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Planadorさんの夏ノ終熄の長文感想

ユーザー
Planador
ゲーム
夏ノ終熄
ブランド
CUBE
得点
70
参照数
840

一言コメント

現実世界がこの状況だから、物語の中だけでも憂うことなく救いを、という風潮はわかるのだけれども、物語だからこそ、あるべき地点に着地をしてほしいものだと、自分は考える。長文は二兎ではなく一兎を追ってほしかった、という話。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 本作、端的に言えば、昨今のコロナ禍をモチーフにしているのは見てわかるとして。感染症自体はオリジナルの設定をしているので、特段どれというものでは恐らくありません。強いて言うならたんぱく質不足によるなんとやら、でしょうか。
 ただ、感染症とはいえ、その原因、というより「人に移る要因」は全く書いてないんですよね。過去の掘り下げもですが、その辺りは全て「ファンタジー」の領域として描いています。

 その結果、本作の登場人物(といってもユウジとミオだけですが)はマスクをしていません。勿論、二人きりの共同生活にもなれば必要はなくなるでしょうが、あるべき潜伏期間の間は対策が必要としてしててもおかしくはない中、不文律の物としてスルーされました。
 ないこと自体を不自然とまでは、上記の理由より思いませんでしたが、ただ「都市から誰かが持ち込んだのかも」という記述がある以上、やはり人に移す要因は書いておいてほしかったなと。妙にチグハグなんですよね。お陰で話にのめり込む、というのは難しかったです。

 というか本作、そういう意味ではだいぶ勿体ないことをしたと思うんですよね。具体的には「ヒロインの魅せ方」について。
 同人ではどとこい等、物語冒頭では何も容姿がわからないヒロインが、物語を進めるにつれてわかるようになる、という話があります。本作でそれをやるなら、モチーフ的にマスクでしょう。

 マスクをするヒロインもとい少女ということ自体は、その実コロナ禍でなくても現実でも割といたように思います。
 大学時代、同期が「今日は化粧をしてないからマスクをしてる」というのはありましたし、それでなくとも不織布ではないマスクをおしゃれとしてしている人も男女問わずいました。
 つまり、コロナ禍でなくともマスクは絶対的に不自然なもの、ではないんですよね。全員が全員外さない、という状況は確かに従前と比べれば異常ですが、個々人の意志で数人が付けている分にはおかしいものではありませんでした。
 ですが、みんなしてマスクをしているという図はコロナ禍だからのもの。なので、モチーフに依れば、ミオがマスクをして歩いてても、(夏場の屋外のマスクは寧ろ非推奨とはされているものの、みんなして付けっぱなしの例が多いが故に)そこまでおかしくありません。 

 で、本作はそれこそコロナ禍をモチーフにしているなら、出会った時はマスクをしていて、OP前にマスクを外したヒロインを見て、その美少女っぷりにドキッとする、という演出が出来たんじゃないかなと。つまりモチーフにした「コロナ禍だからこそ」出来た演出を、そのままスルーしてしまいました。
 ロープラ作品は、なんというかそういう演出が出来る節はあると思うんですよね。本作の流れ的にはあまり意味はなかったかもしれませんが、節目節目に見えるマスクがない姿に、というのはモチーフ的に寧ろやってほしかったなと、読み終わってから思ったものです。


 そして、物語の流れですが、本作は正直割と中途半端です。感染症に打ち勝つことがテーマなのか田舎暮らしがテーマなのかわからなくなってるんですよね。
 その上で本作は、本来書くべきは感染症に打ち勝つ方だったはずです。なので、生存ルート、もとい二周目ははっきり言って必要ありませんでした。

 というより、二周目で追加された要素は、別に一周目の死亡or克服エンドでも別に突っ込めたはずなんですよね。わざわざ二周目に持ってくる必要もなく。
 その生存エンドは、ただの田舎暮らしになっちゃっています。そして色々回した割には差分があまりにも適当。特に猫を抱いた際に妊娠してるか否かはあれじゃぁ全然わかりません。

 残るエンドはいいでしょう。というより死亡エンドは中々よかったなと。個人的には純愛を最後まで貫き通したルートとして評価します。
 克服エンドも、というより克服エンドこそ、本作のテーマそのままなんですよね。テーマ的には克服エンドがあればそれで全部終わってしまっています。そういう意味では、選択肢なしの克服エンド一本、というのが、一番テーマ性の希求という点では正解だったのかなと。

 別に田舎暮らし云々は、一周目に突っ込んで出来ない話ではありません。というより殆どが一周目の焼き直しなので、結局選択肢を選ぶ手間が増えただけです。
 そして生存エンドになって初めて描かれる諸々は、全部克服エンドで突っ込もうと思えば突っ込める話でした。なので、それも含めて、構成を単純にし、一周目のみで全部突っ込ませるようにしてほしかったです。


 まとめると、コロナ禍をモチーフとしたならば、まずはテーマに直球で勝負して選択肢もなく一本で行ってほしかったということ。そしてマスク等、付随した要素でヒロインの魅せ方があったかなということ。この二点で勿体ない作品でした。
 結局、どうにも守りに入っちゃった作品に見えちゃったんですよね。雰囲気作りはすごくよかったので、無理して田舎暮らし的要素を前面に押し出す必要もなかったなと。

 本作、OPムービーにOP曲やBGM、背景にヒロインのキャラ性等の要素は割と満点に近いんですよね。なので雰囲気作りが完璧だったという点で、勿体なさが余計募ります。
 同様の話を再び描くなら、次回はそういった「雰囲気に浸るための要素」を活かしながら、テーマ乃至モチーフに沿った話運びをしてほしいところです。