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Predawnvagabondさんのイノセントバレット -the false world-の長文感想

ユーザー
Predawnvagabond
ゲーム
イノセントバレット -the false world-
ブランド
CINEMATOGRAPH
得点
80
参照数
645

一言コメント

良くも悪くも期待通り。戦闘シーンや渋い男キャラは良かったけれども、それ以外のシナリオ部分はイマイチな部分が多い。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

戦闘シーンの銃撃戦は期待には十分に応えられていたと思う。
主人公とヒロインは異能を使うということで、銃そっちのけで能力バトルものにならないかと心配していたが、公式HPで言明されている通りに、きちんと銃撃戦に主軸が置かれていた。
要所要所で異能が活躍するのはもちろんだが、いざという時に頼りになるのは日頃の訓練や経験であり、異能は精々それを後押しする程度で、ピンチに覚醒して切り抜けるみたいなご都合主義が少ないのは良かった。

戦闘シーンは割りと頻繁にあり、量も満足行くものだった。銃や銃撃戦等のミリタリーの部分もクドくなり過ぎない程度に描写されているので、テンポ良く読み進められた。
銃声の効果音にかなり気合が入っており、銃毎に効果音が個別に用意されてて、効果音に関してはその辺りのFPSに引けを取らないクオリティだった。
時折、銃弾の口径等の細かいところで間違いが見受けられるが(知識が間違っているのか、ただの書き間違いかは不明)、それなりのテキスト量に加えて、デバッグで文章を校正する人全員が銃機に詳しいわけでは無いと思うので、これくらいなら許容出来る範疇だった。
銃の種類も豊富で10以上の種類の銃が登場する。主人公の所属する即鬼隊は日本の警察組織ということもあって、警察が使っても違和感の無い、アメリカやドイツの公の組織が使っている銃しか登場せず、東欧の銃が一切登場しないのはちょっと寂しいが、世界観的には仕方の無いことだろう。


シナリオはまず、男キャラが渋くてカッコいい。
コンフィグの個別音量設定を開くとメインヒロインの3人以外は全部男という、萌えって何?な割り切りの良さに驚く。
また、新兵である主人公を鍛え、導くのも殆どの場合が即鬼隊の面々なので、戦闘以外でも男キャラの出番は多い。
最初は舌打ちで迎えられた主人公が、実戦や訓練を通し、一人前になっていくにつれ、少しずつ即鬼隊に認められていく王道な展開は良かった。
主人公も初陣では敵の銃弾にビビッて、一発も撃ち帰せなかったのが、徐々に恐怖を克服して行き、慣れてくると今度は調子に乗って取り返しのつかない過ちを犯したりと、スーパーヒーローではない、等身大の泥臭い主人公は非常に好感が持てた。

男キャラが良かったのに対して、ヒロインはというと、イマイチ印象に残らなかった。
ヒロインに魅力が無いと言うよりは、シナリオがヒロインを十分に活かせていないと感じた。
共通シナリオの戦闘では、攻性体は特異遺伝種を持つ主人公かヒロインが傍にいないと倒せないという設定により、即鬼隊とバディを組むことの方が多いのに加え、学園での選択肢を選んで、能動的にヒロインに会いに行かないと、会話イベントもあまり発生しないので、共通部分ではヒロイン達の出番は非常に少ない。
更に、ヒロインの個別ルートも短く、どのヒロインも大筋は同じで、終盤にかけての盛り上がる場面は共通ということもあって、印象に残らなかった。
ヒロイン毎に中盤以降の展開を完全に別物にするとか、せめて、恋人としてのヒロインとの描写をもっと増やして掘り下げてくれないと、他の部分に埋もれてしまうのも致し方ないだろう。
個人的には愛と早苗が持つ、独特の感性が好きだったので、もっとそこを強調するようなイベントが欲しかった。

人間ドラマや登場人物のカッコよさ、魅力を除いた部分のシナリオに関しても同じようなことが言え、悪い意味で予想通りの展開が多かった。
如何にも黒幕ですという風体、喋り方の田中が普通に黒幕で、動機もありきたりだったり、終盤は発売日に間に合わせるために無理矢理詰め込んだんじゃないかと邪推したくなるくらい駆け足で説明不足だったりと、風呂敷の広げ方、畳み方に関してはイマイチだった。
せっかくの謎だらけで不気味な未確認攻性体という敵が、実は黒幕のコントロール下にありましたという安易な展開により魅力が損なわれてしまっている。

更に、日常パートである、学園での学生ライフの描写が滑ってしまっているのも問題である。
シナリオライターとしては、日常と戦場の対比を描きたかったのかもしれないが、莢香は学校でも張り詰めているし、愛は無表情で何考えているかわからないと、戦場と日常を両立して描くにはあまり相応しい性格では無かったように感じた。
唯一、テンプレートな女の子さを持つ早苗は、後輩なので学園での会話が少ないのに加え、戦場では後方支援+狙撃班と、硝煙にまみれたイメージとはやや離れているので、こちらも上手くいっていない。
結果として、学園での生活が何処か空々しく見えてしまった。


グラフィックは良かった。
銃の描写もしっかりしているし、ヒロインのグラフィックも戦闘シーンでは凛々しく、日常シーンでは可愛く描いている。
Hシーンでの裸もむっちりと肉感がよくて(特に早苗)非常に素晴らしかった。
男キャラも渋く、魅力的に描けており、戦闘シーンのイベント絵は非常にカッコよかった。
原画家の過去作を見てみると、男キャラが多く登場し、戦闘シーンがメインのゲームに加え、抜きゲーの原画も描いていたりと、経験豊富な方なようで、本作を担当するには正にぴったりな原画家だと言える。
CG枚数は全部で81枚。

Hシーンは各ヒロイン3回ずつの合計9回。
こういうジャンルのゲームとしてはHシーンの出来は悪くなかったと思う。
これはテキストのお陰というよりは、グラフィックのお陰だろう。
愛や莢香もよかったが、個人的には早苗のムッチリしたボディが非常によかった。


・総評
戦闘シーンと主人公を含む男キャラは魅力的に描写出来ており、銃器を含むグラフィックも素晴らしかった。
その反面、ヒロインの個別ルートが短くて魅力が活かせていなかったり、終盤のストーリー展開が性急過ぎたりと、穴も大きかった。