総勢11人のシナリオライターが送る超駄作。
propellerと中央東口(+東出祐一郎)と言えば、燃えゲーでは鉄板の組み合わせだというのが自分の認識で、今作でもシナリオライターが無名ではあるものの、燃えゲー老舗メーカーだし、それなりに期待していたのだが、驚くべきレベルで期待はずれだったというのが正直なところだった。
まずシナリオだが、ボリューム不足な上に、細かい部分の設定が適当だし、キャラクター描写も不足している。
退魔士と鬼の戦いを描いた本作だが、退魔士の設定も鬼の設定も曖昧で、正に何でもありな状態になっている。
自分自身では普通の人間だと思っていた主人公が、実は退魔の素質があり、拉致されるも同然に退魔士ギルドに加入というのは良いのだが、ほとんど特訓もしていない主人公がいきなり刀を渡されて、鬼と対等以上に渡り合っているのは如何なものかと思った。
退魔士が鬼を滅する力を持っているという説明しかされないので、退魔士としての才能と言われれば矛盾は発生しないのかもしれないが、中途半端に特訓描写を入れたりと、ワザと曖昧にすることにより、ごまかしているようにしか見えなかった。
設定の適当さでごまかしている部分はストーリー中の随所で散見され、都合よく戦闘力が上がったりするのはまだいい方で、ヒドイものだと死にかけのヒロインが主人公の退魔の力で蘇って大団円という展開まである。それも4ルート中2ルートで。
また、退魔士ギルドの考えも良く分からず、鬼退治を至上命題にしている組織であるのはわかるのだが、それ以上の情報がストーリー中では開示されず、拉致同然で主人公を加入させたり、ギルドの代弁者と言える加治前の「対魔士は道具」という発言などの、退魔士の人間性全否定っぷりを見ていると、むしろ鬼以上に悪の組織に見えてしまい、一応は人類のために戦っている主人公達の頑張りも組織に都合よく利用されているようにしか見えなかった。
鬼の設定のほうも退魔士同様に曖昧で、アーニャルートだと科学的なアプローチで鬼とは何なのかを解明してるかと思えば、舞ルートでは地脈で力を得て進化するという、伝奇的な存在になったりと、鬼とは何なのか結局最後までわからないままだった。
キャラクターの掘り下げも出来ておらず、何故命をかけてまで鬼と戦うのかという人物背景の説明が殆ど無く、良く分からなかった。
シナリオのボリュームも不足しており、駆け足なので、ヒロインの女の子としての魅力が感じられるような話もほとんどなく、色んな意味でヒロインに魅力が感じられなかった。
また、加治前や鬼取丸、更にはラスボスも、そういった掘り下げが少なかったのが残念だった。
制作側としては、加治前をプロフェッショナルが故に冷徹で寡黙なキャラクターにしたかったのだと思うのだが、冷徹と言うよりは冷酷に感じられ、必要なことも喋らない場合もあるので、寡黙というよりは秘密主義(しかも胡散臭い退魔ギルドの代弁者でもある)に感じられた。
加治前は一応は千鶴ルートで、鬼退治に固執する理由が明かされるのだが、自分のように千鶴ルートを最後に回した場合、千鶴ルート終盤まで加治前が必要以上に冷徹に見えてしまい、せっかくのキャラの魅力が半減してしまっていたので、出来れば、加治前の話は共通ルート部分に入れておいて欲しかった。
鬼取丸はそういった冷酷さは無く、むしろ主人公の良い相棒なのだが、だからこそ、鬼取丸の話を入れて、もっとキャラクターに深みを持たせて欲しかった。
ストーリー中で、チンピラだの、粗雑だの言われる主人公も、退魔士になる前はどういった人間だったのかという、説明はほとんど無く、結局のところ主人公が本当にチンピラ学生だったのか、そうでは無く口が悪いだけなのか分からないまま終わってしまった。
シナリオ中では口は悪くデリカシーに欠けるものの、人格にダメな部分は少ないため、多分口が悪いだけなのだと思うが、燃えゲーでは主人公のキャラクター性が他ジャンルよりも重要なので、もう少し主人公の言動にも気を配って欲しかった。
戦闘シーンもイマイチなものが多く、その場のノリで戦闘能力が上がる時点でお察しではあるのだが、ヒドイものだと大量の鬼との戦闘シーンがダイジェスト風に描かれてお終いだったりもする。
アーニャルートに関しては、「他と比べると」出来は良く、戦闘シーンもしっかりしていたし、鬼や退魔士の成り立ちについても触れられていて良かった。ただし、そこが禍して、他ルートとの整合性が取れていなかったりして、作品全体の設定の杜撰さが余計に目立つという皮肉なことにもなっているが・・・。
