「I」も「逢」も「合」も「曖」も「愛」も「哀」も全てひっくるめて、それは確かに『青春』だったのだと。長文最初だけ本作のネタバレなし、後半でキャラ別感想。個人的攻略推奨順は天梨→あすみ→詩桜→妃愛で、華乃は最推しならラスト、そうでないなら詩桜の前後辺りがいいんだよぉ! おいゆっこー! 聞いているのかゆっこー!
2020年9月ゲーのFD作品が出るまで二年強かかった本作ですが、FDというより本編の正統続編と呼ぶのが一番正しかったかなと。
正直、きゃべつそふとからは、同じ2020年9月ゲーのさくレットが出た後、同じライターで二年かからずジュエハが出たことを考えると、出るの遅い! とはなってはいたのは本音だったんですよね。結果的にはめちゃくちゃ丁寧な仕上がりだったので、溜飲は完全に下がりました。
いやジュエハが丁寧じゃないということもないんですけどね。というかあのレベルのものが二年かからず出るという事実が本来畏怖すべきことなので、まぁ冬茜トム先生が規格外ってことでいいんでしょうけど。
話を戻して、ざっくり本作の概説。
一枚絵は天梨21(一般10・エロ9・SD2)、妃愛16(一般6・エロ8・SD2)、華乃14(一般4・エロ9・SD1)、あすみ・詩桜14(一般5・エロ8・SD1)。天梨と妃愛は一枚ずつ本編で使用した一枚絵の本作のみの差分のそれとなります。
シーン数は天梨と華乃が5、他が4(おまけ込)。内華乃は一つ自慰シーン。天梨がもう一つ多くてもよかったのかな、とは感じます。
追加楽曲は六曲。それぞれ本作用の各ヒロインのテーマ曲+天梨テーマ曲のピアノアレンジとなります。
にしても、本編では初回限定版にはサントラ付属だったのに、本作はないので、つまり追加楽曲が音源化されてないんですよね。なんでせめてボーコレCDに突っ込んでくれなかったのか……。
ED曲は公式宣伝通りVTuber多用。個人的には別に悪いとは思いませんでした。Vを見ないのもあるからか担当Vに興味がわいた、というのも特になかったのですが。
でもそれはそれとしてやはり藍月なくるさんの歌はいいですね。可愛げのある中に伸びやかさがあって、歌が上手いという点ではED曲横一線で考えると頭一つ抜けてたかなという印象です。
あとあすみ担当の袖雪乃さん、声優としても歌手としても普通に上手いのでこりゃほんと伸びますよこれ。次回作も期待ですわぁ。
それと、誤字等のミスは見当たらなかったんですが、アイキャッチが入る際の楽曲が本編とズレを起こしていたので、パッチが出る際には修正をお願いしたいところですね。ズレは下記の通り。
・本作妃愛 →本編共通
・本作華乃 →本編妃愛
・本作あすみ→本編華乃
・本作詩桜 →本編あすみ
本作はFDなので、本作単体で語れることはないため、以下本作ネタバレで雑感。
まず公式ジャンルの「学園に来てくれる美少女と青春を謳歌する学園恋愛ADV」ってのがいいですよね。学園モノノベルゲーを標榜する作品なら、本来ヒロインと一緒の学園生活をしてなんぼのものです。
これが本編では「学園に来ない女子と見過ごしがちな青春を探す学園恋愛ADV」だったわけですが、不登校だったヒロイン達を来させるようにして、見過ごすことなく青春を謳歌させてくれたのが本編でした。なので本編終了段階で、やっと標準的な学園モノノベルゲーの下地が整った状態になったわけで。でも諸問題は解決しているわけです。
それを前提としたアフターなので、とにかくストレスが少ないこと少ないこと。本編では学園祭に向けた折衝やヒロインに出てくる問題等でシリアスな場面は割と多かったように思いますが、本作はほぼストレスフリーになるように作られています。
ストレスフリーなのは当たり前だろとも思うでしょうが、本作すごいのは、これが本編時間軸で作ったはずの天梨ルートでも徹底されていることなんですよね。少なくとも、主人公和泉智宏の「主観」ではほぼストレスフリーです。
勿論、本編で語ったことを逐一天梨ルートで再度やるわけにもいかないですから、見せ方としての工夫は必要なのですけど、どのルートでも本編で特に負荷が高かった文化祭関係の他生徒との折衝を、天梨に一任することでほぼ一行で解決させたことはその一例。
本編でやれよと言われればそれまでですが、他ルート以上に天梨を絡める必要がある中、こういった解決法を持ってきたことは評価します。ちゃんと天梨が中心に据えられていますしね。
ただ、そう見せかけて本作、人間の「負の感情」にめちゃくちゃ踏み込んでいます。具体的には本編であった無理難題的なものではなく、嫉妬や諦念、嫌悪感などの人と人が付き合う上で自然と覚えうる感情です。
というより、天梨ルートも外野からの干渉的なものは殆どなかったですが、逆に内部の感情がモリモリなんですよね。これが本編に続き、本作も一筋縄では行かせない要素足りえます。
まぁ天梨ルートは告白前の天梨に対するギャルグループの智宏への陰口がありましたが。とはいえ本作の外野の悪意みたいなものはこれ一つかなと。
で、負の感情について、例えば天梨ルートでの華乃の疑似失恋。それに加えて智宏による華乃は可愛いよ発言。見方は様々あるかと思いますが、一言でまとめれば「彼女持ちの主人公が彼女じゃない女子にも色目を使った」状況です。
勿論智宏はそんなつもりはないでしょうし、あくまでファッションショーの見せ方として最良のものを考えた際に望むべきものを伝えただけとも言えますが、如何せんガチな口説き文句になってるんですよね。
で、そんなものを向けられた華乃はどうなるか。曲がり也にも惜しいことをしたかもとなって、悪くはない相手だけど自分の親友の彼氏という関係性なわけで、この時がいい方の感情ならこういうことを言うから惚れてしまう、悪ければ端的に「浮気性」とも捉えられます。
ここ、ともすれば本編で華乃が言った「恋愛でグループが瓦解する」という直前の状態にもなっていたわけなんですよね。要因としては華乃が当初想定してたのとは別の理由ですが、ひとえにここは「それまでの智宏がヒロイン視点で魅力的に描かれていたから」に他なりません。
