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Predawnvagabondさんのすきま桜とうその都会の長文感想

ユーザー
Predawnvagabond
ゲーム
すきま桜とうその都会
ブランド
propeller
得点
85
参照数
385

一言コメント

シナリオ、演出、BGMと全体的にレベルが高かったが、何よりも作品の持つ優しい世界観というか雰囲気が印象に残った。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

・シナリオ

キャラクターやストーリー展開含め面白かったが、何よりも印象に残るのは、この作品の持つ世界観というか雰囲気だろう。

嘘つきしか入れない年中桜が咲き誇る不思議な都会が舞台なのだが、この都会に住む嘘つきたちというのは、一般的な悪い印象を持つ人を傷つける嘘とは違って、何らかの事情を抱えていて普通の世界で生きるのに少々問題がある人たちが、自分を守ったり、本当の自分を誤魔化したりするためにつく「嘘」なので、悪い印象は無く、作中でも言及されているように優しい印象を持つ。
またシナリオにも「嘘」とは何なのかという、メッセージ性のような物が込められていたように思う。

タイトルから分かるとおり、都会では年中桜が咲き誇ってるのだが、通常では直ぐに散ってしまう桜がいつでも咲いているというのは、何とも嘘つきたちが住む都会らしくて、物語の雰囲気作りに一役も二役も買っていた。
タイトルに「桜」が付くゲームは多いが、個人的にはここまで桜が印象に残るゲームは少ないように思う。

シナリオはコメディな部分がやや多めだが、嘘つきたちが集まる都会だけあって、みんなどこか変(良い意味で)で、クスリと出来るネタが多く好印象だった。
シリアスな部分は少なめで、本作が持つどこか優しい雰囲気は損なわれずに、最後はきちんとハッピーエンドで終わる。
ヒロインによってはハッピーエンドの部分はご都合主義的で綺麗に終わりすぎる感が無きにしも非ずだが、嘘つきたち住む優しい都会ならそれもありだと思えた。

ヒロインたちもうその都会に住んでいるだけあって何らかの事情を抱えているのだが、結構重いものから、思春期特有の他人から見れば何気ない程度の悩みまで色々あって、変に重いものを背負ってるヒロインばかりじゃ無いのが、ヒロイン毎に違う面白さがあって良かった。

3人のヒロイン攻略後(咲良攻略後?)に開放される鈴のシナリオでうその都会の誕生経緯などが明かされるが、やや唐突というか無理矢理な感はあったが、最後は綺麗に終わっていたし、読後感的なものも非常に良かった。


・グラフィック関連

キャラクターのグラフィックの出来も大体のものは良かった。ただし、ちょこの一枚絵の原画にいくつか違和感を感じるものがあった。

背景のグラフィックに関しても良く出来ていた。
ほとんどの背景グラフィックには桜が存在するのだが、桜が前面に押し出されすぎることもなく、目立たないわけでもなくで、非常に印象に残った。
都会のど真ん中にドでかい桜の木が咲き誇っているので、陽の光や月の光は当然ながら、桜越しに降り注ぐので、野外のシーンの絵では光の色、ひいては全体の色使いが若干違ってくるのだが、この辺りの彩色の出来は抜群だった。


・キャラクター

うざキャラのちょこ、健康のためなら味は二の次な健康マニアでお姉さんぶりたがりな花珠、その他サブキャラの戦国系男子の正宗(偽名)等、印所に残るキャラは多かった。

しかしながら、一番印象に残るのは妹の咲良だろう。
ややテンプレ気味なツンデレながらも、言動の端々から主人公である兄の事が好きで好きで仕方が無いことが窺えるのが素晴らしかった。
ともすればヤンデレになりかねないくらいに兄の事が好きなのだが、他ヒロインルートでは兄離れしようと努力しつつ、兄の背中を押すシーンも、うその都会で色々な人と触れ合い、成長した咲良を感じることが出来て良かった。

正ヒロイン(多分)の鈴も魅力的なキャラクターではあったのだが、共通と他3人のルートではほとんど出番が無いので、印象はやや薄いか。
主人公とも非常に深い縁を持っているのだが、それが判明するのも終盤の終盤なので、いまいちヒロインとしての魅力は出し切れてない印象。


・Hシーン

少なくとも個人的には実用性に乏しかった。

シーン数は鈴を除く3人は各3回で、鈴のみ2回。尺は短くは無いと思う。
ただし、咲良はシスコンパッチを当てれば、+3回。残念ながら、シスコンパッチは現在は配布終了してしまっているので、自分のようにインストールだけして積んでいた、みたいな人間でなければ、入手困難かもしれない。


・システム、演出

システムは特に印象に残らず。ちょっと音量調節が使い辛かったくらいかな。

演出はこういったジャンルのゲームの中では頭一つ抜けて良かったと思う。
立ち絵シーンなどでも桜が舞ったり、コメディシーンなのにやたらとエフェクトが凝っていたり。
エフェクトはpropellerの東出ラインの作品のものもいくつか見受けられたので、演出の出来の良さに関しては今までメーカーが培ってきた技術の賜物だろう。

ルートをクリアすると、タイトル画面がクリアしたヒロインのものに変わっていたり、インストール中にも退屈しないように工夫されていたりと、細かいところまで配慮されいて、好印象だった。


・音楽

BGMが作品の持つ雰囲気と非常にマッチした柔らかい感じの曲が多く、耳に残った。

主題歌である、「言葉繋ぎ」、ED曲である「Brand New Voice」共にとても良かった。


・総評

シナリオが持つ優しい雰囲気が非常に魅力的で、自分もうその都会に住みたくなるくらいだった。また、音楽、グラフィック、演出のレベルも高く、作品の雰囲気作りに置いて重要な役割を果たしていた。