ニトロプラスらしい作品。特に奇をてらったジャンルではなく、全力で燃えに力を注ぐニトロが好きなら楽しめる。
・色々詰め込みまくりなジャンル
サイバーパンクにゾンビという珍しいジャンルの組み合わせに、他メーカーは絶対に真似しないような3D戦闘シーンと、如何にもニトロプラスの作品らしい本作は、変化球でエロゲーマーに全力で喧嘩を売りに行った問題作(褒め言葉)の「君と彼女と彼女の恋」と比べると、伝統的とも言える血と硝煙の匂いのする作品となっており、より間口が広く、従来からのニトロプラスのファンには勿論、サイバーパンクSFやゾンビという単語にピンと来るなら誰にでもオススメ出来る作品となっている。
まずSF作品としてだが、登場する武器はガジェットはカッコいい物が多く、他作品からのオマージュとかもあるのかもしれないが、よくこれだけの数のガジェットを思いついたものだと感心しながらプレイしていた。
登場するガジェットで最も重要なものとしては、人間の無意識領域を拡張して無意識下の判断をサジェストという形で表示する、戦闘補助を主とする外部電脳のエクスブレインで、アイデア自体はSF作品としては一般的なものだが、普通のSFでは登場しないネクロマンシー技術が絡んでくることにより、本作では他とは一味違った活躍の機会が与えられているのが面白かった。
また、武器や乗り物、他の小物も大抵は3Dモデルがあるのも凄いことだと思う。
サイバーパンクらしい世界観も魅力的で、大氷河期に陥り物資に困窮した世界では、スラムではギャングが抗争していて、そうでない比較的安定している地域でも行き倒れがあちこちで転がっている荒廃した世界となっている。
ゾンビ作品として見た場合、リビングデッドはネクロマンサーにコントロールされており、リビングデッド化するために使用される薬剤(ナノマシン?)は、死体にしか効果がないという設定のため、コントロール不能なゾンビパンデミック的な恐怖感は殆ど無かった。
しかし、本作にはHi-FiとLo-Fiと呼ばれる二種類のリビングデッドが登場し、Lo-Fiは自意識もなく攻撃対象に襲いかかるだけの存在で、数が武器という従来のゾンビ映画的な存在となっているのだが、Hi-Fiの方は、バイ○ハザードの追跡者みたいな戦闘能力の高い改造されたものや、人間と見分けのつかないものなどがあり、戦闘シーンやストーリーを盛り上げるのに重要な役目を果たしていた。
また、本作の他の要素とゾンビの組み合わせが良くて、特に対リビングデッド用の特徴的な武器が出てくるのが良かった。
主人公の早雲が使用する、マズルパイク付きの二丁拳銃の「リ・エリミネーター」が最たるものだが、他にもドラムマガジン付きのショットガンやチェーンソー、20mmアンチマテリアルライフル等、人間相手にはオーバーキルな派手な武器が多く登場する。
ゾンビとSFという組み合わせは、技術レベルが現代と余り変わらない近未来ならともかく、100年以上未来のSF作品としては、結構珍しいと思う。
しかし、サイバーパンクSFとリビングデッド(特に人間と見分けの付かないHi-Fi)との相性は良くて、サイバーパンクお馴染みの、技術が進んで曖昧になってくる人間性という部分に、本作はゾンビ要素を加えることにより、独特の視点で人間とは何かという部分にも踏み込んでいたのが面白かった。
設定が物凄く盛り込まれている本作だが、盛り込みすぎて全部で25時間程度のプレイ時間の本作では全てを活かしきれていないように感じた。
例えば、凍京では米中戦争の影響もあって、退役米軍軍人や、ロシアンマフィア、マラッカギャング、チャイニーズマフィア等の色々な組織が、それぞれが自分たちの地域で幅を利かせているのだが、物語中では全くと言って良いほど絡んでこないので、それだったら普通にマフィアと一括して呼称しても問題なかったように感じた。
過去作の「装甲悪鬼村正」に関しても似たような感じで、本編では描写しきれなかった部分をスピンオフ作品として補完し、今でも続いていたりするので、本作も人気が出たら色々とスピンオフが出るのかもしれない。
少なくとも、主人公の親世代が活躍する、米中戦争時代のノベライズ辺りは刊行されるのではないかと思う。
戦闘シーンだが、3Dでのアニメーションが凄く目立つ本作だが、その分テキストが少ないということもなく、上手いこと両立してトータルで魅せていると感じた。