それ以上に重い話をぶっこんできたのは詩桜ルートに於ける妃愛のマネージャーの話。三億の借金を抱えて全部返済しておきながら、だけど妃愛の全幅の信頼は終ぞ得られないという、当人的には見る人が見れば完全なバッドエンドです。
ここは、あくまで「推しが推し足りえるなら、嫌われようと推しの安全を最優先する」というぶれない行動理念の基によるものでしたが、これが立場のないただの一ファンの行動によるものならただの犯罪です。逆に言えば立場を利用して自身をも犠牲にして妃愛の安全を証明したとも言えますが、その後の行動も併せ、恐らくは妃愛が彼女を心から受け入れることは、終ぞないのでしょう。自業自得という見方も出来ますが、少なくとも悪意自体はなかったので、最低でも最初の段階での行動に於いては、同情できる部分もあるように思います。
と、天梨ルート以外は基本的に智宏と智宏が選んだヒロインが幸せになった後の話ではありますが、それに伴う歪みや本編内で語られなかった悪意がきっかけではなかった負の感情などもしっかりと描いています。何より和泉家両親亡き後の親族間でのお金が絡む話し合いの実情開示はその最たるものでしたしね。
ちなみにそういった色が一番薄かったのがあすみアフター。また、華乃アフターも二人の関係性に絞った上で二人だけの世界から世界を広げようとしているので、こちらも毒的なものは薄いです。とはいえ、華乃アフターが甘々な分、他ルートでの華乃は、心情を考察すると胃が痛くなるレベルの立ち位置になっていますが後述。
あとは記述がない範囲での妃愛でしょうか。ただ、妃愛は自身のルート以外では智宏が選んだヒロインとの関係も重視してるので、明言されてる詩桜アフターの他、少なくとも華乃アフター以外は最終的に同居で落ち着きそうというところで収まりそうです。
それと、本編からの違いとして、各個別に於いて、そのルート外ヒロイン同士の関係性をかなり拘った形跡が見受けられます。
というより、どのルートに行っても、これはっていうポイントは変化させてないんですよね。具体的には以下の通り。
・妃愛とあすみがとにかく仲良し、なんなら百合に発展しうるレベル
・華乃と天梨が唯一無二の親友になり、三年時智宏と同じクラスになると同時、この二人で同じ大学へ進学する
・本編詩桜ルートで語られたくじ引きの真実を告げた後の詩桜との氷解
これらは、本編内で生徒会を続行した妃愛・詩桜ルートと、生徒会を終わらせた華乃・あすみルートどちらのパターンでも発生するものです。妃愛ルート以外では出てこない後輩二人も、少なくとも伊々奈については仲良くなれそう? というのがあるので、結果的にクラス内で話せる相手にはなっていたのではないでしょうか。
とはいえ、詩桜が華乃にライトノベルの挿絵を依頼するか否か等、変化もあります。各アフター毎に、その個別独自要素となっているのは以下の通り。天梨ルートは本編時間軸のみですので飛ばしています。
・妃愛 :神田柑凪と飯田伊々奈が生徒会に入る、智宏は公には恋人なし
・華乃 :将来的にヒロインとくっついた暁での妃愛と同居する導線がない
・あすみ:シキが紅白とV5出場
・詩桜 :詩桜留年、三年次広夢のみ別のクラス(あすみアフターは不明
詩桜の留年や、そもそも本編終了段階で生徒会を継続するか否かというのはありますが、これらの差異は智弘の、というより生徒会面々への影響の方が甚大です。そういう意味では智宏は台風の目で、本編は否応なしに巻き込まれたヒロイン達の内誰を目に引き込むかという話とも言えます。
とはいえ本丸はやはり本編での事象を乗り越えた先の各ヒロインとの恋愛譚。智宏が選んだヒロインとの蜜月はどれも白眉。ひたすらにカプチーノ的なふんわりとした甘さを楽しめます。
本編はガチ陰キャはやるのやめとけと念を押しましたが、正直その流れ自体は本作も変わらず。とはいえ、本編よりはその辺りの毒は薄まり、且つ本編でその面で脱落した人は本作やってないはずなので、まぁわざわざ今回注意喚起する必要はないだろうなと。
ちなみに、個人的には本作、本編レビューで書いた内容がまんま答え合わせになって、どれもが正鵠を射ていて嬉しさ半分恐怖半分でした。まぁ見る人が見ればそうじゃないとなるのかもしれませんが、少なくとも私はそうだろうとなったので。
具体的にどれというのを上げると。
・智宏は決して無能ではなく、本当の意味で「これまで本気を出してこなかった」だけだった
・妃愛が自身のルート内外で得た生徒会面々という強力な理解者(ルート外の方が強く働く
・華乃ルートのテーマが『融和』→アフターでの融和後の姿
智宏については、もう本当にある種の俺TUEEEEE系主人公で確定です。そもそも本編あすみルートで「あすみの偏差値がそこそこでよかった……!」と地の文にありますが、本作あすみアフターでダマ学の偏差値が60あることが明かされており、となると何か本気を出す出さないに関わらず、少なくとも入学できてる段階でみんな平均よりは上なんですよね。少なくとも偏差値60はそこそこではありません。同レベルの偏差値を、関東の私大文系で言うなら成成明学獨國武~GMARCH辺りになります。いやこの括り納得言ってないだけど、は? 成蹊成城学習院武蔵で四大学でしょ学習院何MARCHに取り入ってんの、は? 何言ってんの?(突如飛び出す常磐華乃
ともあれ、ブランド過去作ワガママハイスペックを元に、ハミダシ本編のサブタイが「ワガママじゃないハイスペック」であると評したレビューがありましたが、いやもう本当にその通りでした。智宏がやる気を出すためには、その前にまずやる気を出さずともダマ学には入れるぐらいには優秀でなくてはならない……! ついでに華乃とあすみも他より制服が可愛いからという理由でダマ学に入れるぐらいでなくてはならない……!
