CS版にそぐわない表現を削ぎ落した本編に対して少しの追加シナリオは、それはこの物語を「終わらせる」ための物語でした。一部では蛇足との声もあるようですが、「この枝」を選んだからこそのこの追加シナリオには、大きな意味があったと思います。長文は追加シナリオへの考察。
18禁要素やCS版にそぐわない表現を削ぎ落し、追加シナリオを突っ込む……のもなんですけど、案外明らかにそれらとは関係ないとこもいじられてたなと。
個人的に印象深かったのは、一章後のアララギ独白で別れを告げるのがベル・エポックじゃなくなってたとことか、十二章で迷探偵言ってたのが赤文字じゃなくなったとことか。
流石に肛門拡張少女がばゑはいなくなってましたね。残当。
それはそれとして追加シナリオ「令和のフェアリーテイル」。イギリス留学から帰国して事務所を開設した後の話です。
新キャラとしては二人が登場。本編ラストよりマリィと、桜玲女学院三年の庚令花。令花はもうちょっと活かせた感があるので、そういう意味では話自体がもう少し長ければなとか。
ちなみに本編ラストが2020年3月26日だとすると、その後イギリス留学が2020年9月からであり、二年で帰国してから最初の夏以降なので、早くて2023年夏、司は21歳以上となります。
日本橋に高層ビルにも囲まれてない一軒家ばかりのあんなとこねーよ! というのはともかく、蛍自体は割と最近は水質改善で見れるとこが再び増えるようにもなりましたね。まぁ流石に日本橋近郊ではまだ無理ですが。
都内区部だとずっと板橋区が飼育施設を運営していましたが、あそこはまともにやってたのかという裁判にまでなっちゃいましたねぇ、というのは置いといて。都内近郊でも40~50km離れた辺りなら自生する場所はあります。
ひとまず、追加シナリオで明らかになったことは「司の出生年月日=所長の死亡年月日」ということでしょうか。これはラスト一行から察することが出来ます。
『満開の桜の花びらが、一献の川面を泳ぐ頃』が命日のようですが、司の誕生日が4月20日で、それは見届けた上で亡くなっていることから、恐らくは同日でしょう。まぁ一年以上同じ年月を実は過ごしていたかもわからないですが、描写的に一日だけ重なった、と見るのがよさそうです。
一部では追加シナリオそのものが蛇足という話もあるようですが、特にはそうは感じませんでした。やはり所長を愛したからこそ、その愛する相手に向けての補完だったんですよね。
まぁ、そもそもの話、本作はエヴェレットによる多世界解釈により、所長との未来を選んだ枝以外は収斂して観測されなかったものとされているので、他ヒロイン推しには辛いところではある、というのは本編レビューでも書いた通りですが。
ただ、それはそれとして、やはり収斂した「存在がなかったこととなった枝」のことをどうしても考えてしまう自分がいて、つまり遠子やメリッサ、蓮の面影が見たかったというのは正直なところで。
それ自体は、私が本作を「大正に生きる人々との群像劇」として捉えているからで、「司と所長の物語」という捉え方をしていないからなので、公式との解釈違い状態なだけではあります。それでも、単に所長との話だけに終わってほしくはなかったな、というのも正直なところです。
さて、このシナリオの内容の下敷きは「蛍」だったわけですが、あくまで本作での蛍は概念的なものです。勿論具体的に出てきてはいますが、さくレットという話の中に蛍の話はなく、アフターで取り扱い題材が蛍である必然性を、一見しただけでは見出せません。
時期としても梅や桜といった春ではなく、アフターを夏としてでもわざわざ蛍を出したのは、スコットランド民謡の「蛍の光」が念頭にあった思われます。
元々スコットランドでの蛍の光は、「オールド・ラング・サイン」という民謡であり準国歌です。
そして、原詞自体は、古き昔のために歌われているものです。
For auld lang syne, my dear, for auld lang syne,
We'll tak a cup o' kindness yet, for auld lang syne.
訳)友よ、古き昔のために、親愛のこの一杯を飲み干そうではないか。
ここはサビのコーラスの歌詞ですが、全体としては再開した旧友と思い出話をしながら酒を交わすというものです。
本作アフターに当てはめると、終盤の墓参りのシーンがそれに近しいものになります。マリィが酒も用意してくれているので、酒を酌み交わすことも出来ますね。
一方で、日本に於ける蛍の光の歌詞は1881年に稲垣千頴によって作詞されたものですが、その内の一番の冒頭は、蛍雪の功という中国故事からきたものであり、一途に学問に励む様を称える内容です。これは、現代帰還後の、事務所を開設するまでの司の様子と捉えることも出来ます。
ほたるのひかり、まどのゆき、
ふみよむつきひ、かさねつゝ、
いつしかとしも、すぎのとを、
あけてぞけさは、わかれゆく。
蛍雪の功により勉学に励んだと同時、「あけてぞけさは、わかれゆく」とあるため、出世して離れ離れになっても、またいつか出会えるように、という願いがあります。
そもそもが、日本国内では別れの曲として知られており、また本作内で「蛍の死」を匂わせていることからも、前提条件として「別れ」をテーマにしていると見ていいでしょう。
これらを踏まえて、改めてラストの所長の霊との会話シーンですが、やはり所長は忘れてほしいとまでは言わずとも、司に対し「私だけに囚われるな」と言いたかったのかなと。
「霊など信じるなと教えたのにな」と語る所長は吹っ切れているようにも見えて、それでいてどこか寂しそうでした。それは生死によって分け隔てられたからこそであり、それでいて垣根なく酒を酌み交わそうとした司への一つの牽制で、そして司はそれを理解していました。
それらは全て幻影だと司から明言がありますが、それでも、この一幕は完全に上司と部下のやり取りで、ともすれば上司に引きずり込まれそうな部下を嗜める上司のそれでした。
ともあれ、このシナリオで蛍をモチーフにしたのは、所長による「これ以上私に囚われるな」という司への呼びかけだった……と思うのは穿ちすぎでしょうか。
それでも、司は忘れることが出来ないでしょう。それを是とし操を立てるか、忘れずとも嫁か誰かを隣に立てるかは、それこそ司のみぞ知るところです。
冬茜トム先生のツイッターでも、『本編執筆中から朧げに妄想していた、さくレットの「その後」を描けて』とありますが、一番は所長がいなくとも、司は令和の世できちんとやっていけているというのを示したかったのかなと。
そして、司が将来への道筋を一つ立てたところで、「蛍の光」がそこにある〆、という考えが出来そうです。
ここから先はただの妄想なんですが、令花はこの後司の後を追って留学後事務所に飛び込んでくるんじゃないかなぁとか。それで色々な意味で令花に迫られる司くん。嫉妬するマリィにどうしようとなる司くん。
そしたら多分単身所長の墓に相談しに行きますよね。所長は恐らく私を忘れないでいてくれれば司がまた誰か娶ろうと、司の幸せならそれでいいと言うだろうなと。だけど私だけの司でいてほしいとは絶対思うはずで。そういう妄想ぐらいは見たいかなとも思いつつ。
ということでさくレットも終わったところで、ジュエハの発表がありました。企画はしげた先生だったマジチャ以来の世界観なのかなとか思いつつ。
度肝を抜く伏線がなくともじんわりとした純愛も質が高いということはマジチャやΦでも証明されていますし、ともあれ、今度はジュエハを全力で待機する民になりそうです。