とかストーリーは面白くないという感想になりがちな萌えゲーだが、本作の場合は物語が丁寧に作られているためか、そういったネガティブな感想を抱くことは殆ど無かった。
お菓子にスポットが当てられていることが本作の特徴で、ヒロインも主人公もお菓子作りという共通の目的を持った集まりなので、ヒロインと主人公が一つの方向に向かって一緒に頑張るという展開が多く、自然と全てのキャラが一堂に会する機会が多いテーマだったと思う。
専門授業として週に一日を製菓の授業に使うという設定で、ケーキ屋が倒産の危機に陥ったりするわけではないので、あくまでも普通の学園モノと同じノリで楽しめる設定だった。
ちなみに、専門授業は複数のコースから生徒の希望する授業を受けられるのだが、製菓の授業を受けるのは主人公とヒロイン4人だけという何とも素晴らしいメンバー構成となっている。
一応は授業なので製菓のテストや学園祭もあり、それが本作を単調にせず、だからといってシリアスにならない盛り上がりポイントとして存在していた。
目立つほどの存在感は無いのだが、BGMも本作の温かい雰囲気づくりに一役買っており、全体に渡って萌えゲーのお手本のような作品だった。

本作は本当にお菓子一色の作品となっており、授業やテストだけでなく休日に皆で出かける時もスイーツ巡りだし、放課後に学園外で集まる時もケーキ屋となっている。
製菓クラスのメンバーは言わば同好の士の集まりみたいなものなので、自分の趣味を共有する場でもあるために何気ない会話でも非常に楽しそうで、本作の明るい雰囲気もお菓子のおかげだと感じた。
一部のジャンルを除けばどうしても異性を意識させるようなイベントが多くなってしまうのがエロゲーの常だが、本作の場合は共通ルートの中盤までは主人公が女の子だったとしても殆ど違和感の無い展開で、その辺りも本作のゆるい雰囲気の理由なのだと思う。
お菓子の描写もコダワリが感じられ、それっぽい描写で誤魔化すこと無くグラフィックとテキストの両面でお菓子の魅力が伝えられており、甘いものを普段食べない自分でも「たまには甘いものでも買ってこようかな・・・」という気分にさせる程の描写だった。
また、用語集も過剰なくらいに充実しており、ザッハトルテのようなお菓子そのものだけでなく、お菓子を作る時にテクニックや失敗しやすいポイントまで解説されているので豆知識がかなり増えた。
ちなみに、おまけディスクには「ちょっとえっちに聞こえるお菓子用語」という特典が入っており、内容はヒロイン4人がカタカナのお菓子用語をエッチに聞こえるように読み上げるだけのものなのだが、そのおバカな発想に思わず笑ってしまった。

エロゲーにしては異性を意識させるようなイベントが少ないと書いたが、イチャラブ要素や恋愛要素が薄いというわけではなく、個別ルートに入ってからは恋愛要素が前面に出てくるようになっている。
個別ルート突入後に即付き合い出すというわけではなく、個別ルートで主人公とヒロインの距離が徐々に縮まっていく過程もしっかりと描かれているので、付き合い出す前のお互いがモジモジしている甘酸っぱい雰囲気や、その後の付き合いだしたばっかりの初々しい雰囲気がしっかりと描写されていた。
個別ルートのルート外ヒロインの登場頻度も理想的で、付き合い出すまではしっかりと登場し、付き合いだしてからは頻度は下がるものの、不自然にフェードアウトしたりはしなかった。
公式HPでは「起承転結の構造は残しつつ、それ以外はシリアスシーンを徹底的に削ぎ落としたイチャラブ特化作品」と謳っているが、少なくともシリアスシーンが存在しないイチャラブ作品ということに関しては保証できる内容だった。
ヒロインと付き合う上で何か障害が発生するわけではないし、お菓子作りにしても家を継ぐ等の理由ではなく、あくまでも好きだからというスタンスだったので、安心してイチャラブを楽しむことができる展開だった。
起承転結の方はやや疑問に思える謳い文句だったが、一応は個別ルートでも主人公とヒロインは家族の思い出のお菓子を再現するとか、試験に合格するために難易度の高いケーキ作りに挑戦するなどの目標を持ったお菓子作りをするので、ダレる(醒める)ことなくプレイできる内容にはなっていたと思う。


・ケレン味無しに魅力のあるヒロインたち

本作のヒロインは、明るく前向きなののか、頑張り屋の柚姫、マイペースでおっとりした楓花、楓花とは違った意味でマイペースでサボり魔だが主人公に的確なアドバイスをくれる美絵瑠の4人となっており、ツンデレのような付き合っていく内に魅力がわかってくるタイプではなく、第一印象の時点でわかるストレートな魅力を持っている。
ツンデレや何を考えているのかわからないミステリアスなヒロインも勿論好きなのだが、同好の士が集まる製菓のクラスであるという点や、部活ではなく授業のためにヒロインが同じ学年ということを考えると、本作ではストレートなヒロインが正解だと感じた。
また、ヒロイン全員が同じ学年のためにヒロイン同士の距離感が他作品よりも近く、より女の子同士が集まった時の賑やかさが出ていた。

ヒロイン4人の内3人はお菓子作りが上手く、店に並べることもできる程の腕前となっている。
反面、柚姫は最初はダークマターを生成してしまう程なのだが、メシマズヒロインというわけではなく単に調理未経験なだけで、努力を続けて少しずつ上達していく。
最初はお菓子作りが下手で徐々に上手くなっていく展開は、努力家で諦めない柚姫の魅力を十二分に引き出す設定だった。
また、柚姫は代わりに勉強が得意で、勉強が得意ではない楓花やののかが勉強を教えてもらうというイベントもあり、お互いに助け合う関係というのも本作のヒロインの仲が良さそうに感じる理由だった。