あとは、明かされる内容の順序的に、推奨攻略順は天梨を最初にしてもらうのと、詩桜→妃愛の順番を守れば、あとはどういう順番でもいいと思います。
まぁ本音を言うと一番綺麗な終わり方なのは詩桜アフターなんですけどね! でも今回は一番きれいな終わり方をするのは詩桜、次点で妃愛。おまけを入れると一番は華乃で次点詩桜にはなるんですよね。
まぁなので、天梨→あすみ→詩桜→妃愛の順番がいいと思います。華乃は推し具合によりますが、最推しならラスト、そうでないなら詩桜の前後どちらかが収まりがいいかなと。
以下キャラ単体での感想もごっちゃになりますがルート毎感想。当方プレイ順で記載してます。
竜閑天梨
本編共通を経た上で天梨が智宏の歴史好きを切り口に親交を深める話。
一言で言えば「オタクに優しいギャルを具現化したらどうなるか」というルートですが、陽キャ故の要素については割とあるあるを突いてたように思うんですよね。なので本編同様、というより本編各ルート以上に、現実と虚構の間を突っ走っておりました。
一つ気を付けなきゃいけないのは、併せて「ギャルに優しいオタクを具現化させたルート」であることも留意する必要があることです。ともすればこれこそが一番虚構寄りとも取れますね。意識改革をしなきゃいけないというのはお互い様なんですが。
ひとまず、天梨の優しさは、まず主観で個人的な好みのところから端を発してはいます。その上でオタクでなくとも誰にでも優しいというのが天梨の本質です。
なので、「オタクだけに優しい」わけではなく、「自分の興味関心があるところから優しくする」のが天梨です。言ってしまえば、たまたま智宏がすること成すこと天梨の琴線に触れたからといえば身も蓋もないですが、本編あすみルートであすみが心を開いた理由が「先輩がひょろかったから」とほぼ同義です。
とはいえ、そこはギャルゲ、突き詰めて見ていくと、このきっかけを含めどこかで「あれ、これは流石に夢見すぎじゃね?」というとこは出てくるんですけど、だとしても天梨ルートはある種一番「もしかしたら出来そう」と思わせられるルートになっています。ルート冒頭で「浮気せず怒りもせず清潔感ある人の受けがいい」として、智宏に少しでも可能性があると思わせる、正にそれです。
いやほんとバランス感覚がすごいんですよね。天梨がオタクに優しいギャルであることは疑いようがないですが、「誰にでも優しい普通の人」である部分と「ギャルじゃないといけず、且つオタクである部分を認め優しくする」部分もあり、結果ギリ現実でもありそうかな、という塩梅に落ち着かせています。
本編からですけど、本作本当に理想と現実との間を突っ走るのが上手すぎる。各種言動が浮足立ってなく、ともすればあと一押しで自分にも出来るよねとなるギリギリのライン。その対象が、華乃ルートでは同じ趣味を持つ陰キャで、天梨ルートの場合元々住む世界が違った陽キャということだけです。
その華乃ルートが「自身の人生観をも変える大恋愛」なのだとするならば、天梨ルートは「地に足を付けつつ着実に周囲から認めてもらう等身大の恋愛」です。本編華乃ルートが表ならば、こちらは華乃ルートの裏面になります。どちらかといえば天梨が表、華乃が裏ではありますが、もっと言えば華乃ルートは共に歩む話で、天梨ルートは共に近づくお話です。
ルートに関わらず、華乃と天梨は性格が正反対なのはお分かりかと思います。恋愛に対する姿勢も、華乃は流れで、天梨は理屈を求めます。そしてルート自体も、華乃は智弘と共に一から輪の中に飛び込む話、天梨は既に輪の中にいた自分が智宏らを迎え入れる話というのが大まかな内容です。
故に、智宏は天梨とモラルの感覚は近くても、近い部分はそれだけなんですよね。寧ろ天梨に惹かれるのは、「智宏が持ってないものを持っているから」ということに尽きます。
なので、そういう意味では天梨ルートは下手なルートより突入可能性が比較的高いです。個人的には少なくとも妃愛・詩桜ルートよりは高いんじゃないかと思うところであり。
『ランウェイで笑いころげて』であった通り、天梨ルートは恋愛の「愛」パートなんですよね。そして華乃ルートは「恋」パートです。本作の華乃アフターは「恋」が終わった後の「愛」パートに移るので本作内では重複しますが、華乃の話は後述。
にしても、ここまでのものを仕立てられるなら、そもそも本編の発売を遅らせてでも本編に実装すべきだったんじゃないかなぁという感まであります。それくらいすんなりというか、しっくりくるルートだったんですよね。
とはいえ、本編に実装すると、テーマ的にも華乃ルートの裏という立ち位置なので、差別化が図れなかったんじゃないか、とも感じます。結果論正解だったのかなとも思いつつ、でもこの流れなら本編共通からじっくり天梨ルートに流れる様を見たかったというのもまた本音でして。
「共通からルートが欲しい」とは書いたものの、じゃぁ本編冒頭の智宏の状況的に、天梨に優しく出来る度量があったかと問われると、正直微妙だったなと。で、天梨がいいなとなる前に他ヒロインに流れる可能性が高いので、確かにFD要因としたのは正解なのでしょう。
……華乃の失恋話として見ると中々ここまでえぐい話もないんですよね。正直天梨ルートの内容で語りたいことはほぼ華乃のことに集約されてしまうので、その点は後述。
鎌倉詩桜
智宏と詩桜と妃愛とで、これから三人で暮らすようにするためのお話。
本編内で智宏が骨折をしているため、その付き添いを理由に和泉家で同棲をしていることが話のメインとなります。
にしても、理由があったからとはいえ本編でガンガンに毒を振りまいていた彼女でしたが、実に大人しくなりました。間違いなく本編時から一番株を上げたキャラでしょう。人気投票の順位もこれなら繰り上がってくるかもしれないですね、まぁ前回の四位と三位のあすみとの票差がかなりあるのでどこまでのし上がれるかですが。
本作、もとい詩桜アフターでは、詩桜のことは兎角『普通の人』として描写されています。結局何が違うのかと言えば、『普通の人より努力家』であることを殊更に強調していました。
とはいえ、間断なく努力できる人というのは、それだけで普通の人ではないんですよね。現実に見せかけて虚構というのは、智宏の「やれば出来る」と同じ枠であり、そういう意味では智宏と詩桜はどこまでも似た者同士です。