3Dのクオリティに関しては、コンシューマー向けのゲームにも使われているDieselEngineを使っているということなので、他のコンシューマー向けのゲームと比べると、やはり人数も予算も違い過ぎるためか(ユーザー側のPCスペック事情もある?)、劣っていると言わざるをえないが、それでも出来は良く、これだったら今までどおりの3Dの静止状態のものにして欲しかったとはならなかった。
また、好意的に考えると、3Dがリアル過ぎると洋ゲーよろしくヒロインがバタ臭くなったり、戦闘アニメーションもリアル寄りにする必要が生じてアニメ的な戦闘シーンが微妙になりかねなないので、3Dがリアルでは無いというのも、必ずしも悪いとは言えないとも感じた。
戦闘シーンは、人間同士や巨大なリビングデッドと戦うシーンでは俯瞰視点な3Dアニメーションで描写されるのだが、数で襲い掛かってくるLo-Fiリビングデッドとの戦闘シーンの場合は格闘戦だけではなく、銃器も活躍するため、FPS的視点を使うことにより、数で押してくるリビングデッドの脅威を上手いこと表現出来ているのも良かった。
背景も3D化されていて、車で走ったりするシーンでは景色が流れたりと、3Dならではの演出も多く、ニトロの最初の作品であるPhantomの頃から3Dモデルに拘り続けているメーカーの15周年を記念する作品だけあり、3Dに関する満足度は高かった。
3Dに関しての唯一残念だった点は、3Dキャラクターが喋るシーンでの台詞と口の動きがあっておらず違和感があったことで、出来ればもう少し口の動きをキャラクターの喋りに合わせてほしかった。
本作には全部で4つのルートが存在し、(多分)4ルートをクリア後に大団円エンドが開放される仕様となっている。
イリアルートを除く、蜜魅、コン・スー、霧里ルートの3つはお互いにネタバレを含むので、どのルートからプレイするのかは結構重要な選択となる。
大団円エンドが最後に来るので、どの順番でプレイしても読後感は悪く無いとは思うが、個人的には選択肢で「階段を登る」と「ミルグラムを撃つ」を選ぶと突入するコン・スーのルートを最初にプレイするのが一番楽しめる気がする。
ニトロプラスの作品、それもバトル物とういことで、サブキャラ含めてみんな生存という展開は、大団円エンドも含めて存在しないのだが、ビターエンド的なルートでも読後感の悪いだけの終わり方をするルートは存在せず、生き残った者は自分なりの救いを見つけて前向きに生きていくみたいな爽やかな終わり方となっている。
・好対照なダブル主人公
公式HPのキャラ紹介を見てもわかるように、本作は主人公が早雲とエチカのダブル主人公となっている。
そのため、物語は主に二人の視点で進むのだが、二人は戦闘行動の絡む仕事以外では、別行動することの方が多く、多角的な視点でシナリオは書かれている。
また、戦闘もここは自分に任せて先へ行け的な展開が多いため、二つの戦闘が同時間軸上で行われることになるのだが、戦闘場面ではいい所で視点が切り替わるというのがほぼ毎回で、盛り上がりに水を差されたと感じることが多かったので、そういった演出はもう少し減らして欲しかった。
エチカはガチのレズビアンなので、早雲と主人公同士で甘い雰囲気になることは一切無く、二人の関係はあくまでも、凸凹でありながらも阿吽の呼吸の相棒となっている。
早雲は空気が読めず、感情も余り表に出さないキャラクターで、パッと見では生きている人間と変わらないリビングデッドを平然と解剖したり、運転中に急ハンドルはよろしくないという理由で、行き倒れの死体を平気で踏んだりと、極端な合理的思考の持ち主となっている。
また、人間の情緒に関するような合理的思考だけでは解決できない事柄に対しては、ヘルメットのような見た目のエクスブレインを、街中でエスコートするためだけに装着しようとしたりと、エクスブレイン依存症みたいなところがあるのも面白かった。
反して、エチカの方は感情剥き出しで、命の危険があるような場合でもエクスブレインを使用せず、直感や感情で行動を選択するなど、非合理的な面が目立つキャラクターとなっており、早雲とは対照的な性格で、異なる二人の視点で凍京NECROの世界を見ることが出来るのは良かったと思う。
主人公の二人は勿論、メインヒロインの4人や主人公サイドのキャラクターにしても、十分と言えるかは議論の余地があるかもしれないが、キャラクターが掘り下げられているのだが、それ以外のキャラクターに関しては、掘り下げが不足していると感じることが多かった。
