少女漫画向作品が青年男性にも嗜まれるようになって久しいですが、青年男性向として少女漫画的展開をこなす作品としては唯一無二かと。ですが本作は、変身モノの基本を取り入れた、しかし主眼は心に影を持つ心理描写です。長文はシンフォニック=レインのネタバレ込みで、本作のシステム面の悪いとこと物語自体のいいところについて……ところでこれ続編出す気満々ですよね?
くろねこさんちーむとしては久々の新作として発表された本作。工画堂スタジオとしても百合モノじゃない普通の男女CP前提作品は久々の発表でした。
週一で一話ずつ順次公開していくという方法は、目新しくてよかったと思います。SP話を除けば全12話というのも、深夜アニメの一クールとしても丁度いいですし、
なんか悪夢を見せて魂を食べる一族がやって来たぞ! 変身して浄化の歌を聞かせて存在を抹消しよう! 本作は一言で言えばそんな話ですが、悪役(ムマの一族)が改心するというようなことはなく、勧善懲悪モノとしても一族郎党皆殺しにするかされるかという、一種の全面戦争モノなのが特筆されます。
割とド偏見承知なんですが、少女漫画での勧善懲悪モノって、悪役も何かしらのバックボーンがあって、割と改心する例を見たことが多かったので、あまりこういうのは少ないよなぁと。
で、正直本作、恐らくCS版と合わせた格好だと思うのですが、システム面はかなり悪いです。以下比較対象としてはシンフォニック=レイン普及版。
ぱっと見の問題点はマウスでバックログが呼び出せない点。キーボードのSキーを押すことで呼び出せはしますが、マウス操作で読んでいる場合、直感操作が出来ないとなるのは割と不便。元から出来ない作品もありますが、ブランド過去作で出来ていたことが出来なくなっているのは、正直退化しているという印象を受けてしまいます。
ただ、それを置いても、PCの設定からシステム→ディスプレイ→拡大/縮小より、150%(推奨)→125%に変更が必要(パッケ版・steam版共通)なのは流石に擁護できません。これをやらないと画面暗転のまま音声だけ流れてそこから先に進めません。
PS4版やスイッチ版は恐らくそんな設定が必要ないでしょうが、そもそもPC向けだとしてもそれは発売日時点でパッチ修正が必要なレベルかと思います。で、これを書いている2/20の時点でまだ出ていないので、早急にパッチを出してそんな必要がないようにして頂きたいです。
お話の進行上に当たり、根本的なシステム面でも面倒臭さが控えています。ノベルゲーパートはともかく、リズムゲームパートは伝統的にずっとやってきているものであるので、どうしても入れたかったのは容易に想像できます。
ですが、コマンドバトルパートは頂けません。というのも、各話毎に戦闘が入り、その度に飛ばすことが可能なリズムゲームパートと違い飛ばすことが出来ません。
で、戦闘自体は一応勝ち負けがあるにはあるんですが、最大の問題はその後の話が戦闘の勝ち負けが一切関係ないことです。じゃぁこれまでのコマンド戦闘をする必然性はなんだったのかという。
一例として、07th Expansionの「ローズガンズデイズ」でも同様に避けられない戦闘のミニゲームがありますが、こちらはミニゲームかオート描写かを選べる仕様になっているため、苦手な人はスルー出来ます。私はスルーしました。
こちらはどちらかといえば本作でいうところのリズムゲームパート枠にはなるのであまり関係ないところではありますが、とはいえ演出で置き換えが可能であるものどころか、全くそれをやらせる必要がないとなってしまうと、それはただの徒労感にしかなりません。
あくまで持論ですが、読み物としてお話を読ませる作品は、最初からRPGなどの要素もがっつり作り込んで主に据えてるわけでなければ、脇に置かれるべきものだと思うんですよ。
ですが本作は、ノベルゲー、リズムゲームに並んで、同じ枠組みで必要のないコマンドゲームパートが主題同様に据え置かれてしまった。そしてそれが作品のテンポを著しく悪くしています。