正直、明かされる内容が妃愛アフターでの前提条件にもなるため、詩桜アフター単独での詩桜に関する情報というのはそうありません。
他ルートで詩桜に関する新たな情報が開示されることは少なかったり、詩桜アフター自体も必ずしも詩桜ルートで明かす必要があるわけではない情報の開示があったりして、本編同様枠がある種本筋に取られすぎている感もあります。その上でキャラの掘り下げも特段多いわけではないんですが、本編内でのしがらみから放たれた状態なので、本編までとは別人にも近いレベルで人当たりがよくなり、結果それで全てを覆い隠しているようにさえ感じます。
いや実際この人当たりの良さは間違いなくよくできてるんですよ。正直ルートそのものも「普通」なんですが、この「普通」が実に心地よいんです。事情を隠して智宏に接していた詩桜の姿はいなくなり、残ったのは頼れる後輩に接する優しい先輩の姿でした。
そして、そんな軛から解き放たれた詩桜が実に活き活きしているんですよね。特に詩桜アフターは、和泉家を「智宏と妃愛がいる帰ってくる場所」として、本編段階とは違い一人で出かけるのにも、出かけて「帰ってくること」にもわくわく感が出ています。
これは詩桜に限らず各ヒロインともですが、やっぱり帰ってきた先に誰かがいて、そしてその誰かのために出かけるというのは、やる気やモチベーション的にもぐんと上がるんですよね。特に詩桜の場合釣りが趣味なので、釣果がよければよい程、和泉家での夕飯が豪華になり、智宏と妃愛の二人を殊更に満足させることが出来ます。また、華乃が殊更に「二人の部屋」と強調していたのもそれが理由です。
本編から通じて、詩桜が学んだことは、端的に言えば「人は一人では生きられない」ということでした。勿論要所要所で各人に協力は得ていたものの、誰かの助力が必要ないと判断すれば一人で全部こなしてしまっていたわけです。それが、生徒会面々との触れ合いを通し、「無駄な人付き合いが人生には必要」ということを学びました。別になんの為にもならない雑談などが、人生の糧にもなりうると知り、それとは別個に智宏以下生徒会面々の実力を認めた上で、詩桜も変わろうと決意したわけです。
詩桜が、どのルートに於いても、生徒会室とは別に自室を生徒会面々のために開放したのは、そこが大きいです。妃愛が人目を気にせず寛げる場所の提供であると同時、覇権声優や人気VTuberの中の人、人気絵師に読モが集まる環境という立場を抜きにした。生徒会面々の個々を認めたが故での物件開放でしょう。
そういう意味では、詩桜アフターは詩桜が「丸くなる話」であり、すなわち「ハミダシていた詩桜を引き戻す」話と言えます。そしてその行動原理は、偏に智宏と妃愛と三人で暮らすためなんですよね。智宏の怪我をきっかけに、誰よりも強くなるために、智宏と妃愛を守るためという人生の指針を定めた詩桜には、何が来ても打ち破っていくのでしょう。それこそ智宏一人がやれるようなことでさえも。
――ただまぁアフター、英単語埋め問題はなくてよかったかなと。どうせ本編から通じて水着エロシーンが全キャラ一つもなかったんですし、そっちに割り振ってよかった気はしますね。
あとあすみアフターにて紅白出場したシキちゃん応援のオタ芸は是非とも一枚絵かSD絵で見たかった……! 絶対抱腹絶倒になったので、誰かファンアート描いてくれないかな。
和泉妃愛
みんなに認められて家族二人がずっと隣同士でいられるようにするためのお話。
認められてと言っても、兄妹で恋人であることを明かすのではなく、自然体で智宏と妃愛が隣同士でいるのを空気的に普通だと周囲に思わせる、という意味合いです。
正直、ルート内のテーマ自体は、本作全体のテーマと一番噛み合わせが悪いというか、それこそ「ハミダシ」ているルートになります。どうしてって、他ルートが青春が一番の前提条件の中、これだけ家族が前提条件になっているからなんですよね。
妃愛ルートでのハミダシ要因は、それこそ実の兄妹での恋愛ということに尽きるのですが、だけどその関係性を外部に一切明かさず終わっているので、対外的にはその実一番ハミダシていません。少なくともミリさん視点では、青春しているかということについては本編ノーマルルートと同義です。
ちなみに、妃愛ルート外でも、なんだかんだ妃愛は智宏と一緒にいられる可能性が高いです。偏にそれは、智宏の将来の夫婦が、妃愛と同居することを是とする可能性が高いからなんですよね。
現段階でそれが確定しているのは詩桜。あすみも本作内で一緒に暮らそう的に言っているので、そのまま和泉家に入る可能性が高いです。天梨は本編時間軸の段階で終わるので不明ですが、付き合い始めの段階での妃愛とミリさんの会話を見るにやはり後々検討はしているかと。
ただし唯一明確にそれがずれるのが華乃ルートです。こちらは「華乃と二人で暮らす」という前提状態になっているので、唯一妃愛の意思が現状無視された状態になっています。ただ、華乃ルートも、本編段階で「私は引退して、兄夫婦に寄生して、のんびり余生を過ごそうかな」とは智宏に話してはいるので、どこかで検討は発生しているようにも思います。
妃愛アフターに話を戻して、にしても、終わって見ると、その実茨の道をめちゃくちゃに突き進んでる感がすごいですね、これ。
いや、ただ二人で慎ましく暮らしたいと言ってしまえば、それでいいんですよ。問題は、智宏が人間的に魅力が出すぎててヒロインが割と牙向けてる点。
一番わかりやすいのがバレンタインのくだり。結果的に生徒会の全員からチョコを貰っていますが、みんな売れっ子だからと言って、義理でも高級なものを買う必要はないのに、みんな価格的にもいい奴です。新入り後輩二人は手作りですし。特に華乃は何もなければ卒業までに告白しそうな勢いなんですが、華乃のことなのでこれは後述。
ともあれ、告白されたとしても、智宏は意味もなく付き合えないと言うことはない人間なので、となると妃愛の彼氏バレ一直線コースなんですよね、この状況。少なくとも智宏が誰か一人に告白をされた時点でほぼ詰みです。