敵側が知性の無い、獣のような鬼の他には、ラスボスが1人だけというのも、盛り上がりに欠ける要因になっており、ルート毎のバリエーションが少なく、似たような展開が多いのが残念だった。
せめてラスボスの存在はもっと前から仄めかすなりして、主人公との因縁なんかを作っておいてくれると、ノリでパワーアップしてラスボスを倒してしまう展開とはいえ、もう少し燃えたと思うのだが・・・。
シナリオ部分の感想を見返すと批判的なことしか書いていなかったので、何か良かった部分を書こうと考えてみたのだが、残念ながらシナリオに関しては褒められる部分が見つからなかった。
OPムービーではシナリオライターの名前は1人しか書かれていないのだが、EDのスタッフロールでは驚くことに11人ものライターの名前が書かれている。
そんなボリュームがどこにあったんだよ!と思わずツッコンでしまったが、真面目に作ったとしても11人で整合性のあるシナリオを作るのは至難の業だろう。
一体何のために11人ものライターを起用したのだろうか。本作の出来を見ていると、責任分散のための傘連判みたいなものに感じられて仕方が無かった。
グラフィックに関しては、出来は良かったと思う。
日常シーンやHシーンのCGは割りと普通の出来だったが、戦闘シーンのCGの出来は非常に良かったと思う。
ただし、立ち絵は解像度(?)が低いのか、首から上が拡大されるような立ち絵になると、ジャギが見えるキャラクターも存在した。
それと、背景グラフィックに関してはイマイチで、安っぽいものが多く、更にキャラクター毎の個性が出そうな寮の個室も全キャラが同じ背景で味気なかった。
ボリュームは全部込みで77枚となっていて、そのうち12枚が鬼や式神などのモンスター、6枚がSDとなっているので、フルプライスとしては少なめな部類だが、シナリオが短いので、プレイ中にCG枚数の不足を感じることは無かった。
Hシーンは回想数的には15回となっているが、実際のところは、各キャラ2回ずつとなっている。
テキスト量的には普通で、内容も普通のものだが、地の文が完璧な主人公目線となっているためか、少々クセがある。
なお、本作ではほとんどのHシーンがストーリーが終わってから、エンディング間近で発生するようになっている。
実のところ、きちんとお互いが好き合っていると告白するのも全部終わった後なので、どうにも性急な展開に感じられてしまうのだが、ライター陣の実力を鑑みるに、鬼との戦いの間に恋人同士の描写を入れると、安っぽくなってしまいそうなので(既に安っぽいというのは置いておいて)、無難な選択なのかもしれない。
本作のシステムは、クリック時音声カットの設定等も含めて基本的な設定項目は用意されているが、お世辞にも使いやすいといえるものではなかった。
どういうわけか、Alt+Enterで最大化や、ctrlで強制スキップ等の、大概のエロゲーでは共通して設定されているキーボードショートカットが使えないのである。
それだけだと大したことは無いと感じるかもしれないが、フルスクリーンでプレイ中にサブモニターに移行したり、windowsキーを押したりして、ソフトがフォーカスから外れると、勝手にウィンドウモードに戻るという斬新な機能や、それなりの頻度でクラッシュするなど(少なくとも自分の環境では)、キーボードショートカットの出番が悪い意味で通常より多い本作では、使えないのが非常にストレスに感じた。
他にもエンディングがスキップ出来ない(一度見た後はスキップ可能だが、各ヒロイン毎のエンドロールが別扱い)など、ストレスを感じる部分が多々見受けられた。
更に、BGMのボリュームの設定が上手く行かず、最小まで下げても、自分にとってはボリュームが大きく感じられた。
確かに本作のBGMの出来はそれなりに良かったとは思うが、もう少しボリュームを下げてプレイしたかった・・・。
・総評
燃えゲーをそれなり以上の数作っているはずのpropellerだが、残念ながら本作は、グラフィックを除くほぼ全てにおいて駄作と言わざるを得ない出来だった。
特にシナリオが酷く、穴だらけで薄っぺらい世界観やキャラクターと、燃えゲー、あるいはバトルものに必須な要素も酷く、自信を持ってお勧めできない作品だった。