やるにしても、せめてシンフォニック=レイン的に要所要所でリズムゲームパートをがっつり、とすべきだったかなと。正直コマンドゲームパートの存在が、本作の一番の欠点です。人に勧めたくてもここまでテンポ悪くさせられ、且つ進行に一切関係ないとなるとこの存在一つで人に勧められなくなりました。
それと演出。基本的には変身シーンを中心に頑張っていたと思います。ですが、逆に言えば一極集中しすぎて一部シーンのそこでそれが欲しいというのがないという帯に短し襷に長し状態だったのは正直な所です。
それを一番感じたのはトリニティーソングステラが出来た場面。こういうのは「出来上がる場面」こそ特殊演出が欲しいと思うものです。なのに記述は演出もなしに一行だけ。これでは感慨も何もあったものじゃありません。
そもそも本作、演出を変身関係に割り振り「過ぎてる」んですよね。その結果が、OPムービーで出てくる一枚絵が軒並みルートラストに出てくるものだけです。確かにそれ単体ではネタバレはないようなものばかりですが、だとしてもラストの楽しみがなくなってしまうのは如何なものかと。ついでに奏斗と夢美が制服姿で腕組んだ図は本編中一度も出て来てないですし。
ということで、一言で言えば一枚絵が徹底的に不足しています。もうちょっとヒロイン組と奏斗とわちゃわちゃしてる図があってもよかったと思うんですよね。風呂場で三人、奏斗の身体ゴシゴシ以外にも見たい図は結構ありました。あと八話ラストで夢美に泣きつく奏斗とか。
話の方に目を向けましょう。賛否両論あるかとは思いますが、私は好きです。
本作は兎角「人」を描くことに特化しています。なので本作のメインは変身ヒロインによる戦闘描写ではなく、戦闘内外に於ける葛藤などの心理描写です。
お話自体はまーなんだかんだ結構重いこと。でもS=Rで見た目以上に重いの出してるくろねこさんちーむで、西川真音が総監修してるなら、ねぇ?
ただ、重さの緩急のつけ方はもうちょっとうまく出来たんじゃないのかな、とは思います。話の展開上アレ以外は中々難しかったとも思うんですが、兎角五話が全体でもかなり重くて、せめて六話と逆にした方がよかったんじゃないかともなるんですよね。
その上で、本作一番の見所はS=Rでも見られた「一つの物事の顛末を絶対的なハッピーエンドとはさせなかった」ところ。その最たるものが、第八話の鈴音と恵の顛末です。
八話の大まかなあらすじは「ムマに魂まで食べられきった恵の仇を討とうとした絋まで帰らぬ人となり、その元凶をみんなで倒す」というものですが、まず恵に対する各個人の認識が、風邪を引きそうなぐらい温度差があるんですよね。
恵への印象は、奏斗・夢美・歩は「絋に大切にされている妹さん」、絋は「最愛の妹」なわけですが、鈴音からすれば「自分をいじめていた張本人」なんですよね。その状況で突然恵の魂が完全にムマに喰われたところをキャラ共々まざまざと見せられるわけです。
この辺りの感覚は、誰に感情移入しているかで徹底的に見方が変わります。そしてこれは、S=Rどころか各種ノベルゲー他作品でもなかったような「あらゆる視点から俯瞰しても答えの出ない問」です。恵を助けられなかったという気持ちも、ざまぁみろという気持ちも、どちらも正で、どちらも否となります。
結果的に、絋も恵も帰らぬ人となったわけですが、奏斗・夢美・歩が非常に残念な思いをしている中、鈴音だけが恵に対し「バチがあたったんだよ」と漏らしたことこそが全てです。鈴音からすれば絋は知らない人でしたが、恐らく一族郎党憎しでざまぁみろと思っていたとしても不思議ではありません。
……だからこそ、鈴音ルート十二話で、一度だけ恵ちゃんは私の事を助けようとしてくれたよね、という発言が浮きに浮いてしまっています。なんの前触れも伏線もなくの発言だったので正直びっくりしました。
百歩譲って考えれば、鈴音自身が恵を介錯するために、恵ベルフェウスであっても残った恵の意識に対して問いかけたものという見方も出来ます。少しの情を見せることで贐とすることは常套手段です。ですがそれをするには描写が足りてなさすぎます。
なので、ここは直球で言えば発言エラーでしょう。ここを許容すると本編の整合性が付かなくなってしまいます。