最たるものは、ラスボス的存在であるミルグラムで、割りとありがちな「死は安らぎではなく克服するべきもの」みたいな思想を掲げているのは、本作の作風ともマッチしていて良かったのだが、どうにもその思想に至った過程や動機の説明が不十分で、目的を遂げた後は早雲に殺されたがったりと、何を考えているのかわかりづらく、魅力を充分に伝えきれていなかったので、もう少し掘り下げて欲しかった。
他にも、オルガはとんでもない設定なのにきちんと説明されないまま物語から退場してしまうし、ソフィアにしても、何故そこまで熱心に凍京リバースプロジェクトを推進するのかわからなかったので、もう少し説明が欲しかった。
・2DのCGもボリューム満点でハイクオリティ
本作のCG枚数は全部で93枚となっており、フルプライス作品としても多めなのだが、忘れてはならないのが、3DのCG(ガジェットや武器)やアニメーションも別にあるということである。
そのため、総合的なグラフィックボリュームに関しては単純に評価することが難しいのだ、満足度は物凄く高いということは確かだった。
3D部分に関しては上述しているように凄く良かったが、通常のCGの方も素晴らしく、特に塗りが印象に残った。
原画はどういうわけか大崎シンヤを起用しており、ニトロでお馴染みの生肉ATKや津路参汰では無い。
燃え路線にはイマイチ合わなそうな津路参汰はともかく、生肉ATKの場合は燃え路線も余裕でいけそうだが、本作ではエンドロールでグラフィック関連の部分にこそ名前があるものの、原画担当ではない。
もちろん大崎シンヤがダメということはなく、燃え路線では重要なオッサンもしっかりと描ける人なので、生肉ATKの大ファンという人にとっては残念かもしれないが、そうでないなら満足出来るクオリティだったが、個人的にはもう一人くらいオッサンキャラを描いてほしかった。
極少数(皆無?)の人間しか関係無いと思うのだが、プレイ中にスクリーンショットを取る人にとっては、本作ではオーバーレイ(?)がかかっており、スクショを撮れない仕様になっている。
エロゲーに限らずPCゲーにはよくある話なのだが、エロゲーの場合は「デスクトップコンポジションを無効にする」に設定してから起動すると、基本的にはオーバーレイは掛からなくなり、スクショを撮れるようになる。
ところが、本作ではデスクトップコンポジションを無効にしてもオーバーレイが解除されず、スクショが撮れなかった。
本作のCGをデスクトップの壁紙にしたかったので、何とか撮れないものかと試行錯誤した結果、Steamに凍京NECROをマイライブラリに登録した後、Steam経由で起動すると、Steamの機能を使用してスクショを撮れることが判明したので、万が一、壁紙にしたいのにスクショ撮れないと嘆いている人がいるのなら試してみてほしい。
ただし、Steam上のフレンドにエロゲーマーであることがバレるので、スクショをさっさと撮って登録を解除するなり、諦めてエロゲーマーであることを認めるなりする必要がある。
・消化不良なHシーン
本作のHシーン回数は12回と少なめとなっているが、大部分の人が期待している領分じゃないと思うので、そこまで大きな問題ではないと思う。
ただ、回数が少ないのは予想の範囲内なのだが、消化不良のシーンがとにかく多いのが残念だった。
例えば、エチカと神妻のシーンで、前戯が終わって盛り上がりだした途端に電話があって中断とか、他にも、シーンの途中で場面が切り替わってフェードアウトみたいな終わり方がある。
回数の上では数回なのだが、全体の回数が少ないことや、最後まで描写されているシーンも短いものが多いので、どうしても消化不良に感じてしまった。
一応はエロゲーという分野の作品なので、もう少しHシーンに力を入れてほしかった。
キャラ毎のシーン内訳としては、エチカと早雲4回ずつ、残りはその他のキャラ同士となっているが、上で書いたようにエチカはレズビアンで、オルガとコン・スーは両刀の上、早雲はとある事情で不感症みたいな状態のため、レズのシーンが多めとなっている。
陵辱シーンは、オルガ、ソフィア、蜜魅の3人に存在するが、蜜魅の場合は彼女のルートでは未遂で終わり、イリアルートの場合オルガに陵辱される展開になる。
レズシーンの内容は、エチカと霧理の場合は普通の(?)手や口を使ったレズシーンだが、オルガとエチカのシーンではペニバンを使ったちょっとマニアックなものとなっている。
コン・スーはドMのため、早雲及びエチカとのシーンでは、水攻め、スパンキング、目隠しで玩具責めのような、絵面的には陵辱されているようにしか見えないシーンとなっているが、本人は大洪水状態となっている。