まぁ妃愛のことですから上手くやるんでしょう……とも思いますが、被害少なく避けるには、生徒会面々から少し距離を置くこと以外にないのですが、今からそれが出来るわけもなく、ともすれば特に華乃がぐいぐい来る可能性もあるので、さてどうなるんでしょともなり。
話自体は、本編ルートからの連続性については、その実一番拘っています。それは偏に、「和泉妃愛と家族でいるための話」です。
それが一番色濃く出てたのが、智宏による手紙読み上げの際の一枚絵。これ、妃愛の確度が本編で卵を投げつけられたと泣く妃愛の一枚絵と妃愛の角度と表情がほぼ一緒になっています。
あの時は辛い、悲しいという感情の涙だったけど。今は嬉しい以外の何物でもない純粋な感情の涙になった、その推移が見て取れるんですよね。本編開始時から妃愛が泣いたのはこの二回+本作冒頭のドライブレコーダー確認時だけと明言もあり、その特別性が際立っています。
智宏のスーツ購入についても、昔はスーツを着る時は離れていこうとする印だとしていたのが、着ていてもずっと傍に居てくれると信じられる、ですからね。正直他作品の実の兄弟系ルートでこういうのはあまり見なかったので、新鮮だったと共に、こういうのが見たかったとなりました。
と、妃愛アフターは未来志向で家族でいられるための話の一言に集約される話です。でもその中に時折挟まれる「ただの兄妹に戻ることは絶対に出来ない」というモノローグが、一種の裏侘しさを感じさせて、順風満帆ではいかないことをも想起させます。この辺りの塩梅は個人的には非常に好物でした。
あと妃愛アフターは、明確にエンドマークを付けてるのも高ポイント。ここでのエンドマークとは、妃愛と一緒の試写会ではなく、下級生組四人が一斉に上級生組に頭を下げた場面を指します。
個人的に「ここでこの物語は終わりになります」と言う作品は好きなんですけど、ここでは「妃愛と二人三脚でこなした智宏の生徒会長の物語」が本編から通じた妃愛ルートでの流れなので、それに対するエンドマークは少しの寂寥感と共に心に残る〆方となりました。
なので、ある意味では妃愛とのいちゃいちゃしたアフターを考えるならここがスタート地点なんですよね。華乃ルートが本編でそういうのが終わり本作でそういうアフターがスタートしたのとは対照的です。
ED曲Heart Creationでは、「神様どうかいつまでもずっとみんなで居られるように」と歌い上げています。
結局は、智宏と妃愛だけの二人きりの世界じゃない、みんなに認めてもらうことを望んでいます。ここで認めてもらうのは恋人としての仲ではなく、ただ兄妹でずっと二人で寄り添っていられること。
それは、あれだけ智宏に恋人作れ青春しろと一種の圧をかけていたミリさんに認めてもらっていることからも、試みは成功していると言えます。なので、周囲が、特に華乃が気持ちを抑えられなくならなければ、恐らくはこの二人の世界は平穏であり続けます。
本編開始段階では妃愛は完全に大人不信且つ友達も殆どいない状況だったわけですが、それが生徒会を通してこれだけ信頼できる人も場所も出来た。ルート外だとしても(寧ろルート外の方が、ですが)、智宏と離れずにいられる未来をも見つけ、そして同級生組としてもあすみが、柑奈や伊々奈が友人として支えてくれる構図は、間違いなくダマ学に来たからこそ手に入ったものであり、そして掛け替えのない青春です。
なので、やはり妃愛が生徒会の面々と知り合えたことこそが、智宏と恋仲になろうとなかろうと、ダマ学で妃愛が手に入れた最大のものであると、そう思うのです。
――正直後輩二人は立ち絵付きでわざわざ出す必要はなかったよなとは思うんですけどね。というのも、新規で出すにもいなくとも話自体は回るから(正確には立ち絵なしでも問題はない)ですね。
というより、絡めようとした結果、普通に二人とも智宏に素朴にいい人感情抱いてて、いやこれ寧ろルート下さいよと。というかこれなら何故詩桜ルートで出さなかったよ出せたでしょ。
ただでさえりりりりりりりこさんがFD要員だどうなんだとなっていたのに、広夢抜き、ミリさんは含めてこれでFD要員は四人にまで膨れ上がりました。尚FDは出た後。
錦あすみ
雪景シキが駆け上がる姿を智宏が隣で見守るお話。
アフター自体は一言で言えば「雪景シキがトップVへと駆け上がっていく物語」です。話自体は華乃アフター同様に甘々にしようと思えば出来ましたが、割とVの話に比重を置いて、その上で糖度は存外に控えめかなと。
ただ、V関係の話は、正直本編で語った以上のことは多くないため、本アフター故に語るべきこと、自体は多くありません。強いて言うなら、「しきだるまさん」やシキの口調の理由等、智宏や華乃といった「一般ファン目線」からの雪景シキの情報の追加が主となります。
正直詩桜同様に、ルート内外で開示されるあすみの新規情報はそこまで多くはないので、純粋にあすみの可愛さを愛でることになります。そういう意味ではいちゃラブゲーとしてはあるべき姿です。
ルート内外では、必ず妃愛と唯一無二の親友になってるのはほほえましいところです。華乃アフターでの「とうっ」が個人的にはツボでした。本編でごくわずかに見せていた「うまく返せないのならふるなよ」等の妃愛への当たりの強さは、仲の良さが進展するにしたがって増えてく気配があり、本作内では所々で見れたのはよかったです。今後は毎日一回はそういう感じのやり取りをしてそうではあります。
ただまぁ、妃愛が繰り返してますが、あすみは「実に大物」ということを本作では殊更に強調しているんですよね。大物と言う言い方をしていますが、端的に言えば「空気を読まない」ことです。
あすみアフターで六種類あるプリンの内、天梨向けを想定したものを真っ先に掻っ攫っていく、詩桜アフターで話の腰を折ってでも自分の確認を優先するなど、割と残酷な言い方ですが、「他人との距離感がわからない」という見方も出来るところではあります。とはいえ「この面子」だからこそ許されると認識している部分はあるので、策士であるとも言えそうです。この面々から嫌われるということを想定してないんですよね、この娘。