お菓子作りが初心者という点では主人公も柚姫と同じなのだが、残念ながら勉強も得意というわけではなく柚姫に教えられる側である。
得意な分野の無い主人公だが、野郎一人でスイーツショップ巡りをするぐらいのスイーツオタクなのを活かして、スイーツショップや学園祭、授業課題のための情報収集をしたりと、意識して自分なりに皆の力になるために動いていたので、お菓子に対する真っ直ぐな熱意も含めて好感の持てる主人公だった。
ちなみに主人公とののかは幼馴染とも捉えることもできる関係だが、お互いのことを覚えておらず(名前すら知らなかった?)良くも悪くも幼馴染特有のツーカーは無く、共通ルートや他ヒロインルートでは幼馴染だということを全く意識することはなかった。
反面、ののかのケーキ屋は主人公にとってはスイーツ好きになるきっかけの店だったし、主人公も実はののかがお菓子を作り出すきっかけとなる存在だということが彼女の個別ルートでは判明するので、センターヒロインとして程よい特別感が出ていたと思う。


・衣装に合わせて変化する髪型

本作のCG枚数は84枚+SD10枚となっており、フルプライスとしては標準的なボリュームとなっている。
原画、塗り共にハイクオリティで、特に塗りが素晴らしかった。
単純な色遣いも良かったのだが、光の当たり方の演出が非常に秀逸で、髪の毛の艶や陰影の付け方が素晴らしかった。
パッケージ絵だけ異様に気合が入った塗りで、本編中のグラフィックはそこまで・・・という作品がたまにあるが、本作の場合は逆で、本編中のグラフィックの方が気合が入った塗りだった。

立ち絵も非常に素晴らしく、台詞に合わせて動くのでキャラクターに躍動感があった。
服装に合わせて髪型が変わるというのが白眉で、それぞれのヒロインに4種類の服装と髪型の立ち絵が用意されている。
当たり前だがイベントCGにも適用されるので、色々な髪型を楽しむことができた。
また、髪型チェンジを強調するためかヒロインは4人共ロングヘアーなのだが、ロングヘアーが好きな自分にはそこも嬉しいポイントだった。


・特筆すべき部分の無いHシーン

本作のHシーンは各ヒロイン5回ずつの全20回となっており、本編中に4回、クリア後のオマケが1回となっている。
尺はそれなりにしっかりとしているものの、内容に特筆すべき部分はなく、絵は可愛いけどオカズにはならないという典型的な萌ゲーのHシーンだった。
オマケのHシーンの方も、バイブレーターや裸エプロンなどはあったのだが、印象に残ったのはそのくらいだった。
ただ、Hシーン中だけは主人公に対する呼びかけが名前から「あなた」に変わるので、細かい部分まで配慮されていると感じた。


・充実の用語集

本作のコンフィグ周りは非常に充実しており、色々な機能が搭載されていた。
ウィンドウサイズが可変、選択肢スキップなどのあれば便利だけど必須ではない機能もしっかりと用意されており、快適にプレイすることができた。
他にも、右クリックとF1~12キーに任意に機能を割り当てることができるし、お気に入りのボイス登録も可能となっている。
ボイスオートパン機能も付いており、立ち絵の位置により音の聞こえ方(左右のボリュームバランス)が変わるので、複数のヒロインの立ち絵が表示されている場面だと、女の子に囲まれている感を味わうことができるかもしれない。
逆に、残念な点としてはテキストウィンドウメニューが使いづらいことで、マウスカーソルを右側に持っていくとメニューが右端からポップアップする仕様(固定化可能)なのだが、立ち絵が3人以上表示されている状態だと立ち絵と被ってしまう微妙なサイズなので固定化して使いづらく、更に、読み進めている時に右端にカーソルを動かしてしまうとポップアップするのも邪魔だったので、普通のタイプのウィンドウメニューにしてほしかった。
また、ヒロインそれぞれのエンディングが別扱いのため、エンディングをスキップできないのも地味に鬱陶しかった。

上述したように本作はTIPS(用語集)が非常に充実しており、作中で登場する地名や人物名などの固有名詞だけでなく、お菓子関連の用語がかなりの数用意されており、フィナンシェとマドレーヌの違いや、純ココアとミルクココアの違いなど色々と学ぶことができるので、しっかりと読み込めば女子力がアップすることだろう。
未読の用語は未読欄に置かれるので、未読の用語がわかりやすいのは便利なのだが、最初から始めると用語集もリセットされるので、どれを読んだかわからなくなるのが少し残念だった。
用語集は充実し過ぎているため、真面目に全部読んでいるとテンポが悪くなり勝ちなのだが、用語集に載る言葉がテキスト中に登場するとそこだけハイライトされ、カーソルを持っていくと簡易的な説明がポップアップする仕様なので、お菓子について詳しくなりたいというわけではないのならポップアップを読むだけでもいいと思う。


・まとめ

本作は正にお手本のような萌えゲーで、ヒロインとのイチャラブに特化した個別ルートと、同好の士でもあるヒロインたちとの華やかな日常を描く共通ルートの両面で楽しめる内容だった。
グラフィック、特に作風にあった塗りや立ち絵によって変わる髪型、も素晴らしく、ヒロインを外面、内面の両方から魅力的に描けている作品だった。