しかし、Sも得意のようで、オルガを尋問するシーンでは活き活きと尋問したりと、凍京NECROの女性キャラは、男どもよりも遥かに性に貪欲だった。
・デザインや演出重視のインターフェイス
本作のコンフィグは必要となる項目は一通り用意されていたと思う。
ボイスの個別音量調節こそ出来ないものの、しっかりと制作側でバランスをとってあるので全く問題なかった。
キーボードショートカットがいつも通り独特なのは構わないのだが、右クリックでメッセージウィンドウを消去できるようにしておいてほしかった。
エロゲーとしては比較的重い作品なので、アンチエイリアスやセルフシャドウ等の、コンシューマーゲームにあるような部分も設定出来るので、スペックが低くてもある程度は問題ないようになっていた。
用語辞典も搭載されており、メッセージウィンドウ上の用語をクリックすることで用語辞典を開くことが出来るのも便利だった。
独自用語の多い本作にとって辞典の存在は有り難いのだが、項目が充実しすぎていて読みながらプレイしているとテンポが崩されると感じることもあった。
その割には辞書の内容は大したことがなく、地の文でほとんど説明されているし、場合によっては「詳細は不明」みたいな項目もあり、辞書を読まないと気づかない設定とかは無いので、用語を忘れてしまったら読むくらいで大丈夫だった。
ただ、ガジェットや武器の参考資料っぽい画像を見ることが可能なので、武器の項目は一度は見た方がいいと思う。
本作はシナリオ中のものだけでなく、ユーザーインターフェイスの演出も非常に凝っている。
例えば、ソフトを起動するとDOS風の画面が表示され、その状態で[Search]とコマンドを入力するとタイトル画面に、[Exit]と入力するとソフトが終了したりと、起動の段階から演出が凝っている。
また、プレイヤーはサブコンというネットワーク上で生まれた意識を通してストーリーを見ているという体を取っており、インターフェイスもそれに合わせてデザインされている。
他にも、2199年には記憶媒体にホログラフィックを用いられているため、セーブ画面もホログラフィック風に表示されたりと、細かいところまで非常によく作りこまれていた。
システムボイスもサブコンが担当しているのだが、最初は言葉を喋っているのかすらわからない不明瞭なボイスなのだが、ルートをクリアする毎に少しずつ何を言っているのかわかるようになり、大団円を迎えるに及んで流暢に喋るようになるというのも凝っている。
インターフェイスも含めて一つの作品になっていた本作だが、逆に言うと演出重視のため、使いやすさはイマイチだった。
例えば、ゲーム起動時のDOS演出のためにオープニング画面が表示されるまでに30秒ほどかかるし、セーブ画面もホログラフィック風のデザインは見づらく、セーブスロットを複数使うタイプの人の場合、目当てのスロットを見つけるのに苦労すると思う。
あくまでエロゲーメーカーとしてのニトロのシンパとしての意見だが、前作の「君と彼女と彼女の恋」のリプレイ性ゼロというか、クリーンインストールしないとリプレイすら出来なかった前作を鑑みるに、ニトロは単純にストーリーだけでなく、システムも含めた総合的な要素でゲームを一つの作品に仕上げているように感じられる。
そういう意味では、本作のデザイン重視のインターフェイスも納得出来るもので、事実プレイしていてシステム周りの演出に対してイライラしたりしなかったので、試みは成功していたのではないかと思う。
とはいえ、数年に一回しか新作を発売しない上に、独特の作品を作るニトロだから許されるのであって、オーソドックスな学園ジャンルとかで、こんなインターフェイスにされたら苛立つと思う。
・広くオススメ出来るエンターテイメント作品
登場人物が大体死ぬ「装甲悪鬼村正」や、片方のヒロインを攻略するともう片方が攻略できなくなる「君と彼女と彼女の恋」みたいなニトロプラスの他の作品と比べると、本作は大人向け深夜アニメみたいな内容で、ニトロの作品としてはそこまで登場人物が死なない上に後味も悪くなく、奇をてらった仕掛けも無いので、リビングデッド(ゾンビ)やサイバーパンクという言葉に惹かれる人には広くオススメ出来る作品だった。
エロに関してはエロゲーの割には相変わらずイマイチだったが、最初期の作品から3Dに拘っているニトロプラスの15周年作品に相応しく、3Dアニメーションの出来は素晴らしく、演出も凝っていて燃える作品だったので、他のエロゲーでは出来ない体験が出来る作品だった。