一度懐けば危なげながらも一直線であり、欠点があっても持ち前の愛嬌で全てを覆い隠していくので、なんというかそれこそ神に愛された少女とも言えそうです。鳴門さんなら、ルート内外であすみに振り回されようとも、彼女を成功させるためならと受け入れるのでしょうが、あすみルートでシキちゃん恋愛脳だってことで智宏を取り込んだのも、振り回されるお鉢が自分に回ってこないようにするという打算もあったのかもわかりません。
あと特筆すべき事柄と言えば鳴門さんでしょうか。妃愛のマネージャーが人間性としてはどうにもという描写をされていたのに対し、鳴門さんは明確にあすみの味方として、また有能なマネージャーとしてストレスを与えない役回りをしておりました。本編でやらかしていたスケジュールミスというようなことは一切なく、寧ろ紅白やV5の話をねじ込んでくる姿は明確に有能。あすみルート以外では、そもそも文化祭と被ったV5がなかった関係上、これらへの出演は遅くなった(VTuberの紹介の中に混ざらなかった紅白はその後出場機会があったかどうか不明)でしょうが、鳴門さんの全面的なバックアップを得て、着実にトップVTuberへの道をステップアップしていったことは想像に難くありません。
まぁ、アフターとしての不満点としては、明確に桜、または春に関する楽曲を本作内であすみが作らなかったことかなと。
今回、アフターであすみはともすれば桜の精もかも、として〆ておりますが、そもそも春風に載せて歌声を響かせる、というのは本編ED曲ゆきどけの段階であるんですよね。
正直な所、雪景シキとして、雪は溶けるべきものなのかどうかというのはありますが、あすみにもシキにもかすらない春風や桜の単語を本編ED段階で出しておいて、本作の〆でもそれを出して、関係するのがED曲だけというのはちょっと微妙かなと。
まぁ正直本編内との噛み合わせが悪くて、本作でつじつま合わせをした形かなとも思いますが、それでも後からでもそういうのを合わせたのは評価するとはいえ、本編ED曲段階で桜だ春風だと言っていたことを考えると、やはり本作内で春の楽曲をやってほしかった、というのが正直な所です。
いやまぁLittle Silent Snow自体はすごくいい楽曲だったんですけどね! それでもあすみルートだけは少しキャラ設定の散逸があったかなという気がしてしまったので、そこだけが残念でした。
その挿入歌Little Silent Snowですが、「私の声が貴方に届きますように」と歌う通り、「雪景シキの歌を様々な人に届けるための歌」であり、雪景シキの願望そのものです。錦あすみは雪景シキの一パーツであるとアフター内で語っていますが、本来的に雪景シキは錦あすみが曲だけでなく自身の歌を届けるために作り上げた分身だったのが、いつしか対外的には逆転をしていました。「変わりたいと願っていた キラキラと色づいていく世界」という歌詞は、智宏と出会う前から感じていて、出会った後に明確に変化をするあすみの意志でした。
なので、この曲を以て、雪景シキは錦あすみから飛び立ったと見ることも出来ます。それは、鳴門さんがあすみの顔出し歌唱を強硬に否定したのと併せ、言い換えれば、あすみからのmiasuPへのお別れでもありました。なので、今後は余程のことがない限りは、雪景シキの活動一本で全てをこなしていくのでしょう。折角桜の精かも、となるのなら、どうせならこの後四季全てを網羅してもいいのかもですね。シキちゃんですし。
常磐華乃
本編での大恋愛をこなした後の理想的なオタ活青春をする話。
自身のアフターの他、天梨ルート・詩桜アフターでは必要不可欠な働きをしているため、本作では実質的な裏主人公となります。天梨ルートは華乃がいなければ話が進みませんし、詩桜アフターでは物語上映の魅せ方として、紙芝居という手段を取った以上、華乃の絵がなければ話が進みませんでした。まぁあと本編の流れではありますが、詩桜アフターはことある毎に詩桜は華乃相手に嫉妬してますし。
というより、本作ジャンルの「学園に来てくれる美少女と青春を謳歌する学園恋愛ADV」のテーマを、ともすれば華乃一人に全ておっ被せてるんですよね。少なくとも「生徒会に於ける青春模様」として考えた際に、殆どの場面で華乃がいたことから、その重要度が窺えます。
先に他ルートの話をしておきますと、正直、本作では華乃自身の「使い勝手の良さ」から、他ルート・アフターでは明確に負けヒロイン枠です。天梨ルートでは実質的にBSSを食らってます。
というか天梨・詩桜ルート辺りはそんなにいじめて楽しいか! ってなるレベル。まぁ智宏のせいというのもあるんですが、少し話します。
本編冒頭で華乃と出会う前、そういやこの子可愛かったよなという想起がありますが、なんだかんだで本作内でそれを華乃相手に明かす機会が発生します。ただまぁ、これに関してだけは本編から通じて唯一智宏が無自覚に見境なかったなと思う場面でして。華乃ルートは引っ越し終わった後の語らいでやるからいいんですが、天梨ルートは話の流れとはいえ、天梨と付き合ってからの発言なんですよね。
故に、天梨ルートに於いて、もったいないことをしたと思わせてからの智宏の「常磐はかわいいよ」発言に本気で「馬鹿じゃないの!?」と激昂するわけです。いやあれはどう考えても劇薬……! 天梨の恋は応援したい、だけど自分の彼氏になってくれればよかったのにと後ろ髪を引かれてる状況でそれはあまりにも惨い……!
ちなみに天梨ルートでのクッキー調理実習からかわいいよ発言までのサブタイは『竜閑天梨と過す理想の学園生活』です。いやそれはあまりにも華乃を踏み台にしすぎている……!
追加砲撃しますと、地の文で「常磐と付きあう男は、このめんどくささを可愛いと思えなければ駄目なんだろうな。俺は可愛いと思う」とも言わせてるので、いやお前お前お前それは責任取れ……! 天梨と別れるのが嫌ならせめて側室的に侍らせろ……!
それはそれとして華乃も、天梨以外の他ルートでも虎視眈々と言えるぐらいには智宏の横を狙ってるようにも見えるんですよね。勿論義理堅い性格の上で智宏に付き合ってる相手がいる手前、泥棒猫のようなことはしないですが……。
だけど、公には付き合ってると言えるわけもない妃愛ルートでは、その内華乃から告白しそうな気配さえ見せています。何このバレンタインこれ、今後智宏以外の男子に渡すか一生かかってもあるかわからないとか、だけど他の女子にはバレたくないとか、この……何……!?