上記のことはありますが、ともあれ、本作は、この「答えのない問」を実例を表して提示するというのが、べらぼうに上手かったです。私自身は、この一点を持って本作を大きく評価します。
その「答えのない問」、上記は「正義は誰がためにある」という話ですが、そして十話での行動で分岐が変わる夢美/キララエンド、あるいはtrueルートの顛末は、「」という話であり、物語自体の総決算です。
シンフォニック=レインでは、グランドルートに行かなければアル/フォーニが生き延びる術はないわけですが、これは主人公クリスが最初に気付きがあるかどうかにかかっています。本作の場合は、奏斗がどれだけ自分自身と夢美とを信じられているか、その一点にかかっています。
そういう意味では、変身モノとしても通例な、「どれだけ仲間を信じられるか」というテーマにも則っており、その帰結としての各種エンドの組み立て方には感心することしきりです。
それと、これはS=Rでのフォーニの処遇を思い起こさせるようなものだったのですが、ビッグゴーレムと化しそして生き延びることが叶わなかった際の夢美の処遇が、夢美エンドとtrueエンド以外では夢美は夢美としていられなくなる(夢美の個としての死)わけですが、そこに至るまでの経緯がまぁ千差万別。
ちゃんとお別れを言うには言えたキララエンドはともかく、グリドール巻き込んで自爆をした鈴音エンドが、ある意味では一番幸せなのかもしれません。あれはまだ仲間を守って死ねたというのはあったはずなので、気付かれずとも本人の悔いは、まぁないでしょう。とにかく一番救いようがないのが歩エンド。完全に無駄死になんですよね。
それこそS=Rで言うところの、キララエンドはトルタエンドの、鈴音エンドはリセエンドの、歩エンドはファルエンドのというような状況ですが、これも夢美とキララの事情を知った上で俯瞰すると、中々にひどい(褒めてる)なという印象です。まぁS=Rと違い、本作は本筋見てからじゃないとサブルートに行けないので、全部分かった上で最初から見ることにはなるのですが。
ここまででまとめると、私個人としては結構好きな作品です。ですが、それに対し、PC向けとしては設定をいじらなければいけないこと、バックログ等一部マウスでは動作せず指定キーで操作が必須なこと、展開に全く関係ないコマンドバトルシステムが明確に足を引っ張っています。あと、演出は駄目ではないですが一極集中をしすぎて欲しいところに手が届いていません。
なので、正直おいそれとお勧めできないのは事実です。ただ、話の展開ははまる人にははまりますので、体験版をスイッチかPS4でやって、気に入ったらそのハードでやる、というのが一番いいかなと思います。
ひとまず話自体は「心にずっと雨が降り続けている英雄譚」ということでいいかなと。一部そうはならんやろというのもありましたが、概して心理描写と一部完全なハッピーエンドで終わらせない展開こそ本作の見所であり、且つそこに想起を至らせてほしい作品です。
……ところで、限定版のブックレット内にある短編アフター小説「ユメミ アントラクト」、間奏曲を意味するアントラクトというタイトルといい月奈が覚醒しそうになってるといい、これ続編出す気満々だよね。
というかエンヴィローズは嫉妬、グリドールは強欲、ベルフェウスは怠惰と、七罪ムマステラがあるのに残る四つはどうしたという。続編で出すなら出して頂きましょう。主人公側メインキャラ関係の伏線っぽいものも回収してないのあるしね。
いや実際本作のキャラすごい好きだし続編あるなら真面目にやりたいけど、いや実際これどう持ってくんですかね。星牧の町から旅立って、今度こそリトルスターでの戦いとかするのかなぁとかなんとか。まぁでも、出すなら真面目にお待ちしております。
何より本作、個人的にヒロイン三人全員のキャラデザ+関係性が漏れなくドストライクでだったのでね……キャラデザ的にも関係性的にも夢美的な幼馴染は欲しいし、歩や鈴音みたいな後輩は欲しいし。ぶっちゃけこれは本気で18禁が欲しい……! いや工画堂は全年齢メーカーなのでないのはわかってるけどさ。