ただ、これらの言動は偏に「理解者」を求めていたから、という一言に集約されます。それも当然でしょう、以前千玉にいた時に浮いてしまい、大阪でもオタバレしていじめに遭い、となると、趣味的な観点からはずっと孤独だったわけです。
これが、本編では水面下に沈んでおりましたが、本作の各ルートでは、智宏が誰かしらと付き合っている、乃至生徒会面々にオタバレしている、何より生徒会に最推しのひよりんがいるが故に表面化しました。
なので、ルート内外で、華乃は智宏のことを大切なオタ仲間として認識していたのは想像に難くありません。生徒会内外で、過去の黒歴史をばらすことはないという認識に至った段階で、天梨同様サークルとしても生徒会としても必要な仲間としての認識に至っているものと思われます。
で、智宏に相手がいる場合は別ですが、相手がいない時は、義理立てする相手もいないので、智宏に惹かれるのも自然なことです。メロブ特典ドラマCD「誰とも結ばれないままエンディングを迎えた2年後に同窓会で華乃と会った場合」ではifルートと念押ししていますが、本編時ノーマルエンドに至った際は九分九厘このドラマCDの流れの通りになったと思われます。
――まぁ気を付けてほしいのは妃愛ルート時ですよね。妃愛の欄でも先述しましたが、ありゃ絶対どっかで告白がある。けど付き合うわけにはいかないどころか、状況的に告白があった段階で詰みなので、その場合華乃相手にのみ妃愛との関係性を明かす必要が出たのではないかと邪推します。
と、恋愛脳だよねと地の文で明記されているあすみルート乃至あすみ本人以上に恋愛脳であり、モラルを優先させるため孤独を選んだはずなのに孤独が嫌となってしまったのが華乃です。ただ、その辺りの流れは智宏と歩を一にしている(ED曲happy palette♪にて「happy! さぁ歩いてこう 手と手つないで」と歌う通り)ので、自身のルートでは憂うことなくいちゃラブを楽しめます。
正直な所、二人にとっては大恋愛にも等しい本編の夏から秋があるため、華乃アフター自体はだいぶ動きそのものは控えめです。というより本作内では一番「静」と言えるぐらい。実際華乃の引っ越し以外では本編時からの環境の変化は一番少ないです。
故に、その分今回は甘さに全振りです。公式が予め糖分が本作一番高いと言った通りですが、とはいえその実ちゃんとイラスト等の活動はしてるんですよね。端的に言えば「人気絵師の最高の彼女もゲットしてる最高のオタ活」です。その上でルートを要約すれば「智宏と二人で歩む未来への準備」をしているというもので、それらの準備をすることこそが青春になっています。
なので、アフター全体が、生徒会からも解放され、二人の将来を考えるという、あすみアフター同様の未来のことを考えるルート、という以外は案外語るところを残しません。
ですが、その未来の内容がその実「語られないこと」として多すぎるんですよね。何より他ルートでは同居の余地を残している妃愛が、華乃アフターのみほぼほぼぶった切られていること。資正の世話を理由に妃愛の近くに居住としたので、今後資正亡き後はそれらの理由が一つもなくなってしまうんですよね。資正割と歳ですし、それこそ智宏らが大学卒業ぐらいまでには天寿になりそうですし……。
なので、その実本編後は細かいところで波乱があります。アフター時間軸が公式で存在しない(故に三年次は生徒会続行ということ以外は空想の余地を多大に残す)天梨はともかく、唯一妃愛とのその辺りのことを解決していないため、妃愛側で自力で解決させてない限り、今後一悶着あると思われます。
まぁ個人的には導線こりゃ作らなきゃとなるというか、こうなるだろうなというのはあるので……とりあえずこれは個人的にまとめ次第ですね。やっぱりこうは言っても、本作どう転んだとしても一番幸せにならなきゃいけないのは妃愛ですので。
華乃にとっての青春は、ダマ学に転校してきた二年間でやれればいいなと思うことが数多くあったというのは、本編冒頭の段階で華乃の口から語られた通りです。そして華乃アフターでは修学旅行に行けなかったことへの後悔を口にしていましたが、それ以外のことについては、ルート内外で着実に拾い上げていきました。それは天梨と唯一無二の親友になることだったり、智宏と二人きりの時は気兼ねなくオタ話を出来ることだったり、生徒会内外で生徒会面々と色々なことをわちゃわちゃとやることだったりしたわけです。
果たしてそれが満足できるものだったのかどうか、結局は、詩桜アフターのラスト、天梨の前で楽しかったと言って号泣する姿こそが、華乃がダマ学の生活で一番欲しかった青春そのものであり、真に欲しかったものが手に入れられた姿であると、そう思うのです。
……アフターラストのサブタイ、「続きはファンコミュニティで!」ってなってるってことは、ピクファンだかファンティアだかまどポータルだかに色々朝チュン後の続きを上げてくれるってことだよなオォン!? いや体感他アフターより短かった感があるので、あるなら割と何卒……。
追記:C103併せてで発刊したハミクリ合同内にて、特に華乃ルートでの妃愛との一悶着と行き着く先について当方執筆した話が載っております。合同誌はメロンブックス様へ委託販売しておりますので何卒。https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=2171333
まとめ
とにかく正統続編なんですよね、本作。これはFDじゃなくて本編自体が本作ありきと呼べるレベルです。
本編に組み込んでも違和感がないどころか、寧ろ本編内で選んでいく分岐から見たかった天梨に本編から流れる各ヒロインのアフターと、どれもが本編と切っても切り離せない関係です。
FDなんだから当たり前だろ、という話ではあるんですが、本作では純粋な他いちゃラブゲーのFD以上に、本編で波を乗り越えたからというのが強く、それはシナリオゲーに於けるFDと同等レベルです。なので、本作は余計に純度の高いキャラ萌え乃至いちゃラブが楽しめるんですよね。華乃アフターやあすみアフターはその口でした。また、天梨ルートは本編でもあった波の高さを控えめにして、いちゃラブ濃度を高くしました。
逆に、本編の続きの話としての立ち位置になったのが、生徒会を続行すると決めた妃愛アフターと詩桜アフター。こちらは、偏に「終わらせる」ためのお話です。勿論いちゃラブ濃度も高いんですが、智宏とヒロインが二人でいれるようにするための基礎作りであり、憂うことなく過ごせるようにするための話なので、ルートが終わった際に真っ先に感じるのはその実寂寥感です。
そういう意味では、妃愛アフターと詩桜アフターはある意味プレイヤーは華乃視点なんですよね。智宏とヒロインが二人でいるのを見守りつつ、だけど生徒会面々全員が満足できる青春を過ごし、そして迎える卒業式の日に泣き腫らすという役回りは、先述した「本作の裏主人公は華乃」であるという一つの論拠になります。
結局は、どれも紛うことなき青春譚なのですが、まとめ方としては一から十まで未来志向の話か、未来志向をするために諸々を終わらせる話かに二分をされるのは、本編からの流れの通りです。
本編から続く空気感も、本編で使った素材がどれもよかったというのもあり。FDなので楽曲や背景などは勿論続投なのですが、やはり空気を壊さずその場にあるということに徹してくれています。
あとエロシーン、華乃のメイド服、あすみのシキちゃん衣装、詩桜のみかんカフェのメイド服と、本編で立ち絵や一枚絵で着せてるもシーンとしてはなかった衣装でのシーンがあったのはよかったですね。いやまぁあすみはVRシキちゃんのシーンが本編おまけであった以上本当にシーンが欲しかったのは相模ライオン丸ちゃんの衣装だったんですが。
とはいえ、本編レビューで「ポッと出の衣装のシーンより先に何らかの形で着てた衣装でのシーンの方がいい」とは書きましたが、それをちゃんと回収してくれたのは嬉しかったです。それと別箇で、個人的には双方全裸シーンが一番で、その次に双方制服シーンが好きというのはあるので、本編に続き多かったのもありがたいところ。本作華乃の一つ目のシーンは智宏も全部脱がせような? 修正頼むぞ?(過激派
でも! 本音を言うと! 各ヒロイン! 水着でのシーンが欲しかったよ! いや冬にやるもんじゃねぇではあるんですけど、夏が絡んだシナリオでなら出来たんじゃないかなと。
正直水着のシーンについてはアペンド期待したいレベル。本編で明確に海の場面が多かった故、せめてそれこそ天梨は突っ込めたんじゃないかなぁとか。二つ目のシーン、ラブホでソーププレイとかなら出来たでしょともなり。あと詩桜ね、英文問題突っ込むなら正解したら水着エロシーンとでもしてくれないとおいしくないでしょと。
ちなみに天梨のシーン四つ目の雑誌ぶっかけは、エロゲの箱持ってぶっかけという図を十年前に見てたので個人的には新鮮味はなく。いや構図も割とまんまだったもので。確かに当人が映ってる雑誌に対して、というのは初めてでしたけどね。
さて本作、個人的に割と意外だったことに「結婚式を描かなかったこと」があります。FDという前提で制作され、学園時代に付き合い始めたヒロインとの一つの行き着く先として、一つぐらいは結婚式があってもよさそうなものです。
強いて言うなら、本編ラストの衣装合わせと今回のげっちゅ屋限定ドラマCDで妃愛とは結婚式を挙げてはいますが、特に後者は本作に入れるようなものではなく、また華乃アフターや詩桜アフターでの同棲も、結婚を前提としたものではあるものの、会話の中でも「結婚した後の様子が容易に想像できた」止まりで、いつ入籍するかとか、いつ式上げるかという具体的な話は終ぞ出てきません。
なんでそういうことになっているかって、結婚式は「青春」とは関係ないから、ということが挙げられるように思います。
結婚はそれまでの恋人という関係性の終わりであり、また夫婦という関係性の始まりでありますが、同時に時期を「各々が自由に設定できる」ものでもあります。大学を卒業して暫くして結婚でもいいですし、学生結婚をしたっていいわけです。ともすれば籍を入れずにずっと事実婚でもいいわけですね。
これが学園生活となると、「強制的に横並びで一斉に終わりを迎えるもの」です。詩桜ルート宜しく、留年して引き延ばすこと自体は可能ですが、例えば十年も引き延ばしてというようなものではありません。
そして本作のおまけも含めた終わり方は、天梨が在学中、華乃が合格発表、あすみと詩桜が卒業式となります。妃愛のみ智宏卒業後の試写会が時系列的には最後になりますが、試写会はエピローグ的な〆を用意するためであり、実質的には智宏の卒業式までなので、つまり全て「智宏がダマ学に在籍していたタイミング」で話は終わっています。
エロゲもとい創作物に限らず、青春というものは一様に美化されるものであるかとは思いますが、思うような青春を過ごせても過ごせなくても、どこかで終わりを迎えます。
かように青春とは、有限であるからこそ美しく、偏に箱庭の中で成長期の掛け替えのない時期に訪れる決まった時間を指すものであり、本作ではそれをダマ学で過ごす時間、としました。
本作で恋人関係の一つの終着点乃至発展的解消としての結婚を描かなかったのは、かように本作が「ダマ学で過ごす青春」に絞ったからでしょう。逆に妃愛のみ、本編ラストや本作特典ドラマCDで結婚を絡めたのは、二人の関係性だけは青春という枠とは別の、ただ二人が家族として二人でいるための物語、且つ兄妹での恋愛がハミダシているが故の生涯ハミダシ宣言をしたから、と言えそうです。
まぁ個人的には妃愛はどのルートに至ったとしても幸せになるべき、寧ろ智宏は妃愛以外とくっつく方が妃愛の理解者が増えるという観点から妃愛がメインではないという主張は本編から通じてはあるんですけどね。ともすれば智宏視点からはやはり華乃がtrueヒロインだろとはなるのは変わらず。
そして、本編から通じて、そんな青春の中で描かれたのは、生徒会活動だったり、ボランティア合宿だったり、文化祭だったり、彼女と過ごす教室での一コマだったりしました。
本編から通じて本作、そのどれもが、プレイヤーからすれば「あぁ、楽しそうだな」という感情を抱かせるのには充分なんですよね。それも例えばただハーレムチックにヒロインからモテるぜウハハというようなものではなく、プレイヤー自身が学園に通っていた頃に、教室の一角でただ一緒にお弁当を食べながら会話をしているだけのカップルの様子をただありのままに描写するという、人によっては十分手が届いたような日常の一場面こそをしっかりと描写しておりました。
そして、一端の学園モノノベルゲーは最初からヒロインが学園に来ていることが前提なわけですが、本作は「自らの手でヒロインを学園に連れて来た上での学園生活」なので、主人公が環境全てを作り上げた上でのいちゃラブに何重ものバフがかかります。それはただヒロインと恋愛するだけではなく、ルート外のヒロインも併せ、みんなで一つの目標に向かって苦楽を共にするその姿勢そのものが大事でした。その顛末とその後の話は、本編と本作の通りです。
こうして、みんながみんな何かしらからハミダシていた上で、青春を見つけ、そしてダマ学で過ごす青春を走り切りました。本作は、本編と併せて「ダマ学生徒会の面々が本気で駆け抜けた青春譚」です。
勿論、それはただキラキラとした感情だけがあったわけではなく、時には失敗して、落ち込んで、嫉妬して、悲しんでと、苦い経験をすることも多々あって。でもそれは、いつか振り返った際に、あぁ、あの時はみんなと本気で生きていたんだと思い返せるように。あの時の掛け替えのない経験があって今があるのだと感じられるように。
出逢いがあって、意見をすり合わせて、時には曖昧にすることもあり。いつかは愛を覚えて、その事に哀しむ人もいる。そして、その青春の中心には、いつも自分自身がいるわけです。だって、自分の青春は自分だけのもの。他の人のものと代えは利かないのです。
プレイヤーは、本編を通じてずっと主人公和泉智宏の、そして各ヒロインの青春を見続けてきました。その結果は、詩桜アフターラストの一枚絵、華乃の涙が、全てを表しているのでしょう。
ということで、本編から続いて、機を見て創作をしろ、というのは主張にあることですし、私は星しをんになってくるので続きは本作二次創作で会いましょう。
でもそれはそれとして、こんな青春過ごさせろというのは本編から通じて、というより寧ろ本編時より強くなったわけで――。
――やっぱり人生! リセマラ出来ない不具合の! 修正お願いします!